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水浸しドロップ  作者:
It wake up to the cruel world:序幕
9/22

経緯その5

お気に入り登録100件越え、総合評価300P越え有難うございます!

閲覧者さまに感謝ですm(_ _)m

とても下手くそな文章にお付き合い有難うございます、もっと上達出来るように頑張ります。





この状況、誰か助けてくれないだろうか




「何の権限があって俺の猫に近づいてるわけ?」


「はぁ?権限?馬鹿やないのアンタ。俺とミヤは親友やで」




何故か私の家で睨み合うヤンデレ予備軍たち。

クズミにしては珍しく【みんなの王子様苅田久住】を取っ払い、一方のスイは通常運転の嫌味、毒舌をかましている。

何でこんなことになったんだ。

朝起きてリビングに降りると、ふたりの喧嘩が始まっていた。

今日はフレンチトースト食べたいな、そういえばスイからメール来てたっけな、なんて思いながら階段を降りていたのに。

いつからうちの家は修羅場を繰り広げるようになった。

事情を聞くためにキッチンで朝ご飯を作っているお母さんの元へと歩く。

あ、今日はハムエッグがあるんですね。

フライパンから美味しい香りが漂ってますよ。




「おはよう、お母さん。何であの二人がいるの?」


「みゃーちゃんおはよう、今日はフレンチトーストよ」




あ、やった。

…ってお母さん私の話聞いてた?

のほほんと二人の喧嘩を見る母は、まるで二人の息子が一気に増えたような表情をしている。

クズミの対応に関してはこちらも通常運転だ。

王子様モードが崩れても我が家の息子には変わりがない。

でも私はこんな兄や弟は嫌だ。

スイは、あのあと昼夜問わずちょくちょく家へ訪れるようになった。

しばらく経ってから改めてお互いに自己紹介をして、私の年齢を知ったときの驚愕の顔は未だに忘れられない。

そう、私は君と同い年なのだよ。

じゃないとゲームの内容と合わないしね。

暫く経ってお母さんとお父さんとも会って、一緒にご飯を食べるようになってから、スイはもう私の弟みたいなものだ。

あっちも私を姉のように慕ってくれている面がある(でも毒舌と嫌味は直らない)から、余計に弟のように思えてしまう。

親友って言葉もあながち間違いではない。

私だって親友だと思っていてる。

唯一の友人であり、親友。

それがどんなに重たい感情であり重たい位置なのか、自分ではよく分かっている。

きっとスイにもちゃんとした友人がいて、親友もいる。

私とは身内みたいで、でも他人、そんな不思議な関係だと気づいているのだろう。

だけどお互いが口を揃えて“親友だ”と言うのだ。

だから私も、この親友くんを大事にしたい。


と、思っていたからクズミのことも学校のことも一切話さないようにしていたのに。

何でここで鉢合わせちゃうのかな。

大方、二人ともいつも通り勝手に家に上がり込んだんだろう。

そうしたら顔を合わせて誰だコイツとなった、と。

アホか。

アポを取らないからそうなるんだ。




「みゃーちゃん、ほら見て見て。久住くんと彗劉くん、みゃーちゃんの取り合いしてる。必死ねぇ」




お母さん、例えお母さんが笑っていたとしても、娘は全く笑えないです。

ほろりと泣けてきそうだ、泣かないけどさ。

ぶっちゃけ今の構図を私視点で説明すると、弟VS飼い主、みたいになっている。

表面上は、親友VS幼馴染、なんてちょっとしたラブコメに見えなくもないが、私たち(登場人物)の間にラブなんて生ぬるくて甘ったるいモノは無い。

いつかはキャラの誰かにより殺されるかもしれない、という恐怖の中で過ごしている。

ここにヒロインが投入されてみろ、私は即死決定だ。

もしかしたら今懐いているスイは恋をして私を嫌って、親友だなんて言わなくなって、自分のために徹底的に排除しようとするかもしれない。

そう考えると、この関係は脆すぎて怖い。

クズミには初めから期待していない、どうせ駒扱いだ。

悪役に仕立て上げて舞台から突き落とすに決まっている。

そのときの私は、誰かに悲しまれるような存在になれているだろうか。

…きっとなれない、忌み嫌われるだけだ。

それを知っているからこそ、この日々が歯がゆい。

束の間の平穏、それは今年で終わる。




「スイは私の親友、クズミは私の幼馴染」




未だに言い争っている二人の間に割って入って、無難な言葉を投げ掛ける。

ふたりからの視線が気になるが、これでどうにか落ち着かないかな。

私がクズミにスイを紹介したくなかった理由は、もうひとつある。

親友って役柄のスイを消そうと、私の悪評をバラ撒こうするんじゃないかと危惧したからだ。

大丈夫かな、スイ、居なくならないかな。

私に友人が居ないのはコイツのせい、他は無愛想な私が悪いと思っている。

でも親友だなんて言ってくれる人が出てきたんだ、飼い主は面白く思わないはず。

首輪と称されたネックレスは未だに外れない、というか外せない。

日に日にペリドットが禍々しくなっているような気がして、朝起きてペンダントトップを眺めて憂鬱になる。

呪いのようにのし掛かる未来が怖い。

そんなもの、来なければいいのに。




「猫、俺との約束破った?俺言ったよな、友達なんてもの作るなって。オマエには俺だけでいいって」




そんな約束しるか。

友達を作ろうが恋人を作ろうが、どうしようが私の勝手に決まっている。

アンタの駒って立場はとても窮屈だ。

他の駒達はこんな扱いを受けていないはずなのに、私だけ何でこんなにも自由がない。

束縛なんて甘いものじゃない、言ってしまえば絞殺に近い締め付け方。

どうやって楽しみながら、かつ思い通りにして殺そうかをずっと狙っている。

嫌いだからってあまりにも理不尽じゃないのか、そんなことを裏切られたあの日からずっと考えていた。

きっとコイツの中ではそんなこと関係ないんだ。

私は駒でありコイツの意のままに動くための奴隷、そうでなければいけない。

この世界の安曇深弥の位置づけであって存在価値であり存在意義。

喜べるほど、狂ってしまえたら良かったのに。

絶対に嫌だけどね。




「…」


「アンタほんまに何なん、ミヤは玩具や無いんで?意思の通う人間やぞ。何の権利があってミヤを縛りつけるん」


「権利とかの問題じゃない、昔から決まってんだよ。猫は俺の猫、現に誕生日に首輪をやった」




顔を顰め、クズミに問いかけるスイ。

馬鹿だな、そんなこと言っても答えは決まってるんだ。

コイツが口に出すことはコイツとってそれが正解であり全てだ。

あまり、そういった類の嘘は吐かない。

いい意味でも悪い意味でも自分に正直であり、欺く、それが苅田久住という人間。

私の価値なんて何処にも存在しないんだよ。

だからスイ、そんな顔しないで。




「首輪…?あのネックレスのことか?いっつも外してないけど…ミヤ、まさか」




いや、違うんですよ何想像してるんですか、外さないんじゃなくて外れないんだよ馬鹿っ!

顔を青ざめさせるスイに、ドヤ顔チックなクズミ。

何なのこのカオス具合。

君ら一体何がしたいの、修羅場を経験したいの、人ん家で昼ドラしたいのか?!

迷惑、ちょー迷惑!!

修羅場体験ならヒロインが来てからにしてください、そんなモノ入りませんお断りです。

クズミが居る手前、下手な行動は取れない。

そうでなくともクズミには饒舌に話したことがないのだ、下手に喋ったら怪しまれるし何を言われるか分からない。

ここは、弁解しなくてもいいんじゃね…?

面倒臭いし。




「ミヤ、おま、え…?」




私の肩をがしりと強く掴んで、顔を覗きんでくる。

その瞬間、いつもの無表情の中に私の面倒臭いという感情を見つけたのか、スイも無表情になって頷いてしまった。

そうか、こうして意思疎通を図ればよかったのか、なんだ。

真実には気づいていないだろうが、とりあえずこの場で波風立てるな、と言いたいことが理解出来たんだと思う。

騒ぐな、騒ぐなら帰れ。

Go back to home!

声を高々にして叫びたい。




「みゃーちゃん、久住くんも彗劉くんも朝ごはん出来たよ、喧嘩してないでこっちにいらっしゃい」




のほほんとしたお母さんの声が聞こえる。

お母さん、貴女は一体この喧嘩をどういう風に見ていらっしゃったのですか。

兄弟喧嘩か何かと勘違いしていないですか。

見てないで、もっと早くに助けて欲しかったです。

肩から手を離して溜息を吐き出すスイと、顔にいつもの笑顔を貼り付けるクズミ。

そんな二人を見ながら、両手を顔に押し付けて盛大に息を吐いた。

テーブルから香ばしい匂いが漂ってくる。

もう諦めてご飯を食べよう、そうしよう。

修羅場は終わりだ。

てゆうか何で二人も一緒に、ご飯を食べることになっているんだろう。

もう今日は、何もかも気にしたら負けだと思った。




「いま行くね」




定位置について椅子に座り、背後の窓から見える景色に目を閉じた。

あれから数ヶ月、冬になった。

道の全てが真っ白になるほど雪が降った。

例年以上の寒さで、降雪量も倍になるとニュースキャスターのお姉さんが言っていた。

テレビから聞こえる声が注意を促す、そんな当たり前の世界。




「いただきます」




そうしていつの間にか新年を越した。

当たり前の世界が「今年もよろしくね」の言葉と共に、目の前に広がって案著した。

今年はまだ自由で居られる、クズミが怖くても家の中は暖かい、そんなことをぼんやりと考えた。

外の世界へ出ることがもっと怖くなったと同時に、興味が失せ始めた。

昔は好きだった音楽も、段々と聞かなくなってきた。

小説や漫画も見ないし、ドラマや映画、もちろんアニメも見なくなった。

何となく思う、もしかしたら私はこれ以上物を増やしたくないのかもしれない。

思い出があると、これから先邪魔になってしまうだろうから。

そうなる前に手を引いて何も知らなければ、きっと何も無くても大丈夫になるから。


手を合わせて食前の挨拶をし、右手にフォークを持つ。

そのフォークで小さく切ったフレンチトーストを口に入れた。



これから先、私たちはどうなってしまうのだろう。

もうこんな風に、穏やかな時間を過ごすことは出来ないのだろうか。

未来(さき)の見えない世界がこんなに怖いと感じたことはなかった。

だってもしかしたら、私はゲームのように檻に囲まれた世界で、狂気に満ち溢れた生活をしなければならないのだから。

誰かに恋して愛し憎んで、傷つけてそしてまた愛す。

恋や愛は怖い。

理性を無くして手段を選ばなくなった人はもっと怖い。

人間の定義が人型をした理性と知能を持つ生物になるのなら、理性を失った彼らは何なのだろう。

化け物と、一緒じゃないのか。


両親のような愛の形には憧れる。

だけど自分がするとなったら別だ。

クズミの件で、恋することが怖くなった。

そういった類の愛が何なのか理解しようとしなくなった。

傷つけることを前提に相手に恋をするなら、愛は、一体何?

傷つけることって、何を?

身体を?精神を?恋する相手を?自分を?それとも全く関係のない赤の他人を?

よく、分からない。

分かりたくもない。



冬が来た、もうすぐ春が来る。

私の自由は今年で終わり。

まだ見ぬ攻略対象たちの自由も今年で終わり。

今まで普通だった人生が、恋愛に囚われることで狂って行ってしまう。

可哀想、可哀想。

抗う術は何処にもないのだから。


ヒロインも、可哀想。

他の選択肢を選ばない、選べない。

ここはゲームだけどゲームじゃない、現実の世界だと知らずに過ごすだろうから。

とっくに、歯車は狂っている。



今年だけはしたいことを沢山しようと、心の中で決意した。

前世で出来なかったこと、友人と両親としてみたかったこと。

自由が終わる前に、後悔する前に。

数分前まで残そうとすら思わなかった思い出を、少しずつ貯めていきたいと思った。



窓の外へ向けていた視線をテレビへと移し、いつも通りのニュースを見る。

冷めてしまわないように残りのフレンチトーストを口に入れて、白いお皿の上にあるハムエッグの黄身を潰した。




今回はサブタイトルを付けるなら【修羅場タイム(笑)】でした。

前回が少しコメディーだったので、シリアスな雰囲気をいれてみました。


久住VS彗劉です。

お互いに敵認定。

犬猿の仲になりそうな予感です。

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