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水浸しドロップ  作者:
It wake up to the cruel world:序幕
4/22

経緯を求めます

※9/26 『水浸しドロップ』の世界観についてをある程度明確になるように修正しました。



クズミが用意した首輪、もといネックレスには、ペンダントトップに大ぶりにカットされたペリドットが存在していた。

そのペリドットを守るように覆っている石座は百合の花が細かに細工されている。

まさか本物を肉眼で見ると思わなかった。

一般人から見ても価値が分かるような代物を買うなんていえば、こんな造りは普通は売られていないからかなりの値段を取るだろうし、見目が美しく、誰もが目を離せなくなるだろうと画面越しに感じていた。

それが今、目の前にある。

手が届くはずがない代物に、忘れるはずの記憶が鮮明に思い出された。



目をつぶる。

あの日のように、まだ耳の奥でチリンとストラップが鳴り続けている。




前世の私の死因は、今よりも大嫌いな世界の中で轢かれそうな子どもを助けて、代わりに車に轢かれたことだった。

神様みたいな人が言うには、突っ込んできた車に飛ばされて即死だったらしい。

はっきりと、じゃないけれど何となくは覚えている。

歩道側の信号機の近くにケーキの箱ともう片方の手に持っていたケータイを投げ捨てて、大した運動能力もないのにそのまま飛び出して、反対側の歩道へと子どもを突き飛ばした。

痛みを感じる前に衝撃から吹き飛んで、角膜が真っ赤になっているにも関わらずじわじわ深くなる痛みと、走馬灯で浮かぶ残酷なあの人幸せな日々を照らし合わせて、ゆっくりと微笑んだのだ。




“嗚呼、幸せな日々だった”と。




心残りと言えば叔母さんのことと助けた子どものことだ。

ちびっ子は無傷で私の死体を見てトラウマになっていたが、今は落ち着いてるらしい。

少しだけ悪いことをしたような気がしたが、私はそのせいで死んでいるので同情する理由が無いことに気づいた。

それよりも何よりも、一番気がかりな叔母さんはというと、恋人さんと結婚することにしたらしい。

私が事故にあってからずっと泣きっぱなしで、恋人さんのおかげで1年で立ち直れたって言っていた。

残して逝ってごめんね。

だけどもう貴女には私は要らない。

だからこそこんな私のことなんか忘れて、幸せになって欲しい。

出来ることなら彼女の子どもとして生まれたかった。

でもそれが無理なことはすぐに理解した。

何故なら目の前で、神様らしき綺麗な人が泣いていたから。




『ごめんなさい、本当は彼女の子供にしてあげようと思っていたの。でも妨害が入っちゃってね、』





顔の覚えられない、すべてが透き通って見える綺麗な人が泣く。

今思えば、このネックレスは綺麗な人の涙みたいだ。綺麗な人は色んな意味で私に衝撃をもたらした。

普通、そんなことを突然言われるだなんて思わない。凄く驚いた。

現代文化にとても疎い私でも知っていた。




『彼女の持っていた、“乙女ゲーム”の中の住人になっちゃったの!』




乙女ゲーム、そう、叔母さんがプレイしていた恋愛シュミレーションゲームの女性版、その中に私は存在することになった。

中の住人と言っても設定やシナリオ、そして世界観がゲームそのものなだけであって、現実と変わらないのだそうだ。

彼女曰く、「大丈夫、モブになるように修正したから、きっと貴女の幸せをつかめるわ。主人公になったら波乱万丈でリアルの幸せなんて無理だもん」ということで、モブ位置。

私の知らない単語をペラペラと饒舌に語る彼女に、中々に通なモノを感じた。

きっと、この綺麗な人が人間なら叔母さんと話が合ったと思う。

興奮しすぎて頬が赤いです。

あ、待って絵師さんがどうたらとか俗世の話は止めて下さい。




『それで、巷で流行りの乙女ゲーム転生小説に(のっと)って、美麗とかスペックの補修は、』


『要りません』


『ええ?!何でぇ!!』




このノリも叔母さんに似ている。

叔母さんと親友になれたのではないだろうか。

美味しい話だろうけれど丁重にお断りしておいた。

綺麗だとか興味ない。

この平凡顔さえあれば生きていける。

それに私はこの顔を気に入ってるし愛着がある。

次こそ丈夫に、賢く生きていけたらいいと思うんだ。

今度は大切な人を悲しませないように、ちゃんと守れるように。

それだけでいいんだ。




『フラグとか好感度『要りません』…はい』




私はただ、ゲームじゃなくて現実を生きていたい。

補修なんてあったら現実のような幸せを手に入れられることは出来ないだろう。

本当に、幸せになれたらいい。

出来れば愛せる人を見つけられたら、と思う。

項垂れている綺麗な人が可哀想になったから、少し頼んでみようかな。

生き返らせてくれることだけでも有難いのに。おこがましいけどふたつ、出来ればふたつ、補修かけてもらおうか。




『ならお願いがあるんですけど』


『あ、え!???もちろん、喜んで!』


『悪運の強さと、幸せが低かったら嫌なので少しだけ幸福にして下さい』




中身は私のままでいい、それを条件に渋々頷いてもらった。

叔母さんの持っていた乙女ゲームは特殊だ。

超能力とかヤンデレとかツンデレばっかり、とか偏ってたりファンタジーだったり、私は絶対にプレイしたくないと思っていた。

今でもしたくないと思う。

どれか一つプレイしなさいと言われ、無難で無害そうな普通の乙女ゲームを選び、プレイをした。

それが私が転生した場所である『罪の果実〜リバースラバー〜』。

いつ聞いても意味の分からないタイトルだ。

特に、リバースラバーのところ。

ちなみにこの疑問はプレイした後に判明することとなる。

取り扱い説明書、およびファンブック解説などを読んだ瞬間、意識が遠退いたのを覚えている。




タグが完全に動画投稿サイトのノリだ。

何と言っても「二週目からホラー」。

その名の通り、全てのキャラクターを攻略した二週目以降は全てホラー。

リセットしなければあの頃の甘い彼らに会うことは99%の確率で出来ない。

犯罪どんとこいヤンデレサイコー!のゲームである。

シナリオもスチルも全て変わり、言動や好感度の表し方、好感度の横に出る嫉妬メーターと死亡フラグ率。

恐ろしい。

しかもその死亡フラグはヒロイン以外のキャラが拾うこととなる。

最低だ。

だけどヒロインも痛い目にあうので怖い。

お値段は普通の乙女ゲームと同じなので買う乙女達が後を絶えなかった。

もちろん、ホラーゲーム好きの野郎も。



プレイした中でいい思い出がない。

なので死亡フラグ回避用の悪運と、少しの幸運は必要だと思うんだ。

そうか、このせいで反射神経は必要だとか考えていたのか。

リアル怖い。

叔母さんがやりこんでて要らない情報を教えてくれたおかげで、条件と攻略対象、そしてシュチュエーションまで覚えている。

叔母さん、死んだ後もありがとう!




とにかく私は、巻き込まれないことを願っていた。

学園に関係ない人間であることを期待していたが、もしも学園に編入することになっていたら、特に二週目の設定で巻き込まれないことを願っていた。

二週目に入っていたら、モブだろうが何だろうが秒殺だ。

逃げるのは至難の技だろう。

学園崩壊エンドってやつが一番ヤバイ。

病んだ人間によって惨殺、みんなお陀仏なのだ。

それは嫌だ、生きたい。

二番目に逆ハーレムエンドが怖いと思う。

難癖つけられてお陀仏になる。

攻略対象でヤンデレモードに入ってもあまり病まなかった人が居たはずだ。

せめて無害そうな人とくっついてもらいたい。

だってここは画面越しでも何でもない、現実だ。

他人の恋愛で関係のない自分まで死にたくない。




『貴女に幸あらんことを』




彼女の言葉と共に視界が消え失せて、気がつけば何もかも忘れて次の人生を歩んでいた。

忘れていたらそれはそれで幸せだったのかもしれない。

平和ボケしてのほほんと、本当に自分とは関わりのない世界を歩けたかもしれない。

けどきっと、逃れられない運命に無情にも涙を流したのだろう。

昔と変わらず、あまり笑えないこの顔で。



転生する前にどうして私を転生させたのか、彼女に聞いた。

やはり前世の私を案じた優しい彼女の同情心からだったらしい。

どんな理由でも生き返れて嬉しいと思う。

私の人生は決していいモノでは無かった、と彼女は言ったけれど私にとってとても素晴らしい世界となった。

他人には分からないことなのだろうな、と自己解釈して微笑んだ。

笑えているのか分からないけれど。



傲慢で我儘な人間だから欲を張って、彼女の優しさにつけこんで次の生だけじゃなくて運までもを求めた。

きっと、その罰が当たったんだと思う。

そうじゃなければ有り得ない。

クズミから貰ったネックレスを見やる。




安曇深弥は、幼馴染である苅田久住ルートでのライバルキャラ、というよりも悪役だった。




久住のことが大好きな役とかやりたくない、と思っているだろう深弥さん。

「もうこれ以上、強欲になるのをやめよう」

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