初めましてその3
煮詰まってて遅くなりました。
今回も長くなったので、折って二話連続投稿です。
GWになりましたね、皆さんはどんな休日をお楽しみですか?
私は映画を観に行ったり、口内炎や突き指を癒そうと一日中引きこもったりしています。
旅行に行っている方は楽しんで、そしてお気をつけて帰宅してくださいね( ´ ▽ ` )
昔々、それは私とクズミがまだ普通の幼馴染で、私がクズミに恋をしていた頃を思い出した。
いまは友達と言えばスイと嘉納くんしか居ないが、昔はそれなりに女友達も居た。
それはもっとクズミが優しくて、誰からも過度な虐めを受けていない頃。
そう、情けない事にそれは9歳の頃の話だ。
まだ緑髪のおにーさんとも出会っていなくて、相変わらず私の口調は敬語で、相変わらずこの黒髪を憎んでいた時期だった。
ある時同年代の友達と遊んでいたら、クズミが幼馴染だということがバレた。
それだけならまだしも、緑髪のおにーさんに出会って数ヶ月経った頃、幼馴染であり友達だったクズミが私への態度を一気に変えたのだ。
するとそこから事態は急転し、私は一人になった。
幼馴染だとバレたときからぼっちではあったが、それでもチラホラ友人は居た。
それだけならまだよかったのに、ベタな話だが、その友人が放課後の教室で私とクズミの話をしていたとき、こっそりと隠れて内容を盗み聞きしていた。
“クズミに近づきたいから、私の友達になった”、そのことを知った時どれだけ絶望したことか。
しかも帰宅後、彼らの話を信じられなかった私がすぐにクズミにその話をすると、真実をオブラートに包まずそのまま、クズミがまた私に「クズミと近づく為だけ」という内容をゆっくりと、ねちっこ毒を流し込むように囁いた。
直後の台詞の『かわいそうなみゃーちゃん、ぼくがいっしょにいてあげる』なんてどの口が言ったんだどの口が。
結局私を奈落へ落としたのはオマエだろう。
クズミからは最悪な仕打ちを受け、友達だった女の子からは「深弥ちゃんは久住くんのおまけ。久住くんはみんなのものなんだよ、深弥ちゃんは邪魔」そんな内容を延々と聞かされる。
翌日から私の友人は誰一人として居なくなっていて、クラスでも孤立状態。
そこから私の引きこもり願望が生まれたのだ。
クズミは私の初恋相手だから勿論の事だけれど、友達が掌を返したかのような行動を起こしたのは本当に辛かった。
いじめよりも、私じゃなくてクズミをとったことが悔しかった。
みんなみんなクズミしか見ないという事実が悲しかった。
今までの楽しかったことや悲しかったことのすべてが無き物にされた事を、冗談だと言って欲しかった。
あの日、泣き腫らしてベッドに蹲るようにして夜を過ごした事を忘れないだろう。
だから私は、女の子が怖い。
***
『アイツ今朝帰ってきたばかりだから、明日の夕方に安曇の部屋へ連れて行くよ』
嘉納くんが会わせたいと言っていた女の子は、どうやら婚約者の仕事をサポートする為、婚約者と一緒に出張しているらしい。
お金持ちの世界は、広い。
そんな感想を抱いた昨日の帰り際、そう言ってふわりと私の頭を撫でた嘉納くんに、ならその時三人で夕食を共にしないかと誘いを掛けた。
どうせなら時間帯も時間帯だ、一緒に食べた方がいい。
そう思って単純に口にしたのだけれど彼はそんな私に呆気に取られたような顔をしていた。
君はこの間から私に対して失礼だよ。
『安曇の邪魔にならないなら』と言ってオブラートに包んで承諾してくれたので、久々にちゃんとした料理を作るつもりだ。
きっと、その方がもっと仲良くなれる。
喫茶店で嘉納くんが攻略対象であり、私と同じ転生者だと聞いても、腹立たしい以外の感情は浮かばなかった。
私がゲームの「嘉納翠」を知らないから、ということもあるのだろうけれど、それ以上に嘉納くんが私の大切な友人だから、という理由が大部分を占めている。
どうやっても嘉納くんは嘉納くんだった。
怖い事は後から起こるのかもしれないけれど、それを含めても一緒に居たいと思ってしまったから、もうどうでもいいことなんだろう。
何で私、あんなに悩んで引きこもっていたのだろうか。
今となってはよく分からない。
何かがとてつもなく怖くなって、投げ出して、そして色んな人に迷惑をかけたのは確かだ。
きっとそれは、全て彼女のおかげ。
…ん?
彼女って誰だっけ?
脳味噌を捻らせて考えてみるけれど、彼女が誰だったか思い出せない。
夢の内容か何かなのだろうか。
頭が混乱してわからなくなってきたので、これ以上考えることをやめ、敷地内にあるスーパーへ行く支度をした。
山奥の中という広大な土地を持つ霧藤のとある一角には、生徒や寮住まいの教員の為のコンビニより少し大きいくらいのスーパーマーケットが建っている。
漫画のような王道学園なのでもちろん食堂だってあるが、スーパーで買う方が値段も手頃だし、食堂で一食食べるより安い金額だ。
特待生なんて特にそうだろう、食費と日用品代だけは自己負担なのだから。
敷地内に現金が遣える場所は無いので、全て霧藤が配布した現金振込型のカードで、自販機や食事、備品、日用品、加えて自室のロックなどやり繰りをする形式だ。
通常は家からの振込でカードが使えるようになるのだが、霧藤の特待生は家からの振込プラス月3万は霧藤から入れてくれる。
これを節約しないでいつ節約しよう。
もちろん、このカードの中の現金を口座から引き落とすことも可能だ。
三年間で手をつけなければ余裕で50万を跨ぐ。
そのお金を大学への資金の一部にしよう、と一人で目論んでいる。
最終的に霧藤を選んだ一番の理由はこれだ。
消費するだけでなく、貯める事の出来る制度は、特待生に期待してくれているからこそのモノ。
ならその期待を浴びる生徒になって、将来の為に勉強したいと思った。
前世でなりたかった職業に、今世こそ就きたい。
それくらい、許されるよね?
+ +
学生寮から歩いて5分程度の場所に、スーパーはある。
生徒にとってとても優しい配置になっているが、利用する生徒は少ないのではないかと思う。
店の名前は「オクムラ」。
霧藤の下…下山した場所にある村の者が経営している店らしい。
他県に出るとどうかは知らないが、一応この県では有名どころの部類に入る。
霧藤には生徒がバイト出来る場所があり、このオクムラもその一つだ。
その他のバイトは喫茶店、本屋など、霧藤学園内に存在する施設のみ行う事が出来る。
ブティックやエステ施設はあれど、ゲームセンターやカラオケといった学生が騒ぎ易い娯楽施設は無い。
校内で手に入らないのであれば、ネットで手配するのが当たり前。
何処までも地で王道学園を行く、それが霧藤学園の設定だ。
ちなみに、特待生はバイト禁止である。
自動ドアへと足を踏み入れ、店員さんの「いらっしゃいませ」の言葉を聞き流して買い物カゴを手に取る。
今日の晩御飯は和食にすると決めている。
定番の白米と豆腐の入った白味噌の味噌汁、根菜とちくわの煮物と焼き魚、そして漬物と時間があれば切り干し大根だ。
私は洋食も好きだけれど、こういうときは料亭で行われるお見合いを想像して和食で攻めようと思ったわけで、この献立となった。
極端なのは分かっているけれど、友達作りが下手な私にはこれしか武器がない。
スイの時は仲良くなるつもりなんて無かったし、そのときの気分の献立だった。
何というか、自分は本当に形から入るタイプなんだと思う。