安曇深弥
活動報告にて、安曇深弥設定の一部を解禁。
2/22のイベントとして久住救済SSSを記載。
病院のあの白いベットの上で寝ていたはずなのに、起きたら記憶がさっぱり抜け落ちていた。
ココは何処、私は誰。
在り来たりなセリフが過るけどそんなものシャレにならない。
ココは何処、私は一体、どうしてこんな姿になっているのか。
私の髪色はライトブラウンで、長さだってもっと短い。
髪質はこんな柔らかくストレートなものじゃなくて、両親譲りの猫っ毛。
それに私は、こんなに小さく痩せた身体はしていない。
もっと平均的な、健康な身体を…!
わたしは、×××××で、叔母さんの誕生日祝いの品を買いに行っていたはずなのに、どうしてベットの上だなんて言うの?
違う、私は×××××じゃない。
安曇深弥だ。
×××××は事故で死んだ。
痛いなんて思う前に、目の前が真っ赤になって、全身が寒くなって行く一方で、目の中が血の池のように溜まって溜まって重くなっていく。
そうしたら段々眠たくなって、どうしてだか顔も思い出せない死んだ両親が私を迎えに来た気がした。
本当はあのまま、転生なんてせずに眠りについて叔母さんが死ぬまでずっとずっと、彼女だけを見ていたかった。
そんなことを言ったら怒られるかもしれない。
身勝手かもしれない。
だけど、そう言えるほど私の人生は最後の最期で有り得ないほど幸せになった。
幸福の中で置き去りにしていてほしかったのに。
何で私はいま、こんなにも嘆いているのか。
何であの人は×××××という自我を殺してくれなかったんだ。
×××××が居なければ今頃、安曇深弥は楽しく暮らしていた。
私みたいに歪む事もなく、時に馬鹿みたいに前向きな事を考えて朝日に微笑んでいた。
私はただ、夜月に悲愴と共にひっそり泣くだけ。
この世界には優しい人が多い?
馬鹿な事言わないで、当たり前じゃない。
あの世界は、私が×××××として生きてきた中で積んできた歴史だった。
寂しかったし辛かったのは一番最初だけ。
後は叔母さんが居て、私の成長をずっと見ててくれた。
だからこそ、死に際で笑う事が出来たというのに。
×××××は決していい境遇に生まれたとは言えない、けれども不幸だったわけではない。
今まで安曇深弥に成った私は何を勘違いしていたのだろう。
私は私として、生きてきたというのに。
所詮×××××は死んだ人間だったのだ、でしゃばってはいけない。
これでは安曇深弥が不幸になるのも可笑しくない話じゃないか。
黒くて冷たい床に座り込む。
此処は何処か、もしかしたら精神世界なんじゃないかと安易な発想をする。
感覚はあるのに己の中の何かが麻痺して、まるで熱に侵されたような身体を動かす事が出来ない。
私が私である為に必要だったものは何だったろう。
嗚呼、ほら。
そうしているうちに本物の「安曇深弥」が、悲鳴を上げて泣いている。
暗い部屋の中で、私と君が黒くて冷たい床に座り込む。
鎖に繋ぎとめられたかのように足が動かない。
私と君が切り離された時、君はどう思った?
私を薄情だと思った?
それとも殺したいと思った?
こんな寂しい部屋で別々にされた私達は一体何を間違えたというのだろう。
愛しい愛しいはずの君が見えない。
愛しい愛しいはずの君がぼやけて歪んで行く。
愛しい君が憎むような瞳で私を睨む。
縫い付けられた私は声を出す事も出来ない。
瞬間、彼女の足首にあった鎖がパキリと音を立てて粉々になる。
鎖の取れた彼女が私の頬に、首に触れて。
嗚呼、その瞳だわ。
「安曇深弥」とそっくり。
「おかえり、××ちゃん。わたし待ってたのよ。いま、何時だと思ってるの?」
虚ろな瞳が私を見る。
「××ちゃん××ちゃん、××ちゃんは知らないのね。わたしと離された貴女は知らないんだわ」
ずっとずっと、彼女のようになりたいと思っていた。
気丈に振る舞う姿に憧れて、いつか私も彼女のように立つ事が出来たらと夢を見ていた。
だけど私は「安曇深弥」に成りたかったわけではい。
「安曇深弥」に成りたがったわけでもない。
「破壊衝動が抑えられないの。どうしようもなく疼くのよ。貴女のせいよ、××ちゃん。貴女がわたしに成ったから。だからわたしは久住くんを壊す事も出来なかったわ。ねぇ、××ちゃん」
鈴のような声が響く。
彼女は最初から狂っていたのだろうか。
彼女の柔らかな手が私の首を包む。
その行為がまるで神聖な儀式に思えて、少しだけ涙が浮かんだ。
「死んでよ××ちゃん」
君と私はふたりで一つだった。
溶け込んで居たからこそ一人だった。
それを壊したのは私。
寂しい彼女を一人にしたのは私。
独りが嫌いで、独りが怖くて、誰かに依存したがる彼女を孤独にしたのは、私だ。
「××ちゃんを殺してわたしが××ちゃんに成り代わってあげるわ!!!」
彼女が、深弥が泣く。
声も出さずに頬を濡らして、寂しい寂しいと叫んでいる。
そうだね、独りにしてごめんね。
「わたしは××ちゃん、××ちゃんはわたしなのよ?知らないフリしたって何も変わりはしないんだから!そう、何もね」
そう、私と君は一緒だった。
ギリギリと力の篭った両手が私の首を締めていく。
少しずつ、少しずつ。
気道が塞がれて、呼吸が苦しい。
少しずつ、少しずつ。
苦しさから目尻に涙が溜まってきた。
苦しい、嘔吐が止まらない。
でも、それでも私は、彼女に殺されたい。
彼女になら、殺されても構わない。
このまま溶けて消え去ってしまってもいい。
本当は人一倍臆病な彼女に微笑んで、君の手に私の手を重ねて声を出す。
泣いている彼女に私は、私は。
「××ちゃんなんて大嫌い」