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水の理  作者: 古流 望
5章 A
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最終話 水の理

 かつて救国の魔法使いと呼ばれた者が居た。

 戦乱の只中にあって、王国の勝利に大きく貢献した稀代の英傑。


 魔法という世界の不思議。

 その謎と深淵の闇に幾筋もの光を当て、数多の発見を成し遂げたその男。

 国家最高の智謀と謳われ、世界の至宝とまで讃えられた名声。

 だが、その声望は、今の世では誰も知らない。


 大量虐殺。


 人体実験と称されたその蛮行。

 ただその一事をもって、彼の名望は地に堕ちた。


 戦乱がようやく終わりを迎える最中にあった痛ましい事件は、英雄の狂乱として秘密裡に処理されることとなった。

 なまじ彼の偉大な発見に、社会が頼り切ってしまっていた。それが為に、彼の功績を否定するには影響が大きすぎたが故の、政治判断と言われている。


 「その人が残した魔法陣を、王城のどこかに封印していたらしい、と」

 「らしいな。俺も例の名無しを調べていて、団の古い記録を読んで知ったことだ。一応国家機密だからお前ら吹聴するなよ」

 「国家機密をそんな簡単に話しちゃ駄目でしょう。今更のような気もしますが」


 そう、今更だ。

 王城から魔物が溢れ出て、既に街はパニック状態になっている。

 これでは秘密も何もあった物ではない。


 「原因はその魔法陣ですか?」

 「俺の勘では臭いと思うが、正直分からん。公爵が死んだことと無関係ではないと思うが、彼の人が何かしら別の準備をしていた箍が外れたのかもしれん。国盗りの為に魔物を地下で飼っていたとかな。勿論、違うかも知れん。だが……っ」


 団長が、剣を一閃。

 それだけで、浅黒い獣が悲鳴もあげずに倒れ伏す。

 それも二匹まとめて。


 「どのみち魔物は駆逐するしかない。俺は陛下をお探しして、御守りする。その後は恐らく他の団の連中と合流して、街の守護に回るだろう」

 「僕らは先に街の守りですか?」


 騎士団は守護を任とする武装集団。

 この事態に、最優先は確かに国王の安全だし、次いで街の安全確保が優先されるのは正しい認識と言える。

 ならば僕らも、後者を率先して手伝うべきではないだろうか。無辜の人々が襲われる地獄を作りたいとは思わない。


 町に溢れる魔物。

 それを押し留め、王城内に足止めをするぐらいなら、僕ら四人でも手伝える。

 東西南北手分けして行けば早い。

 そう思っていたのだが、団長から飛んできた指示は想定外の事だった。


 「いや、お前たちは魔法陣の場所まで行って、様子を見て来い」

 「はい? 僕たちがですか?」


 既に仕事が終わった身。

 町の人たちを守るのに手を貸すのはやぶさかでないが、魔物の波に逆らっていけというのは少々辛い。


 「このクソッタレ共の元凶がその魔法陣なら、お前らぐらいしか正確な場所は分からんだろうが。しかし、本当に元凶かどうかは確かではない以上、街の守りよりは優先の度合いは低く騎士団はまず防衛に回るから手が足りん。勘では人を動かすのに弱い。俺らが動けるだけの根拠として、原因かどうかを調べてくるだけでも構わん。頼む」


 任せろ、と嬉々としているのは将来の侯爵となることが決まった武闘派貴族のアント。高級貴族なら大人しく後方で督戦してれば良いものを、最前線に突っこみたがる悪癖がある。

 同じくアクアやスイフにも否は無いらしく、そのまま四人で王城に突っこむ。

 戦える事を喜ぶバトルジャンキーの幼馴染ペアに、魔物と戦えば戦うほど帰還が早まるスイフ。止めようとする方がおかしいのかもしれない。


 それにしても、どこまで行っても魔物、魔獣がうじゃうじゃと蠢いていて、花火大会の会場みたいに混んでいるのはいただけない。

 満員電車ほどでは無いが、三歩も歩けば敵にあたる。

 片っ端から倒すにしても、その為に中々前に進まない。


 「おい、誰か倒れているぞ」


 目の良いスイフが、人影を見つけたらしい。

 魔物に囲まれて棒のような物で応戦していたらしいが、倒れ込むところが見えたそうだ。

 どれだけ目が良いのか。


 「OK、ちょっとデカいのいくよ」

 「今度は私の前髪を焦がすなよ」

 「任せて。今度も狙ってみる」

 「狙うな馬鹿」


 幾ばくかの溜めの後、広範囲に火の粉が舞う。

 倒れている人までの道を強引にこじ開けた形だが、そのまま一気に押し込んだ。


 それが正解だったと言うのは直ぐに分かった。

 倒れている人を見れば、血だらけだったからだ。

 全身が赤一色でどす黒く汚れ、顔色も血の気が引いた土気色。ぐったりとしていて、見るからに危ない。

 血止めだけは急いで行う。


 格好から見れば城詰めの侍女のようだが、右腕の辺りがごっそり魔物に抉られていて、骨が露出している。太ももとふくらはぎの辺りも、両足とも大半が食われてしまっているみたいだ。

 顔にも大きな抉れ傷や切り傷があり、かなり見た目が痛々しい。


 大腿部の大きな血管が根こそぎ断裂しているようで、出血死の可能性も否定できない。

 これはもう亡くなっているかもしれない、と不安になる。


 「どう?」


 アクアとアントが、魔物を押し返す盾になりつつ、僕がそのサポートをしている。

 それが為に、倒れていた人の様子を見るのは後衛のスイフに任せるような格好だ。


 「よし、血は止まった。かなり酷い容体だがまだ息はある。ハヤテ、急いでくれ」

 「分かった、任せて」


 僕が魔法で癒す。

 流血が止まり、淡い光の中から徐々に、喰われて付いた歯型の抉れ痕が消えていく。肉が戻り、薄皮も色付いてきたが、それでも若干の跡が残った。回復しきれないとは、よほどの大怪我だったのだろう。

 MPがごっそり持って行かれたが、その甲斐はあった。

 死にかけ、とスイフから言われた負傷者は、それでようやく意識を取り戻したらしい。


 「……うっ」

 「気が付いたようですね」

 「はい。助けて頂いたようで……」

 「御気になさらず」


 立ち上がり、深々と頭を下げてきた女性ではあったが、下げた途端に足元がふらつく。

 やはり流血の影響だろう。


 「放っては置けないよね」

 「そうだな」


 気分が悪そうにしている女性を、魔物が蠢くまっただ中に放置する。

 さぞや寝覚めの悪いことになるだろう。


 一度引き換えし、安全な場所に女性を預けるなり隠すなりする。

 その上で、改めて魔物の群れを掻き分ける。

 それが現状の最善策。

 などと考えたのだが、作戦の前提が間違っていると分かった。女性が前提を覆してくれたからだ。

 危険なのはこの女性だけという前提を、だ。


 「この先の部屋に同僚達が何人も居ます。私は助けを呼びに行こうとして襲われて……」


 それ以上の言葉は、掠れ声で聞こえなかった。

 だが、言いたかったことはうちのパーティメンバにも伝わったと思う。


 急に魔物に襲われたのだから、何処かの部屋に逃げ込んだまま閉じ込められた人も居るのだろう。

 そんな状況下、助けを呼びに行こうと決死の覚悟で向かったのが彼女なのだ。

 想像以上の魔物の数に力及ばず倒れた所であったが、僕らが間に合って良かった。


 他人の為に自分の命を賭ける。

 言うは易し、行うは難しだ。

 尊敬するべき気高い自己犠牲の精神に感銘を受けるが、それだけにそのまま犠牲にさせてしまうわけにはいかなかった。

 僕ら全員で、或いは人数を分けて彼女を無事な場所に移す。倒れた女性の体調を思えば急いだ方が良い。

 これは最早決定事項と言える。


 だが、それにも問題はある。

 侍女の女性の同僚の事だ。


 助けを呼びに行くといって出ていった仲間が何時までも戻ってこないとなるとどうなるか。

 魔物に突然襲撃を受けて動揺している事でもある。冷静に待ち続けるほどの忍耐力を期待するのは難しいだろう。

 待ちきれず、また別の誰かがもう一度助けを呼びに、となる可能性も高い。

 そうなれば、今度も上手く助けられるとは限らない。

 こちらも出来るだけ急いで駆け付けるべき。


 「手分けしますか」

 「それが良いだろうな」


 故に二手に分かれることになる。

 女性を護衛しつつ安全な場所に連れていくスイフとアクア。

 これは、城に潜入したときと同じ理由での組分け。道に詳しいアントと、対応の幅広さから僕。ペアを組んでこのまま城の奥に行く。

 距離的な対応範囲が共に広いスイフとアクアが、前後を挟み込む形で警戒しつつ、侍女さんを安全な場所に誘導する。


 三人の背中を守りつつも見送ったのち、アントと僕も行動を起こす。


 「行こうか」

 「任せろ」


 頼もしい言葉と共に、魔物を倒しつつ奥に進む。

 さっきから、嫌と言うほどレベルアップの音が頻繁に聞こえるが、最早気にする余裕もない。

 何処からこんなに湧いてくるのか分からないが、一匹倒す間に二匹増えるようなペースで魔物が押し寄せてくる。

 勿論無傷と言うわけにもいかず、僕は行動の三割ほどを回復に充てている。


 「どおりゃぁあ」


 アントの裂帛の気合一閃。

 次いで僕の水魔法での貫通攻撃で道をこじ開け、ようやく侍女さんから聞いた部屋に着く。

 暴れたせいで壊れた床材を軽く山積んで、簡易なバリケードにして前線を作った。

 ドアを後ろ手に叩きながら、声を掛ける。


 「呼びに来た女性から場所を聞いてきました冒険者です。助けに来ました。ドアを開けても大丈夫です」

 「本当ですか?!」


 部屋の中から歓声が上がった。

 聞くからには女性の声ばかり。昨日の今日なので、僕やアントの声が分かる人も居たらしい。

 がたがたと、中から音がする。どうやら扉を何かで塞いでいたようだ。

 それでも慎重に外を伺い、魔物を抑えていると分かると一斉に出てきた。


 「ありがとうございます」

 「礼なら無事に安全な場所まで行った後で」


 ふと、冴えない顔をした女性が居ることに気付く。

 皆が安堵の表情を浮かべる中で、一人だけ暗い顔をしている。

 何があったのか。


 「どうかしましたか?」


 沈痛な面持ちの女性に声を掛ける。


 「実は、友達が一人……行方不明になっているんです」


 聞けば友人と二人、例の隠し部屋の傍に居た所で魔物に襲われたらしい。

 いきなりの事で、彼女は逃げられたが、友人の行方が分からないとのこと。


 「僕が探してきます。アントは一度部屋の中に戻って守りを固めていてくれるか」

 「任せろ。魔物風情には、指一本触れさせはしない。貴族としての名誉と、剣士としての誇りにかけて彼女達を守って見せる」


 おい、そのイケメン(づら)でそんなことを言うものだから、別の意味で狙わるようになったぞ。ある意味魔物よりも恐ろしい集団にマーキングされた。

 見ろ、急に周りの女性陣の、物理的な距離が縮まってきている。吊り橋効果を知らんのか。

 後でアリシーさんにチクってやろう。


 こいつは、心配するだけ馬鹿をみるのは確定的に明らかなので、心置きなく後の一人を捜索に向かう。

 手がかりだけでも見つけられれば、一度アントの所にまで戻っておくつもりだ。

 それまであいつは皆を守り切る。そう信じる。信じられる。


 「それじゃ任せた」

 「おう」


 魔物を蹴り飛ばしながら、走る。


 うろ覚えな記憶を頼りに、何とかかんとか(くだん)の隠し部屋の辺りまで来た。

 周囲をくまなく調べ、はぐれたという女性を探す。


 かなり広範囲に探索の網を広げた。が、見つからない。

 あらかた探し終えたが、痕跡すら見つからないとなると、後は普通の場所では無い所を探すしかない。


 そのまま【看破】を使い、隠し部屋をまた探す。

 これがまた難航する。


 場所が元々見つけ辛いのに加え、魔獣を相手にしながらというのが鬱陶しい。

 物量の脅威をとことん理解する。


 「あった、ここだ。相変わらず分かりにくい」


 隠し部屋の中に入る。

 それで分かった。ここには何かある。

 第六感が、ビシバシと危険を告げる。

 それは何故かと言えば、空気の流れる勢いが違うからだ。

 何故か“吸い込まれる”ような風が吹き、魔物もそこだけ一切見当たらない。


 地下通路を進み、この間見つけたばかりの広間に出る。

 そこには、魔物の波の原因があった。


 「あら、坊やが来たのね。てっきり赤獅子が来るかと思っていたのに。当てが外れたわね」

 「|名無し<アンノウン>……」


 扇情的な衣装を身にまとい、悠然と魔物の群れの中に立つ女。

 名無しを自称する、怪しい女性だ。

 足元には、さっきから際限なく魔物を発生させ続けている光る石があった。

 見るからに怪しい。恐らく石を壊せば、この厄介な魔物達も収まるはず。


 「そうそう、坊やがここの封印を解いてくれたそうね。本当なら国の頭を挿げ替えてからゆっくりと探すつもりだったのだけれど、おかげで手間が省けたわ。お礼を言っておくわね」


 女の言葉に引かれて目を向ければ、光る魔法陣の上に何かある事に気付く。

 幾何学模様の書かれた上。

 そこに倒れているのは、人らしきもの。

 大型の魔法で、魔物を一気に減らしたことで、その倒れた女性が侍女らしいと気付いた。

 探していた女性に違いない。


 「その女性をどうする気だ!!」


 飛び掛かってきた半猿半猫の魔獣を蹴り飛ばし、尻尾の生えた名無しに粗っぽい声を掛けた。

 すると彼女は、何でもない事のように、とんでもないことを言う。


 「生贄にちょっとね」

 「なっ!!」


 生贄とは、読んで字の如く生きたまま(にえ)とされること。

 そして(にえ)とは、進んで提供される犠牲。望まない犠牲。

 罪もない女性に、そんな真似は許せない。


 助け出そうと、飛び出そうとした瞬間。

 何故か足が動かないことに気付く。


 「赤獅子のものが使えると思っていたけど、貴方のものでも十分そう。嬉しい誤算ってことかしら。良いわ、これで儀式を完成させられる。大丈夫、そこに倒れている女と違って、貴方は死ぬわけじゃないからじっとしていてね」


 ペロリと唇を舌で舐める名無し。

 その姿は妖艶でありながら、不思議と背筋に悪寒が走った。


 彼女の目が赤く光る。


 「ぐっ!!」


 胸が熱い。

 そのまま何かが抜ける感触。


 「凄い、十分に使えるわ」


 体中から力が抜けたような感じがした所で、女が喜色の声をあげた。

 きっと、レベルを奪われたんだ。


 「何を……する気だ……」


 息が苦しい。

 体が急に重くなった。今にも倒れ込みそうになる。


 「愛しい人に会いに行くの」


 そういって名無しは目を細めた。

 足元では未だに魔物がうじゃうじゃと湧き、その中でたたずむのには不釣り合いな妖艶な表情。

 いや、どちらかと言うなら、恋する女性の表情と言うべきか。


 「あんたの主人とやらは死んだんじゃないか」


 だから、言ってやった。


 団長の話では、この女は使い魔。

 そしてその主人は百年も前に大罪と共に姿をくらませた。

 人間であったのは間違いないのだから、とっくに死んでいるだろう。


 が、そう僕が言った瞬間、女の目つきが変る。

 烈火の怒り。

 その形相は鬼のような顔だ。悪魔と呼ぶにふさわしい。


 「賢しらに知ったような口をきくな!! あの人が私を置いて死ぬものか。きっとあっちの世界で私が来るのを待っている。そうに違いないんだ!!」

 「あっちの世界?」

 「あの人はずっと違う世界に行く方法を知りたがっていた。私は、ここにあの人の残した魔法陣があると知ってずっとこの瞬間を待っていた。私は生贄の命と、集めた結晶の力で異界に渡る」


 魔法陣が一層輝く。

 生贄と言われた侍女が、この世のものとは思えない苦痛の悲鳴を上げる。

 カエルを握りつぶしたような、身体の空気を無理矢理絞られる時のうめき声。


 「……お前が異界に行ったあとはどうなるんだ」


 声を出すのも苦しい。

 重い体を引きずる様に、侍女の人を助けに動こうとする。

 が、身体が言う事を聞いてくれない。


 「魔物が溢れるでしょうし、そのうち滅びるでしょう。だけど、知った事では無いわ。この世界に、私はもう未練もない」


 徐々に魔法陣の上に、黒い球体が出来始めた。


 「じゃあね坊や」


 その球体に名無しの悪魔が飛び込もうとした瞬間。




 「そういうわけにもいかないよな。やっぱり」




 この世界。

 僕は気に入っているんだ。


 手にした万魔の剣で、魔法陣を切り付けた。

 その瞬間、あたりは轟音と猛烈な爆発に包まれる。


 走馬灯のように、皆の顔が流れていった。


◆◆◆◆◆




 「……ぃ、ぉい、大丈夫か?」




 あれ、ここはどこだ。

 ふと周りを見渡せば、何処かで見たような。


 空調の効いた部屋。愛嬌のあるキャラクターグッズや、可愛らしい小物が棚に置いてある雑貨店。


 「突然倒れてどうしたんだよ、月見里(やまなし)


 違和感があった。

 名前を呼んできたのは悪友だった。長い付き合いのこいつから名前を呼ばれるのは初めてではない。

 だが、苗字を呼ばれたことに、何故だか違和感があった。


 「いや、何だか酷く大変な事を忘れたような……」

 「馬鹿言ってないで帰るぞ。あまり遅くなるとお袋に叱られちまう」


 そう言われ、店には客が僕ら以外に居ない事に気付く。

 もうすでに外は真っ暗になっている。


 家に帰ろうとした時、ふと足元に転がっているものを蹴ってしまった。

 商品を蹴ってしまったかと焦る。


 カラカラと音をたてながら転がったそれは、店の奥の方まで転がって止まる。

 咄嗟に目がいった先には、一人の女性が居た。悪友が熱心に口説いて相手にもされなかった店員さんだ、と気づくのには少し間が開いた。

 彼女は、転がった物を拾い上げ、微笑を浮かべてこっちに来た。


 その笑顔が、何処かで見たらしいデジャブになる。

 彼女は、手に持っていた何かの結晶らしきものを僕に手渡しながら、口を開く。


 ――良い夢は見られたかしら







◇◇◇◇◇





 人の世は、(ゆめ)(うつつ)(さかい)無し。

 揺蕩(たゆた)う流れは終わり無し。


 水は万物の母にして、無限の連なり。

 時に雨となって生きとし生ける全てに恵みとなり、時に激流となって生きとし生ける全てに災いとなる。

 傍にあるのに気付かない。無くてはならない大切なもの。

 流れはやがて海となり、空へと昇り、地に降り注ぐ。そしてまた、流れとなる。


 終わりの無い夢物語。

 それが、水の理。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かった [一言] これで終わるのか…
[気になる点] これって王都壊滅して友人たち死亡ですよね?後味悪すぎです。 [一言] 夢オチ 久々に見ました。でも使いどころですね。
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