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「俺は一意が気付かない方に賭けるわ。お前は?」
「なに言うてるねん。気付く方に決まってるやろ。で、何を賭けるん?」
「何を賭けるのかって? 決まってるだろ。もちろん一意」
「へっ? 俺?」
一意は素っ頓狂な声をあげて自分を指差す。
「お前、あほか。なんで俺やねん。しかも、もちろんってなんやねん!」
一意の抗議も透は、全く聞いていない。話が勝手に進んでいく。
「じゃあ、期間は一ヶ月で。気付かなかったら、一日一意を好きなようにさせてもらうぜ」
思いも寄らない、透の言葉にしばらく思考が停止した。
今透は、何を言ったんだろう?
好きなようにさせてもらうぜって。
なんか、その言い方はいやらしくないか?
いやいやいやいや。
そんな考えが、一瞬一意の頭の中を過ったが、この考えこそがなんてあほらしいんだと、思う。
一瞬でも、この時点で好きなようにされたいと思っている自分が可笑しい。
透の言う好きなようにというのは、全然違う意味なのに。
きっと、部屋の片付けをさせられるか、そうじゃなければ、バイトの身代わりか、そのあたりだろう。
一意が考えたような、色っぽい意味では決してない。
そんなこと、当たり前だ。
まあ、それでも良いやと、一意は自分で納得する。
理由はどうであれ、透を一日独占できるのは嬉しい。
「ええで。じゃあ、俺が勝ったら、透が俺の言うこと聞いてくれるん?」
「ああ」
にやりと、余裕そうに透が笑う。
「まあ、せいぜい、頑張れよ」
なんていう余計な一言つきで。
くそう、悔しいが本当に余裕なのだろう。
その余裕の笑みを見ていると本当に腹が立つ。
さらに、もう一度髪の毛をくしゃりと掴まれて。
また、子ども扱いされたことも。
透のその余裕さも。
何もかも口惜しくて。
「負けへんで」
でも、一意にはそれだけ言うのが精一杯だった。
勝っても負けても、透と一日居られることには変わりはないが、出来れば身代わり労働ではなくデートがしたい。もう既に、負けた場合は、身代わり労働だと、勝手に踏んでいる。透とデート、しかも、自分の好きなようにしても良いのだ。
好きなようにしても良いっていうことは、キスくらいしても、許されるだろうか?
そんな考えが、一瞬頭に浮かんだ。
が、直ぐに否定した。
そんなんは、あかんに決まってるな。
そんなことをして、親友と言う今の立場を失ってしまうのは嫌だ。
「楽しみにしてるわ」
そう告げる透に一意はこくんと頷いた。