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完全敗北  作者: 葉月茉莉
2/15

「……あ。透?」

「ん? なんやねんな? ぼうっとして。具合でも悪いんか?」


 透の端正な顔が近付いて来て。

 顔を覗き込まれた。


 それだけのことなのに、胸がどきどきした。


 ―――重症だ。


「いや、なんでも……」


 目が合って、一気に顔が火照る。胸がとくんと高鳴った。

 自分を見詰める心配そうな透の瞳に、動揺する。


「顔、赤いやん? 熱でもあるんちゃう?」


 透のひんやりとした手が額に当てられる。


 透の少し無骨な手が触れていると思うだけで、一意の顔がますます赤くなる。


 ……ああ、俺ほんまに重症や。

 それは、お前の所為やっちゅうねん。


 心の中で一人突っ込み、一意は何でもないから、と首を横に振った。


 本当に。

 透と目が合っただけで、顔火照るなんて重症だ。


 一意は、ふうっと軽く溜息を吐いた。

 この先、透と親友のままで居られるのか不安だなと言う考えが、ちらっと頭の奥を掠めた。が、そんな不安は頭の片隅へ押しやることにする。


 ―――親友。


 この位置が一番良いんやと、一意は自分を納得させる。

 透の傍に居ることが出来るのだから。この位置だけは、誰にも渡すつもりはない。

 男である一意には、親友という立場までが、精一杯だ。

 これ以上なんて望めない。

 そんなことは、分かりきっている。


「ま、馬鹿は風邪引かないって言うしな」


 そう言って、透は一意の額へと置いた手を引っ込める。


「関西人に向かって馬鹿って言うなって。それ禁句やで。いっつも言うてるやんか」


 なぜか、透も関西人なのに、時折「あほ」ではなく「馬鹿」と言う。

 なんでも、両親が関東の人らしい。

 だからか、ところどころ、透の関西弁はちょっと可笑しなことになるときがある。


 離れていく透の手を寂しいと思いながらも、口ではいつものように文句を言う。

 そんな風に一意が透に抗議すると、くすりと笑われてしまう。

 こんないつもの会話にほっとするのも本当。

 決して、男の自分では恋人になれないのが寂しいのも本当のことだ。


 恋人に。

 透の特別に、なりたがっている自分に改めて気づかされる。

 あかん、あかん、あかん。欲張ったらあかんのや。

 そんな想いを胸に、なんて自分は欲張りなんだと、一意は少し自己嫌悪に陥る。


「一意。お前、次は空き時間やったよな?」

「うん。そうやけど。なんかあるんか?」


 透が、一意の時間割を把握してくれていたことに驚きつつも、素直に嬉しく感じる。

 不思議と透は、一意以外の他人とは、距離を置いている。

 なぜかは、分からないが、一意以外の人間と話しているのを見かけたことがない。


 大抵は、一人でいるか、一意といるかのどちらかだ。

 講義も一人で受けているようだし。


 なんでそんなに他人と距離を置くのか、一度聞いてみたことがある。

 返ってきた答えは簡単なものだった。


「面倒やから」


 あまりな答えに、一意は空いた口が塞がらなかったのを覚えている。


「面倒やからって、……お前な」


 もっと言い方があるやろ。

 そう講義したけれど、笑ってかわされただけで。


 こうして、傍に居るのも必然的に一意だけとなっている。


 そんな透が、一意の時間割なんてものを覚えていてくれた。

 まるで特別扱いされているようだ。

 そう思うと優越感さえ感じた。

 自然と頬が緩む。


「俺も空きやねん。俺は図書室へ行くつもりやけど?」

 どうする? 


 そう聞かれて、もちろん行きたいが。


「邪魔やない?」


 透は空き時間などは一人で図書室にいることが多く、一人でしたいこともあるだろうし、いつもいつもくっついていては迷惑ではと思うので、一応聞いておく。

 透の答えは分かっているが、念のための確認。


「邪魔なら、誘わへん。それで、行かへんのか?」

「行くに決まってるやん」


 一意は元気良く返事して、残りのご飯を食べきった。

 食後、二人で連れ立って図書室へ向かう。


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