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は? ……失恋? 一体なにを言われたんや?
もしも……。もしも、だ。
自意識過剰とか、自惚れとか。
そんなんじゃなければ、この発言って、つまり、自分のことを好きということか……?
やっぱり、これはそういう事なのか? ありえへん。
しかし、そんな一意の思考をよそに、さらに追い討ちを掛けるような呟きが耳に入ってくる。
「俺も菱沢のことが好きやったのに」
その言葉に耳を疑った。
「ええっ。嘘や」
「嘘じゃない。なんや、分かってなかったんか?」
その問い掛けに、こくこくと頷いた。一意は驚きのあまり目を瞠る。
「言っとくけど、俺だけとちゃう。お前のファンは多いんやで。その、癒される感じの可愛いところとか。つぼ刺激されまくりやし。まあ、そんなもん付けて大学へ来るくらいやから入り込む隙はないんやろな~。諦めるわ」
ファンが多い? 何の話や?
一意は首を傾けつつもそんな信じられない言葉の連続で、
「あ……、うん」
と返事するのが精一杯だった。
昼休み。
やっぱりいつものように向かいの席に座る透に疑問をぶつけてみる。
一限目から、ずっと考えていたこと。
「な~。透。俺って鈍いんやろうか?」
「何や? もしかして、昨日のやつになんか言われたんか?」
「うん。そうやねん」
相変わらず、透は鋭い。
「じゃあ、一意は一意だからって俺が言った意味も分かったやろ?」
そう言えば、今朝そんなことを言われた。
ああ、やっぱり俺鈍いんや。
つまり、その言葉の意味はそういうこと。
透にしてやられたと思う。
「うん。分かった」
悔しいけれど素直に頷いた。
「推理ちゃんと出来たやろ。それのおかげで」
透はそんなことを言いながら、首筋のキスマークを指差す。
……こいつ確信犯や。やられた。
「そうやな」
口惜しいけれど、賭けは完敗だ。
あちこちに、ヒントをもらわないと分からなかった。
「完全に俺の負けやな」
そう呟くと、
「じゃあ、今日も一意を俺の好きなようにさせてもらうわな?」
透がにやりと笑って告げる。
その言葉に、一意は昨日の行為を思い出して真っ赤になる。
「顔、赤くなってるぜ」
くすりと透に笑われて、ますます顔が火照っていく。
「あほかっ!」
と、叫んだ唇を掠めるように口付けられた。
驚きに目を瞠る。
大学の食堂なんていう皆が居る前で、こういうことをするやつだったなんて知らなかった。
振り回されっ放しだと自覚した。
ちくしょう。本当に俺の完敗や!
呆然とした一意に優しく微笑むと、透は平然と何事も無かったように食事を再開する。
「もう、食べないのか?」
食べさしのオムライスを指でさされ問いかけられる。
透に言われて、慌てて一意も食事を再開した。
次こそは、透を振り回して見せると、決意を心に秘めて。
―――勝負はまだ、これからだ。
改めて、ここまで読んでくださった皆様へ感謝を(*´`)