14
二人で、透の作った朝食を食べて、その後大学へと向かう。
昨日の晩、あんなことをした後で並んで歩くのが照れくさい。
なんとなく、無口になってしまって。
歩きながら、ちらっと透の横顔を盗み見る。
端整な透の横顔を見て、自然と頬が赤くなる。
無言のままでいることに堪えられなくて、思いついたことを聞いてみた。
「なあ、透。俺、やっぱり賭けに負けたん?」
「まだ、そんなこと言ってるんか?」
透は呆れたような顔をして、次に苦笑した。
「うん、やって」
別に、透のように端正な顔立ちをしているわけでもない。
今まで、もてていたかというと、そう言う事実もない。
やっぱり、狙っているなんて言われて。しかも、透からも一目ぼれなんていわれて。信じられないのも無理はない。
「俺がもてるなんていうのは、やっぱり信じられへんし」
「まあ、信じるかどうかは、お前の勝手だけどな。でも、多分……」
そう言って透は、くしゃりと頭を撫でる。
「今日あたりに、答えが出るわ」
「なんで?」
その問いに対して、
「一意は一意だから」
という訳の分からない返答が返って来た。
「……なんやねんそれ」
「それも、今日分かると思うわ」
「透の言ってること。……なんか、謎だらけや」
そう言うと、
「頑張って推理しろ」
との無情とも取れる返事が返って来た。
透と別れて、一限目の教室へ着くと、昨日透の家へ付いて行きたいと言っていた友人に声を掛けられる。
「隣、良い? 空いてる?」
「うん、ええで」
友人は、左隣へ腰掛けた。
そっちは、キスマークのある方だ。
しまった。
うっかり左側を空けて座っていたことを後悔する。
―――ああ、間抜けや俺。あほや。
でも、後悔したって遅いのだと思い直す。
気を落ち着かせなければいけない。
虫刺され、虫刺され、虫刺され。と、心の中で唱えた。
「ああっっ!」
相手の声に、びくっとなる。
「菱沢、それ」
相手の視線は真っ直ぐキスマークに向けられている。
とうとう見つかってしまった。恥ずかしい。顔が火照るのが自分でも分かる。
でも、出来る限り平静を装って、
「あ、これな」
虫刺されやねん。
そう言おうと思った言葉が遮られた。
「やっぱりな~」
深い溜め息を吐かれる。
何がやっぱりなのか、良くわからないけれど。
明らかに落胆しているのは、いくら一意でもわかる。
「なんや? どないしたん?」
取り合えず、首のこれが原因のようなので、聞いてみたものの、
「俺は失恋したようだ」
と言われて、一意は固まった。