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完全敗北  作者: 葉月茉莉
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この作品は、ボーイズラブとなっております。

嫌悪感を抱かれる方、もしくはボーイズラブの意味の分からない方は、回れ右推奨です。

 H大学法学部に通う菱沢一意には、ずっと片想いの好きな人がいる。

 その好きな人は、杉山透と言い、一意の友人で男だ。


 同じ男を好きになるなんて初めてのことで。

 始めはどうしていいか戸惑った。


 行き過ぎた友情なだけなのかもしれないと思おうとした。


 けれど、やはりそれは間違いで。


 初めて自覚したのは、自慰の際、透のことを思い浮かべてイってしまった時だった。


 その時は、ひどく動揺したのを覚えている。

 自分でも驚いたけれど。

 友達のことをそんな目で見ている自分が最低だと思った。

 それでも、好きになってしまったものは仕方がない。

 そう言うのもありかと、自分の気持ちを受け止めた。


 でも、透のことを知るうちにどんどん惹かれていくのがわかる。



 知り合ったきっかけは、透から声を掛けられたこと。

 たまたま、自動販売機のジュースを買ったところ、前に買った人が取り忘れていたため、一意の買ったものが引っかかり出てこなくて。

 自販機の前で悪戦苦闘していると、

「とれへんの?」

 そう声を掛けられた。

 それが、透との出会いだった。




 透のことは、知り合う前から気になっていた。

 社会学部に秀才が居ると、法学部でも耳にすることが多く、他学部まで噂が流れるほど頭が良いなんてどんなやつだろう? そう言う程度の興味は持っていたのだ。


 また、それと同時にひどく愛想のないクールな奴、などあまり良いとは言い難い噂も同時に耳にした。

 まあ、中には誉め言葉として、格好良いって言うのも混じっていたけれど。



 でも、実際逢ってみたら想像と全く違った。




 ……なんと言うか。

 もっと、とっつき難いやつだとばかり思っていたのに。


 やっぱり、噂なんていうものは、あてにならないものだと痛感した。



 知り合う前には、クール・冷たい・無関心・頭が良い・格好良い。

 透に関してはそんな、形容詞しか耳にしなかった。


 頭が良くてかっこ良くて、クールと来たら……。


 簡単にはお友達になんてなれないだろうな。


 と、そんな漠然とした考えを持っていたのに。

 実際に逢ってみたら、本当に全然違った。


 ―――ほんまに、かっこええよな。


 一意は、目の前で、ランチを食べている透の顔をじっと見詰めた。

 いや、見惚れた。


 かっこいい男は、何をしてもかっこいいのだと目の前の透を見て痛感する。


 透の服装は、ジーンズにアイロンのかかっていない皺だらけのシャツで。

髪の毛は、切りに行く時間が無いからなのか伸びたままで。


 それでも、見惚れるほどにかっこ良い。


 一意は、今までかっこ良いなんて言われたことは一度もない。

もちろん自分でもそう言った部類に入らないことは良く分かっている。

童顔の所為か、かわいいと言われることはあっても、間違ってもかっこ良いなんて言われたことはなかった。


 同じ男なのにこうも自分とは違うのかと思う半面、素直に、自分にはないものを持っている透のことを羨ましいと思う。


 それに、ここまで自分と差があっては羨ましいとは思っても嫉妬する気も起こらない。


 しかも。

 ただ、格好良いだけではなく、透は頭も良くて、話をしていても楽しい。

 知らないことは何も無いんじゃないかと思うほど物知りだ。 


 知り合って一年ちょっと。

 初めは、どちらからとも無く、待ち合わせてお昼は一緒に食べるようになった。

 それが、段々一緒にいる時間が増えていって。

 学部も違うのに、一番の親友と言えるほど仲良くなった。


 知れば知るほど、透は魅力的な男で。

 気がつけば、一意は、透に恋をしていた。


 男同士で、恋人になるとか、振り向かせるのなんて、無理なことはわかっているし、付き合いたいとか、恋人になりたいとかそう言う考えはない。


 だから、一意はただ、透の一番の親友になろうと思う。


 第一、男である自分になんて惚れられたって、透だって気持ち悪いだけだろう。


 一意だって、逆の立場ならきっとそうだと思う。


「そんなに見ても何にもやらんで。 それとも、もうお腹一杯なんか?」

 透は、さっきから、食の進まない一意のトレーを指した。半分以上、まだ残ったままだ。


「一意……?」


 黙ったままの一意に疑問を持ったのか、さっきから、ぼうっとしたままの一意の顔を覗き込んだ。


 呼びかけても返事はない。

 透の問いかけも聞いているのか分からない。

 透は、そんな一意の頭に手を置いた。


 くしゃりと、髪の毛を掴む。


 時々透はそんな風に、一意の頭を優しく撫でる。

 まるで、小さい子をあやすような行為。


 子ども扱いされているみたいで、される度一意は少しむっとしてしまう。


 そうやって、頭を撫でられるたびに、初めの頃は子供じゃないんやからと怒っていた。


 いくら一意が言っても全然やめてくれないので、なんでそんなことするのか、一度理由を聞いたことがあった。


 透の答えは、『一意の髪が柔らかくて気持ち良いから』という、理由になっているのかいないのか。なんだかよく分からないものだったけど。


 でも、そう言ったときの透の顔が。

 なんていうか幸せそうで。


 怒っていた筈なのに。

 それ以上、一意は何も言えなかった。

 透に、頭を撫でられて。

 やっと一意は我にかえった。


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