清心館の暖炉開き
清心館女学院・食堂別室・暖炉前。十一月末
一、二年合同全校掃除の最中。
雪乃、萌花と共に暖炉開きの準備。
周囲には人はいない。
雪乃「今年はラッキーね。この暖炉開きくじ引きでも人気なのよ」
萌花「そうですか?灰もすごいし……」
萌花「(緊張した面持ちで)暖炉って使う前に掃除するんですね?」
雪乃「それはそうよ。春に一回。お疲れ様のお掃除、冬に一回」
「よろしくねのお掃除」
萌花「知りませんでした」
雪乃「初めてだもんね。知らなくても仕方ないわ」
(雪乃、暖炉の鍵を開けて格子戸を開く)
雪乃「萌花ちゃん、火かき棒を取って」
萌花「あ、あの先輩わたしがお掃除しますよ。灰が胸に入ったら先輩熱出ちゃう」
(萌花慌てながら言う)
雪乃「もう!過保護はダメよ。先輩の仕事なの」
「あら、これ何かしら?」
(雪乃何かを手に取る)
雪乃「手紙?宛名も宛先もないわね」
「端が少し焦げてる。それにバラの香り」
「なんだかあの日の事件を思い出すわね」*1
「中、見ちゃってもいいかな?誰のお手紙かしら」
(雪乃手紙を読み上げる。萌花何かに気づいて一瞬慌てた様子)
雪乃「わたしは、まだあなたの隣にいますか」
「あなたの温もりを感じられていますか」
「わたしはあなたの事だけをみています」
「わたしのことを見てくれますか?」
萌花「せ、先輩、このラブレター誰が出したか考えてみますか?」
(萌花、照れながら力強く)
「推理ゲーム。です」
雪乃「どうしたの、萌花ちゃんから言ってくるなんて珍しい」
「(微笑んで)推理ゲーム。ね。やってみましょうか」
「じゃあまずは書いた人の気持ちから探ってみる?」
萌花「(慌て気味に)き、気持ち?」
「それよりもまずは手紙の状態から」
雪乃「それでもいいけど(不服な様子で」
「じゃあまずは封筒から、端に焦げ跡とバラの香り」
「偶然にしては出来すぎてるよね」
「あの事件のこと誰かに話した?」
萌花「は、話せるわけありませんし、その、えっと(声が裏返る萌花」
「(話を切り替えるように)端だけが燃えるのはいかにも都合がよさそうです」
「暖炉にあったのに端が少し焦げているだけ」
「だから、火が落とされた後」
「暖炉が使われてない時に隙間から投げ込まれたんでしょうか」
雪乃「焦げは暖炉でついたものじゃない」
「火を扱える部活は?科学部?料理研究会?香りがついてるから香道部かも」
「バラの香りも強く香ってる。やっぱりローズオイルかな?」
「ここに置かれてそんなに時間がたってないよね」
萌花「ふ、封筒はどうでしょう?いつもの購買部のやつですか?」
雪乃「そうだね。『三つの手紙事件』で扱ったものと同じ。宛先もない」
萌花「わ、わたしたちが解決した事件に準えたラブレター」
「誰が書いたんでしょうか」
「本文はタイプされてますね。少し変わった文字」
雪乃「文芸部で使うフォントだったりしない?」
(萌花慌てながら、歯切れが悪く)
萌花「えっと、ちょっとわからないです……」
雪乃「今、家にプリンタがある人もそうはいないよね?」
「あとで文芸部室に行ってみようか?」
「行ったことないから見てみたいな」
萌花「そう、ですね。でもその前にまだ考えることはありそうです」
「先輩が最初に言っていたこういう手紙を出しそうな人、出した人の気持ち」
「なんてどうですか?」
雪乃「思い当たる人がいるの?」
萌花「いませんけど……」
雪乃「あはは、何それ」
「掃除の割り当ては抽選でその日のうちに決まるわ」
「だからそれが決まってから手紙を投げ込める人はいない
「断言はできないけれど」
(雪乃考え込みながら)
雪乃「だからこの手紙は、本当は……」
文芸部顧問&司書の御影静香先生登場
御影「あら、雪乃さん如月さん。」
「推理もいいけれど、お掃除の方は?」
雪乃「ごめんなさい、静香先生。ちゃんとやります」
(落ち込んだ様子の雪乃。灰を集めて)
萌花「灰が舞わないように気をつけてください」
(咳をする雪乃の背中をさする萌花)
御影「そうそう、推理の件だけれど、これはね文芸部のテーマなの」
「また会いたい」
「人じゃなくて、暖炉に向けてラブレターを書いた子が居たの」
「それなら受け取ってもらう必要もないし、暖炉開きで綺麗に燃え尽きる」
「私がその子にわたしておくから」
(御影、雪乃から手紙を受け取る)
御影「そうだ如月さん。少し頼みたい事があるから、部室に来てくれるかしら」
放課後。
夕暮れの時刻。
文芸部室内。
御影と萌花二人きりの室内。
御影「はいどうぞ。あなたが書いた手紙よね」
(暖炉で見つけた手紙を手渡す静香。黙って受け取る萌花)
萌花「どうして……わかったんですか?」
御影「あの子……雪乃から色々な事件は聞いているの。それが答え」
「焦げ跡とバラの香り。それを知っているのは二人だけじゃないのよ」
「ごめんなさいね」
(柔らかな表情。いつもの厳しい雰囲気は今はない)
萌花「そんな、いつも司書室をありがとうございます」
「御影先生のおかげで先輩元気になってきました」
御影「そうみたいね。私も嬉しいわ」
萌花「ところで、先輩にもバレて……ますかね?」
御影「焦げ跡に、バラの香り、購買部の封筒……」
「あの子は鋭いけど、自分のことには案外鈍いから……」
御影「想いはね、ちゃんと名前を書いて伝えなきゃダメよ」
「もちろん貴女もそう思い直して、渡す前に暖炉に落としたんだろうけど」
「それとね、また会うかどうかは貴女が決めるのよ。望んじゃダメ」
「貴女自身が決めるのよ」
萌花「自分で、決める」
(萌花、決意を秘めた顔)
御影「あと、もう少し部にも顔を出しなさい」
「きっと今の貴女はいい小説が書けるから」
萌花「はい。きっと」
御影「じゃあ、司書室によってあの子を迎えに行ってあげて」
「きっと待ってるから」
萌花「はい!」
(萌花、一礼をして、部屋を出る)
すっかり陽が落ちた校内。
司書室。
一人佇む雪乃。
萌花「お待たせしました。部誌の件で先生に頼まれて」
「あと、もうちょっと部に顔出せって」
「怒られちゃいました」
雪乃「萌花ちゃんが部に行ったらこっちに来てくれなくなるのかな」
(寂しそうな雪乃。窓の外を見る)
萌花「ちゃんと両立?しますから」
「さ、下校時間ですよ。一緒に帰りましょう」
(雪乃の手を握って導く萌花)
萌花「あのですね、今度先輩にお手紙書いていいですか?」
「部に行って来れないとき、先輩が寂しくないように」
雪乃「情熱的なお手紙にしてね」
「あのね萌花ちゃんとお友達になってから、ちょっとラブレター減ったのよ」
「さっき読んだようなまっすぐな気持ち、久々に読んだ気がしたな」
「今度は差出人と、私宛ってわかるように読みたいな」
(雪乃冗談めいた様子で笑顔で萌花を見る)
萌花「さっきの、まだ終わってないですよね?」
雪乃「さっきの?そうだね。じゃあ続きをしようか(微笑みながら」
「素敵な帰り道になりそう。じゃあ続きを始めましょう」
雪乃&萌花
「誰が誰に宛てたラブレターかの」
(二人の声が重なる)
「推理ゲーム」
照明、ゆっくり落ちる。
(終)
*1清心館女学院の探偵事情1話『薔薇と少女と、図書室の秘密』参照。




