ハロウィンの夜・10/31のラブレター
キャラクター紹介&挿絵
『わたし』如月 萌花
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『清心館の天使』日ノ宮 雪乃
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10/31ハロウィンの夜。清心館女学院・寄宿舎談話室前。夕暮れ。
雪乃と萌花が立っている。奥ではハロウィンの飾りがきらめいている。
萌花
「(やや緊張して)ほんとに……招待されて来ちゃってよかったんですか?」
雪乃
「もちろん。今日は私も“誰でもない人”だから。」
萌花
「先輩、まだ早いですって、そのマントどこから?」
萌花
「外でかぼちゃマスクはやめてくださいって!」
雪乃
「だって待ちきれないもの」
ドアをくぐって室内へ
二人の来訪に沸き立つ室内。駆け寄ってくるモブAB&C
その他の生徒達は影絵(声のみ)
ざわめき、笑い声、囁き声が重なり合う。
モブA
「雪乃さま、もう少しお顔を見せて!」
モブB
「わたくし、今日が誕生日なのです、だから今日は主役でいいでしょう?」
モブC
「ダメよ。今日は誰の名前もない。かぼちゃも魔女も、皆、番号だけで呼ばれるの」
モブA
「そうでしたそうでした。雪乃さまも今日だけは誰でもない人」
モブB
「わたくしも、名前も性別も年齢もない、かぼちゃのお化け」
(手を引かれ仮面をつけられる萌花。髪をフードで隠される雪乃。)
萌花
「あ、先輩、ちょっと助けてください」
(萌花、モブたちの中に連れ去られる。)
雪乃
「仮面と数字が支配するハロウィン。事件の香りね」
雪乃
「あら、萌花ちゃんどこにいったの?」
モブA
「さあさあ、あなたも背が高くてとっても素敵」
モブB
「きっと誰かの王子様」
萌花
「そんなわけ、私には心に決めた人が、でも――あの人の王子様になれたら……」
モブA
「なれるわ、なれる、今夜は誰でも主役なのだから」
モブ全員
「主役なのだから!」
モブA
「だから私も主役、さあ、お手を取って(雪乃の手を取る)」
モブB
「あら、ダメ。私だって主役なのだから」
モブ全員
「独り占めはダメ!ダメ!」
雪乃
「皆さん、落ち着いて」
(急な停電。暗転。)
モブA
「どうしたの、急な闇夜」
モブB
「台本にないけれど、闇夜の舞踏会は素敵ね」
萌花
「先輩どこですか?」
雪乃
「私はここよ、手を伸ばして」
萌花
「この手は……違う」
萌花
「この手は……もう誰かと結ばれてる」
雪乃
「どうしたの。私を見つけて」
萌花
(独白:きっとこの手は)
萌花
(独白:わたし、震えてる、でもこの手は離さない。)
モブA
「別れ別れの恋人同士、出会えるのかしら」
モブ全員(声のみ)
「出会えるのかしら?」
何かが落ちる音。軽い紙が落ちる音。
走り去る足音。ドアが開いて細い光が何かを照らす。
女生徒のシルエット。
ドアはすぐに閉じる。
電気がつく・萌花と雪乃、手を繋ぎ密着。
周りのモブが囃し立てる。
モブB
「出会えたわ。運命の出会い」
モブA
「これはきっと運命の出会い」
雪乃と萌花の足元に一切れの紙。
モブB
「あら、これは何かしら?」
モブA
「何かしら?」
モブB
「今日は台本がいらない日ね」
モブA
「きっと天使が舞い降りたから」
(モブB足元の紙を拾い上げる。声に出して読む。)
モブB
「私はモブAを愛してる。きっと来てね。S-N」
(モブB、モブAに一歩近づき、呼びかける。)
モブB
「あなたへのメッセージよ……詩帆」
静かな間。
照明がモブAを包む
モブA、息をのむ。
モブA
「……わ、わたし!?」
モブA → 詩帆(以降、詩帆として表記)
詩帆
「S-N……何かしら?」
詩帆
「あなたはわかる?遥」
遥「磁石くらいしか思い浮かばない。それに何の意味が?」
モブB → 遥(以降、遥として表記)
モブC
「S-Nは結びつく愛の記号、きっとそう。結びつく愛のメッセージ」
モブ声のみ
「ドアがちょっと開いたけど、いなくなってる子は?」
モブC
「(数えながら)誰も、誰もいなくなってない」
モブ声のみ
「なら、差出人はこの中に?美希じゃなくって?」
美希
「私じゃないわ」
美希
「わ、私には別の……」
モブC → 美希(以降、美希として表記)
モブ全員
「美希、好きな人なんていないって言ってたじゃない」
モブ声のみ
「あなた達はどうなの?(影絵たちも恋愛談義)」
(モブ声のみ。恋愛談義のざわめき)
(詩帆・遥・美希、狼狽える。人格を見せはじめる。)
雪乃
「……皆さんが、仮面を脱いだのなら」
(静かな間)
雪乃
「次は、私の番ね」
雪乃
「わたしは探偵役になりましょう」
(照明が少し締まって雪乃だけを照らす)
雪乃
「探偵は──ただ、答えを出すのみ」
雪乃
「遥さん、カードを見せてください」
遥
「はい、雪乃様。こちらです」
雪乃
「どこにでもあるノートの切れ端ですね」
(雪乃、観客とモブにノートの切れ端を見せる)
(太いマジック、筆圧が強い。光に透かせば裏写りがはっきり見える)
雪乃
「かなりの悪筆ですが」
(雪乃、微笑)
雪乃
「S-Nと言ったのは美希さんだったかしら?ロマンチックで素敵」
雪乃「直接手渡すなら、ロマンチックなラブレター」
モブ声のみ
「誰かわからない。暗号化かしら?」
モブ声のみ
「受け取った人だけがわかる暗号かしら」
詩帆・遥・美希
「私たちもわからない」
モブ声のみ
「じゃあ誰もわからない?」
萌花
「も、もちろん私じゃないですよ」
萌花
「だって私は」
(萌花赤面して雪乃に背を向ける)
(雪乃、その背中に優しく微笑む)
雪乃
「この中にはきちんと答えがあります」
雪乃
「さっきの光がヒントなの」
萌花
「ドアが空いただけですよ?」
雪乃
「手紙に光が当たったわ」
雪乃
「だからね、こうしたら」
(雪乃、カードを光にかざしてひっくり返すと別の番号が浮かび上がる)
雪乃
「2-17」
雪乃
「マジックの裏移りはどちらが表かわからない」
雪乃
「出席番号か、今日の番号か。ここに、いるかしら?」
(モブ全員沈黙)
雪乃
「ふふ、誰かが頼まれたのね。素敵な恋の郵便屋さん」
雪乃
「表と裏。闇と光がこの事件の真相よ」
(雪乃、フードを外して銀髪を光の元へ。)
(その後、手紙をくるくると回してテーブルへ静かに置く。)
雪乃
「探偵は──灯りをつけたわ。今はただの雪乃」
(沈黙と静寂。雪乃、微かに微笑む)
(光が弱まり、談話室の扉の方へ歩き出す)
(扉を開ける前に、ふと立ち止まり)
雪乃
「……でも、恋の謎解きは──」
(雪乃、言いかけてやめる。微笑みだけ残して一礼する)
雪乃
「今日はお招きありがとう。私たち帰ります」
(慌てて追う萌花。一礼して部屋を辞する。)
(帰り道、月だけが二人を照らす。長く伸びた影。)
萌花
「先輩にしては、今日の謎解き、なんだか……」
(雪乃、振り返りながら)
雪乃
「あら、私、謎を解く。なんて言ってないわ」
雪乃
「それに、闇の中でも天使は天使だったわ」
雪乃
「でもね」
萌花
「でもね?」
雪乃
「なんでもない」
萌花
「変な先輩」
雪乃
「ねえ、萌花ちゃん、月が笑ってる」
(手を握り合って寄宿を後にする二人。)
(雪乃、迎えの車に目を向ける)
雪乃
「ねえ、萌花ちゃん、本当の答え、知りたくない?」
雪乃
「答えは、車の中で」
照明が落ち幕が下りる。
(静かな声が告げる)
「この戯曲にはもう一つの答えがあります。」
「紙に書いてあなたの手で解き明かしてくださいね。」
ハロウィンの夜・10/31のラブレター 完
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