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とある文官の苦労

久々の新作



「はぁ……」


 上官からの通知を確認して俺はため息を吐き、頭を抱える。

 最近、上からの連絡事項に目を通す度に頭を抱えるようになった。そんな俺の姿に部下のヤークが書類を机に置き顔をしかめて口を開く。



「レイトさん。またアイツが……何かやらかしました?」


「今度は食糧備蓄の予算を1割カットだと……」


「はぁぁっ!」



 俺の言葉に思わず立ち上がるヤーク。



「ちょっとまってください。今年に入って兵糧の備蓄の予算3割以上減ってませんか?」



 彼の問いに頷く俺。



「もう少し減っているぞ」


「ヴィクスが上官になってからうちの予算かなり減りましたよね?」



 ヤークは言うと机の背もたれに寄りかかり、天井を見上げる。



「レイトさんが優秀だからこの砦の設備と備蓄に不備はでてないけど……大丈夫か?」


「今のままだとアウトだな……

 1度、ミズキと相談したいからつなぎを入れておいてくれないか、明日で」


「わかりました。

 じゃあ……ウルマーンさんには来週ですか?」


「いや。緊急になるから今週末で頼む」


「了解」



 俺はヤークに指示を出すと再び(くだん)の通知の書類に目を落とした。

 上からは()()による予算削減とのことだが……果たして()()()()()()()()()()()()()()()()はどこに消えたのか……



 ミズキは個人的に取引をしている歩き聖女を統べる元締めである。歩き聖女は情報収集専門の集団の1つ。

 彼女達は数名のチームで首都から辺境迄の各地をちりょう(癒し)の旅をする宗教勢力の1つであった。治療を通して、布教活動と地域の様々な情報を収集していく。


 本来なら宗教勢力と関わりのない俺がミズキから情報を得ることは出来ないのだがここは蛇の道は蛇というか、彼女達がこの地域で活動する際に融通をきかせる(無論機密事項には触れない範囲でだ)見返りに必要な時に必要な情報を買うことが出来る契約を結んでいるのだ。

 ……一見、こちらが圧倒的に不利な契約に見えるがそうでもない。この砦に居て、大陸中の新鮮で必要な情報をピンポイントで手に入るというのは想像以上の価値が有るのだ。


 俺はミズキからの報告書(てがみ)に目を通して、ウルマーンとの会談の準備を進めた。

 報告書の内容の解析を終わらせて、俺は満を持してウルマーン……彼との会談に挑む。この会談はこの砦の将来を左右するとも言える重要なものとなる。


 因みに、この一連の事は当然軍規違反だ。バレたらヤバイ事になるが……背に腹は変えられない。




「では、小麦と塩をこの金額で買えるだけですか……」



 ウルマーンの言葉に頷く俺。



「ええ。できるだけ格安で集めてください」


「わかりました。

 今年は小麦と塩ですか……後学のためにそろそろその理由をご教示いただいたいのですが……やはり?」



 人好きのする顔で問いかけるウルマーンに俺は苦笑を浮かべ、



「企業秘密です」



 何故ならバレたら首が物理的に飛ぶ。



「わかりました。お受けいたします」


「頼みます」



 俺とウルマーンは契約成立の握手を交わした。



 1ヶ月後。塩が高騰した。

 我が国は内陸国で海がない。海に面していない国々は塩を手に入れる手段は限られる。オーソドックスな方法としては他国から塩を購入するということ。しかしそれは塩が食卓に並ぶまでに経費がかかり価格がはね上がることを意味していた。

 そして運の良い国は領内に塩湖や岩塩が存在する。輸入に頼らずにやりくりが可能な国。そんな国の1つに我が国があった。

 我が国には岩塩が採掘できる地があった。


 1ヶ月前に、岩塩の採掘場所へと通じる唯一の道が嵐の影響で

 崖崩れが発生。その道が使用できなくなってしまったのだ。


 結果、塩が高騰した。



 ウルマーンから大量購入していた塩を俺は砦に必要な量を残して高値で売りとばした。

 そこで得た資金を2つの用途に分ける俺。1つは砦で不足しつつある備品の購入資金に。もう1つは小麦の追加発注。先日、ミズキからの報告で小麦の追加発注を決めたのだ。


 小麦の一大生産拠点で干ばつがはじまった。

 きっかけは生産拠点へと流れる川。その源流となる山に問題があった。


 ほとんど、降らなかったのだ。冬に雪が……


 山に降り積もった雪が川の水源となっていたのだ。川の水量がみるみる減っていく。


 そして、俺の予想通り干ばつが発生した。


 それは俺の予想よりもひどい干ばつとなった。



「よお。レイト」



 仕事中に背後から聞こえた声に俺は思わず顔をしかめた。何故ならこの声の主は……ヴィクスだからだ。



「なんでしょうか?」


「陛下から食糧備蓄の供出指示があった」



 言って王家からの命令書を俺の目の前に放り投げる。命令書はゆっくりと机に落ちた。

 俺は仕事の手を止め、命令書に目を向ける。



「食糧備蓄の供出ですか……昨今の予算削減の影響が大きく。

 今もギリギリでまわしていまして、正直余裕が無いです。現状で来年迄食糧がもつかも怪しい感じですね」


「そんな事はどうだっていい。そうだなぁ。食糧備蓄の3分の2は渡すように手配しろ!」



 ヴィクスの言葉に俺は唖然とする。


 話を聞いて居なかったのか?



「何を言っているのですか!」



 そんな事をしたら直ぐに砦の食糧が枯渇してしまう。



「これは命令だ!」


「砦が壊滅しますよ」


「そんな事はどうだっていい。

 上層部への根回しだけじゃ出世も難しくなってきていてな。アイツら足元みやがって……だが今回の件で目立った手柄をあげれば……ふっふぅふ」



 口走り妄想にふけるヴィクス。ニヤケたその表情は醜悪であった。

 彼の台詞から俺は察した。これ迄の予算削減で浮いた資金の行方を。



「ふざけるなっ!」



 資金の使い途を察した俺の口から自然と漏れでる言葉。

 怒りに体が震えるが……相手はどんなにクズであったとしても俺の上官である。




 俺と部下のヤークは彼の横領の罪を擦り付けられて拘束された。




「糞っ!

 国の為に真面目に働いている俺達が拘束されて私腹を肥やしているヤツが得するなんて……世の中間違っている」



 向かいの牢から叫ぶヤーク。



「まったくだな」


「……レイトさん。これからどうしましょうか?」



 ひと通り叫んで幾分か冷静さを取り戻したのだろうヤークは不安気な表情で俺に目を向ける。



「…………」


「提案が有るのだけど……どうかなレイト?」



 答える術が無い俺の変わりに牢屋に響く声。俺は慌てて声の聞こえた方に目を向ける。


 そこには、1人の女性の姿。彼女は……



「ミズキさん!」


「何でここに?」



 俺とヤークが予想外の人物の姿に驚きの声を上げた。


 彼女はにっこりと笑うと、



「やっほー。

 とうとう捕まっちゃたのね。悪いことしてたからね」



 楽しそうに言った。

 一見楽しそうにしている彼女だが、その心の内は冷静に物事を見極め動けるように考えている。裏表が180度違う存在なのだ。

 そんな彼女の雰囲気ぐ変わる。身構える俺。



「まあ、冗談はこのくらいで……って、そんなに警戒しないでよ。

 レイト。帝国に行く気は無い?」


「帝国?」


「帝国のレナ宰相から貴方達の引き抜き依頼が有るのよ」


「なっ!」



 ミズキの話を聞いていたヤークが絶句する。

 絶句するヤークにミズキは目を向け、ニコニコと笑う。



「実は私達、レナちゃんとも取引していて今回のけん(出来事)を伝えたら引き抜きを依頼されたのよ。大変な依頼よね。」



 言って視線を俺に戻して話を続けるミズキ。



「来るでしょ?

 このままだと……ねえ」


「…………」



 十数秒。俺は考えてコクリと静かに頷いた。選択肢などはじめから無かった。




 俺とルートはミズキの手引きで牢から脱獄した。

 そして、今、俺の目の前には帝国の宰相レナ。彼女は帝国の3公爵家の1つ。ハーツ公爵家の三女だ。

 ハーツ家は帝国の学問を司る存在で、ハーツ家の最高傑作とさえ言われている才女である。



「はじめましてレイト」



 言って微笑みを浮かべる彼女。

 噂には聞いていたが本当に若い。大国である帝国の宰相は噂通りの20歳を少し超えたくらいの年齢であることに驚く俺とルート。



「は、はじめまして」



 頭を下げる俺達。



「ミズキから貴方の話は聞いていたので1度会ってみたいと思っていたのよ。

 ちょっとした情報から……貴方は、あの砦を支えられる程の利益をあげる先物取引の手腕。どうかしら私の直属でその辣腕を振るってくれないかしら?」


「たまたまうまくいっただけですよ。アレは運がよかっただけです」


「謙遜は嫌味に聞こえるわよ。それに貴方の価値を私は高く評価している」



 俺の目を見て話すミズキ。



「貴方の真の価値は情報分析能力よ」


「情報分析能力」


「そう。貴方は今年だけでも王国内の塩と小麦を中心とした不足をいち早く気付き、誰よりも早くに動いていた。私よりも早くに……」


「……つまり、俺がやる事は異変を早い段階で見付けて資金稼ぎか?」



 話の内容からレナ宰相の考えを推測して口に出す。すると彼女は苦笑いを浮かべて、



「少し違うわね。それもやってもらいたい事の1つだけれど、貴方は異常の兆候を早い段階で見付ける力があるわ。それはつまり、それが起こる前に対策を打つことができる。最小限の被害に抑えるどころか起こさない事もできるかもしれない」



 レナ宰相の言葉に俺は1度目を閉じて考える。頭に浮かぶ王国での日々の記憶……考える迄も無かった。


 俺は目を開けると頷きレナ宰相の手を取った。




 半年後、俺の居た王国の砦で食糧不足による不満が爆発した。

 兵士達が暴走したのだ。砦周辺の村々を襲い金品や食糧を強奪した。見境無くその手を伸ばし、帝国領内でも彼等は暴れようとした……が。



「レイトさん。貴方の予想通りでしたね」


「はい」


「王国がしかけてきたので我が国も反撃開始よ」



 言ってレナ宰相が軍義を招集。

 招集から10日後、混乱収まらぬ王国の砦に向けて部隊が出発した。


 部隊は破竹の勢いで勝ち進み、王国の半分の領地を手に入れその矛を納めたのだった。


 余談で有るが、最初の攻撃目標である砦を攻略した時には既にヴィクスの悪行は露見しており、彼は鉱山送りとなった後であった。

作品をお読みいただきありがとうございます。


今回は勢いで書いた為、色々と矛盾やおかしな点があったかも知れません。

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― 新着の感想 ―
勢いで書いたとのことですが、先物取引の話は練られていて面白かったです。 プチざまぁも決まりましたね。 (*´ω`*) 気になったこと: 勢いで書いたからか、ヤークが途中からルートに変わっていました。…
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