第7話「勧誘」
ある日ヒンロは以前サタレが誘ってくれた「おしゃべり大会」なるものに参加する事にした。
職に就いておらず、どうせ暇だから悪くない。
「まぁ、俺みたいなクズにはお似合いかな。」
そう思いながらヒンロは居住区内の住民集会所に足を運んだ。
集会所に着くと、だいたい同世代か、それより少し若い子供達が集まって、ガヤガヤやっていた。
ジュースとお菓子が貰えるらしい。
「よぉ、来たか。」
サタレが手を振った。
ヒンロも手を振ると空いている椅子に腰掛けた。
錆びついた安物の簡素な椅子だった。
「ヒンロ。何か皆の前で喋れよ。」とサタレ。
ヒンロは少し戸惑ったが、憧れのヒーローの頼みじゃ断れない。
彼は集会所の一番目立つ場所に来ると、マイク片手に演説した。
「俺達はただ普通に暮らしたいだけだ。旧宗派は人間だ。犬や猫じゃねー。ただ幸せに暮らしたいだけだ。クソったれの新宗派をぶち殺してやりてぇ!」
集会所は熱気に包まれ、拍手と指笛の嵐にみまわれた。
「俺達に自由を!俺達に解放を!」
ヒンロは力の限りスピーチした。
拍手と指笛は鳴り止まなかった。
会が終ると、サタレはヒンロを集会所の奥の倉庫に呼び寄せた。
すると「ヒンロ、すげぇ、良かったぞ!」
サタレの言葉にヒンロは少し照れた。
「なぁおい。新宗の奴らに本気で一泡吹かせたくないか?」
サタレはそう言うと、ズボンに挟んでいたものをヒンロに見せた。
SIG SAUER P220 拳銃だ。
ヒンロは戸惑った。
「本当の自分の気持ちは何だろう?」と。
するとサタレが言う。
「俺達、旧宗を、いや、お前を苦しめているのは、新宗の奴らだ。一緒に殺ろうぜ。あいつらを倒すんだ。」
それを聞いたヒンロは静かにサタレに尋ねた。
「サタレ、君はもしかして義勇軍?」
するとサタレは頷いた。
義勇軍とは「成和護経義勇軍」という旧宗の仏教系レジスタンス組織で、100年前に結成された。
これまで、新宗が多数派を占める国軍と数多の戦闘を繰り広げてきた。
つまりこれはスカウトだ。
「サタレ、一晩だけ時間をくれ。明日必ず返事するよ。」
ヒンロがそう言うとサタレはヒンロの頭を撫でた。
その晩、ヒンロはベッドに寝転び、目を閉じて考えた。
「俺にはどうせ、明日はない。だったら…。」
やがて暁が地平線を照らした。
ヒンロは早朝、サタレが住む棟に急いだ。
そしてサタレの部屋の呼び鈴を鳴らした。
ドアが開き、サタレが出てきた。
「サタレ、俺を仲間にしてくれ!」
ヒンロの気持ちに迷いは無かった。