第3話「分離壁」
ヒンロの自宅は旧宗の居住区内にある低所得者向けの団地の一部屋である。
居住区は高い分離壁で囲まれ、外にある裕福な新宗達の住宅地に自由に出入りする事を禁じられている。
壁のゲートには国軍の警備兵がおり、チェックを受けて出入りする。
彼はトボトボと、まるで墓場を彷徨う死者の様な足取りで、自分の自宅がある棟に向かった。
途中、居住区を警備している国軍の軍用車両や兵士とすれ違った。
ただでさえ壁に自由を奪われている上に軍が駐留して、住民の自由を更に圧迫していた。
ヒンロがすれ違おうとすると、兵士が「汚ぇゴミくずが。」と言い唾を吐いた。
「俺、この先どうなるんだろ。野垂れ死ぬのかなぁ。」
ヒンロは独り呟いた。
自宅の部屋の扉を開く「ただいま…。」
すると、母がお帰りを返してくれた。「面接、どう?良さそう。」母が言う。
「良い訳ないじゃん。俺、旧宗だよ。最初からダメに決まってるんだよ。」
そう言うと居間を通って自室に向かう。
居間には定職に就かず昼間から酒を飲む父の姿がある。
それを無視して彼は自室に籠もった。
狭く貧しい家。
ヒンロには絶望しか見えなかった。
ベッドに仰向けになり、天井を見つめても、決して希望が湧く事はなかった。
トミリは颯爽と帰宅した。
その場で採用が決まったのだから無理もない。
「ただいま!」とトミリ。
母がお帰りを返す。
美しい白壁に赤い屋根の一戸建て。彼の自宅だ。「面接どうだった?」と母が聞く。
「あぁ、採用決まっちゃったよ。何社目かなぁ。逆に困るよね。」
満面の笑みで答えたトミリは、そのまま広い自室に入ると、パソコンを早速起動させた。
これからオンラインゲームの時間だ。
「俺には力がある。俺に勝てる奴らなんかいやしない。」
彼は自信と希望に満ち溢れていた。
家業の不動産会社も社長である父の活躍で順調に業績を伸ばしている。
正に敵無しだった。