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影に潜れば無敵の俺が、どうしてこんなに苦戦する  作者: ドライフラッグ
Aランク編
94/94

ノウム ⑥

 町に着き、ギルドに向かう。そういえば、ルネスさんが潜影族に関係する依頼が来るかもしれないと言っていた。(くわ)しくは生きて帰ってくれば教える、とも。


 いったいどんな依頼だろうか。もしかしたら、エバルを植えている犯人が見つかったのかもしれない。


 エバル……あの裏世界に根を張る奇怪(きかい)な樹木は、間違いなく潜影族が植えたものだ。その実を食べると中毒症状を起こし、皮膚(ひふ)が紫色になって、なぜか光を嫌い、暗闇を好むようになるという……。犯人はどういう目的でエバルを世界中に植えているのだろうか。


 しかも、ロモーネ治安官は、八年前に潜影族を殺したのは、同じ潜影族である可能性が高いと推理していた。つまり、エバルを植えた犯人と潜影族殺しの犯人は同じかもしれないのだ。


 もし、エバルの犯人が特定され、しかも治安官の推理が正しかったとすれば、潜影族絶滅の謎が一気に解決へと向かうことになる。そうなれば、俺が冒険者になってここまで頑張(がんば)ってきた甲斐(かい)もあるって話だ。


 ああ、緊張するな。どうかエバルの犯人依頼でありますように。


 俺は心の中で(いの)りながらギルドへの道のりを歩いた。胸を高鳴らせながらギルドの中へ入る。ルネスさんの受付が運良く空いていたので、真っ先に向かって尋ねた。


「ルネスさん、約束通り生きて帰ってきたよ。潜影……」おっと危ない。「潜影族(へんへーほふ)の依頼って何?」


 ルネスさんがにこりと笑って答える。


「その前に、ノウムの依頼はどうなったんですか?」


「あー、あんなのどうでもいいの。ちょちょいのちょいで倒したから。それよりもへんへーほふの方が大事」


「では、ノウムの死骸(しがい)はありますか?」


「うん、エミール、見せてあげて」


「これです」と、エミールが持っていた死骸をカウンターの上に広げた。


 ルネスさんが(まゆ)(ひそ)めて言う。


「うわキモっ」


 ものすごく素のリアクションだ。なんかノウムが可哀想(かわいそう)になる。


 ルネスさんは死骸をいかにも汚そうに()まみ上げ、まじまじと観察した後、こちらを見て言った。


「たしかに、ノウムの死骸ですね。しかし、ここまで完璧に残っているとは思いませんでした。私は一度だけノウムの死骸を見たことがありますが、その時は皮膚の一部だけでした。これをギルドの研究チームに渡せば、ノウムの謎多き生態の解明に(つな)がるでしょう。お(つか)れ様でした。さすがはAランク冒険者ですね」


 俺はじれったくなり、早口で言った。


「うん、ありがとう。でさ、へんへーほふの件だけど」


「はい、もちろんお教えします。ですが、その前に、報酬を渡しておきましょう。4万ガランでしたね。今用意しますから、少々お待ちください」


「いや、その前にへんへーほふの件を教えてくれるかな」


「いいえ、その前にまず報酬です。忘れたら大変ですから。それとも報酬はいらないんですか?」


「いや、絶対に欲しいけど」


「では、お待ちください」


 ルネスさんはそう言い、受付奥の金庫を開けに行った。


 うう、じらされるなぁ。たしかに報酬も欲しいけど、今はそれ以上に情報が欲しいんだ。こんなの珍しいことだぞ。この俺がお金以上に欲しがるものがあるなんて。ん、待てよ。てことは、今の俺は4万ガランよりも情報が大事だと思ってるってことだよな。だとすれば、仮にルネスさんに「情報が欲しければ4万ガランよこせ」って(おど)されたら、俺は素直に応じるのか? いや、でもさすがにそれはないかな。せめて1万ガランにまけてくれって(ねば)るな。いや、でもルネスさんが俺の値切り交渉(こうしょう)に応じなかったら? だとしたら4万ガランも渡せるか? そもそも依頼に関係する情報だったら放っておいても掲示板を見れば分かるし、わざわざルネスさんに聞かなくてもいいんだ。だったら1万ガランでも高いな。うん、俺としたことが、危うく情報に()られて大金を手放すところだったぜ。危ない危ない。冒険者は危険がいっぱいだな。


 自分自身を問い詰めているうちに、アルはルネスさんから報酬を受け取り、財布の中に入れていた。すかさずその腕を(つか)む。


「おいっ、待て! 今回の報酬は全部俺のもののはずだ!」


 アルが俺の手を振り払う。


「こんな大金、何に使うんだ」


「別に何だっていいだろ。とにかくアルの治療費(ちりょうひ)を400ガラン引いて、残りの3万6000ガランは俺によこせ」


「6000じゃなくて、9600ガランだ。こんな簡単な計算もできない奴に大金を渡せるか」


「は!? 汚ぇ! 勇者のくせに約束破んのかよ! じゃあ、もうこんな糞パーティー解散だな!」


「オレは勇者じゃないし、約束も破らない。たしかに報酬はゼラのものだが、一度に渡すのは危なっかしい。少しずつ渡す。今渡すのはこれだけだ。手を出せ」


 アルが財布に手を突っ込み、銀貨を五枚俺の手に乗せた。たった500ガラン。これじゃあCランクレベルの報酬だ。(いか)りを(おさ)えながら言う。


「おい、アル。通貨を間違えてる。これは銀貨だ。アルが渡すのは金貨だろ? なあ、そうだろ? 裏世界に沈められたくなければそうだって言えよ、なぁ」


「いいや、これで充分だ。贅沢(ぜいたく)言うんじゃない。好きなお菓子も本も買えるだろ」


「金貨だったらもっと買えるんだよ!」


「別に残りを渡さないとは言ってない。しばらくしたらまた500ガランやるから」


「しばらくっていつだよ! 一時間後か?」


「しばらくはしばらくだ」


 二人で言い合っていると、ルネスさんがくすりと笑った。


「いいじゃないですか、ゼラさん。もう感覚が麻痺(まひ)しているのかもしれませんが、500ガランといえば大金ですよ。それを定期的に(もら)えるのなら、ギルドの人間よりも高収入ですよ」


「……ホントに?」


「ええ。それに、私達も貰ったお金をすべて自分で持っているわけではありません。銀行に預けます。ゼラさんも、アルさんを銀行だと思えばいいんです」


「ん、まぁ、言われてみればたしかに。アルが持ってた方が安心か……」


 俺はそう思い直し、アルに向き直った。


「というわけだから、俺の金は一旦、勇者銀行に預ける。責任を持って守ってくれよな」


「なんだよ勇者銀行って。まあ、守りはするが」


 ルネスさんが付け加える。


「それから、前回のラオの売上金もお渡しします。高く売れましたよ」


「ホントに? どれくらい?」


「3000ガランです」


「おおっ、てことは金貨三枚分だな」


「はい、お受け取りください」


 ルネスさんが金貨三枚を置き、アルがそれを財布の中に入れた。すかさず俺が忠告(ちゅうこく)する。


「おい、その金貨も一枚は俺の取り分だからな? 全部自分のものにするなよ」


「分かってる。オレはゼラみたいに強欲じゃないから心配するな」


「そのくせケチだけどな。あっ、そうだ。これでエミールの指輪の料金も全部払えるな。あれ、たしか200ガランしかしなかっただろ? 余裕で足りる」


「そうだな。これから魔道具屋に行って受け取ろう。あと、闇の宝玉も指輪にしてもらわないとな」


「その料金もラオの金から余裕で払えるってわけだ。なんだか得した気分だな。おかげで気分も晴れた。じゃあね、ルネスさん。これから魔道具屋に行ってくるよ」


「はい、いってらっしゃいませ」


 俺が別れの挨拶(あいさつ)をして受付を離れようとすると、後ろからエミールの声がした。


「ちょっと、ゼラ様、いいんですか? へんへーほふの件は」


「へんへーほふ? あっ」


 そうだ、金のせいですっかり忘れていた。(あわ)てて元の場所に戻る。


「いけない、俺としたことが、肝心(かんじん)の情報を聞き忘れてたよ」


「気づきましたか」とルネスさんが()まし顔で言う。


「気づきましたか、じゃないよ! 大事な情報なんだからルネスさんも忘れないでよ」


「いえ、私は覚えてましたよ。ただ、じらした方が見ていて面白いので」


「何が!? 全然面白くないよ。それで、へんへーほふの依頼ってのは何?」


「はい、まだ正式に依頼は出されていませんが、どうやらエバルの犯人が特定されたようなのです。ですがまだ捕まっていないので、逮捕依頼がギルドから出される予定です」


「やっぱり! じゃあ、そいつをとっ捕まえれば、すべての謎が解けるかもしれないな!」


「ええ。しかも、犯人はギルドの(わな)にかかりました。強力な呪いがかかる魔法罠で、犯人はギルドから七キロメートル以上離れた場所に移動できません。加えて、魔道具を使えば簡単に居場所を特定できます。捕らえられるのは時間の問題でしょう」


「ホント!? じゃあさ、お願いがあるんだけど、もしその依頼書が出されたら、ルネスさんが取っておいてくれないかな。他の冒険者に取られないように」


「……」


 これくらいのお願いなら聞いてくれるだろう。そう思っていたのだが、ルネスさんは難しい顔で考え込んだ後、首を振った。


「ダメです。そこまでのことはできません」


「なんで!? それくらいいいじゃん!」


「私がゼラさんのためにできるのは情報提供だけです。それ以上の特別扱いはギルドの規約に違反します。他の冒険者と同じ条件で依頼に挑んでください」


「そこをなんとか。さっき貰った500ガラン……いや100ガランあげるから」


「ふふっ、賄賂(わいろ)を受け取るのはそれこそ規約違反ですよ。絶対にできません」


「ちぇっ、真面目だなルネスさんは。ま、だから信用できるんだけどね。じゃあ明日、なるべく早くギルドに来るよ。朝飯前に」


「ああ、ただ、一応言っておきますが、依頼がいつ出されるかはまだ確定していませんよ。明日ではなく、二日後や三日後になる可能性もあります」


「別にいいよ。依頼が出されさえすれば。他の情報は分かる? 犯人の名前とか」


「いいえ、そこまで詳しい情報はまだこちらに届いていません。犯人の情報や依頼のランクは、実際に依頼書が届いてからでないと」


「そっか。それは依頼書を見てからのお楽しみってわけだね。それじゃあ、これ以上の長話もなんだし、俺達もう行くね。いつも大事な情報を教えてくれてありがとう。また新しい情報が入ったら教えてよ」


「はい、私もゼラ様の大事な秘密を教えていただきましたしね。情報提供は()しみません」


「助かるよ。それじゃあまた明日ね」


「はい、お疲れ様でした」


 ルネスさんと別れ、ギルドを出る。次に向かった先は魔道具屋だ。心を読んでくる不気味な老婆(ろうば)店主から雷の宝玉の指輪を貰う。200ガランも支払うが、今の俺達にはラオの売上金があるから、それほど惜しくもない。


 アルが続けて闇の宝玉を渡し、こう言った。


「これでまた指輪を作ってほしいんですが、ゼラにも(あつか)えるようにしてくれませんか?」


「えっ、なんで?」と、店主より先に俺が尋ねる。


「ゼラは闇魔法が得意だからな。エミールだけじゃなくてゼラも闇の宝玉に頼れた方がいい」


「なるほど。で、そんなことできんの? 俺、これっぽっちも魔法の才能無いけど」


 店主が笑って言う。


「ヒヒヒッ、()めんるじゃないよ。あんたに魔法の才能が無くとも、私には魔道具作りの才能があるんだ。素人でも魔力が利用できる完璧な魔道具に仕立ててあげるさね」


「よっ、天才魔道具屋! それじゃあ俺でも使えるようにしてくれ」


「料金は2000ガランだよ」


「ふざけんなクソババア! 普通の指輪の十倍じゃねぇか! ぼったくるのも大概(たいがい)にしろよ!」


「ぼったくりだなんて人聞きの悪いこと言うんじゃないよ。(うら)むなら私じゃなくて自分の才能の無さを恨みな。魔術師じゃない素人に宝玉を使えるようにするのがいかに難しいことか。そんじょそこらの魔道具屋にできる芸当じゃないんだよ」


「けっ、ホントかよ。そんなの客には確かめようがないから言ったもん勝ちじゃねぇか」


「あんたらにとってはそれほど高いわけでもなかろうに。ラオの売上金があるんだろう?」


「勝手に心読んでんじゃねぇ!」


 俺を無視して、店主がアルに尋ねる。


「で、どうすんだい? 当の本人は料金が不服みたいだけど」


「いえ、2000ガランで結構です。お願いします」


「まいどあり」


 アルは涼しい顔で了承したが、俺は悪態をつかずにはいられなかった。


「けっ、この魔女め」


「ヒヒヒッ、そりゃ悪口のつもりかい? 私にとっては()め言葉だけどね」


「どっちもだよ。2000ガランも払うんだから頑張れよ、魔女」


「誰に言ってんだい。頑張るのはあんただよ、潜影族」


「ふんっ」


 その後、俺はエミールと一緒に指の太さを測ってもらった。二人とも身長と体型がほとんど同じなので、指の太さにそれほどの違いはない。ということで、一つの指輪を二人で併用(へいよう)することになった。


 指輪を二人分作り、宝玉を付け替え式にすることも可能らしいが、それだと追加で400ガランもかかるらしいので、当然(ことわ)った。


 注文を終えて店を出る。その後、俺達はいつもの原っぱに向かい、稽古(けいこ)を始めた。俺はいつものように弓の稽古をし、エミールは指輪を手に入れたので、上級の雷魔法が使えるようアルに指導を受ける。


 30分ほど(わら)の的に矢を放っていると、突然、エミールのただならぬ声が聞こえてきた。


「アル様! どうされたんですか!」


 ふと視線をやると、アルが苦しそうに左腕を押さえていた。俺も心配になって()け寄る。


「おい、どうした。痛むのか?」


「い、いや」と、アルが振り(しぼ)るように声を出した。「か、か」


「か?」


(かゆ)い……」


「は?」俺は拍子(ひょうし)抜けして笑った。「あははは、なんだよそんなことか。そういえば先生が言ってたな。死ぬほど痒くなるけど()くなって。どんだけ痒いんだ?」


「……死ぬほど痒い」


「それじゃ伝わんねーよ。でも痒みで人は死なないから心配すんな」


「くぅ、ゼラにはこの苦しみが分からないだろ。これなら痛い方がマシだ」


 よく見るとアルの(ひたい)脂汗(あぶらあせ)(にじ)んでいる。どうやら相当痒いらしい。左手首を右手で強く握り絞めている。


 エミールが心配そうに言った。


「アル様、宿に行って休んだ方がいいですよ。今日の稽古はこれで終わりにしましょう」


 俺も喜んで賛成する。


「そうだぞ、アル。無理はするな。稽古なんてやめて、三人で遊ぼうぜ?」


「死ぬほど痒いって言ってんだろ馬鹿。悪いが、俺は宿に帰って休ませてもらう」


「イェーイ」


 俺は大喜びで飛び()ねた。が、アルに冷たく言われた。


「なんで喜んでる。ゼラはこのまま稽古を続けろ」


「なんでだよ! 俺も休まないと不公平だろ!」


「ゼラは元気だから休む必要はない。それにオレ無しでも弓の稽古はできる」


「宿に帰ったら三人でトランプしようぜ?」


「だから遊ばないって言ってんだろ!」


 そんなこんなで、俺達は稽古を中断して宿に帰った。結局、俺は稽古をサボり、町をぷらぷらしながら、今日貰った金をちびちび使った。エミールも(さそ)ったのだが、アルに申し訳ないからと断られた。そういえば三人で遊んだことって一度もない。いつか遊べたらいいのに。


 夜になり、三人で夕飯を食べる頃には、アルの手の痒みはだいぶ収まっているようだった。ただ、(しび)れはまだ残っていて、力を上手く出せないらしい。


 三人で話合った結果、明日になってもアルの左手が良くならないのであれば、仕事は休むことに決めた。ノウム戦でAランクモンスターの危険性は嫌というほど分かったから、この決定は当然だ。例の潜影族(がら)みの依頼が出されても、手続きだけ済ませて次の日に回すしかない。まあ、依頼のランクが相当低ければ、アル無しでもなんとかなるだろうが。


 俺は夕飯を食べ終えて自分の部屋に戻ると、明日が休みになるよう神に祈りながら眠りについた。


《ノウム・完》

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