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影に潜れば無敵の俺が、どうしてこんなに苦戦する  作者: ドライフラッグ
Aランク編
90/94

ノウム ②

 アルを先頭にして、真ん中をエミール、最後尾が俺の順で進んでいく。


 今回の敵も、ラオのように突然(おそ)ってくるだろうか。あの白いひょろひょろが俊敏(しゅんびん)に動く様は想像できない。


 そもそも、好戦的な奴なのだろうか。一度攻撃すれば執拗(しつよう)に追いかけ回してくるようだが、こちらが手を出さなければ大人しい可能性も無いでは無い。


 それはそれで困ってしまう。こんな広大な森の中で敵を探し出すのは難しい。向こうから襲いかかってきてくれれば、見つける手間が(はぶ)けるのだが。


 俺は歩きながら二人に話しかけた。


「なあ、どこまで歩けばいいんだ?」


 アルが振り返らずに答える。


「ノウムと遭遇(そうぐう)するまでだ」


「そんなこと言ってたら、森を抜けちゃうかもしれないぞ?」


「その時はまた来た道を戻ればいい」


「何往復するつもりだよ! もっといい方法考えようぜ?」


 アルが突然立ち止まる。エミールがアルの背中にぶつかり、「いてっ」と声を上げた。


「どんな方法だ」


「襲われた冒険者と同じことをすればいい」


「同じこと? モンスターと戦うってことか? そんなことをしてなんでノウムを呼び寄せられる」


(かん)だよ勘。ホントにできるかは分からないけど、やみくもに探すよりはいいだろ? (さわ)ぎを起こせば、ノウムが俺達に気づいて向こうからやってくるかもしれない」


「でも、そのためにわざわざモンスターと戦うんですか?」とエミール。


「まあ、それも一つの手だな。ノウムが血の臭いに(さそ)われてこっちに来るかもしれない。ただ当然、無駄(むだ)な戦闘も避けたいから、まずは簡単な方法から試そう。モンスターとの戦闘は最後の手段だ」


「簡単な方法?」


 エミールが首を(かし)げる。


 俺はエミールから森の奥に視線を移すと、その方法を実践(じっせん)してみせた。


「ノウムさあああああん! こっちに来てくださああああああい!」


 ありったけの大声でノウムに呼びかける。


 アルが呆れ顔で言った。


「そんなことでホントに来るのかよ」


「だからー、やってみないと分からないって言ってんだろ。試すだけ試せばいいんだよ」


 エミールが(おび)えながら言う。


「『はーい』って返事をしてきたらどうしましょう」


「ちょっと、おっかないこと言わないでくれよ。夜眠れなくなるだろ」


 が、アルはまったく怖がっていない。


「本当に怖いのは他のモンスターがこっちに来ることだ。その時にノウムも来られたら同時に相手をしなきゃいけなくなる。殺された冒険者みたいにな」


「だからあんま怖いこと言うなって。そんな気配しないだろ?」


「どうだかな」


「はっきり言えよ! アルなら気配くらい分かるだろ!」


「オレに頼らず、自分で察知してみろ」


「………んなこと言われても」


 と言いつつ、耳を()まして辺りの様子を(さぐ)ってみる。風の音と鳥の鳴き声がするくらいで、何かが接近してきている気配は無い。


「大丈夫っぽいけどな。エミールは何か感じるか?」


「いえ……特に魔力は感じません。私の魔力感知能力はたかが知れていますが」


「うーん、てことは呼び出し効果は無しってことだな。ゆっくり近づいてきてるのかもしれないけど」


「そ、それはそれで怖いですね」


「うん、俺も今自分で言って『うわっ、怖っ』って思った。まあ、とにかく次の方法を試そう。次は魔法だ。おそらく、襲われた冒険者も魔法を使っていたはず。エミール、ちょっと一発ド派手な魔法を使ってみてくれ。その魔力に反応してノウムが近づいてくるかもしれない」


「なるほど、分かりました。では、ボアルインガを使ってみましょうか」


 エミールは杖の先を道から()れた森の奥に向けた。


「ボアルインガ!」


 杖から火球が放たれる。火球は木の(みき)にぶつかり、その瞬間に大爆発を起こした。爆炎がこちらに届かないギリギリの距離だ。顔がほんのりと熱くなる。


 砂煙が舞い、爆発した箇所が見えなくなる。それが晴れると、木の幹は根元から()()みじんに吹き飛んでいた。


 いつ見ても上級魔法は(すご)い。爆発音もさっきの俺の声より大きかった。これだけの魔力を発散させれば、敵に感知されてもいいように思うのだが……。


 周囲に目を配りながら、耳を澄ませる。だが、何かが近づいてくる気配はしなかった。


「作戦失敗ですかね」とエミール。


「いいや、まだ分からない。遠くにいるから察知できないだけで、ノウムはちゃんと近づいてきてるかもしれない。とりあえず、しばらくここで待とう」


 というわけで、俺達はあえてその場に立ち止まった。敵を待ちながら、次の作戦について話す。


「魔力がダメとなれば、次は血の臭いで誘い出すしかないな。でも、モンスターと戦って無駄に力を消耗(しょうもう)するのはゴメンだから、鳥でも殺して血を()いてみよう。もしノウムが来なくても、焼いて食っちまえばいい」


「そういえば、ノウムはいったい何を食べてるんですかね。依頼書の絵には口が書かれていませんが」


「そうだよな。ミミズみたいだから土とか食ってんのかな」


「口が無いとは限らないぞ」とアル。「閉じている時は見えないだけかもしれない」


 エミールが恐ろしげに言う。


「じゃ、じゃあ、耳まで避けた真っ赤な口がぱかっと開くかもしれませんね。中には鋭い牙がたくさん生えていて、人間を丸呑(まるの)みに………」


「怖い怖い怖い! どうしてそんな怖い方に寄せてくんだよ。もっと可愛(かわい)い姿を想像しようぜ。口はあるけど、めっちゃ小さくて見えないだけかもしれない。目もそうだ。これだったら怖くないだろ?」


「………それはそれで不気味じゃないですか?」


「うん。俺も今自分で言いながらキモいなって思ったよ。これのどこが可愛いんだ!」


「誰に怒ってるんですか。あんな化け物に可愛い部分なんてありませんよ」


「だよなぁ………」


 会話が途切れ、沈黙(ちんもく)が流れる。相変わらず敵の気配は感じられない。その状態で5分ほど経過した後、アルが口を開いた。


「そろそろ次の作戦に移った方がいいんじゃないか?」


「うん、そうだな。じゃあ、鳥を探そう。いや、鳥よりもウサギとかの方が殺すの楽かな」


可哀想(かわいそう)ですけど、仕方ありませんね」


「そうだ。このままノウムを放っておいたら、新しい犠牲者(ぎせいしゃ)が出ちゃうからな」


「で、どうやって()(にえ)を探す?」


「そうだなぁ。道を逸れて、森の奥を探した方が見つかりやすいかもな」


「でも、それだと遭難(そうなん)してしまうかもしれませんよ」


「それは分かってるけど、道の側に動物の巣があるとは思えないだろ? どんな動物でも人間を警戒(けいかい)するから」


「いや、この道は通行人が少ない。先に進めば、鳥くらいは見つかるかもしれないぞ?」


「んー、それもそっか。じゃあ、アルの意見を採用して、先に進もう」


 というわけで、俺達はまた道を進んだ。並ぶ順番はさっきと同じだ。


 周囲を見渡しながら歩く。鳥らしき生き物の鳴き声は聞こえてくるのに、肝心(かんじん)の本体はどこにも見当たらない。まさか敵どころか鳥を見つけるのにも苦労するとは。


 いったいいつまで歩かなければならないのだろう。木の枝に目を()らすのも(つか)れてきた。


 そろそろ休憩(きゅうけい)でも、と思ったところで、アルが立ち止まった。


「おっと」とエミールもぶつからないように止まる。


「どうした、休憩か?」


 俺はアルに尋ねて道の前方を見た。すると、そこには一人の男が立っていた。歳は二十代くらいで若い。腰に剣を下げ、アルと同じような軽鎧(けいがい)を身につけている。冒険者だろうか。本人に直接尋ねてみる。


「こんにちは。ねえ、お兄さん冒険者?」


 男はアルに向けていた視線を俺に向け、(さわ)やかな声で答えた。


「俺はモンスターを倒したいんだ。たくさん倒したいんだ」


「あー、やっぱ冒険者だね。俺達もモンスターを倒しに来たんだ。ノウムって言うんだけど、知ってる?」


「知ってる。俺はノウムを倒した」


「えっ、なんで!? ギルドの依頼は俺達が受けたのに! もしかして、お兄さんはギルドの会員じゃない冒険者だとか?」


「俺はギルドの依頼を受けた会員じゃない冒険者だ」


 ……ん、どういう意味だ? それってつまり、ギルドの会員じゃないのにギルドの依頼を受けたってこと? そんなことできないだろ。


 てか、最初から薄々感じていたが、この人、(しゃべ)り方がおかしい。


 俺はルネスさんの言葉を思い出した。ノウムは人に化けるが、会話をすれば正体を見破れる。まさか……。


「まさか、お兄さん、ノウム?」


「俺はノウムを倒した。一緒に倒そう」


 その時、アルが腰の剣を抜き、男に向けて構えた。それに合わせ、男も剣を抜いて構える。


 俺は(あわ)ててアルを止めた。


「待てってアル! まだこの人がノウムって決まったわけじゃないだろ!」


「ルネスさんに言われたことを忘れたか? ノウムは人に化けるが、言葉を完璧に操れるだけの知能は無い。こいつはどう考えてもノウムだ」


「いやいやいや、そうかもしれないけど、この国の言葉に慣れてない外国人って可能性もあるだろ?」


 アルが男に尋ねる。


「おいっ、どうなんだ。お前は外国人か?」


「俺は外国人か?」


「こっちに()くな!」と俺がツッコむ。「でも、この答え方もなんとなく外国人っぽくないか?」


(らち)が明かないな。エミール、試しに攻撃してみてくれ」


「えっ、いいんですか? もしノウムじゃなかったら」


「下級魔法でいい。怪我(けが)をしない程度に打て」


「は、はい。では………ドーラ」


 エミールが前に出てきて、呪文を唱える。杖からバリバリと雷が(ほとばし)り、男に命中した。


 が、男は微動(びどう)だにせず攻撃を受けた。なんのリアクションも無い。


 エミールが攻撃を止める。俺は驚きながら言った。


「うわぁ、こいつ、やっぱりノウムだ。こんなに上手く人間に化けるんだな」


 俺が言い終わるや(いな)や、突然、男の、いや、敵の姿が変化した。体が衣服や鎧ごとぐにゃりと曲がったかと思うと、色も形も(たちま)ち変化し、なんと、最終的にはエミールの姿になってしまった。まるで鏡のようにそっくりで、その手には宝玉の指輪と、杖まで(そな)えている。


「う、嘘だろぉ」


 呆然と(つぶや)くと、敵が杖をこちらに向け、呪文を唱えた。


「ドーラ」


 声までもエミールにそっくりだ。そして、雷魔法がエミールに襲いかかる。


 すかさずエミールは呪文を唱えた。


「ライムケニオン!」


 俺達の周囲を光の結界が囲み、雷魔法を受け止めた。下級魔法くらいなら余裕(よゆう)()えられるだろう。


 それにしても、敵は姿や声だけでなく、魔法まで完璧に真似してしまった。俺でも闇属性以外の魔法は使えないのに。いったいどうやってるんだ?


 敵の雷魔法が(おさま)る。


 そのタイミングで俺はエミールに提案した。


「なあ、魔法を使ったら真似されるから、一旦俺の矢で攻撃してみようと思う。でも、それも真似されるかもしれないから、その時はまた結界を張ってくれ」


「了解です」


「よし、俺が弓を構えたら、結界を解いてくれ」


 俺は筒から矢を取りだし、弓に(つが)えた。敵に狙いを定めた瞬間、ベストタイミングで結界が解除される。敵との間合いは3メートル。絶対に当たる距離だ。


 エミールの姿に化けているので心苦しいが、躊躇(ちゅうちょ)している(ひま)は無い。


 俺は即座に矢を放った。狙い通り、胸のど真ん中に命中する。さらに、(はじ)かれることなく深々と突き刺さった。


「どうだ!?」


 敵の反応をうかがう。だが、敵は不気味な無表情をたたえ、まったく苦しそうではない。そして、杖を持たない左手で矢を(つか)むと、強引にひっこ抜いた。胸に小さな穴が空くが、血は流れず、(またた)く間に(ふさ)がっていく。


「やっぱりこの程度の攻撃じゃダメか。エミール」


「ライムケニオン」


 再び光の結界が張られる。その間に、敵の姿が変化した。どうせ俺の姿に化けて、矢を放ってくるつもりだろう。


 と、思っていたのだが、変身したのは、元の若い男だった。持っていた矢を地面に落とし、剣を構える。そして、それを振り上げたかと思うと、一気に降ろした。


 その瞬間、結界に見えない何かが衝突(しょうとつ)した。けたたましい衝撃音が響く。


 これは波動斬(はどうざん)だ。おそらく、変身している男が敵に使ったのだろう。あれは敵に殺された冒険者の姿だ。


 敵は何度も剣を振り、波動斬を放ってきた。結界にヒビは入っていないが、どこまで持ちこたえられるのかは分からない。


「ケニオムール」


 エミールが強化魔法を唱えた。結界の光が増し、衝撃音も小さくなる。


 攻撃は無意味と(さと)ったのか、敵の動きが止まった。だが、休む暇も無く次の攻撃を仕掛けてくる。


「ボアレイル」


 敵は剣を持っていない左手を前に突き出し、呪文を唱えた。指先から炎が線を描いて飛んでくる。真っ直ぐに伸びていた炎線(えんせん)は、結界に衝突すると方向を変え、ぐるぐると蛇のように結界の周囲に巻き付いた。


 これはエミールも使っていたから知っている。中級の炎魔法だ。これくらいならライムケニオンで問題無く防げるだろう。今のうちに作戦を立てなければ。


「どうしよっかエミール。俺もエミールもあいつに攻撃しちゃったから、倒さない限りずっと追ってくるぞ」


「敵が使っているこの技は、おそらく敵が過去に受けた魔法ってことですよね?」


「だろうな。あの変身してる冒険者が使ったんだ。で、返り()ちにあって殺された」


「ということは、敵にボアレイルは通用しないということです。それから矢のような物理攻撃も。そうなると、打つ手は一つだと思います」


「一つって、何をするんだ?」


「中級魔法でダメなら、上級魔法を使うしかありません」


「た、たしかにそうだけど、もし、それで倒せなかったら……」


「はい、敵も同じ魔法で反撃してくるでしょう」


「その場合、ライムケニオンで防げるか?」


「ケニオムールで強化すれば一発くらいは耐えられるでしょう。ですが、それ以上は難しいかと」


「んん……」


 上級魔法を使うのは危険すぎる。こちらが使えれば頼もしいが、敵に使われればこの上なく厄介(やっかい)だ。だが、それに頼らなければどうにもならないのも事実。他にいい方法なんて無いし……いや、待てよ。


「あっ、いいこと思い付いた」


《③に続く》

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