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影に潜れば無敵の俺が、どうしてこんなに苦戦する  作者: ドライフラッグ
Aランク編
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休暇 ③

 物語に入る前に、説明しておかなければならない変更点(追加情報)があります。


 その変更点というのは、この世界の地理についての情報です。


 この世界は四つの大陸に別れていて、ゼラ達はそのうちの一つ、シャトー大陸という場所にいます。


 実は、Fランク編の『火の子②』にこっそりその情報を書き加えているのですが、今回の『休暇③』において、そのことを知らないと理解しづらい場面が出てきます。


 他の大陸の名前はこの話で初めて出るので、シャトー大陸のことさえ知っていただければ大丈夫です。


 ただ、この話とは直接関係しませんが、他にもいくつかの変更点があるので、そちらの方は活動報告で説明しようと思います。


 前置きが長くて申し訳ありません。


 それでは、本編の方をお楽しみくださいませ。

 それほど広くない店内に、本棚(ほんだな)が所狭しと並んでいる。壁側はカウンター以外すべて本棚で埋めつくされ、真ん中の空間には四つの本棚が並んでいた。


 どの棚にもぎっしりと本が詰め込まれ、隙間が一切ない。どの本の背表紙にも、それぞれ文字が書かれている。おそらく本の題名だろう。店内が本の中みたいに文字だらけだ。


 異様な空間に圧倒される。本屋であれば当たり前の光景なんだろうが、なんだかソワソワしてきた。俺みたいな貧乏人がいてはいけないような、そんな感じがする。


 てか、文字が読めるような金持ちでも、こんなに本が必要なのかな。なんでそんなに文字を読みたいんだ? 金(もう)けの方法でも書かれてんのかな?


 とりあえず、目線の高さにある背表紙の題名を読んでみる。


『楽してお金を稼ぐ方法』


『誰も知らないお金の稼ぎ方』


『読むだけでお金持ちになれる本』


 俺は納得した。やっぱり金儲けの方法が書かれているのか。そりゃみんな読み書きの勉強をするわけだな。


 うーん……ぜひともこの三冊を買いたいもんだが、いったいどれくらいの値段なのか予想がつかない。読むだけで金持ちになれる本が1ガランとか10ガランなわけないもんな。


 一冊取り出して表紙と裏表紙を見てみる。が、値段は書かれていなかった。店主に訊いてみるしかないみたいだ。


 店主は白髪(しらが)頭のお(じい)さんで、カウンターの椅子に座ってうとうとしていた。


「お爺さん」と声をかけて起こす。「この本いくら?」


「ん? いらっしゃい」店主は眼鏡をくいっと上げて言った。「その本は500ガランだね」


「500ガランもするの!?」


 さすがは金持ち本。そう簡単には入手できないようだ。


 店主が続ける。


「そこの棚にある本は全部それくらいするよ。ボウヤのお小遣(こづか)いじゃ買えないよ」


「ボウヤじゃない。14歳だから」


(わし)から見たら14歳でもボウヤだよ。その本はボウヤの歳じゃ難しいから、他の本にしたらどうだい?」


「他の本って言われてもなぁ。本なんて読んだことないし、どんな本があるのか分からないよ」


「そうか、それなら(やさ)しい内容の本がいいね。よっこいしょ」


 店主はそう言って立ち上がり、カウンターから出てきた。中央部に四つ並んだ棚のうち、入り口から見て一番左の棚の前で立つ。その中の一冊を引き抜いて言った。


「この本なんか初心者にうってつけだな」


 渡された本を見る。そこには『勇者の伝説』と書かれていた。


「おお……」


 俺は運命的な出会いを感じた。こんなところでお目にかかれるとは。


 なかなかの分厚さで、中を開くとびっしり文字が並んでいた。パラパラめくると、文字の行列が途切れることなく続いていた。なんだか目眩(めまい)がしそうになる。


 この情報量の多さを考えると、どうやら俺が子供の頃に聞かされた勇者の伝説は、全体のほんの一部に過ぎないようだ。


 ふと紙の端を見ると数字が書かれていた。内容とは関係なさそうだが、いったいなんの数字だろうか。店主に尋ねてみる。


「ねえ、この端っこに書かれてる数字は何?」


「それはページ数だよ」


「ページ数? ページって何?」


「ええっと、ページってのは本を構成する紙の面のことだよ。一面で一ページだ。例えば、そこに244って書かれてるだろ? このページは244ページ目ってことだ。で、裏をめくると245と書かれている。つまり、一枚の紙の裏表が二ページになるってわけだな」


「へぇ……ってことは」


 俺は最後のページを開いてみた。そこには1208と書かれている。


「1208ページもあるのかこの本!」


 やっぱり両親から聞かされた話は、かなり内容を省略(しょうりゃく)したものらしい。ページ数に換算(かんさん)すると、せいぜい200ページ分くらいの内容だろう。


 店主が言う。


「長いけど、言葉は簡単だから大丈夫だ。しかも、面白いよ?」


「うん、面白いのは知ってる。少しだけ話を聞いた時があるから。で、これはいくらなの?」


「200ガランだ」


「うーん………高いけど、それくらいはするか。さっきの本の倍以上分厚いしなぁ」


「紙は貴重だからねぇ。どんな本でもこれくらいの値段はする。さ、どうする? ボウヤのお小遣いで買えるのかい?」


「ボウヤのお小遣いで買えちゃうんだなぁ……。でも、200ガランか。うーん、悩むねぇ」


 200ガランも使ったら、所持金が半分以下になってしまう。初日でそれは使いすぎではないだろうか。正直、めちゃくちゃ欲しいけど、ここは欲張らずに我慢(がまん)した方が……。


 いや、でも、この本はお菓子と違ってすぐに無くなってしまうわけじゃない。読み終わるのに何日もかかるだろう。そう考えると、本の方がお菓子よりもお得なんじゃないのか?


 ……うん、そうだな。この休日は、『勇者の伝説』を読むのに使おう。どうせ出かける予定も無いし。


「決めた。お爺さん、これちょうだい」


「まいどあり。200ガランね」


 俺は財布から銀貨を二枚取り出し、店主のシワだらけの手に乗せた。


 くぅー、痛い出費だが、勇者のためなら仕方ない。


 俺は本を小脇(こわき)に抱えて店を出た。さっきはおつりで財布が重くなったが、今回は軽くなっただけだ。(さみ)しいねぇ。ま、その分、重たい本を手に入れたからいいか。


 これで所持金は177ガランになった。一食分の食費が10ガランかかるとしても、四日で120ガランだから、177ガランから引くと、57ガランだ。たぶん。


 57ガランもあれば、まだたくさんお菓子を買うことができる。それを食いながら本を読むとしよう。


「ウヒヒヒヒ」


 俺は幸せすぎて笑いが込み上げてきた。休日は最高だな。


「フフンフンフーン♪」


 鼻歌を歌いながら宿への道を歩く。到着すると、ウキウキ気分で自室に入った。


 フカフカのベッドに飛び込み、寝そべりながら本を開く。


 ふむふむ………読めるな。店主の言う通り、難しい言葉は出てこないようだ。


 文字を目で追っていると、あっという間に本の世界に意識を持っていかれ、お菓子を食べるのも忘れて読みふけっていた。


 物語は魔王が他国を侵略(しんりゃく)するシーンから始まる。主人公である勇者よりも登場するのが先だ。


 魔王の名前は不吉ふきつなため、誰も口にしたり、書き残したりしなかった。そのため、今となってはどんな名前だったか分かっていないらしい。そうとう嫌われてんな、こいつ。


 で、魔王は言うまでもなく、魔族の王様である。今から千年前、シャトー大陸には魔族が治めるメレザという国があった。


 魔族はヒト族と姿が似ているが、頭には二本の角が伸び、背中にはコウモリのような(つばさ)が生えているらしい。


 そしてこのメレザに、魔族の中でも強大な力を持つ皇子(おうじ)が誕生する。それが、かの魔王だ。


 俺はここで少し引っかかった。俺が両親から聞いた話と魔族の姿が違う。両親の話では、魔族はひとみが赤色で、(けもの)のように(とが)った(きば)(つめ)を持っていると教えられた。角と翼が生えていたという話は聞いたことがない。


 もう千年も前の話だから、伝わっている内容がバラバラになっているのだろう。魔族の本当の姿がいったいどんなものだったのか。今となっては誰にも分からない。魔族はヒト族との戦争に敗れ、(ほろ)ぼされてしまったからだ。


 ま、それは魔王が勇者に倒された後の話で、この時の魔族は元気いっぱいだ。魔王は周辺の国々に戦争をしかけ、次々と勝利を重ねていく。そして、ついにはシャトー大陸全土を征圧(せいあつ)するに(いた)った。


 貪欲(どんよく)な魔王はそれでも満足せず、今度は他の大陸にも侵略の手を伸ばした。シャトー大陸のすぐ下にはアイナ大陸があり、魔王はこの大陸をも飲み込んでしまったのである。


 魔王軍の勢いは止まらず、シャトーとアイナから遠く海を(へだ)てた大陸、ジェミネにも侵攻を開始する。ジェミネ大陸の国々は連合軍を編成(へんせい)し、一丸(いちがん)となって戦ったが、二つの大陸の兵士を戦力に加えた魔王軍には(かな)わず、結局はジェミナ大陸の全土を魔王に明け渡してしまったのである。


 まったく、強すぎんな魔王。俺がこの時代に生まれていたら、間違いなく兵士として駆り出されていただろう。そんなの考えたくもない。あー、よかった。平和な現代に生まれて。


 さて、残る大陸はラゴス大陸だけである。魔王は既に世界の四分の三を手中に収めていたが、当然、ラゴス大陸だけ見逃すわけもなく、この大陸をも飲み込んで、世界征服を達成しようと考えていた。


 ラゴス大陸に住む人々はというと、魔王軍に勝つのは絶望的だと考えていたものの、降伏(こうふく)しようという考えも持ち合わせていなかった。


 なんでだよ、大人しく降伏しとけよ、と思いつつページをめくる。


 ラゴス連合軍と魔王軍の衝突(しょうとつ)が間近に迫っていた頃、ラゴスにある小国、リスケルの王様はある作戦を立てていた。その作戦とは、王家に代々伝わる聖剣、ギルツバニカを(あつか)える者を探し出し、魔王を打ち倒す、というものだった。


 この剣は古代人が作った遺跡から見つかった物で、伝承(でんしょう)によると、この剣を(さや)から抜いた者は、世界を手にする力を得られるらしい。


 ただし、ギルツバニカは持ち主を選ぶ。選ばれなかった者が剣を鞘から抜こうとすると、魔力が(ほとばし)ってその者を強く拒絶(きょぜつ)するのである。


 それは歴代の国王も同じで、剣に選ばれた王は歴史上一人もいなかった。そのため、この聖剣は長らく王家の宝物庫に仕舞われ、誰も触れることが許されなかったのである。もし他の者が剣を抜けば、その力で国を乗っ取る可能性があるからだ。


 しかし、魔王軍がラゴスに迫っている今、何もしなければ魔王に国を奪われてしまう。魔王を打ち倒せるのは、もはやこの聖剣を扱える者だけだろう。


 そこで、王は宝物庫の中で眠っていた聖剣を外へ出し、剣に選ばれる者を探すことにしたのである。


 ところが、王族も貴族も、優秀(ゆうしゅう)な兵士も役人も、誰一人として剣を抜くことは(かな)わなかった。中には無理に剣を引き抜こうとしたために、腕が消し飛んでしまった者までいたという。


 そこで、王は聖剣を抱え、近衛兵(このえへい)と共に城を出た。国王直々(じきじき)に、聖剣に選ばれる者を探す旅に出たのである。行く先々の町や村で、王は赤ん坊を(のぞ)くすべての住人に剣を抜かせようとした。だが、誰もが剣に拒絶され、抜くことは叶わなかった。


 どこへ行っても結果は同じで、王は絶望的な気持ちになっていた。聖剣に選ばれる者はリスケル国内にいないのではないか。いや、もしかすれば、世界中を探してもいないのかもしれない。


 そんな考えを抱いていた頃、王を乗せた馬車が小さな村に差し掛かった。一行は馬車を降り、その村でも同じように住人を試した。全員を一列に並ばせ、一人ずつ順番に剣を持たせる。だが、誰もが剣に拒絶され、鞘から抜けずに地面に落としてしまった。


 どうせこの村も他と同じだろう。王が(あきら)めの気持ちで調査を眺めていると、一人の青年が剣を持った。そして、嘘のように呆気(あっけ)なく、剣を鞘から引き抜いて見せたのである。


 王は目を疑った。最初は剣に込められた魔力が切れたのではないかと思った。しかし、王が抜かれた剣を青年から受け取ろうとした瞬間、(すさ)まじい拒絶の力が迸り、王の手を弾き飛ばしてしまった。


 王はあまりの嬉しさに涙を流した。ようやく見つけることができたのである。聖剣に選ばれた()()を。


 俺は興奮して一旦本から目を離した。


 くぅ~、やっぱりこのシーンはカッコいいぜ。ここは親から聞いていた話と同じだ。勇者は貴族でも兵士でもなく、コニー・フリースという名のただの農民なのだ。これに(あこが)れない平民などいるだろうか!


 子供の頃の興奮が胸に(よみがえ)る。あの頃の俺は勇者を夢見て、木の棒にギルツバニカと名付けて振り回していたもんだ。


 (なつ)かしいねぇ。ただ、今になってみると勇者への見方が変わっている。たしかに、勇者は身分だけ見るとただの農民だった。しかし、ずば抜けた剣術と魔法の才能を持っていたのである。聖剣はそれを見抜き、勇者を選んだのだろう。


 俺には魔法の才能が無いし、剣術の才能もたぶん無いだろうから、憧れの感情がまったく湧いてこない。経験を積んで自分の才能の無さに気づくというのは、なんて残酷(ざんこく)なことだろうか。こうして人は夢を抱かなくなっていくのだろう。これが大人になるといことか。


 一息ついて本に目を戻す。


 王は勇者に聖剣を渡し、命令を下した。シャトー大陸に行き、魔王を討伐(とうばつ)せよ、と。勇者はその大任(たいにん)を引き受け、必ずや魔王を討ち取ると(ちか)った。


 そして、ここからいよいよ勇者の長い旅の物語が始まるのである。


 ようやくだな、と思いながら袋からお菓子を出して食べる。


 こっからどんどん面白くなるはずだ。楽しみだね。


 文章に目を通すと、お菓子の味が消えてしまうほどに物語の世界に入り込んだ。


 その頃、ついにラゴス連合軍と魔王軍の戦いが始まった。勇者は連合軍が魔王軍に殺される様をその目に見る。仲間を助けたい気持ちに駆られるが、それをぐっと堪えて旅路を急ぐ。ギルツバニカのことを魔王軍に知られるわけにはいかず、また、戦いに加わっている時間もない。ラゴスが敵の手に落ちる前に、一刻も早く魔王を討たなくてはならないのだ。


 幸い、ラゴス大陸は険しい山々に囲まれた寒冷地だった。魔王軍が上陸した時期は冬で、降り積もった大量の雪と猛吹雪(もうふぶき)が侵攻を押しとどめた。


 冬の間は連合軍も持ちこたえられるだろう。勇者は涙を流しながらも、敵軍の目をかいくぐり、ジェミネ大陸へと海を渡るのだった。


 俺は勇者の姿にアルを当てはめていた。想像しやすくて助かる。


 さーて、ここから勇者は三人の仲間と出会うはずだ。この三人も勇者と呼んで差し支えないほどの実力を持っている。


 三人との出会いはあっさりとした形でしか聞いていないが、この本にはもっと詳しい内容が書かれているだろう。なんたってあと1000ページくらいあるからな。


 ふと窓に目をやると、外はもう暗くなっていた。もうそんな時間になったのかと驚く。


 夢中になりすぎてたな。続きは飯を食ってからにしよう。


 そう思った途端(とたん)、グーっとお腹が鳴った。俺としたことが、空腹に気づかないくらい夢中になっていたようだ。


 腹が減っては読書はできぬ。さてと、今日は何食べよっかな。


 俺は頭にご馳走(ちそう)を思い浮かべながらドアを開けた。


《④に続く》

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