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影に潜れば無敵の俺が、どうしてこんなに苦戦する  作者: ドライフラッグ
Bランク編
57/78

一対一 ④ (ゼラ戦~アル戦)

 敵も同じ考えのようだ。あのクソジジイ、平然と嘘つきやがった。しかも自分の仲間にも。さっきの会話から考えるに、おそらく弓使いをアルにぶつけ、自分はエミールの相手をしているに違いない。


 クソッ、寄りにも寄って一番強そうな相手をぶつけられるとは。


 敵が斧を振り回しながら文句を言う。


「クソがっ。クソクソクソ。よくもこの俺を騙しやがって。なんで俺がこんな雑魚の相手をしなくちゃならないんだ!」


 何だと。相手が弱い方がいいに決まってんだろうが、馬鹿が。こんな馬鹿なら、案外楽に倒せるかもな。いや、待てよ。よく考えれば、倒さなくてもいいんだった。まともに戦う必要すらないかもしれない。


 策を練っていると、敵が嘲笑いながら言った。


「くくく、何黙ってやがる。ビビってんのか? 無理もないな。お前、あのジジイと戦いたがってただろ? それがまさかこの俺が相手だもんな? どうする、また逃げるか? ダンジョンから逃げたみたいによ」


「……」


「おいっ、無視してんじゃねーぞ!」


 うるさい奴だな。ま、もう考え終わったからいいけど。


 俺はあえて余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)なフリをして言った。


「いや、仲間が心配なもんでね。お前を倒して、さっさと助けにいかないと」


 敵は大笑いした。


「がははははは。ずいぶん余裕じゃねーか。見直したぜ。俺も同じことを考えてたとこだ。ま、俺の場合は仲間の命なんてどーでもいいがな。お前を早くぶっ殺して、あの剣士を探し出さねーと」


「悪いが、お前じゃ俺は倒せない。あの魔術師の爺さんなら分からないがな」


「はっ、俺があのジジイより(よえ)ーわけねーだろ!」


 敵が斧を振りかぶり、こちらに迫って来る。俺はすかさず敵の足下にゲートを開いた。


「うおっ、なんだ!?」


 敵の巨体が(たちまち)ちゲートに沈んでいく。俺は敵を見下ろしながら静かに言った。


「何って、魔法に決まってるだろ」


 敵は返事をする間もなく、裏世界に落ちていった。


 よしよし、上手くいった。あとは脅すだけだ。


 俺は自分の影にゲートを開き、しゃがんで頭だけを裏世界に突っ込んだ。全身を沈めるより、こっちの方が魔力の節約になる。裏世界を覗き込んだ瞬間、敵が喚き散らす声が聞こえてきた。


「何だコレは! クソガキが! 出てこい!」


 そう言って斧を振り回している。無駄な足掻きだ。


 俺には敵の姿が見えているが、敵は俺の姿はおろか、自分自身の姿すら見えない状態だ。虚勢を張っているが、さぞ不安なことだろう。


 俺は敵に呼びかけた。


「どうだ、俺の闇魔法は」


 敵が斧を止めて言う。


「闇魔法?」


「そうだ。俺はこう見えても魔術師でね、闇魔法の使い手だ。そして、これは俺が編み出した究極の闇魔法、オクスグナメナだ」


 我ながらダサい技名だ。だが、そんなことはどうでもいい。


 敵が喚き散らす。


「ごちゃごちゃ言ってねーで姿を見せろ! 卑怯だぞ!」


「その必要はない。もう勝負は決したのだから」


「何!?」


「オクスグナメナは、敵を闇の世界に永久に閉じ込める魔法だ。お前は一生、ここに閉じ込められるんだよ。だから倒す必要などない」


「ば、馬鹿な。そんなインチキ魔法、聞いたことが……」


「さっき俺が編み出したと言っただろう。俺以外にこの魔法を使える者はいない。俺があの老魔術師と戦いたかったのは、この魔法を破れるのか興味があったからだ。いかにも魔術の達人に見えたからな。お前とあの弓使いの男なんて、最初から眼中に無いんだよ」


「……クソッ」


「さてと、俺は仲間を助けに行く。お前は一生そうしてろ」


 俺が脅すと、敵は一転して弱気になった。


「まっ、待ってくれ。頼む。金ならいくらでもやる。今までに盗んできた金が山ほどあるんだ。全部やるから、俺をここから出してくれ」


 マジで? めっちゃ魅力的じゃん。


 一瞬心が動くが、誘惑を振り払って言った。


「俺を舐めているようだな。お前らみたいな悪党と一緒にするな。金などいらん」


「じゃ、じゃあ、お前の手下になってやるよ。なんでも言うことを聞く。頼む!」


「言ったな。じゃあ、盗賊から足を洗うと誓え」


「そんなことでいいのか? 分かった。もう盗賊は辞める!」


「人殺しもか?」


「もちろんだ! もう誰も殺さねぇ!」


「……では、その気持ちを証明してもらおうか」


「証明って、どうやって」


「そうだな。とりあえず、その武器を捨ててもらおうか」


「ああ、分かった」


 敵は素直に斧を手放した。


 俺は待ってましたとばかりに、宙に浮いた斧を闇の魔力で動かした。手に持たずとも、その重さが分かる。俺の体重と同じくらいだ。よくこんな物を振り回せるもんだ。


 俺は斧を魔力で浮上させ、地上へと出した。これで敵はほぼ無力化した。だが、まだ安心できない。


「次はその鎧を外してもらおうか」


「ああ、分かった」


 そう言って、敵はまず兜を脱いだ。隠れていた顔が見える。髪は茶色で、眼光は鋭い。鼻は潰れていて、口は大きかった。まるで肉食獣のような顔だ。デカい図体に似合いすぎている。こんな奴に凄まれて、よく平気だったな俺。偉いね。


 敵は全身に纏っていた鎧を脱いだ。それを斧と同じように魔力で地上へと運ぶ。


 鎧もまた俺の体重と同じくらい重かった。ということは、コイツは常に俺を二人分担いで戦ってるようなものだ。単純な力ならアルより上だろうな。まともに戦ってたら俺なんて瞬殺だろう


 が、敵はもはや武器も鎧も無い。あとは視界を塞いでやれば、安心して地上に出せる。


 俺は小声で呪文を唱えた。


「オクス」


 敵の目の前に闇の魔力を固めた球体を出す。それをそっと敵の目に貼り付けた。敵は元々何も見えていないので、そのことに気づいていない。


 これで準備万端だ。敵に語りかける。


「よし、お前の言葉、信じたぞ。外に出してやる」


「ほんとか!? すまねえ」


「だが、今すぐというわけにはいかない。お前の仲間を倒してからにする。一緒に逃げられたら困るからな。特にあの老魔術師、何をしてくるか分からん」


「ああ、それでもいい。お前みたいに凄い魔術師だったらすぐに倒せるさ」


「では、俺はお前の仲間を倒しにいく。だが、その間、お前はその場から一歩も動いてはならない。この世界は不安定でな、下手に動けばお前は闇の魔力に押し潰され、最悪の場合命を落とす。いいな、絶対に動くなよ」


「分かった。言う通りにする。一歩も動かねえ」


「よろしい。ではそこで待っていろ。すぐに片付けてくる」


 俺はそう言うと、敵を闇の魔力で動かした。適当な影にゲートを開き、地上へ出す。


 こんなデカブツ、いつまでも裏世界に閉じ込めておくわけにはいかない。こっちの魔力が尽きてしまう。


 俺は敵を出すのと同時に、自分の頭も地上へと出し、立ち上がった。敵は目をオクスで覆われているので、外に出されたことに気づいていない。言われた通り棒立ちのままじっとしている。なんだか滑稽な姿だ。他人が見たらさぞ不思議がるだろう。


 さて、とりあえず斧使いは片付けた。あとは二人。弓使いと魔術師だ。


 魔術師の話から推測すると、弓使いは相性がいいアルと組まされているだろう。となると、魔術師はエミールと対峙しているはずだ。


 当然、俺がまっさきに加勢しなければならないのはエミールだ。アルは一人でもなんとかなる。が、エミールはあの意地悪爺さんに追い詰められてもおかしくない。そして最悪、アルでも手がつけられない魔王が復活する。そうなれば、俺とアルは盗賊諸共(もろとも)殺されてしまうだろう。


「うぅ……」


 最悪のケースを想像し、身震いした。とにかく、一刻も早くエミールを見つけなければ。でも、どうやって……。


 おそらく、この雑木林の中にいるのは間違いないだろう。だが、見渡す限り木々しかなく、エミールとアルの姿は見えない。戦闘の音も聞こえないから、おそらくかなり遠くに飛ばされているはずだ。


 うーん、厄介だな。ここを長時間離れれば、俺のオクスが消滅し、敵の目が見えるようになってしまう。そうなれば当然、敵が自由に動けるようになる。


 一応、武器は捨てさせ、鎧も脱がせたが、それも敵の近くに放置されたままだ。これでは簡単に見つけられる。


 敵の無力化を維持したいのであれば、定期的にオクスを張り替えなければならない。となれば、ここを長時間離れてエミールを探し回るのは得策ではない。


 せめてエミールの場所さえ分かれば、すぐに加勢してまた戻ってくることができるかもしれない。エミールと二人がかりで攻めれば、あの魔術師もさっさと倒せるだろう。なんなら斧使いと同じように騙せるかもしれない。


 クソッ、今の俺にできることは無いな。エミールの居場所が分からないことには……。


 頭がいいエミールのことだ。困ればきっと魔法で目印を出してくれるはずだ。それまではオクスの張り替えに専念するしかないか。


 俺は思考を巡らせながら、ふと足下の斧に目が止まった。待っている間、これを遠くに隠すことくらいはしようか。万が一、敵の目が見えるようになっても、武具を隠しておけばさほど問題にならない。素手のアイツなら、俺の弓でも充分倒せるだろう。


 そう思い、足下の斧を手に取る。だが、あまりの重さに持ち上げることができなかった。考えてみれば当然だ。俺と同じくらいの重さがあるのだから。


 さて、また問題が増えたな。どうしようか。さすがに引きずって運ぶことくらいはできるが、それだと音で敵に怪しまれてしまうだろう。ここが裏世界ではなく、地上だとバレるかもしれない。


 ま、コイツ馬鹿そうだからバレやしないだろうが、念には念を入れておくか。


 そう思い、斧を裏世界に沈めた。同じように鎧も沈める。そして、俺は地上にいたままで、それらを裏世界経由で遠くまで運ぶことにした。斧と鎧が闇の魔力に流されていくのが感覚で分かる。俺もその流れに沿って歩いた。


 敵がいる場所から20メートルほど離れた地点で立ち止まり、木の影にゲートを開いた。そこから斧と鎧を出す。


 このままだと見つけられる可能性が高いので、地面に埋めることにした。鎧の肩当ての部分が器のような形をしていて、土を(すく)うのに丁度いい。俺は肩当てを手に取り、それで地面を掘った。


 まずは深さ10センチくらいの穴を、斧の形になるよう掘る。そこに斧をはめ込み、土を被せた。これで敵に見つかることはないだろう。


 あとは鎧だ。穴を掘ってはそれぞれのパーツを一つずつ埋めていく。5分ほどで作業は完了した。


「ふぅ」と一息吐いて思う。こんなの戦いでもなんでもないな。いいのかな、俺だけこんな楽して。アルとエミールは今頃、敵と死闘を繰り広げているはずだ。アルはいつもサボってるからいいけど、エミールが心配だ。


 そんなことを考えながら敵の元に戻る。そして、またオクスを唱えて、闇の魔力を敵の目に貼り付けた。これでしばらく持つ。


 ゼスに使った時は激しく動かれて、3分と持たずに振り払われたが、この斧使いはじっとしているので、ざっと見積もっても10分は持つだろう。


 さてと、これでほんとにやることが無くなった。どうしようかな……。


 俺はその場に腰を降ろし、青空を見上げた。耳を澄ますが、依然として戦いの音は聞こえてこない。


 エミールがなんでもいいから魔法を空に飛ばしてくれればいいのだが。そうすれば居場所を知ることができる。


 ……いや、気づけるかな。このだだっ広い空に、例えばライムカロンみたいな光の球を飛ばされても気づけないぞ。もっと派手な魔法じゃないと。


 いやいや、もしそんな魔法があっても、敵の前でそれを使うタイミングなんてないかもしれない。一対一を望んだのはあの魔術師だ。エミールが仲間を呼ぶのを全力で妨害するだろう。


 それにたしか、エミールは同時に二つの魔法を使えないと言っていた。防御魔法だけで手一杯になっている可能性すらある。反撃すら難しいのに、場所を知らせる魔法なんて尚のこと使えないだろう。


 クソッ、もどかしい。こんな所でじっとしてる訳にはいかないのに。やっぱりアルだな。アルなら何とかしてくる。いつもサボってんだから、こういう時にこそ役に立ってくれ。頼んだぞ、アル!


* * * * *


《アル視点》


 アルは転移後、雑木林の中で弓使いの男と向かい合っていた。間合いは約5メートル。


 敵が口を開く。


「なんだ、ディベルマの奴。僕の相手は魔術師の女の子だって言ってたのに、結局剣士にしたのか。これじゃ楽できないな」


「仲間に騙されたのか?」とアル。


「そうみたいだね。あの爺さん、狡猾(こうかつ)だから。仲間でも信用ならないよ。ま、僕達は利害が一致するから一緒にいるだけだけどね。君達はどうなの? あの二人、君よりもずいぶん弱そうだったけど」


「そんなこと、お前に――」


 アルの言い終わらないうちに、敵は矢をつがえた。そのままアルめがけて矢を放つ。


 アルは横に飛んで矢を避け、呪文を唱えた。


「ライムキース」


 敵の周囲に光の鎖が現れ、細い体を縛り付ける。


 だが、敵も即座に呪文を唱えた。


「グノン」


 すると、鎖の輝きが急速に失われ、まるでインクが染みこんでいくように黒く変色していった。


 敵が腕に力を入れた途端、鎖は黒い部分から千切れ、ボトリと足下に落ちた。その後、鎖はすべて黒色に染まり、(すす)のように粉々となった。風に吹かれて空気中に消えていく。


 敵が微笑んで言った。


「残念、僕に拘束(こうそく)魔法は通用しないよ。盗賊だからね」


《⑤に続く》

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