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影に潜れば無敵の俺が、どうしてこんなに苦戦する  作者: ドライフラッグ
Bランク編
52/79

ドラゴン・リベンジ ②

 火球を睨み、着弾地点を予測する。進路方向には俺もエミールもいない。どうやらデタラメな場所に放っているらしい。なんのつもりだろうか。


 俺達のすぐ後方に火球が着弾する。息つく暇もなく、二発目三発目の火球が放たれた。


 二発目は俺の手前に着弾。これも避けなくて良かったが、三発目は俺を狙って放たれた。慌てて後ろに飛び、当たる寸前で回避する。


 どうやら敵は避けられることを見越して、ランダムな場所に火球を放っているらしい。


 たしかに、動きが読みづらい。狙って撃たれる場合は、何も考えずその場から離れるだけでいいが、これだと下手をすれば着弾場所に自分から移動してしまうかもしれない。


 敵も前回の戦いを反省し、対策を練っているようだ。つくづく頭のいい奴。


 だが、こっちだって前回とは違う。覚悟しやがれ。


 俺は敵を見ながらエミールに言った。


「さあ、エミール。反撃だ。アイツに新技を見せてやってくれ」


「はい! ギアフリンガ!」


 エミールが威勢良く呪文を唱える。杖の先からキラキラ光る氷球が現れた。それがフワフワと空へ浮かび、敵に向かっていく。


 氷球は直径が10センチくらいしかないが、敵は瞬時にそれを見つけ、視線を合わせた。そして、氷球に向かって炎を吐いた。今度は火球ではない。炎線だ。


 敵は以前に比べてエミールの魔法を警戒している。簡単には攻撃を受けてくれないようだ。


「エミール、氷球を守れ!」


「分かってます!」


 氷球が炎線を避ける。が、その動きはやはり不安定で、しかも遅い。敵の炎線の方が遥かに安定している。


 結果、氷球は逃げられず、炎の中に飲まれてしまった。


「ああ……」


 絶望が声となって出る。上級魔法は当たれば強いだろうがが、それはあくまでも当たればの話。炎で溶かされたら意味が無い。


 だが、炎の中をかいくぐり、希望の光が現れた。氷球は溶けず、炎線を抜け出して敵の元へと向かう。


「よっ、さすが上級魔法!」


 嬉しくなって氷球に声援を送る。頑張っているのはエミールなのだが。


 敵はまた炎線を浴びせるが、それでも氷球は溶けず、炎をかいくぐって敵に接近する。そのまま敵のすぐ目の前まで近づいた。


 よし、当たる!


 ……と、思ったのだが、甘かった。敵はひらりと身を躱した。悠々と空を飛び、氷球から距離を取る。


 ああ、これじゃあ、いつまで経っても当てられないだろう。どうすればいい……。


 そうか、前と同じことをすればいいんだ。


 俺はエミールをサポートするため、呪文を唱えた。


「オクス」


 ゲートから魔力を取りだし、球体の形に整える。


 これで目隠しをすれば、エミールの魔法を避けられなくなるはずだ。


 当たれよぉ。


 そう念じながらオクスを放つ。黒い球体が敵の目に向かって飛んでいった。だが、その目がぎょろりと動き、オクスの方へと向く。敵が顔の向きを変え、炎線を放った。


「ああー、避けろオクス!」


 他人事のように叫び、オクスの動きを変えようとする。だが、俺の魔法の腕はエミールに遠く及ばない。オクスは氷球以上に不安定な動きを見せた後、呆気なく敵の炎に飲まれ、跡形も無く消滅してしまった。


「クソッ」


 敵に警戒された途端、ここまで攻撃を当てるのが難しくなるとは。前回の戦いがいかに手加減されていたのか分かる。


 もしかして、新技を習得したくらいじゃ勝てないのか? でも、氷の宝玉が通用しなかったら、他に()(すべ)はないだろう。


 もう後には引けない。ここで仕留めなければ。


 とにかく、敵が氷球に気を取られている隙に、攻撃を当てる方法を考えないと。


 一旦、エミールに氷魔法を解除させて、別の魔法に切り替えてもらうか? その魔法で敵の動きを止めれば……。


 いや、そんな魔法は無いか。動きを封じるといえば雷と氷魔法だが、雷魔法は届かないし、氷魔法は今使っている最中だ。これを中級に切り替えれば多少コントロールしやすくなるだろうが、かといって動きがそれほど速くなるわけでもないだろう。どのみち敵の飛行能力に追いつけない。上級と違って火炎攻撃で溶かされるかもしれないし。


 氷と雷以外の魔法はどうだろうか。地魔法は空飛ぶ敵に通用しない。火、水、風魔法には動きを封じる作用は無さそうだ。


 となれば、残るは光と闇。闇魔法は俺が使ってダメだった。じゃあ、光は……そうだ、光でも同じ事ができるんじゃないか?


 俺は自分の思いつきを確かめるため、エミールに尋ねた。


「エミール、光魔法なら敵の目をつぶせるんじゃないか? ほら、ローシュと戦った時にアルが使った奴。あれで目眩ましができれば、氷魔法を当てられる。エミールも使えるだろ?」


「……使えますが、効果は薄いかと」


「な、なんで?」


「距離です。敵の位置が遠すぎます。離れた場所で光魔法を使っても、たいして眩しくないでしょう」


「そ、そうか」


 たしかに、言われてみればそうだ。ローシュ戦でアルはかなりの至近距離で光を炸裂させていた。それくらいしないと目(くら)ましの効果は薄いのだろう。


 クソッ、結局光魔法も闇魔法と同じだ。敵が遠くにいたら使えない。


 なんとか敵に攻撃を当てる方法はないか? 影から不意打ちを仕掛けようか? いやいや、敵は宙に浮かんでいるから無理だ。しかも、敵は俺達が立っている道の上ではなく、道の外の空を飛んでいる。当然、敵の影は谷底だ。そんなところから攻撃の仕掛けようがない。


 となると、残る攻撃方法は弓しかないな。でも、弓は普通の矢だろうがオクスヘッツだろうが、ダメージを与えられない。


 たしかに、当てることならできるだろう。だが、それだけでは意味が……。


 ん?


「あっ!」


 いいこと閃いちゃった。これなら上手くいくかもしれない。


 俺はさっそく作戦を決行した。


「オクスヘッツ」


 弓を構えて呪文を唱える。矢の先に闇の魔力が集まった。敵に狙いを定め、矢を放つ。


 敵は遠くにいて、しかも動いてはいるが、代わりに図体はデカい。的が大きい分、矢はなんなく敵の胴体に当たった。


 が、刺さりはしない。頑丈な鱗に鏃が弾かれる。当然、これは予想通り。俺の目的は矢を刺すことじゃない。闇の魔力を敵の体に付着させることだ。


 矢は谷底に落下したが、闇の魔力は黒いナメクジのように敵の体に張り付く。敵はそれに気づかず、氷球に炎線を当てようと躍起になっている。


 エミールもコントロールが上手くなっており、氷球は敵の攻撃を躱し続けていた。


 魔力のナメクジは胴体から背中、背中から肩、肩から首へとなんなく移動する。そして、頭部までたどり着くと、角の下から顔へと這いずり、敵の両目を覆い隠した。


 敵が驚いて咆哮を上げた。首を大きく振り、両手で目を払う動作をする。が、魔力は煙のように形を持たないので、物理攻撃には強い。手で払いのけられるものではなかった。


「イッけええエミール!」


「はい!」


 氷球が敵に向かって一直線に飛んでいく。そして、ついに敵の胸に衝突した。


 その瞬間、敵の胸全体が雪のように白くなった。白い部分は見る見るうちに広がっていき、翼にまで到達すると、敵は飛行能力を無くして真っ逆さまに落下した。


 敵が落下する最中も白の侵蝕は収まらず、谷底の木々に姿を消すまでには、全身が真っ白になっていた。その直後、敵が地面に衝突する轟音が響いた。


 敵の体が白くなったのは、当然魔法によって凍り付いたからだろう。一瞬で体の大部分が凍り付き、すべてが凍るまでに5秒とかからなかった。


 その間、敵は叫び声一つ上げていない。ということは、叫ぶ間もなく即死した、ということだろうか。


 ……上級魔法、恐るべし。


 俺はその余りの威力に呆然とし、敵が見えなくなっても谷底を見下ろしていた。


 しばらくして隣のエミールを見ると、向こうも俺の顔を見た。エミールも呆然とした顔をしていて、俺とまったく同じ事を考えているのが分かる。


 それがおかしくて、俺はくすりと笑った。すると、エミールもくすりと笑う。それがまたおかしくて、気づけば二人で大笑いしていた。


 勝利の喜びが遅れて胸に込み上げてくる。俺は歓喜に声を張り上げた。


「やったなエミール! ついにドラゴンを倒したぞ! 俺達は一人前の冒険者だ!」


「はい! 夢みたいです! あのドラゴンを倒せるなんて」


 二人で両手を取り合い、子供のように飛び跳ねる。


 すると、雰囲気を壊すぶっきらぼうな声が響いた。


「何を喜んでる」


 声の主はもちろんアルだ。俺は飛び跳ねるのを止め、アルに言った。


「そりゃ喜ぶだろ。ゼスを倒せたんだから」


「ほんとか? まだ生きてるかもしれないぞ」


「そんなわけが……」


 ……いや、そんなわけがあるかもしれない。アイツは高さ50メートルの崖から落ちても生きてたんだから。もしかしたら、あの時みたいにまた浮上してくるかも……。


 俺は不安になって谷底を覗き込んだ。敵の姿は見えない。


「やっぱり大丈夫じゃないか? もし生きてたら、そろそろ飛んでくるだろ。前みたいに」


「かもな。下に降りて確かめてみよう」


「なんかコエーな。最初にゼスと会った時と同じくらいコエーよ」


 ということで、俺達は山を降りた。


 麓に着き、番兵さんに声をかけられる。


「どうです。ゼスを倒せましたか?」


「分かりません」とアル。「今、それを確かめに行くところです。谷底の森に落としたので」


「ああ、あの音はゼスが落下した音でしたか。さすが冒険者様、お見事です」


「もしゼスが死んでいたら、お二人にもお伝えしましょう」


「それは有り難い。我々はもうこの仕事に飽き飽きしています。一刻も早く解放されたいんです」


「では、倒した証拠と一緒に戻りますね」


「お気をつけて。山に添って進めば遭難しないでしょう。楽しみに待っております」


 番兵さんと別れる。教え通り、なるべく山の斜面から離れないように獣道を進んだ。


 しばらく進むと、アルが立ち止まり、空を見上げて言った。


「オレ達がいたのはあそこだな」


 俺も立ち止まって上を見る。山の斜面が岩壁に変わり、目もくらむような断崖絶壁が聳えていた。俺達はさっき、この崖のてっぺんに立っていたのだ。ということは、敵はすぐ近くだ。ここから20メートルと離れていないだろう。


 だが、鬱蒼(うっそう)と木々が生い茂っていて、敵の位置がここからでは分からない。


 俺はとりあえず、敵を呼んでみることにした。


「おーい、ゼス。どこだー」


 耳を済ますが、返事は無い。すると、エミールにツッコまれた。


「ゼラ様、ふさげてる場合ですか。死体が返事をするわけないでしょ」


「死んでるか分からないから呼んだんじゃないか。もし生きてたら、あの馬鹿でかい咆哮で居場所を教えてくれる」


「ああ、そういうことでしたか。失礼しました。いつもふざけているので分かりませんでした」


「……今、俺のこと馬鹿にしたか?」


滅相(めっそう)もない」


 さて、敵が返事をしないところを見ると、やはり死んでしまった可能性が高い。


 嬉しいことだが、見つけるのは地味に面倒だ。どうしようかな。ここは敵が落下した場所を推測するしかない。


 俺は崖を見上げて考えた。


 えっと、たしか俺達が立っていた地点はここからもう少し進んだ位置だから、ゼスが飛んでいた位置は……。


 その時、アルが突然言った。


「あっちだ」


 そう言って勝手に森の中を進んでいく。俺は後を追いながら慌てて言った。


「おいおい、下手に進んだら遭難するぞ」


「心配するな。敵はこの先だ」


「どうして分かるんだよ」


「バラフビャクトの時と同じだ。風が冷たくなってる」


「ほんとかよ」


 疑いつつ、エミールと一緒にアルについていく。すると、敵は本当にそこにいた。


 敵の体は真っ白いままで、そこからは白い冷気が湯気のように湧き起こっている。しかも、落下の衝撃で体がバラバラに砕けていた。首と尻尾は胴からもげ、手足は欠損して粉々になっている。また、胴体は大きな亀裂が入り、真っ二つに割れていた。その断面を見ると、そこも白で埋めつくされている。体内までしっかり凍ったようだ。


 まるで、巨大な雪の彫刻のように見える。バラバラになってはいるが、それでも美しい。


 俺は頭部の目の前まで近づき、しげしげと眺めて言った。


「はぁ、すげぇ。敵ながら綺麗だ」


 エミールが尋ねる。


「さすがに死んでますよね、アル様」


「いや、まだ分からないぞ」


「何!?」と俺。「まだ疑ってんのか! どう考えても死んでるだろ!」


「冗談だ。いくらドラゴンの生命力が高くても、ここまですればさすがに死ぬ。よくやったな。二人の完全勝利だ」


「へっへーん。だから死んでるって言っただろ? ビビらせやがって。それにしても、エミールはほんとに強くなったな。こんな巨大な敵を一瞬でカチコチにできるんだから」


 エミールが照れながら言う。


「そんな。すごいのは私ではなく、氷の宝玉です」


「それもそうだな。あと、1000ガランの杖と。この二つが無いとたいしたことないもんな」


 エミールが怒って言う。


「もう! ゼラ様ったら。そんな言い方はあんまりです!」


 俺はアルの真似をして、キザッたらしく答えた。


「ふっ、冗談だ」


「つまらない冗談だな」とアル。


「何だと! アルの真似だろ!」


「オレの冗談はもっと面白い。それより、炎の宝玉を回収するぞ。死体が壊れやすくなってるから、宝玉も見つけやすい」


「あっ、そういえば、宝玉は無事なのか? 宝玉も凍ってて、砕けてるんじゃないだろうな?」


「いいや、宝玉はこの程度で壊れたりしない」


 アルはそう言うと、鞘から剣を抜き、死体の胸部を数回斬りつけた。死体はその堅さを一切感じさせず、いとも容易く切断される。


 その後、アルは片足で切断部位を蹴飛ばした。細切れにされた部位がバラバラと地面に落下する。そして、右手を落下した部位にかざし、呪文を唱えた。


「ボアレイル」


 アルの右手から炎線が放たれる。エミールもよく使う中級炎魔法だ。


 死体は炎に焼き尽くされ、黒い灰となった。


 いや、よく見れば、灰の中に赤色の球が光っている。


 アルはそれを摘まみ上げて言った。


「これが炎の宝玉だ」


《③に続く》

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