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影に潜れば無敵の俺が、どうしてこんなに苦戦する  作者: ドライフラッグ
Bランク編
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ドラゴン ②

 俺達が立っていた場所に敵が着地する。その瞬間、前足が地面を(えぐ)り取った。硬い岩の地面に穴が空く。


 当然、俺達を狙っての攻撃だろう。当たっていたら一溜まりもない。


 俺達は敵と睨み合った。敵の目はギラギラと光り、頭部には立派な黒い角が生えている。全身を覆う深紅の鱗は、どんな攻撃もね返しそうだ。


 そして、何よりも目を引くのはその巨大さ。全長10メートルはありそうだ。がっしりとした体が道を塞ぎ、通り抜けられる隙間も無い。逃げ場は後ろだけだ。


 とんでもない迫力に、戦う気力が削がれていく。が、エミールの手前、逃げるわけにもいかない。怖くても戦わなければ……。


 敵がゆっくりと近づいてくる。間合いはたった3メートル。


 俺は後ずさりをしながら、とりあえず矢を弓につがえ、敵に放った。矢が敵の眉間に向かって飛んでいく。


 見事命中。が、矢は少しも刺さらず、呆気なく地面に落ちた。敵の鱗が硬すぎるのだ。


 敵は痛くもかゆくも無いといった様子で、何事もないかのように距離を詰めてくる。怒らせなかっただけ有り難いといったところか。


 どうやら俺の矢は使い物にならないらしい。オクスヘッツも防御魔法を貫通するだけなので、使っても意味はない。


 となれば、もはやエミールの攻撃魔法に頼るしかないだろう。俺は隣にいるエミールに言った。


「エミール、俺の矢は効かないから、エミールの攻撃魔法が頼りだ。なんでもいいから、攻撃してみてくれ。敵が反撃して危なくなったら、裏世界に避難する」


「了解です。では、雷魔法で攻撃してみます。ドラブロンテ」


 呪文を唱えると、杖の先端から電撃がほとばしった。電撃は木の根のように空中を伝染し、敵の体を包み込む。


 敵は体をよじり、後ろ足だけで立ち上がった。天に向かって咆哮する。これは苦痛による叫びだろう。


 よし、エミールの魔法は確実に効いている。追撃だ。


 俺は矢をつがえ、立ち上がって見えた敵の腹を狙った。腹部には鱗が無い。もしかしたら矢が刺さる可能性がある。


 わずかな可能性にかけて矢を放つ。的はデカい。矢は当然のように命中した。だが、それだけだった。刺さらずに地面にぽとりと落ちる。


 クソッ、やはりダメか。ガルムレザータの時と同じだ。鱗に頼らずとも、モンスターの体は鎧のように強靱(きょうじん)なのだ。


 こうなったらいよいよ魔法頼みだ。頑張ってくれエミール。


 敵は電撃を受けて苦しみ続けている。が、こちらに攻撃を加えようとはしてこない。おそらく電撃で(しび)れて体を上手く動かせないのだろう。雷魔法の強みだな。このまま押し切れるか……。


 エミールを見ると、若干顔に疲労が現れていた。心配で声をかける。


「エミール、いけそうか?」


 エミールが苦しそうに答える。


「……まだ続けられますが、威力はもう上げられません」


「くっ、そうか……」


 敵は苦しんではいるものの、まだまだ元気そうにも見える。倒れる気配が無いし、耳を塞ぎたくなるような咆哮も止まらない。それとも、意外とダメージを受けているのだろうか。


「エミール、序盤(じょばん)で無理をすることはない。魔力を使い切る前に魔法を止めてくれ。とりあえず敵の様子を見よう」


「は、はい。分かりました」


 エミールが魔法を解いた。ほとばしっていた電撃が消える。


 すると、敵が咆哮を止めた。後ろ足で立った状態でこちらを見下ろす。


 俺はその眼光に射貫かれ、ゾクリと寒気が走った。その目には人間のような知性が感じられた。圧倒的な立場から、「よくもやってくれたな小僧」と言わんばかりの目………。


 反撃が来る、と思ったのも束の間、敵の口から火花が散った。炎を吐いてくるつもりだ。


「エミール、炎攻撃が来るぞ!」


「分かっています。ルアケニオン」


 呪文を唱えると、杖の先から水が噴き出した。水は空中で円を描くように流れ、大きな丸い盾となって二人の前方を塞ぐ。


 当然、ここに水場など無いのだが、どこから水を出したのだろうか。いや、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。


 敵は地面に前足をつくと、口から火炎攻撃を放った。光線ならぬ炎線(えんせん)が、水の盾に衝突する。まるでパレラの攻撃のようだ。


 盾は炎を見事に防いでいる。が、当然防いでいるだけでは敵を倒せない。俺は手が空いているというのに、何もすることがなかった。


 いや、一応あるな。今の俺は闇魔法が使えるんだ。下級だけど。


「オクス!」


 呪文を唱え、足下のゲートから闇の魔力を取り出す。それを球体に成形し、敵の顔めがけて放った。鼻先辺りに命中する。が、衝突の瞬間に、球体は霧散むさんしてしまった。敵に傷はなく、ひるんだ様子すらない。


 やはり下級じゃ歯が立たないのか。そう思っていると、エミールが言った。


「ゼラ様、オクスは敵の目つぶしに使ってください。目を闇の魔力で塞ぐんです」


「なるほど。オクス」


 エミールの助言を受け、狙いを変える。両目を塞げるくらいの大きさに球体を成形し、敵の目に飛ばした。今度は勢いよく衝突させるのではなく、敵の目を覆う感覚で放つ。


 球体はシャボン玉のようにふわふわと飛んでいき、敵の目で潰れた。両目が魔力で塞がれる。


 敵は視界を奪われ、火炎攻撃を止めた。鳴き声を上げながら頭を左右に振る。魔力を振り払おうとしているのだろう。その際、右側の岩壁に角がぶつかり、壁が抉れた。


 攻撃じゃないのにすごい威力だ。とにかく、敵が暴れている隙に攻撃を仕掛けなければ。


「エミール、雷魔法以外にいい攻撃魔法はない?」


「えっと、では光魔法を。ライムパレス」


 敵の首に光の輪が現れる。これは俺も見たことがある。アルがレザータの首を切断する時に使った魔法だ。中級魔法だったのか。


 光の輪が瞬時に収縮する。が、敵の首は切断されなかった。代わりに光の輪の方が粉々に砕け散る。


「クソッ、ダメか。他に無いか他に」


 エミールが焦りながら答える。


「えっとえっと、炎魔法は効かなそうですし、次は地魔法を。エレツアラガス」


 呪文を唱えると、敵の腹部に向かって地面が突き出た。敵は苦痛の声を上げ、追撃を避けようと空に舞い上がる。


 突き出た地面を見ると、針のように先端が尖っていた。長さは2メートルはあるだろうか。しかも、その素材は硬い岩だ。それが勢いよく突き出したというのに、敵の体はそれでも傷ついていない。


「嘘だろ。なんだったらアイツに効くんだよ……」


 敵が空を飛んでいる間に、目に張り付いていたオクスが剥がれた。敵が上空からこちらを見下ろす。そして、口から火花が噴き出した。またあの火炎攻撃を出すつもりだ。


「ルアケニオン」


 エミールが攻撃を見越し、水の盾を出す。俺もエミールに身を寄せ、盾に隠れた。


 これでまた攻撃は防げるだろうが、それだと防戦一方になるだけだ。しかも、敵が空を飛んでいるから、俺のオクスで目を塞ぐことも難しい。もう撤退てったいするしかないだろうか……。


 考えている間に、敵が攻撃を放った。が、今度の攻撃はさっきと違った。放たれたのは炎線ではなく、直径1メートルほどの巨大な火球だった。それが水の盾に直撃する。


 その瞬間、エミールは杖を左側後方に振った。いや、振ったというよりも、振り回されたといった方が正しいかもしれない。のけぞるようにして杖を大きく斜め後ろに向ける。


 それと同時に盾も動き、火球を後方へ受け流した。火球は水に触れていたというのに、そのままの大きさを保って谷底へ落ちていった。


 エミールが疲労を帯びた声で言う。


「受け止めきれなかったので、後ろに流しました」


「そんなに威力が高いのか?」


「はい。どうしましょう。早くしないと次が」


 敵を見上げると、口からまた火花が飛び散っていた。このまま俺達を一方的に狙い撃つつもりらしい。


「おい、卑怯ひきょうだぞ! 強いんだから堂々と戦いやがれ!」


 と、悪態をついたところで意味は無い。続けてエミールに言う。


「こうなったら走って避けるぞ」


「は、はい」


 敵はエミールを狙って火球を放った。火球はそれなりのスピードだが、物が落下する速度とほとんど同じだ。避けられないほどじゃない。


 エミールが後ろに飛んで攻撃を避ける。火球が地面にぶつかって弾けた。


 よし、これなら問題無く避けられるだろう。その間に作戦を考えないと。


 ……つってももう考えることもない。空にいられたら攻撃の仕様がないし、仮に地面にいたって、敵には魔法も矢も効かないし。それでどうやって勝てっていうんだ。


 いや、諦めるな。いつもこういう時にいいアイデアをひらめいてきたじゃないか。何か無いか何か……。


 その時、また敵の火球が飛んできた。しかも、今度は二つ同時だ。一つはエミール、一つは俺のところに飛んでくる。意表を突かれつつ、なんとか横に飛んで避けた。


 危ない危ない。とんでもない奴だ。この調子だと三連続四連続で攻撃が飛んでくるかもしれない。エミールに伝えておかねば。


「エミール、敵の火球は連続でどれだけ来るか分からない。三連続かもしれないし、四連続かもしれない。とにかく、俺が作戦を思い付くまで、口から目を離さずに注意しててくれ」


「了解です」


 さて、さっさと作戦を考えよう。こういう()す術なしと思うような強敵は今までにもいた。例えばガルムレザータだ。攻撃が通らなくて、ファンビーヴァの酸を使った。が、今回は敵に有効なアイテムは何も持っていない。アイテム作戦は使えない。


 で、結局ガルムレザータはパレラに戦わせて倒した。今回も同じ作戦は使えるか?


 俺は辺りを見渡した。が、ここは断崖絶壁。森と違って他のモンスターの姿などない。いや、場所がどこであれ、ゼスに勝てるモンスターなんてそういないだろう。てか、いて堪るか。


 モンスター同士で戦わせる作戦も使えない。えーと、他にないかな他に。今と似たような状況ってなかったけ……。


 クソ、無いな。今までの敵はどれも苦戦したけど、なんだかんだ攻撃が当たればダメージを与えられたもんな。 うーん、今度こそどうしようもないのか……。


 頭を抱えていると、敵の攻撃が飛んできた。今度は三連続。エミールに二発、俺に一発。予想通り火球の数が増えた。


 エミールが前方に走って二発を避け、俺は横に飛んでそつなく一発を避けた。


 ほっと一安心した時、エミールの声が響く。


「ゼラ様!」


 嫌な予感がして敵を見ると、こちらに四発目が飛んできていた。さっきの攻撃はフェイントだ!


 俺はとっさに飛び退き、間一髪で火球を避けた。


 チクショウ。このドラゴン、強いだけじゃなくて賢いぞ。Bランクモンスターはなんでもありかよ。


 俺はちらりと後ろを見た。アルが腕を組んで立っている。


 けっ、俺達が命がけで戦ってるってのに、いいご身分だ。さぞ観戦は楽しいだろうな。せめて助言くらいしろってんだ。


 いや、そういえば一応、戦う前に助言っぽい言葉をくれたんだったな。戦いは環境が大きく左右する。敵が弱くても、不利な環境で戦えば負けてしまう、と。


 てことは、だ。言い換えれば、強い敵でも、環境を上手く利用すれば勝てるってことだ。


 今の環境は谷。活かし方は一つしかない。それは谷底に敵を落とすということ。だが、敵は当然空を飛べる。落とすには、飛べないようにするしかない。そんなことが……。


 できる! 雷魔法だ! あれで敵を痺れさせて飛べないようにすれば、谷底に落とせるかもしれない!


 ……いや、待てよ。敵を今の位置から落としても、落下するのは谷底じゃなくて、俺達が立っている道だな。敵がいる高さは10メートルほど。人間が落下すれば致命傷だが、相手はモンスター。しかもドラゴンだ。それくらいで死ぬとは思えない。それで死んでくれるなら、最初の突進に近い着陸で自滅しているだろう。


 魔法でなんとか道の外に移動させられないだろうか。エミールに訊いてみるか。


「エミール、作戦を思い付いた。雷魔法で敵を痺れさせて、谷底に落とすんだ。でも、今それをやっても谷底じゃなくて道に落ちる。それだと大したダメージは与えられない。なんとかならないかな? 風魔法で道の外に飛ばすとかして」


「ゼラ様、それは無理です。敵のいる位置が高すぎて、私の雷魔法じゃ届きません」


「うっ、そうなのか……」


 クソッ、雷なのに空飛ぶ敵を狙えないなんて理不尽な。


 いや、でもどっちみち無理だったな。仮に敵を谷底に落とせても、その間にずっと雷魔法で痺れさせることは難しい。落下中に魔法が途切れ、空を飛ばれたら意味が無い。


 元から無理な作戦だったんだ。もっと精度を上げないと……。


 考えていると、敵が次の攻撃を放ってきた。今度は三発。すべて俺狙いだ。


「うおお、やべっ」


 急いでその場から走る。後方から火球の着弾する音が三回聞こえた。無事に避けられたと思ったのも束の間、今度は目の前に炎線が降り注いだ。敵が俺の動きを先読みし、逃げ道を塞いだのだ。


「うわあああ」


 とっさにきびすを返し、反対方向に逃げる。炎線も後を追ってきたが、しばらくすると止まった。


 まったく、あの手この手で攻撃してきやがる。敵は敵で作戦を練ってるみたいだな。だったら俺も人間様を代表して、本物の頭脳戦って奴を見せてやろう。


《③に続く》

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