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影に潜れば無敵の俺が、どうしてこんなに苦戦する  作者: ドライフラッグ
Bランク編
42/78

可愛い強敵 ②

「ミミー」


 敵が可愛らしく鳴きながら矢を避けた。


 クソ。的が小さいから外してしまった。もう少しだったのに。


「ミー! ミー!」


 敵が俺に向かって鳴く。どうやら怒っているようだ。奇遇だな。俺もだ。


「次は避けるなよ。オクスヘッツ」


 そう言って二の矢をつがえる。


 その時、突如として敵の周辺が光りだした。眩しくて目を閉じそうになる。


 よく見ると、空中に光輝くトゲが浮かんでいた。十数本のトゲが、尖った部分をこちらに向けている。攻撃魔法だ!


「ミー、ミー」


 気づいた時にはもう遅い。トゲが俺達の方に飛んできた。


「ライムケニオン!」


 エミールの声が響き、光の結界が俺達を囲む。トゲは結界に衝突して防がれた。


「た、助かったよエミール」


「これくらい任せてください」


 敵は新たなトゲが次々と飛ばしてくるが、結界はびくともしない。


 これならしばらくは安心だろう。心置きなく攻撃に専念できる。


 俺は再度敵に向けて弓をかまえ、オクスヘッツを唱えようとした。だが、そこである問題に気づいた。


「なあ、エミール。ここから敵に矢を放ったら、矢は結界に弾かれるのか?」


「は、はい。そうなってしまいますね」


「じゃあ、敵の攻撃は防いで、俺の矢だけ通すってことはできるか?」


「そんな器用なことはできません。ごめんなさい」


 クソが! それじゃあ防戦一方じゃないか! 今は攻撃に耐えられても、エミールの魔力が尽きたら終わりだ。


 何かいい方法がないだろうか。とりあえずエミールに尋ねる。


「なあ、攻撃と防御が同時にできる魔法ってないのか?」


「一応、あるにはあります。オクスケニオンです」


「オクスケニオン? でも、あれは闇魔法しか防げないんじゃなかったか? 敵が使ってるのはどう見ても光魔法だろ?」


「一応、光魔法であれば防げるんです。ただ、光と闇は相互に弱点なので、攻撃が結界に当たった瞬間、相殺して結界に穴が空いてしまいます。その穴を瞬時に塞げば、なんとか」


「よし、じゃあオクスケニオンに切り替えてくれ」


「で、ですがゼラ様、結界に穴が空くと、攻撃を防ぎきれない可能性が」


 俺は(いら)ついて語気を強めた。


「それでもいい! どのみち攻撃を防ぎ続けることなんてできないだろ! 攻めなきゃやられる!」


 エミールがビクついて答えた。


「は、はいぃ。オクスケニオン」


 呪文を唱えると、紫色の結界が現れ、それと同時に光の結界は消えていった。敵の攻撃を防ぎながら結界が張り替えられる。


 エミールの言う通り、オクスケニオンに光のトゲが当たると、その部分に小さな穴が空いた。が、貫通しているわけではなく、トゲも消滅している。そして、穴は瞬時に塞がった。


 防御は問題なさそうだ。これで反撃に移れる。


 俺は魔力が吸収されないよう、矢の先端を結界から出し、オクスヘッツを唱えた。(やじり)に魔力を(まと)わせ、即座に放つ。


 すると、敵の前方が黄色く光った。攻撃魔法ではなく、光の壁が現れる。これは、前方しか防げていないが、ライムケニオンだ。まさかモンスターが使ってくるとは。


 光の壁に矢が当たる。が、矢はオクスヘッツのおかげで壁を貫通した。壁に穴が空き、矢が敵の頭部を掠める。


 クソッ、あと少しで当たったのに。もう一度だ。


 敵を見ると、矢が掠った部分が黒く変色していた。それだけではなく、体毛が焼け焦げたように短くなっている。


「ピピピー!」


 敵の鳴き声がミーからピーに代わった。そして、黒くなった箇所から緑色の光が発せられ、体毛が元の長さに伸びていく。よく見れば、色も黒から白に戻っていた。どうやら回復魔法を使ったらしい。


 その間、敵はトゲ攻撃を放ってこなかった。いや、正確にはライムケニオンを使った時から攻撃は止まっている。敵は同時に二つの魔法を使えないようだ。


 それにしても、どうして矢が掠ったくらいでこんなダメージを受けてるんだ? わざわざ攻撃の手を止めてまで回復する必要があるのだろうか。


 ……ははーん、さてはコイツ、闇魔法が弱点なんだな。そういえばエミールも言ってたな。闇と光は相互に弱点だって。それは魔法だけじゃなく、モンスターにも言えることなのかもしれない。


 よし、それなら楽にぶっ殺せるな。俺とエミールの闇闇コンビを相手にしたことを後悔させてやる。


 俺は作戦を思い付き、エミールに言った。


「エミール、いい作戦を思い付いた。このオクスケニオンで敵を囲んでくれ」


「え? どうしてそんなことを?」


 俺は察しが悪いエミールにイラッとしたが、必死にそれを抑えて言った。


「敵は闇魔法が弱点だ。触れるだけで怪我をする。ということはだ。この結界で囲んでしまえば、敵の動きを大きく制限できる。そうすれば簡単に矢を当てられる」


「でもゼラ様、そんなことをしたらどうやって敵の攻撃を防御するんですか? 私は二つも結界を張れませんよ」


 あっ、それもそうだな。さっき怒らなくて良かった。論破されて恥をかくところだった。


 俺は新しい策を考えて言った。


「敵は攻撃と回復を同時にできない。俺がまた回復魔法を使わせるから、その隙に結界を張ってくれ」


「敵が回復を中断して攻撃をしてきたら?」


 うっ、そっか、その可能性もあるか。エミールは頭がいいな。いや、俺が怒りのせいで頭が回ってないだけか?


 とにかく新しい対策を提案する。


「そうなる前にトドメを刺す。でも、もしそうなったら、結界をこっちに張り直してくれ。それも間に合いそうにないなら、裏世界に避難する」


「了解です」


「じゃあ、いくぞ!」


 俺は連射できるよう、矢を二本手に取った。そのうちの一本を弓につがえ、もう一本は右手の指に挟む。


「オクスヘッツ」


 呪文を唱え、ゲートから魔力を取り出す。その魔力を今度は一本ではなく、二本の鏃にまとわせた。


「くらえ!」


 矢を一本放つ。敵はまた光の壁で防御するが、何度やっても同じだ。矢が壁を貫通する。


「ミミー!」


 敵が翼をはためかせて避ける。が、これも想定済み。敵が避ける方向を先読みし、即座に二本目を放つ。


 敵は二本目に反応し、さらに上空へと飛んだ。矢は敵の下をすれすれで通過する。


 クソ。あわよくばここで仕留めようと思っていたが、そう上手くはいかなかった。


 だが作戦通り、矢は敵の体を掠めた。体が闇の魔力に焼かれている。


「ピピピー」


 敵が攻撃を中断し、回復魔法を使った。


『今だ!』と叫ぶ前に、エミールが結界を解除し、敵の周囲に張り直す。さらに、結界は見る見るうちに小さくなっていった。敵の翼が結界に触れ、バチッと音がする。


「ピピャー」


 敵が痛そうに叫ぶ。そして、結界の外に光のトゲを出現させた。回復を中断し、攻撃に転じたのだ。が、これもエミールが教えてくれたから想定済み。


「させるか!」


 俺はすぐさま三本目の矢をつがえ、オクスヘッツを使わず放った。敵は闇魔法を吸収する結界に守られているので、オクスヘッツは意味を成さない。


 矢は結界を通過し、逃げ場を失った敵に突き刺さった。狙い通り、顔のド真ん中だ。


 敵は地面にどさりと落ち、浮かんでいた光のトゲは消滅した。


「やりましたね、ゼラ様! 作戦成功です!」


 エミールが歓喜の声を上げるが、俺の怒りはまだ収まらない。


「まだ終わってない! 持ってる矢、全部突き刺してやらぁ!」


 俺はまた新しい矢をつがえた。倒れている敵を狙って矢を放つ。


 その時だった。敵の体から猛烈な光が放たれた。あまりの眩しさに目をつむり、両手で前方を隠す。


 いったいどういうわけだ。まだ死んでないのか?


 光が弱まってきたので目を開けると、敵は依然として輝いていた。光に包まれ、顔や体毛が見えなくなっている。ただ、ベキベキと音を立てながら変形する敵のシルエットは見えた。そして、突き刺さっていた二本の矢もベキべキと折れ、光の外へと吐き出される。


 呆然としていると、後ろからアルの声がした。


「気をつけろ! 戦いはまだ終わっていない!」


 俺は即座に振り向いて怒鳴りつけた。


「テメェ、Bランクになっても戦いサボりやがって!」


 アルが無視して言う。クソが。


「エミール、光属性の特質は知ってるな?」


「はい、反射と解放です」


「その通り。敵は追い詰められて、真の力を解放しようとしている」


 俺がまた怒鳴る。


「ってことは第二形態に変身するってことだな! そんな重要な情報先に言っとけよ!」


「だから変身する前に言ってんだろ。第二形態になったフワッピーは変身前より格段に強くなる。頑張れよ」


「お前が頑張れ!」


 アルとの口論が終わる頃、敵の体から鳴っていた音が止まった。変身が完了するようだ。


 だが、敵の体はまだ光っていてよく見えない。果たしてどんな姿になるんだろうか。


 光が収まっていき、敵の姿が見えるようになる。その姿は、第一形態と何も変わっていなかった。


 あれ、見間違いか? じゃあなんであんな体が歪んでたんだよ。あとベキベキって音は何なんだよ。ビビらせやがって。


 と、思っていたが、よく見えると後ろにフサフサの尻尾が生えていた。どうやら第二形態は尻尾が生えるだけらしい。


「なんだそのしょうもない変身は! 尻尾なんて最初から生やしとけ!」


 敵にツッコまずにはいられない。この野郎、散々こっちを翻弄(ほんろう)しやがって。なんだそのフサフサな尻尾は。可愛いな畜生。モフモフさせろ馬鹿野郎。


 あれ、なんか第二形態、尻尾が生えて格段に可愛くなったな。やっぱり動物は尻尾がないといけない。フワッピー、いやフワッピーちゃんの可愛さは尻尾があって初めて完成する。そうか。第二形態は戦闘形態じゃなくて、可愛い形態だったのか。なるほどね。


 フワッピーちゃんの可愛さに見とれていると、エミールが声をかけてきた。


「どうしますかゼラ様。また同じ作戦を試してみますか?」


 俺は呆れて答えた。


「何言ってるんだエミール。どうして無駄な戦いを続ける必要がある。あんなに可愛くなったのに、殺すなんて可哀想だろ」


「ガルダス」


「テメェまた粉使いやがったな! 第二形態になっても卑怯な真似しやがって! 何回変身してもぶっ殺してやる!」


 怒り魔法の重ねがけをされ、正気を取り戻す。いや、これ言うほど正気か? まあ、いいや。とにかくこれで戦える。


 俺はエミールにまともな返事をした。


「エミール、また同じ作戦を試してみよう」


「了解です」


 エミールが敵に向かって杖を構える。が、その瞬間、頭上から光が降り注いだ。優しい光だが、本能が危険だと告げている。


 エミールもそれを察知し、呪文を唱えた。


「ライムケニオン」


 機転を利かせ、結界を敵にではなく、俺達の周囲に張る。しかも、オクスケニオンよりも防御力が高いライムケニオンに切り替えている。


 次の瞬間、結界の上に強烈な光が降り注いだ。激しい衝突音がして鼓膜が破れそうになる。


 新しい攻撃魔法だ。上空から太い光線が放射されている。光のトゲとは比べものにならないくらいの威力だろう。


 エミールが機転を利かせてくれて助かった。直撃していたら死んでいたかもしれない。それに、照射時間が長いから、オクスケニオンでは貫通していただろう。


 ひとまずは安心だが、問題はこの結界がいつまで耐えてくれるかということだ。


 エミールの様子をうかがうが、光線が眩しくて姿が見えなかった。心配で声をかける。


「エミール、耐えられそうか?」


 すると、光の向こうから苦しそうな声が聞こえてきた。


「は、はい。あと数分は持ちます」


「数分か。もし限界が来たら教えてくれ。裏世界に避難する」


「了解です」


 敵の攻撃は続く。あの小さい体のどこにこんな力が隠されてるんだ。化け物め。


 その後も防戦一方の状態が続き、1分ほど経過してもまだ攻撃は止まなかった。


 心配になってエミールに尋ねる。


「エミール、大丈夫か?」


「はい……」


 全然大丈夫そうじゃない声だ。杖ありのエミールをここまで追い詰めるとは、とんでもない魔力量だな。


 クソッ、結界を破られるのは時間の問題だ。ライムケニオンだと中から矢を放てないし。いったいどうすれば……。


 そう思った時だった。敵の攻撃がぴたりと止まった。どうやら敵との根比べにエミールが勝利したようだ。


「どんなもんだ畜生! 無駄に時間かけやがって!」


 敵を怒鳴りつけた後、エミールを見る。顔に疲労が浮かんでいた。だが、結界はまだ解除せず、残してくれている。


 俺はますます敵に腹が立ってきた。散々こっちを苦しめやがって。その落とし前、きっちりつけさせてもらうからな。


 弓に矢をつがえ、オクスヘッツを唱える。鏃が黒い魔力を纏った。敵の攻撃が止んだ今なら、一時的に結界を解除できる。


 エミールに解除を頼もうとしたその時、敵の動きに変化が起こった。尻尾をこちらに向け、その先に黄色い光を集めている。オクスヘッツで闇の魔力を集中させる様に似ていた。おそらく、敵は光の魔力を集めているのだろう。ギュイン、ギュインと不気味な音が鳴り、尻尾の先に魔力が凝縮されていく。


 なんだか嫌な予感がする。まさかこいつ、力を使い果たしたから攻撃を止めたんじゃなくて、もっと強力な攻撃に切り替えただけなんじゃ……。


 俺の疑問に答えるかのように、後ろからアルの叫び声が聞こえた。


「光線が来る! 尻尾の先に立つなよ!」


 そう言われ、尻尾の方向を確かめる。敵は尻尾を俺ではなく、エミールに向けていた。


「エミール、逃げ――」


 俺の言葉が終わる前に、敵は光線を放った。さっき頭上から降り注いだものとは違い、紐のように細い。


 俺はとっさにエミールを裏世界に沈めた。それとほぼ同時に、結界は光線に貫かれ、粉々に砕け散った。そのままエミールがいた場所を通過する。エミールは間一髪回避に成功した。


 光線が細くなった分、威力が凝縮されているらしい。これじゃあ攻撃を防ぐことすらできない。


 あれ、これ負けじゃね? 勝つ方法ある?


 そんな不安が頭を過ぎった瞬間、頭上から優しい光が降り注いだ。


「やべっ」


 とっさに光の外へと飛ぶ。俺がいた場所に太い光線が放たれた。回避したことで、光線はすぐに止まる。光線を当てられた地面を見ると、花がすべて消滅し、茶色い地面が丸く露出していた。花びら一つ残っていない。


 俺は怒りを通り越して恐怖を感じた。こんなの一撃でも食らったら即死だ。


 が、幸いなのは攻撃がまだ避けやすいこと。光を感じたら即座にその場を離れればいい。走って花畑から逃げ、安全な場所に避難してから作戦を練ろう。


 俺はエミールを自分の影から地上に出し、急いで撤退を伝えた。


「エミール、敵は強い。一旦逃げよう」


「ガルダス」


「いや、粉に惑わされてるんじゃなくて……」


 ん? ……おいおい、俺としたことが。何を弱気になってんだ。どうしてこの俺が逃げないといけない。それでも潜影族の生き残りか? 自分に腹が立ってくる。情けねーな。最初にぶっ殺すって決めただろ。


 エミールの魔法が俺の怒りと闘争心を復活させた。作戦なんて今ここで考えればいい。


 とりあえず、エミールに攻撃の避け方を伝える。


「エミール、言わなくても分かると思うが、あの光が空から降り注いだら、急いで光の外に出ろ。それだけで攻撃は避けられる。結界は出さなくてもいい」


「了解です」


 言っている側からまた俺の頭上から光が降ってきた。さっきと同じように避ける。隣を見ると、エミールも同時に攻撃されていたが、問題無く攻撃を回避した。


 よし、これを続けながら作戦を考えよう。さて、どうやってぶっ殺してやろうか。


《③に続く》

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