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影に潜れば無敵の俺が、どうしてこんなに苦戦する  作者: ドライフラッグ
Cランク編
37/78

新種のモンスター ③

 敵が威勢よく言う。


「はっ、油断したな」


 そうです。油断しました。ごめんなさい。と、内心思いながら仲間に目で謝る。


「もう呪文は唱えるなよ」と敵。「唱えれば、こいつの命は無い。もちろん他の奴らもだ。変な真似はするな」


 そう言って俺の顔に剣先を近づける。敵は片方の腕で俺の首をがっちりロックしているので、簡単に逃げられそうにない。


「さあ、お前達はここから立ち去れ。そうすればこいつの命は助けてやる」


「くっ……」


 ルネスさんが悩ましげな顔で呟く。どうやらさすがのルネスさんでも解決策が見つからないらしい。


 エミールは心配そうな顔で俺と犯人を交互に見つめている。今にも「言う通りにするからゼラ様を殺さないで!」と懇願しそうな顔だ。ありがいたいねぇ。


 それに比べてアル、お前はなんだ。どうしてこんな状況でも無表情なんだ。この状況、『面倒くせーな』くらいにしか思ってないんじゃないだろうな。それとも、俺が脱出できるって分かってんのかな。


 仕方ないね。人前ではあんまり使いたくないが、この際、潜影能力を使って脱出するか。


 俺は犯人の体にゲートを開いた。俺の背中が密着し、日光を防いでいるので、地面と同様にゲートを開くことができる。


 俺は犯人に倒れかかるようにして、ゲートの中に身を投げた。


 作戦は難なく成功。俺は裏世界へと脱出した。犯人の奴、さぞかしびっくりしてるだろうな。


 さて、そいじゃ、どこから地上に出ようかな。あからさまに影から出ると、潜影族ってバレそうだな。ま、ルネスさんだったらまだいいんだけど、あのおっさんにバレるのは避けたいしな……。


 そんなことを考えながら、なんとなく辺りを見渡した時だった。


「んぎゃああああああああ」


 俺は驚きのあまり叫び声を上げた。


 なんと、俺の視線の先には、巨大な木の根っこが伸びていたのだ。根の色が白いところを見ると、これは標的の樹木で間違いない。


 根は複雑に絡み合いながら、裏世界の奥深くに向かって伸びていた。先端までの長さは5メートルくらいだろうか。


 いったいどいうわけだ? 裏世界に根を張る植物なんて見たことも聞いたこともない。夢でも見てるみたいだ。


 樹木は裏世界に根を張り、そして幹と枝葉を地上に出している。


 こんなものが自生してるってのか? いや、それは考えにくい。人が手を加えたとしか思えない。でも、いった誰が……。


 こんなことができる人間は、潜影族しかいない。まさか、俺以外にも生き残りがいるってことか? でも、それならなぜこんな木を植えた? いや、そもそも、この木はどういう原理で育ってるんだ?


 考えたところで答えなど出るわけない。俺はとりあえず、地上にゲートを開き、皆の元に戻ることにした。最初に身を隠していた雑草エリアにゲートを開く。


 そこからこそこそと地上に出て、仲間達を観察した。どこを探しても、あのおっさんがいない。どうやらルネスさんの魔法で逃げ出したようだ。見たかったな。自信満々のおっさんが逃走するところ。


 いや、そんなことよりもあの根っこのことを伝えないと。


 俺は何やら話し込んでいる三人の元へ行った。


「お待たせー」


 アルと話し込んでいたルネスさんがこちらを向く。


「ああ、ご無事でよかった」


「えっへん、俺はあれくらいで捕まらないのだ。ところで、あのおっさんはどこに行ったの?」


「魔法で怖がらせたら逃走しました」


「やっぱりそうか。さすがルネスさんだね」


「それより、いったいどうやって脱出したのですか?」


「えっと、ちょっと魔法でね」


「なんの魔法です?」


「転移魔法だよ。それであそこまで移動したの」


「魔法の名前は?」


「う……」


 なんだ、しつこいな。名前なんてどうだっていいじゃん。テキトーに答えるか。


「えっと……ゼラ・スペシャル」


「嘘が下手だな」と横からアルが言う。


「嘘とか言うな! お前、俺の仲間じゃないのか!」


 ルネスさんは疑わしそうな顔をしつつ、図星を突いてきた。


「もしかしてゼラさんは、潜影族ではないんですか? さっきの脱出は、潜影能力を使ったのでは? アルさんは違うと言っていますが」


「……」


 さすがルネスさん。あれだけの情報でもう答えにたどり着くとは。


 俺はルネスさんの目をまっすぐに見つめ、こう返した。


「違います」


「そうですか」とルネスさんは悲しそうな顔をして、「これだけ貢献しても、私には本当のことを教えてくれないのですね。残念です……」


 俺は手の平を返して言った。


「ほんとは潜影族です。嘘ついてすみませんでした」


 エミールが感心して言う。


「今日もスピーディな手の平返しですね、ゼラ様」


「だってルネスさんが可哀想なんだもん」


「教えていただきありがとうございます」とルネスさん。「潜影族は絶滅したと聞いていましたが、生き残りがいてもおかしくないと思っていました。世界中の潜影族が一晩で滅ぶとは考えにくいですから。それにしても、どうしてそのことを隠しているのですか?」


「潜影族は誰かに殺されたのかもしれないだろ? だからそいつに見つからないように隠してるんだ」


「……ということは、ゼラさんもなぜ潜影族が滅んだのか分からないということですね」


「そうだよ。俺が冒険者をやってるのは、その謎を解き明かすためでもあるんだ」


「なるほど、そうでしたか。たしかに、ギルドマスターにでも訊けば、何か分かるかもしれませんね」


「え、そうなの?」


「ギルドマスターの情報網は全世界に及びます。あの事件について、何か知っているかもしれません」


「マジで? どうやったらギルドマスターと話せるんだ?」


「そうですねえ……。私もギルドマスターの素性については詳しく知らないので、正確なことは分かりません。彼らの情報はギルド内でも極秘扱いなので。ですが、Sランク冒険者になれば、彼らから声がかかるという噂は聞いたことがあります」


「どうして声がかかるの?」


「おそらく、仕事の手伝いをさせるためでしょう。ギルドマスターのパーティーメンバーになれるというわけです」


「なるほどねぇ……でも厳しい道だな」


「そうです。私が挫折した道です」


「ルネスさんは一人でSランクを目指したの?」


「ええ。ギルドマスターになりたければ、仲間に頼ってはいられません」


「じゃあ、俺はまだ大丈夫かな。仲間がいるから」


「……はい。うらやましいです」と、ルネスさんはニコリと笑って言った。


「いいでしょう? 強い敵は全部アルに倒してもらえばいいんだ」


 ルネスさんの笑顔が消える。


「そ、それはずいぶん、意識が低い発言ですね」


「だって俺は情報と報酬の分け前さえ手に入ればいいんだもん。地位と名誉なんておまけだね、おまけ」


 アルが口を挟む。


「仕事しない奴に報酬の分け前は無いぞ」


「もー、分かってるって。冗談じゃん」


「じゃあ、そろそろ仕事に取りかかるぞ。この木を撤去しよう」


「了解って、あああああ」


 俺は重大なことを思い出して叫んだ。


「そうだ! 俺、とんでもないもん見たんだった!」


「とんでもないもの? 裏世界でか?」とアル。


「そう! さっき、剣士のおっさんに捕まって裏世界に逃げただろ? そしたらな、裏世界の中に、この木の根っこが伸びてたんだ」


 さすがのアルも驚いて言う。


「何!? どういうことだ!」


「そんなの俺だって分かんないよ。でも、たしかにそうなってた。この木は幹だけ地上に出して、根っこだけ裏世界に伸ばしてる。こんなの、人間がやったとしか思えない」


「だろうな。てことは、この木を植えたのは潜影族か?」


「うん。そうとしか考えられない。でも、その潜影族はなんでこんなことをしたんだろう。……ルネスさんには何か心当たりとかある?」


「……ありません。それより、私には正直信じられないのですが。裏世界というのは、潜影族が移動する異世界のことですよね? この木はそこに根を張っているというんですか?」


「そうだよ。見てみる?」


「よろしいのですか?」


「いいよ、それくらい」


俺は木の影にゲートを開いた。


「さ、ここにゲートを開いたから覗いてみて。向こう側が裏世界だよ」


「では……」


 ルネスさんは地面に手をつき、ゲートに頭だけを入れた。


「おお、これが裏世界ですか。本で読んだことはありますが、まさか実際に入れるとは。……しかしゼラさん、真っ暗で何も見えませんが」


「あ、そうだった。光魔法で照らさないと見えないんだ。俺は使わなくても見えるんだけど」


「分かりました。ライムカロン。……おお、これはすごい。たしかに木の根が……いったいどこまで……」


 ルネスさんがゲートの奥へと身を乗り出し、裏世界に落ちそうになる。俺は慌ててルネスさんを引っ張った。


「それ以上潜ったら落ちちゃうって」


 ルネスさんはゲートから顔を出して謝った。


「失礼しました。つい興奮してしまって」


「俺の言ったことは本当だったでしょ?」


「はい。これは興味深い植物です。早くギルドの調査機関に検体を渡して調べさせましょう。そうすれば、潜影族のことも何か分かるかもしれませんよ」


 俺は頷いて言った。


「うん。それで何か分かれば、もしかしたらSランクに昇格しなくてもいいかもしれない。だけど、俺が潜影族ってことはギルドの人達に言わないでね?」


「分かりました。絶対に言いません。約束しましょう」


「約束だからね。俺の命がかかってるんだから」


 俺はルネスさんにそう言ってから、アルに頼んだ。


「なあ、アル。この木の枝を波動斬で切ってくれ。ギルドに渡す用に。それくらいはいいだろ?」


「ん、まあ、いいだろう」


 アルは剣を抜き、上空に向かって振った。枝が切断され、地面に落ちる。長さは1メートルくらいで、実も付いているので丁度いい。枝の断面は真っ黒だった。皮は白くても、内側は黒いらしい。


「よっしゃ。後は燃やすだけだな。ささ、エミール様、燃やしちゃってください」


「了解です。皆さん、離れてください」


 エミールが杖を構え、呪文を唱えた。


「ボアレイル」


 杖の先から炎が放射された。木の幹に直撃する。


 俺達は木から離れ、様子を見守った。そして、おかしなことに気づいた。


 木が一向に燃え広がらないのだ。いくら水分を含んでいたって、これだけの炎を受けたら幹全体に燃え広がるはずなのに……。


 アルも同じことに気づいたようで、エミールに声をかけた。


「エミール、一旦、魔法を止めてくれ」


「は、はい。分かりました」


 杖から出されていた炎が消える。炎が当たっていた部位は、白い皮が燃えて黒い内部がき出しになっていた。が、見る見るうちに再生し、また白い皮に覆われてしまった。


 唖然とする俺の横で、ルネスさんが呟く。


「んん、これは興味深い……」


「興味深いって、面白がってる場合じゃないでしょ! なんで木のくせに燃えないんだ!」


「この木は再生力が高いようですね。植物型のモンスターには多い特徴ですが、ただ、ここまでのものは珍しい……。これは、魔力が絡んでいると見て間違いなさそうです」


「魔力? こんな植物が魔法を使うってのか?」


「まあ、ある種の魔法とも呼べますが、魔力をそのまま使っていると言った方が正しいですかね。問題は、どこからその魔力を得ているのか、ですが……」


「ま、まさか、裏世界か?」


「かもしれません。そこに根を張っているようですから」


「でも、裏世界には何も無いはずだけど」


「いいえ、それはあり得ません」


「え? なんでルネスさんがそんなこと分かるんだよ」


「考えれば分かることです。通常、植物は地面から水を吸収しなければ生きていけません。ですが、この木は地面に根を張らずとも生きています。ということは、裏世界には水に変わる物質がある、ということに他なりません。私が思うに、それが魔力なのです。いや、正確に言えば、魔力の源である魔素まそでしょうね」


「な、なんか難しいこと言ってるけど、要するに裏世界にはその魔素とやらがあるってことだな。そんな風に感じたことないけど」


「いや、一応あるだろ」とアルが口を挟む。「ドーブルだ」


「ドーブル? ……あっ、そうか! アイツが急激に強くなったのって、裏世界の魔素を吸収したかからか!」


「そうだ。これで謎が一つ解けた」


「ちょっと待ってください」とルネスさん。「ドーブルとこの木にいったい何の関係があるのですか?」


 俺が説明する。


「あのね、ドーブルと戦ってる時に、裏世界に沈めたんだよ。そしたら、ドーブルが急に強くなったんだ。強さだけじゃなくて、体までデカくなってた」


「あれは明らかにCランクの強さではありませんでした」とアルが補足する。


「なるほど……。ということは、裏世界に存在する魔素は、闇の魔素ということですね」


「ん? 何が『ということは』なの?」


「ドーブルが吸収できるのは闇の魔素だけだからですよ。だから、裏世界に存在するのは闇の魔素だと特定できます。どの属性であれ、魔素は形を持たない空気のようなものです。だからゼラさんは、裏世界に存在する魔素に気づかなかったのでしょう」


「そうか。裏世界は闇の魔素が空気みたいに満ちてるのか。なるほどね……」


 言われてみれば、思い当たる節がたくさんある。例えば裏世界を泳いで移動できるのは、水に変わる何かがあるからだ。おそらくそれが闇の魔素なのだろう。ということは、裏世界はかなり大量の魔素で満たされていることになる。


 他にも、裏世界の物は直接触れずに動かすことができるが、それも魔素の働きなのだろう。魔法で物を動かすのと同じだ。


 長年、なんとなく抱いていた疑問が解消された。そうか、俺は魔術師じゃないけど、裏世界の魔素を無意識に利用してたんだな。


 ルネスさんが樹木に目を向けて言う。


「さて、どうしましょうか。この木が魔力に守られているとすれば、相当厄介ですよ。魔法で処分するとなれば、この木に魔力量で打ち勝たなければなりません。ですが、この木が裏世界から大量の魔素を吸収し、魔力に変換できるとすれば、私達では手に負えない可能性があります……」


「はいはーい」と、俺は手を挙げて言った。「俺にいい考えがあるよ」


《④に続く》

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