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影に潜れば無敵の俺が、どうしてこんなに苦戦する  作者: ドライフラッグ
Cランク編
34/78

悪魔 ④

 町に着くと、アルが言った。


「報酬を受け取ったら、宿を探すか」


「あっ、そういえばそんなこと言ってたな」


 そうだった。今日からワンランク上の宿屋に泊まれるんだった。


 頑張ってきた自分へのご褒美、と言いたいところだが、今回の仕事では仲間の足を引っ張ってしまったので、素直に喜べない。こんな俺でも贅沢していいのかね。


 とにかく、三人でギルドに行き、俺は運んできたドーブルの死体を渡した。アルが400ガランの報酬を受け取る。


 さーて、この報酬で高級宿に泊まってやりますか。といっても、当然、Sランク冒険者が泊まる最高級の宿ではない。その下のランクだ。料金もたかが知れているだろう。どれくらいかな。今の安屋が10ガランだから、倍の20ガランとかかな。それとも30ガラン?


 そんなことを考えてギルドを出る。すると、エミールが言った。


「私、宿に置いた荷物を持ってきますから、待っててください」


「うん、分かった。ここで待ってる」


「急がなくてもいいぞ」とアル。


「はい、少々お待ちを」と、言いつつ、エミールは小走りで宿へと向かった。急がなくてもいいのに。


 で、結果的に俺とアルが取り残された。二人っきりになったのは久しぶりかもしれない。もちろん、宿の部屋が一緒なので、夜には二人きりになるが、ほとんど話さずに寝てしまう。


 なんだか気まずい。仕事中じゃないから、それに関する話題も無いし……。


 しばらく沈黙が流れる。


 なんだこの野郎。なんか話せよ。気まずいだろうが。こうなったら根比べだ。アルが話すまで俺も話さないからな。


 そう決めて沈黙を続ける。


 一分が経過した。俺は何もすることがないので地ベタに座り、雑草をいじる。ふとアルを見ると、黙って立ち尽くしていた。エミールが走っていった方角を眺めている。考え事をしているわけでもなさそうだ。


 あれ、俺、もしかして嫌われてるんじゃないの? こんなに話さないことってある? さっきの馬車の中はいい感じの雰囲気だったけど、あれは実は社交辞令で、内心は『こいつお荷物だからいつ切ろうかな』とか思ってんじゃないだろうな?


 いや、アルに限ってそんなことは……。いやいや、アルはたしかに優しいが、優しさだけで仕事が勤まるわけじゃない。俺を切り捨てることだって視野に入れてるんじゃ……。


 待て待て。たかが会話がないだけで考えすぎだ。俺もアルと話すことがないんだから、アルだって同じなだけだろう。考えすぎ考えすぎ。


 ……でも、そろそろ話してくれたっていいんじゃない? もう沈黙してから二分くらい過ぎたぞ? 『どんな宿がいい?』とか、『宿代はいくらだと思う?』とか、話題なんていくらでも作れるじゃん。なんで(かたく)なに話さないんだよ。不安になるじゃん。話せよチクショウ……。


 沈黙が続いてから3分が経過した。


 もう待てない。これでもしエミールが来て、アルがエミールと仲良く話し始めたら、俺のメンタルが崩壊する。俺が勝手に仕掛けた勝負なんてこの際どうでもいい。今のうちにアルの真意を確かめないと……。


 でも、ここまで黙ってると、いざ話しかけるのが小っ恥ずかしいな。でも、仕方ない。


 俺は意を決し、アルに話しかけた。


「な、なあアル」


 すると、アルが間髪入れずに言った。


「オレの勝ちだな」


「……は?」


 アルが笑って言う。


「ふっ、先に話したら負けだと思ってただろう? だからオレも話さなかった」


「何ぃ……」


 クソ、俺の考えは見透かされてたってのか。すべてアルの手の平の上。思えば普段の戦いもそんな感じだな。舐めやがって。


 俺はどや顔をしているアルの足下にゲートを開いた。アルがすとんと裏世界に落ちる。


 そのタイミングでエミールが鞄を持って戻ってきた。


「お待たせしましたって……あれ、アル様はどこに?」


「お仕置き中だ」


「お仕置き中?」


「ああ、裏世界に落とした」


「なんでそんなことを!?」


「喋らなかったから」


「え、それはどういう……」


 俺は不可解そうな顔をしているエミールの影にゲートを開いた。


「エミールの影にゲートを開いたから、しばらく動かないでね。あと、通行人に見られないように壁になってて」


「は、はい。それはいいですが……」


 俺はエミールの後ろにしゃがみ、ゲートの中に頭を突っ込んだ。


 その瞬間、あまりの眩しさに目をつむった。なんだこの明るさは。まるで裏世界から地上に出てきた時のような感覚だ。今はその逆なのに。どうなってんだ?


 なんとか目を開けて辺りを見る。光の正体は、アルの魔法だった。光の球が何十個、いや何百個も裏世界の中に浮かんでいる。その光が邪魔でアルがどこにいるかも分からない。


 俺は大声でアルを呼んだ。


「アル、何やってるんだ! 出口はここだぞ!」


 すると、どこに隠れていたのか、即座にアルがゲートに飛び込んできた。普通に泳いでこれほどのスピードは出ない。風魔法でも使ったのだろうか。


 とにかく俺はアルに押し出され、頭を外に出した。それと同時にアルも飛び出す。そして、アルは尻餅をついた俺に馬乗りになり、胸ぐらを掴んで迫った。


「おい、やっていいことと悪いことの区別もつかないのか」


 とてつもない殺気を感じる。でも、謝りたくはない。


「そんなに怒るなよ。魔法で明るくしてたじゃんか」


「明るくしたってあそこじゃ何も見えないだろ! 光なんて気休めにしかならないんだよ!」


「でも安全な場所ならたいして怖くないんだろ?」


「裏世界はなんか特別気持ち悪いんだよ!」


「気持ち悪いとか言ってんじゃねー! 俺の第二の故郷(ふるさと)を!」


「うるさい黙れ! とにかくオレを二度と無断で沈めないって誓え!」


「分かった。じゃあ謝ってくれ」


「なんでよ! 謝るのはゼラの方だろ!」


「俺の心を(もてあそ)んだだろ。謝ってくれたらもう裏世界には沈めない」


「……そうか」


 アルは静かに立ち上がり、俺を見下ろして言った。


「それなら、ゼラにはパーティーを抜けてもらうしかないな」


 俺はアルの足にすがりつき、必死で謝った。


「ごめんなさいごめんなさい。ほんの出来心だったんです。許してください」


「もうオレを沈めないか?」


「沈めません沈めません」


「よし、じゃあ許してやる」


 俺はアルから離れて言った。


「さてと、エミールも待たせてすまなかったな。さっさと宿を探しに行こう」


「き、切り替えが早いですね、ゼラ様」


「俺の特技だ」


 ということで、三人で宿を探しに行く。といっても、今までの民家サイズではないので、探す必要がないほど宿屋はデカい。


 どれくらいデカいかというと、ざっとギルドと同じくらいの大きさはある。三階建てで、広さは民家の十倍くらいありそうだ。


 宿の前に着き、少し緊張しながら中に入る。中もギルドに似ていて、大きな受付カウンターがあった。ただ、受付係の人数は一人だ。身なりが綺麗な若い男が立っている。


 アルが受付係に言う。


「三人で泊まりたいのですが、部屋は空いてますか?」


 受付係はニコリと笑って答えた。


「はい、空いていますよ。一泊ですか?」


「ええ」


「かしこまりました。料金は三名様で150ガランです」


 俺は驚いて言った。


「ひゃ、150ガラン! てことは、一人50ガランもするのか。たかが一泊だけで」


 料金が前の宿代の5倍だ。俺の弓よりも高い。まさかこれほどとは。


「一泊できるだけじゃないぞ」とアル。「他にもサービスがあるはずだ」


 受付係が付け加える。


「はい、ございますよ。大浴場が使えます。それから、服の洗濯もこちらの従業員がいたします。どちらも無料です」


「えー、嬉しい」


 エミールが目を輝かせて言う。


 そりゃエミールは嬉しいだろうが、俺はそれほど嬉しくない。今までアルに無料でやってもらえていたことだ。そのサービスはいらないから、もっと料金を下げてほしい。


 ま、アルからしたら嬉しいだろうな。俺のために魔力を消費するのも手間(てま)だから。


 そんなこんなで、アルは受付係から鍵を三つ受け取った。そのうちの一つを貰う。鍵には『3』と書かれた小さいプレートが付いていた。部屋番号のようだ。


 俺達は階段を上り、二階に移動した。


 長い廊下を見て驚愕する。両側の壁にドアがずらりと並んでいた。全部で二十四個もある。てことは、部屋数も当然二十四。それまで安宿はせいぜい五部屋くらいしかなかった。しかも、これと同じだけの部屋が三階にもあるのだ。


 ここまで部屋が並んでいるのは圧巻だ。興奮してきたな。


 さっそく『3』とプレートで示されたドアに鍵を入れる。ガチャリと回してドアを開けると、そこには楽園が広がっていた。


 そう、()()()()いるのだ。今まで泊まっていた部屋の倍は広い。しかも、服を掛けておくクローゼットや、机と椅子まで揃っている。


 こんなのもう宿じゃねーよ。家じゃん。ここに住めたら、自分の一軒家なんて建てる必要無いな。


 あと、ベッドもデカい。俺は弓を床に置いて靴を脱ぐと、ベッドに飛び込んだ。


「う、うおおおおおお」


 思わず叫ぶ。なんだこの感じ! 柔らかくて跳ね返る。ふわふわのバインバインだ。


 俺はベッドの上をゴロゴロと寝転がったり、立ち上がって飛び跳ねたりした。


「このベッド独占できるとか、貴族じゃん」


 大興奮でぴょんぴょんしていると、ドアからアルの声がした。


「ゼラ、飯を食いにいくぞ」


「あ、うん、分かった」


 返事をしてベッドを降りる。靴を履いて部屋を出たると、アルとエミールが待っていた。


「ゼラ様、この宿にはレストランまであるそうですよ」


「レストラン? 飯屋のことか?」


「はい。いつもの店よりも高価なものが食べられます」


「へぇ、どんなもんかね」


 三人で一階に移動する。入り口から右側に進んだところに、レストランとやらがあった。


 丸いテーブルがいくつも並んでいる。宿屋の一部なのに、いつもの飯屋よりも広い。たしかに高級感がある。


 俺達はテーブル席に座り、メニュー表を開いた。


 うーむ、どの料理も高い。すべての料理が5ガラン以上だ。5ガランでも安い方で、ほとんどが10ガラン以上はする。


 メニューを眺めながら呟く。


「50ガランも払ってるんだから、このレストランも無料にしてほしいよな。金払うんだったら外で食うのと一緒じゃん」


 アルが言う。


「でも、他の店よりも安いと思うぞ」


「そうなの?」


「ああ。この宿の客しか使えないからな」


「ふーん」


 なら、一応お得なのか。だったら良しとしますか。


 メニュー選びに戻る。すると、興味深い料理名が目に止まった。それを指さして二人に言う。


「二人とも見てくれ! グナメナ・デラックスだって! 値段は10ガラン」


 アルが呆れ顔で言った。


「おい、ここでもグナメナ食うのか?」


「違う。これはグナメナ・デラックスだ。普通のグナメナじゃない。よし、俺はこれに決めた」


「じゃあ、えっと、私は――」


 エミールとアルも料理を決め、店員に注文する。しばらくすると料理が運ばれた。


「おお、これがグナメナ・デラックス……」


 白い皿の上に、灰色い肉が乗っていた。ここは普通のグナメナと同じ。ただ、そこにかかっているソースの色が違った。普通なら茶色だが、デラックスのソースは金色だ。うっひょー、マズそー。


 ナイフで切り、口に入れる。


 んん!? な、なんだこれは。美味い。美味すぎる。肉の味は普通のグナメナだが、この金色のソースが何とも言えないほど美味い。肉との相性抜群だ。一緒に頼んだパンと一緒に食べると、これまた美味い。てか、パン自体のグレードもアップしている。美味すぎる。


 夢中で食べていると、エミールが尋ねてきた。


「どうですか、お味は?」


「……ん、デラックス」


「答えになってねーよ」とアル。


 俺はふと思いつき、エミールに提案した。


「そうだ。エミールも食べてみなよ。グナメナは口に合わなかったみたいだけど、これならいけるかもしれない」


「い、いいですよ、私は」


「そう言うなって。騙されたと思って」


「そんなに言うなら……」


 俺はエミールの前に皿を差し出した。エミールが肉を小さく切って口に入れる。


 その瞬間、エミールはナプキンにデラックスを吐き出した。美しい顔を歪めて言う。


「ゼラ様、こんなもの食べてはいけません。これは毒です」


「ど、毒なわけないだろ? こんなに美味しいのに……」


 自分が好きな物を否定されて落ち込む。せっかく10ガランも払ったのに。まあ、勧めたのは俺だから仕方ないけど。


 俺は心の傷を埋めるようにグナメナ・デラックスを貪った。あっという間に完食する。


 三人とも料理を食べ終わり、レストランを出た。俺が二人に言う。


「さて、じゃあ、いつもの場所で稽古しますか」


 しかし、エミールが言った。


「あの、その前に、お風呂に入りませんか? 少し早いですけど」


「ん、別にいいけど」


「やった。じゃあ、お風呂から上がったら、ここのフロントに集合しましょう。それでは」


 エミールはアルの意見も訊かず、そそくさと自分の部屋に戻っていった。換えの服を取りに行ったのだろう。よっぽど早く風呂に入りたいらしい。


 そういえば、エミールはアルの水魔法で服や体を洗っているわけではない。お金に余裕があるわけでもないから、風呂屋に行ける頻度も少ないだろうし。


 今までずっと悩んでたんだろうな。これからは無料で洗い放題だ。良かったね。


 そんなことを考えながら、アルと二人で風呂場に移動した。脱衣所の棚に脱いだ服を突っ込み、浴場に直行する。


「おおー」


 感嘆の声が漏れる。圧巻の大浴場だ。人工の温泉のようになっていて、岩を重ねて作られた湯船に、お湯が注がれていた。お湯は壁の向こうから出ている。仕組みが謎だ。


 また、湯船は客室と同じくらいの広さがあった。しかもそれが三つも並んでいる。それぞれ湯の色が違い、赤、青、黒になっていた。面白い。


 俺はさっそく赤い湯船に浸かろうとしたが、アルに止められた。


「待て、まずは体を洗ってからだ」


 湯船の手前には、小さい噴水のような装置が五つあった。まずはそれで体を洗うらしい。


 床から石でできた1メートル半くらいの棒が突き出し、その先からとめどなくお湯が湧き出ている。棒の真ん中辺りが丸い器のように広がって、その中にお湯を溜めていた。


 アルはそのお湯を木でできた(おけ)で掬い、俺の体にかけた。


「さ、もういいぞ」


 OKが出たので、赤い湯船に直行する。浸かるとほどよい湯加減だった。あと、花の良い香りがする。赤色の正体は何かの花なのだろう。いい気持ちだ。


 アルはというと、黒い湯船に浸かった。


 暗闇嫌いなくせになんで最初に入るのが黒なんだよ、と内心ツッコみつつ、夢見心地でお風呂を満喫した。


 ふやけそうになるほど浸かっていると、アルが先に上がった。そして、浴場の端に元々置かれていた青い塊を手に取った。手の平に収まるくらいの物体で、いったい何なのか分からない。


 アルはそれを濡らし、手にこすりつけた。そして、頭を両手でゴシゴシと(こす)る。


 すると、不思議なことにアルの髪が見る見るうちに泡だらけになっていた。なんだ、なんだ?


 俺は湯船を上がり、アルに尋ねた。


「何やってんだアル。その青いの何だ?」


「石けんだ。これで髪と体を洗う。お湯だけで洗うよりも綺麗になる」


「へぇ。俺も真似しよ」


 石けんを手に取り、アルと同じように髪を洗う。それを噴水のお湯で洗い流した。


 髪を触り、俺は衝撃を受けた。


「アル、アル!」


「今度はどうした?」


「髪の油が無くなってパサパサになってる。これ、大丈夫なのか?」


「それが綺麗になってるってことだ」


「ほんとだな? 朝起きたら髪が全部抜けてたりしないよな」


「しない」


 そうなのか。ビビらせやがって。


 俺は石けんとやらの泡で体も洗った。全身から良い匂いがする。こりゃアルの水魔法よりもいいな。


 体を洗い終わると、アルが脱衣所に向かったので、俺もついていく。アルは山のように積まれているタオルを手に取り、体の水を拭いた。俺も真似して尋ねる。


「なあ、これもタダか?」


「ああ」


 アルは体を拭いた後、呪文を唱えた。


「ルーア」


 髪に染みこんだ水が空中に集められ、小さな球を作る。アルはそれをタオルを持った手で掴み、床に置かれたタオル入れの箱に投げた。


 結局、髪は水魔法に頼らないといけないらしい。俺も頼んで髪を乾かしてもらう。


 その後、俺は自分の服を着ようとしたが、アルは持ってきた服を着ず、代わりにタオルの横に置かれていた服を着始めた。


「おいおい、それアルの服じゃないだろ?」


「これも宿のサービスだ。誰でも着ていい。でも借りれるだけで、貰えるわけじゃないからな」


「へぇ、そんなサービスまであるのか。じゃあ俺も」


 俺もアルと同じように宿の服を着た。薄黄色い無地の上着とズボンだ。シンプルなデザイン。


 二人で服を持って脱衣所を出る。風呂場の出口近くには小さな受付カウンターがあった。『洗濯場』と書かれている。


 アルは受付係の女の人に服を渡した。


「洗濯お願いします」


「かしこまりました」


「あっ、俺のもお願いします」


「はい、かしこまりました。洗濯は10分ほどで終わるので、それまでお待ちください」


 は、早い。たったそれだけで終わるのか。アルみたいな凄腕の水魔法使いでも雇ってるのかな。


 そんなことを思いながらフロントに行くと、エミールが既に待っていた。俺達の姿を見て言う。


「あっ、お二人とも宿の服ですね。元の服は?」


「洗濯屋に出したよ」と俺。


「なんだ。それなら私も渡してきます」


 エミールはそう言って風呂場に戻っていった。


 その後、宿の服を着たエミールと合流し、レストランで洗濯が終わるのを待った。冷たいジュースを飲む。これも美味い。


 10分後、服を受け取って着ると、なんだか肌触りが良くなっていた。ふわふわしっとりな仕上がり。さすがプロ。アルの水洗いとは大違いだ。それに、なんだかいい匂いまでついてるし。まるでお花になったみたい……。


 こうなってくると稽古をして汗を流したくなくなってくる。そこで、今日は弓の稽古を休み、エミールの稽古をただ眺めていることにした。


 原っぱに寝そべり、エミールが頑張っている姿を眺める。


 見かねたアルが俺に言った。


「おい、サボってないでゼラも稽古しろ!」


 俺は穏やかな気持ちで答えた。


「今の俺は花だから。風にそよぐことしかできないよ」


 アルは「は?」というような顔で俺を見ると、何も言わずにエミールの指導に戻った。


 ああ、なんて平和なんだろう。ずっとこの時間が続けばいいのに。


 そう思いながら時が経ち、日が暮れてきた。


 三人で宿に帰る。着いたらレストランで晩飯だ。さーて、何食べよっかな。やっぱりグナメナ・デラックスにしようかな。それとも他の料理にしよっかな。悩むねえ……。


《悪魔・完》

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