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影に潜れば無敵の俺が、どうしてこんなに苦戦する  作者: ドライフラッグ
Cランク編
30/78

アルvs戦闘狂 ②

 アルが敵の言葉を否定する。


「嘘ではない」


 敵が嘲笑混じりで問い詰めた。


「はっ、じゃあどうやってそれを証明するんだ?」


「神命流の技こそが証明だ」


「そんなもん証明になるかよ。もはや宗教だな。信じるか、信じないかの世界だ。開祖が伝説の勇者だなんて、言ったもん勝ちだもんな。勇者が生きていたのは千年前。もはや誰も、嘘と指摘できる人間はいない。それをいいことに、本当の創始者が起源を捏造したんだろ? 違うか?」


「……そう思いたいのであれば、そう思っていればいい」


「強がるなよ。じゃあ訊くが、どうして神命流の使い手はこんなに少ないんだ。今や全流派の中で最も少ないんじゃないか? もし、かの有名な伝説の勇者が創始したのであれば、創られたのが千年前とは言え、もっと多くの弟子が残っているはずだ。それがどうしてこれほど規模が小さくなったのか。答えは一つ。弱いからだ。だからこそ、本当の創始者は起源を捏造してでも、無理やり弟子を増やすしかなかった」


「……黙れ」


「黙ってほしけりゃ、さっさと俺を殺せ。弱小流派には無理だろうがな」


 敵が言い終わるや否や、アルが剣を振り、波動斬を放った。敵は回避せず、もろに攻撃が当たる。だが、敵の体には一切傷が付かなかった。


 俺は驚き、アルの顔を見た。眉を少しひそめている。


 敵が豪快に笑って言った。


「あはははは。ずいぶん手加減したな。あれだけ馬鹿にされて、まだ俺を殺す気になれないのか。回復魔法で治せるように威力を抑えただろう? そんな情けは剛魔流に不要。俺の体は魔力の鎧で守られている。傷つけたければ、今の三倍の力で撃て。そうすれば、かすり傷くらいはつけられる」


 そうか。こいつ、だから鎧を着てないんだ。攻撃だけじゃなくて防御も完璧とは。これならAランク冒険者が倒されるのも分かる。アル、こんな化け物どうやって倒すんだ? てか、生け捕りにするとか余裕ぶっこいてる場合じゃねーぞ。


 俺は心配しながらアルを見つめた。アルは落ち着いた様子で言う。


「お前の階級が分からないからな。手加減もする」


「はっ、俺は上級剣士だ。手加減は不要。ま、俺はお前に手加減してやるがな。すぐに倒してもつまらん」


「オレも上級剣士だ。手加減はいらない」


「いや、いるね。弱小流派の階級に価値なんて無い。貧乏な師匠に金さえ払えば手に入るんじゃないか?」


「黙れ」


 アルが剣を()いだ。狙いは敵の首だ。敵はまた避けず、攻撃をもろに受ける。バチィッと(ムチ)が当たったような音が響いた。だが、敵の首には傷一つ付いていない。


「あはははは、それが本気か? もう波動斬に頼るのは止めろ。剣士なら直接斬り合え」


「望むところ」


 アルが跳躍し、一気に間合いを詰めた。敵が剣を振りかぶる。そして、まだアルが剣の間合いに入っていないというのに、勢いよく剣を振り下ろした。


 その瞬間、敵の周囲に強風が吹き荒れた。見ているこっちにも風が当たる。目を閉じたくなるほどの強さだ。


 いくら筋力を増強したからって、剣圧でこれだけの風が起こせるとは思えない。おそらく、これも剣から魔力を放っているのだろう。波動斬とは違う剛魔流の技だ。


 強風に(あお)られ、アルは接近する脚を止めた。それどころか後ろに倒れそうになっている。


 そこにすかさず、敵は降ろした剣を振り上げる形で斬りかかった。


 アルはひらりと体を回転させ、なんとか攻撃を避ける。だが、敵の攻撃がまた強風を発生させ、アルの体勢をさらに崩した。そこに追撃が襲いかかる。


 その瞬間、アルと敵の間が光り輝いた。


 俺は眩しくて目を閉じる。おそらく敵も同じだろう。俺が目を開いた頃には、アルは敵と距離と取っていた。3メートルの間合いに戻っている。


 敵は目を開け、こう言った。


「無詠唱の光魔法で目つぶしとは。情けないな。お前は剣士ではなく魔術師なのか?」


「お前だって魔力で風を起こしてるじゃないか。それも風魔法みたいなもんだろ」


「いいや、剣術だ。俺の技は剣技と魔力が一体化している。だがお前の技は違う。目つぶしも、さっきの鎖も、剣から独立したただの魔法に過ぎない。どうして剣技を使わないんだ? いいや、訊かなくても分かる。弱すぎて使い物にならないんだろう?」


「……その減らず口さえ無ければ、一流の剣士として尊敬するんだがな」


「はっ、雑魚の尊敬なんていらねーよ。俺を喜ばせたいなら、まともな剣技を見せてくれ」


 敵はそう言うと、一気に跳躍して間合いを詰めた。踏み込んだ地面が抉れている。アルの跳躍よりも速い。


「ライムケニオン」


 アルは後ろに飛びながら呪文を唱えた。光の結界が現れる。


「小賢しい! 剣技を見せろと言っている!」


 敵はあっという間にアルに接近し、結界に向かって剣を振り下ろした。アルは素早い身のこなしでそれを(かわ)す。


 さっきよりも動きが安定している。結界が風を防いでくれているのだろう。


 敵は何度も剣を振るうが、アルは軽々とそれを避けた。だが、いつまでも反撃しない。避けるので精一杯なのだろうか。


 敵が嘲笑混じりに言う。


「はっ、その結界は風よけにしかならないのか。俺の剣を受け止めてみろ」


「無理だな。斬られる」


 アルは平然と答えた。言葉の内容と態度が噛み合っていない。


 やっぱりライムケニオンでも防げないらしい。アルだって魔王化エミールのライムケニオンを斬ってたし、敵も同じことができるんだろう。どうするつもりだ? アルの態度は余裕そうだけど、戦いは敵の方が有利に見える。


 敵が剣を振りながら言った。


「俺が疲れるのを待ってるんだろう? だがな、疲れたところで俺に隙はできないぞ。俺の体はお前の剣を通さない。俺を斬れるのは、剛魔流の上級剣士だけだ!」


「だろうな」


 アルがまた平然と答える。


 だろうなって、認めんのかよ! なんでそんな余裕そうなんだ。剣で斬れないんだぞ。剣士として完全に負けてんじゃねーか。


 いや、てことは、魔法で攻めるつもりか? でも、そんな凄い魔法があるならとっくに使ってると思うし。てか、敵の攻撃が速すぎて、呪文唱えてる暇も無いぞ。どうすんだよぉ、マジで。


 俺はアルが心配でならなかったが、見守ることしかできない。


 アルは敵の攻撃を避け続ける。たしかに、このまま時間が経てば敵は疲れるだろう。が、それはアルも同じだ。しかも、ライムケニオンに使う魔力が切れるかもしれない。そうなったら攻撃を避けることすら難しくなる。


 時間稼ぎをして不利になるのはアルの方だ。早く攻撃しろよ! てか、一人で勝てないと思うなら俺達に力借りればいいだろ! 見栄張ってんじゃねーぞ!


 ハラハラしながら戦いを見ていると、ついに敵の攻撃が結界に触れた。バチィッと音がする。だが、幸い(かす)っただけなので、結界は壊れなかった。


「惜しいな。もう少しでぶった斬れた」


 敵が楽しそうに言う。疲れるどころか、ますます元気になってるみたいだ。


 それだけじゃない。アルの避け方を読み、攻撃を当ててくるようになった。敵の攻撃が何度も結界に触れる。俺はそのたびに、アルが結界ごと斬られるんじゃないかとヒヤヒヤした。


 敵が高らかに叫ぶ。


「これで幕引きだ!」


 敵が剣を大きく横に払う。その一閃で、結界は斬り裂かれ、粉々に砕け散った。


 だが、その中にアルはいない。瞬時に身をかがめ、敵の横をすり抜けて背後に回った。


 アルが剣を振り上げ、敵の背中を斬りつける。光り輝く刃が敵の体を貫通し、肩から腰へと通り抜けた。エミールの呪いを解除した時と同じだ。


 だが、光の刃では敵を傷つけられないはず。現に、敵の背中は無傷だ。


 アルは敵を斬りつけた後、後ろに飛んで距離を取った。


 敵が悠々と振り返って言う。


「どうした。今、何かしたか?」


 敵に変化はない。何のダメージも受けてないみたいだ。


 敵は勝ち誇ったように言った。


「これが剛魔流の強さだ。俺を斬れるのは剛魔流の上級剣士だけ。そして、殺せるのは剛魔流の聖級剣士だけだ。すべての流派の中で、剛魔流こそが最強! 他流派など敵ではない!」


 アルは黙って敵の演説を聴いた後、事も無げにこう言った。


「ご機嫌なところ悪いが、神命流の技でお前を斬った。オレの勝ちだ」


「はぁ? 馬鹿にされすぎて頭がおかしくなったのか? 俺はこの通りピンピンしてる。まさか、形だけでも斬ったから勝ちだとか言うんじゃねーだろうな? これは木刀でやる模擬試合なんかじゃねーぞ?」


「ライムキース」


 アルは敵の問いに答えず、呪文を唱えた。光の鎖が敵に巻き付く。


「はっ、意味ねーってのが分かんねーのか!」


 敵は威勢良く言うと、腕に力を込めて鎖を壊そうとした。だが不思議なことに、さっきは呆気なく壊れた鎖が、今度は一向に壊れる気配が無い。それどころか更に体を締めつけていく。


「な、な、なんでだ」


 初めて敵が動揺しだした。アルが説明する。


「お前が馬鹿にした神命流の力だ。神命流の剣技は刃を光に変える。だから、斬りつけても相手の体は傷つかない。その代わり、型ごとに特殊な効果がある。今、お前に使ったのは一の型だ。一の型で斬られた相手は、斬られた箇所に目に見えない傷が開く。その傷からは魔力が流れ出し、相手は満足に魔力を使えなくなる。お前はもう剛魔流を使えないんだよ」


「そんな……馬鹿なことが……」


 敵は顔を真っ赤にしながら腕に力を込めている。それでも鎖は千切れない。


「あまり無理をするな」とアル。「その状態で下手に魔力を使えば気絶するぞ」


「黙れ」


 敵は負けを認められないらしい。渾身の力で鎖を破ろうとするが、アルはさらに鎖の力を強めた。


「ぐふっ」


 鎖に締めつけられ、敵が地面に膝をつく。アルが敵に近づき、見下ろしながら言った。


「いい加減にしろ。負けを認めて、俺達についてこい」


「誰が認めるか。剛魔流が、神命流なんて弱小流派に負けるなんて……」


 アルが溜息をついて言う。


「はぁ……。これはあまり自分では言いたくないんだがな、神命流の剣士がなぜ少ないのか教えてやろう。それはな、使いこなせる人間が少ないからだ。考えてもみろ。勇者が使っていた剣術だぞ? それが誰にでも使いこなせるわけないだろ」


「……」


 敵は黙って地面を見つめていた。そして、顔を上げてアルを見ると、あっけらかんとした調子でこう言った。


「それもそうだな!」


 認めるのかよ!


 陰で見ていた俺は拍子抜けした。どうしたんだよ、さっきまでのシリアスな感じは!


 敵が明るい調子で言う。


「この俺を倒したってことは、本当に勇者が創ったんだろうな。神命流の起源を示す、これ以上ない証明だ。この俺を倒せたってことは、魔王だって倒せるだろーよ。そうと分かれば負けても悔いは無い」


 アルが小さく笑って言う。


「ふっ、現金な奴だな。ただ、剛魔流の上級剣士にそう言ってもらえるのは光栄だ。さ、負けを認めたんなら、一緒にミルグの治安署に行ってもらおうか」


「いや、それは断る。ここで俺を殺せ」


「何?」


「俺は真剣勝負を挑んで負けたんだ。敗者は死ぬのが相応しい」


「ダメだ。そんなこと、お前を殺す理由にはならない」


「理由なら他にもある。俺は人を殺してる。どうせ治安署に行っても死刑になるだけだ。だったら、俺は俺に勝った奴の手で死にたい」


「……まだ死刑になると決まったわけじゃ」


「いいや、俺は今までに何人もの剣士を殺した。死刑は確実だ。だからさっさと殺せよ。それが嫌なら、俺はここで舌を噛み切って死ぬ」


「……」


 アルは険しい表情で押し黙った。


 なんだかマズい展開になってきたので、俺は二人の間に入って言った。


「ああ、ちょっと待って待って」


 敵は俺を見ると、興味無さそうに吐き捨てた。


「なんだクソガキ。俺は雑魚の言うことなんか聞かねーぞ」


「そこをなんとか。あのねえ、勝手に死なれると困るんですよ。報酬が半分になっちゃうから」


「ああ?」


「ギルドはあなたを生け捕りにしろって指示を出してるんですよ。だから、殺しちゃったら報酬を半分にされるんです」


 敵が大声で怒鳴る。


「お前らの事情なんか知らねーよ!」


「まあまあ、怒らずに聞いてください。あとね、あなたは死刑になったって死なないでしょう?」


「……どういう意味だ?」


「だって、どうやってあなたを殺すんです? 剣で斬っても死なないのに。どうせ首を縄でくくったって死なないでしょう? あと、あなたの強さなら脱獄だって簡単だと思いますけど」


 俺はそこでアルに尋ねた。


「なあ、アル。一の型でつけた傷はどれくらいで塞がるんだ?」


「だいたい三日くらいだ」


「三日以内に死刑が執行されると思う?」


「いや、死刑の前に裁判をするから、そんなに早く執行されることはない」


 俺は敵に視線を戻して言った。


「だそうですよ。だから大丈夫です。あなたを殺せる人間が治安署にいるとは思えませんし。さっさと治安署に行きましょう」


「……」


 敵はしばらく思案していたが、パッと明るい顔になって言った。


「それもそうだな! 俺は無敵だ。治安署の奴らなんて目じゃねーぜ。殺せるもんなら殺してみろってんだ」


「そうです、その意気です」


「よおし、俺を治安署に連れてけ」


「かしこまりました。お連れいたします」


 俺は内心ほっとしていた。敵が単純な奴で助かった。


 アルが笑って言う。


「お手柄だなゼラ。助かったよ」


「何言ってんだよ。今日戦ったのは全部アルだろ? やっぱりアルは勇者様だ」


 俺の言葉を聞き、立ち上がった敵がアルに言った。


「おいおいおい、お前まさか、仲間に自分のこと勇者様って呼ばせてんのか?」


 アルが顔を赤くして言う。


「ち、違う! こいつが勝手に言ってるだけだ!」


 俺はとっさに悲壮な顔をして嘘をついた。


「そ、そんな。勇者様って呼ばないとパーティーから外すって言ったじゃないか」


 アルがとてつもない殺気を込めて言う。


「殺すぞ」


「ひぃっ」


 それは仲間に向けていい殺気じゃなかった。てか、敵にも向けてなかっただろ。


 敵は大笑いして言った。


「あははははは、恥ずかしがんなよ。俺にもそういう時期はあった。懐かしーねぇ。上級剣士つってもガキはガキだな」


「だから違うって言ってるだろ!」


 いつの間にか、俺達は敵と打ち解けていた。今まで死闘を繰り広げていたのが嘘みたいだ。不思議な雰囲気をもった男だった。


 ミルグへの道を歩きながら、俺は敵の名前を尋ねた。ローシュ・エルトロンというらしい。最初はエルトロンさんと呼んでいたが、「むずがゆいからローシュでいい」と言われた。


 ミルグにつき、俺達は治安署でローシュと別れた。帰りの馬車の中で、俺はローシュが無事に生き延びてほしいと願っていた。人殺しなのに……。


《アルvs戦闘狂・完》

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