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影に潜れば無敵の俺が、どうしてこんなに苦戦する  作者: ドライフラッグ
Dランク編
24/79

風使いの小人 ①

 朝。目が覚めると、体調は良好だった。昨日の気持ち悪さが嘘のようだ。これならなんとか戦える。


 ベッドにアルはいなかった。外で素振りをしているのだろう。


 てか、そんなことよりも腹が減った。昨日は昼飯も晩飯も食ってないからな。その分、がっつり食わないと。


 俺は早く飯が食いたくて、アルを呼びに宿の外に出た。すると、ちょうどアルが戻ってくるところに出くわした。


「おう、元気になったか?」とアル。


「なんとかな。辛い冒険だった……」


「大袈裟に言うな。食い意地張って腹壊しただけだろ」


「分かってないねぇ。俺にとって食の探究ってのはそれくらい重要なんだよ。てことで、早く朝飯食いにいこうぜ。もうぺこぺこだよ」


「ああ、少し早いが、エミールを起こしにいこう」


 俺とアルは宿の中に戻り、エミールの部屋に向かった。ドアをノックすると、中からエミールが返事をした。


「はい、なんでしょう」


「エミール、飯食いに行こうぜー」


「あ、分かりました。ちょっとお待ちを」


 少し待つと、エミールが身支度を整えて出てきた。そして、心配そうに尋ねる。


「ゼラ様、もう大丈夫なんですか?」


「ああ、すっかり元気になった。もう仕事もできる。心配かけてごめんね」


「そうですか。良かった」


 俺達は宿を出て、いつもの飯屋に向かった。そこでは俺はパンとスープにグナメナ、それからエミールが食べていたグングルの煮付けも注文する。これが美味かったので、追加でもう一皿頼んだ。


 食べ終わって店を出る。ギルドに向かっていると、なんだか気持ち悪くなってきた。どうやら朝飯を食い過ぎたようだ。


「うっぷ」


 吐き気を覚えて口を押させる。


 それに気づき、アルが言った。


「どうしたゼラ。また症状が出たのか?」


「いや、ちょっと、食い過ぎて気持ち悪いだけ」


「はぁ」アルは大きな溜息をついて言う。「()きっ腹に急いで詰め込むからだ。昨日あんな目に遭ったの懲りない奴だなぁ。その食い意地、どうにかしろ」


「分かってないねぇ。俺にとって食の探究ってのは――」


「それさっき聞いた」


 アルがキレ気味で返す。でも、エミールは優しく俺をいたわってくれた。


「ゼラ様、そんなに酷いのでしたら、今日は休んだ方が……」


「大丈夫だよ。消化したら吐き気も収まると思うから。馬車に乗ってるうちに収まるよ。うっぷ」


 俺の食い意地のせいで最悪のスタートとなったが、とにもかくにもギルドの入り口をくぐった。


 そういえば、俺はもう昨日の依頼達成でDランクに昇格したのだった。少し前までFランクの新人冒険者だったのに。俺の成長速度は凄まじいね。ま、ほとんどアルのサポートと指導のおかげだけど。


 三人で掲示板の前に立つ。アルが言った。


「今日はどんな依頼にする?」


「うーん、そうだなぁ」俺は吐き気を堪えながら言った。「昨日は150ガランの依頼を達成できたから、今日は170か180くらいのにしたいね」


 俺は依頼書に目を通し、報酬が180ガランのものを見つけた。中身を読む。


 依頼内容はハべール一匹の駆除。モンスターでありながらミルグの商店で盗みを働いているらしい。おそらく品物を奪って食べてしまうのだろう。


「これなんかどうだ?」とアルに意見を訊く。


「ふむ、ハウベールか。いいんじゃないか」


 言うと思った。これから先、アルが『これは絶対にダメだ』と言う依頼などあるのだろうか。


「私はゼラ様の決定に従いますよ」とエミール。


 よし、今日の依頼はこれで決まりだ。俺は依頼書を剥がし、裏を見てハウベールの姿を確認した。緑色の小人で、ゴブリンに似ている。見た目は弱そうだ。


 俺は受付で手続きを済ませると、三人でギルドの外へ出た。今日は馬車で目的地に向かう前に、武具屋に寄らなければならない。昨日のダンドンとの戦いで、矢を二本も消費してしまった。残りはたった一本だ。買い足さねば。


 ということで、武具屋でとりあえず矢を九本買った。これで全部で十本。無駄打ちしなければまず足りるだろう。


 俺達は馬車に乗り、昨日と同じようにミルグに向かった。


 目的地に到着する頃には、ぱんぱんに膨れていた俺の腹は引っ込み、吐き気は収まっていた。


 馬車を降りると、まずは聞き込みをすることにした。商店が並んでいる場所に行き、敵の被害にあった店がどこなのか尋ねる。


 それによると、被害にあっていたのは果物屋と野菜屋と肉屋の三つだった。それらの店の人間に話を訊くと、敵はいつも昼過ぎにやってきて、食べ物を盗んでいくのだという。その際に風魔法を使い、食べ物をあっという間に浮かせて奪っていくので、防ぐことができないらしい。


 さっそく有力な情報を掴むことができた。敵が来る場所と時間さえ分かれば、あとは待ち伏せをしていればいい。


 俺達は昼過ぎまで時間を潰すことにした。ぶらぶらと店を見て回る。エミールはアクセサリーや服を興味深そうに見ていたが、俺はまったく興味が無かった。


 俺が興味あるのは食い物くらいだ。だが、今は腹を壊したばかりなので、さすがに食欲も湧かない。屋台の食べ物を見てもそそられなかった。


 アルも俺と同様に興味が無さそうに歩いていたが、魔道具屋を見つけた時には目の色が変わった。店先に並べられた品物をしげしげと見る。


 俺も隣に並んで商品を見てみた。カラフルな石ころや杖が並んでいる。


 こんな物の何がいいのだろうか。そう思いながらふと値札を見ると、俺は目の玉が飛び出そうになるほど驚いた。


「よ、400ガラン!?」


 最初は見間違いなのかと思った。目の前に置かれた拳大の石ころが400ガラン。今受けている依頼を二回達成しても買えない。何でこんなに高いんだ?


 驚く俺に、アルが説明した。


「別に高くもないさ。魔石は普通これくらいする」


「魔石ってなんだ?」


「魔力が込められた石だ。そして、魔石をはめ込んで作られるのが、魔術師用の杖。魔石の杖を使えば、魔術師の消費魔力が少なくて済む。ただし、石の魔力が切れれば、新しく買い換えないといけない」


「へぇー、そうなんだ。じゃあ、エミールに持たせた方がいいんじゃないか? 魔力が少ないみたいだし」


「そうだな。もし杖を持てば、エミールでも中級の攻撃魔法くらいは使えるようになろうだろう。ただ、杖も魔石も、今のオレ達には買えないけどな」


「だな。もっと上のランクに行って稼げるようにならないと」


「あ、あの、すみません」と、エミールが遠慮がちに言う。「お二人は私が中級の攻撃魔法を使える前提で話していますが、杖があっても使えるようになるか分かりませんよ」


 俺は笑って言った。


「何言ってんだよエミール。もっと自分に自信持てって。中級くらい使えるに決まってんじゃん。魔王化してる時に最上級バンバン打ってたんだから」


「そう単純な話ではないが、オレもゼラと同意見だ」とアル。「たしかに、魔法は魔力さえあれば使えるというわけじゃない。属性や階級ごとに適性がある。だが、中級くらいなら問題ないさ。そう卑屈になるな」


「はい。その時は、ご指導のほどよろしくお願いします」


「ああ。オレが知ってる魔法なら全部教えてやるよ」


 俺は頷いて言った。


「うんうん。エミールが攻撃魔法を使えるようになったら、俺達もっと強くなるんだろうな。俺なんか足手まといになるかもなってなるわけねーだろ! 調子乗んな!」


 と、俺がノリツッコミをした時だった。向こうから男の声が聞こえてきた。


「ハウベールが出たぞー」


 俺達は会話を中断し、急いで現場に駆けつけた。声を出していたのは果物屋の主人。店の前で大小様々な果物が宙に浮かんでいた。全部で20個はあるだろうか。


 それらがすーっと空中を移動していく。その先に、敵の姿があった。ここから20メートルほど離れた場所に、緑色の肌の小人がいる。背丈は1メートルもない。人間でいうと三歳児くらいの背丈だろう。


 腰蓑(こしみの)をつけ、首には獣の牙でできたネックレスをかけている。


 依頼書に書かれていた絵とまったく同じだ。ただ、絵では敵の大きさまでは分からなかったが、実際に見ると思ったよりも小さく、そして弱そうだった。


 敵は浮かんだ果物を自分の元に引き寄せ、その場を離れていく。


「待て!」


 俺は敵を追いかけた。


 走る敵はすばしっこいが、歩幅が小さいので追いつけないほどではない。


 だが、ここで戦闘を行えば町の人に迷惑がかかってしまう。そこで、あえて追いつかないように速度をゆるめながら走った。


 周りの商店や民家が無くなっていく。人通りも少なくない町外れまで来たところで、俺は本気で走った。敵との距離がぐんぐん縮んでいく。


 5メートルくらいの位置まで近づくと、俺は腰の筒から矢を取りだし、弓につがえた。立ち止まって矢と弦を引き、狙いを定めて打つ。


 だが、矢は狙いから逸れ、敵の頭上を通り抜けた。(かす)りもしていない。


 やはり敵が動いていると矢を当てるのは難しい。しかも悠長に狙いを定めている時間もないので、心理的にも焦りに焦って落ち着かない。


 まあ、まだ矢はたくさんあるし、一発は当たるだろ。


 そう思って走りだそうとすると、敵の方が立ち止まった。そしてこちらを振り返る。矢で攻撃されたことに気づき、反撃するつもりらしい。


 俺は急いで新しい矢を弓につがえた。その矢を放つ前に、敵は俺を指さし、その指をくいっと上に向けた。


 すると、俺の体が宙に浮かんだ。風魔法だ!


「うおっぅおうぉおうぉう」


 空中でバランスが取れずにあたふたする。敵はそれを見てキャッキャッと人間のように笑った。そして、両手を頭の上で叩く。


 おそらく挑発しているつもりなのだろう。ウーニャの時も同じ挑発をされた。モンスターの中では共通の挑発動作なのだろうか。


 クソが。舐めやがって。


 俺は矢を引き、敵めがけて放った。矢の軌道は悪くない。敵の胴体に向かってまっすぐ飛んでいく。


 だが、矢はあり得ない動きを見せた。敵に当たる前に軌道(きどう)が右に急変し、その後くるくると敵の周囲を回った。


 風魔法で矢の軌道を変えられたのだ。こんなことをされてはどんな名人でも矢を当てられない。卑怯だぞ!


「キャキャキャキャッ」


 敵がまた笑って両手を叩く。


 こぉんのクソ野郎が……。


 今すぐ敵に接近してどつきまわしてやりたい。体格なら俺の方が上だ。魔法さえなけりゃ素手でも倒せるのに。クソがっ。


 腹が立ってもどうしようもないが、今の俺は風魔法で浮かされている。どうあがいても身動きが取れない。その場で無様にもがくだけだ。ひっくり返った虫みたいに。


「早く俺を降ろせ、このヤロー」


 俺は仕方なく敵に叫んだ。それで敵が「はい、分かりました」と降ろしてくれるわけもないが。。


 俺に返事をするかのように、敵が動いた。指を一本立て、くるくると回す。すると、浮かんでいた矢が勢いを増し、敵の周囲を高速で回転し始めた。


 あれ、これマズいんじゃないの? もしかしてその矢、俺にぶっさそうとしてる? で、今の状態だと俺は影にも逃げられないし。……俺、死ぬな。


 ヤバいヤバいヤバいヤバい。早く対策を考えないと。ああ、そうだ。


 俺はとっさに敵の足下にゲートを開いた。これで裏世界に沈め、閉じ込めてしまえばいい。どうしてもっと早く気づかなかったのか。


 敵がずぶっと影に沈む。が、それも最初の一瞬だけだった。敵は裏世界に沈みきることなく、空に舞い上がった。


 クソッ、これも風魔法だ。そりゃそうだわな。俺を浮かせられるんだから、自分の体も浮かせるわな! クソクソクソクソオッ!


 敵は上空5メートルくらいの高さまで飛んだ。そこで俺を偉そうに見下ろしながら、「キャキャキャキャ」と笑う。勝者の笑みだ。


 その間にも矢の高速回転は続いている。


 ……終わった。俺は負けたのだ。こんな弱そうな奴に。


 だがね、俺は負けても、俺のパーティーは負けてないんだよね。残念だったな。


 高速の矢が俺に向けて放たれる。


 その瞬間、俺の周囲を光の結界が覆った。矢が結界に弾かれる。


「キャキャ……」


 敵の笑い声が唐突に止まった。


 驚いたかい、ボウヤ。君の敵は俺一人じゃないんだよ。


 結界は当然、アルの防御魔法だ。名前なんだっけ。ライムケニオンだったかな。


 俺は一転して余裕の笑みを浮かべた。反対に敵の笑みは消え、(いぶ)しそうにこちらを見る。


 どうした? 攻撃してこないのか? まあそうだろうな。お前の攻撃はもう俺には効かない。それとも魔王化エミールみたいに風の刃でも出してくるか? 無理だろ? なんたってあれは上級魔法だからな。お前ごときに使えまい。ま、仮に使ってもアルの結界が守ってくれるだろうけど。


 俺は敵の声真似をして嘲笑した。ついでに両手を頭の上で叩く。


「キャキャキャキャ」


 すると、敵は不快そうな顔をして指を下げた。その瞬間、俺の体は地面に落下した。


「痛っ!」


 尻と腰を強打して悶絶する。敵が魔法を解除したらしい。いきなり解くんじゃねー!


 敵は空を飛んだまま逃げていった。盗んだ果物を周囲に浮かべて。


 俺は何もできず、遠ざかっていく敵を眺めていた。


《②に続く》

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