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6  魔道具の回収1

 同じ運命を辿り命を落とそうとも、二度と我が子を失いたくないと強く思っているソフィアは、偽装妊娠を計画した。

 死なせてしまうくらいなら産まないという決断をしたのだ。

 そのために秘密裏に準備した『ピルア』という薬草を、初夜からずっと飲み続けている。


 このピルアという薬草は、女性の体を妊娠と同じ状態にするもので、避妊薬として流通しているものだ。

 だが、一人になる機会がほぼ無い立場となるため、薬を隠れて飲むことは難しい。

 そう考えたソフィアは薬草を丸めて飴でコーティングし、キャンディボックスに入れて持ち込むことを思いついて準備を進めていた。


 母からもらった大事な飴なのだと言えば、メイド達も欲しがったりしないし、勝負は半年間だけなので、追加で用意する必要もない。

 万が一誰かが口にしたとしても、ただ苦みがあるというだけで毒では無いので安心だ。


 一般的に流通している避妊薬は、子種を殺すことを目的としているのに対し、このピルアは妊娠状態に体を持っていくため、高価だが失敗が無く、高級娼婦たちがこぞって愛用している品だった。

 体が妊娠状態ということは、月のモノもないし体温も上昇する。

 飲むのを止めれば三日後には普通に月のモノが始まるので、偽装妊娠をするにはこれ以上ない薬草だった。


 ピルアの存在を知ったのは、前世でのブリジッドからだ。


「ねえ、ソフィアは知っている? 絶対に確実な避妊薬っていうのがあるらしいわ」


「いいえ、知りませんわ。それはどういうものですの?」


「それがね、お友達から聞いたのだけれど……」


 扇で口元を隠しながら、重要な情報を流すような声でブリジッドは説明した。

 王家にとって子供は宝だ。

 したがって避妊薬などを使うことは絶対に無い。

 なぜそんな話をするのだろうと不思議に思いながらも、ニコニコと聞いていた自分の迂闊さが、今となっては恨めしい。


「まあ、私達が使うようなことは絶対に無いわよね。五年も使っていると体を壊すらしいわ。それに太りやすくなるのですって。怖いわよねぇ」


 執務室の机に座り、件のキャンディーを口に入れたソフィアは、前世でのそんな会話を思い出しながらふと笑ってしまった。

 彼女がなぜそんな情報を知っていたのか、なぜ自分に教えたのかなど、今となってはどうでもよい話だが、お陰で今回役に立っているのだから。


「何かお礼でもしなくちゃいけないわね」


 ふと漏らした独り言に侍女が反応した。


「いかがされましたか?」


 慌てて誤魔化すソフィア。


「何でもないわ。今日の予定はどうなっていたかしら」


「十五時より王妃陛下と王太子妃殿下、第二王子妃殿下とのお茶会がございます」


「わかったわ。ドレスの準備をお願いね」


「畏まりました」


 ここまでは全て順調だ。

 準備していた魔道具も、ロビンの寝室にセットしてひと月が経過している。

 もしかすると夫婦の寝室かもしれないとも考えたが、そこは最低限の礼儀ぐらい守るだろうと信じ、本人の寝室にしたのだ。

 

『前回ブリジッドの妊娠が発覚したのは、私よりひと月遅れだったから、行為自体は再来月でしょうけれど、絶対にその一度きりということはないはずよ。でも場所が確定できないのが痛いわね。まさか外で? だとすると本当のケダモノね』


 そう思いながらも、彼女の奔放さを考えるとその線も捨てきれない。

 しかも彼女は幼いころから王族居住区に出入りを許されていたのだ。

 きっと庭の隅々まで熟知していることだろう。


 できれば信頼できる手足となる仲間が欲しいところだが、絶対に失敗は許されないのだ。

 誰かを信用するのは危険すぎるので一人でやるしかない。


『まあいつかは尻尾を掴めるでしょう。今日あたり一度確認して、データを移しておきましょうか』


 焦りは禁物だとソフィアは自分に言い聞かせた。

 炭鉱の件はダレンからの手紙で上手くいったこともわかっているし、祖母の家も自分の名義になっている。

 真相を明らかにした後、もしも罪に問われるのならば、それならそれで良いと思っているソフィアにとって、怖いものは何もない。


「ねえ、ロビン殿下はどちらに?」


 控えている侍女に聞く。


「本日は終日執務室においでになる予定です」


「いつでもいいのでお伺いしたいと伝えてくれないかしら」


「畏まりました」


 侍女が出ていく。

 回収のための言い訳はすでに仕込んである。


「いつでもよろしいそうでございます」


「わかったわ。少し行ってくるからあなた達は休憩していてね」


 喜ぶ侍女たちに手を振って、ソフィアはロビンの執務室へと向かった。


「やあ! 我が愛しの奥様が来てくれるとは嬉しい限りだね。お茶でもどうかな?」


「ええ、いただきますわ」


 ロビンの声にメイドが頷いた。


「お菓子は?」


「いえ、最近少し胃の調子が悪くて」


「それはいけないねぇ。疲れが出てきたのかな? 少し休むかい? 今は差し迫った案件もないし、僕たちはまだ新婚なんだもの、多少の自由は許されるさ」


「まあ殿下ったら」


 お茶が運ばれてきた。

 ロビン好みのハーブティーだ。


「何か用だったの?」


「ええ、先週殿下のお部屋にお伺い致しましたでしょう? その時に忘れ物をしてしまったみたいですの」


「忘れ物? 気が付かなかったな。大事なものなのでしょう? 一緒に探してあげよう」


 ソフィアは焦った。


「いえ、殿下のお仕事の邪魔をするわけには参りませんので、自分で探しますわ。お部屋に入ってもよろしいでしょうか?」


「うん、君は僕の奥さんなのだから、いちいち断る必要なんてないよ? でも今日は僕も時間があるから一緒に行くよ」


 そう言うと、ロビンはさっさと立ち上がってしまった。

 こうなったら気は重たいがセカンドストラテジーを実行するしかない。


「ありがとうございます。では少しお付き合いくださいませね」


 ソフィアは意味ありげな視線をロビンに投げた。

 ゴクッとロビンの喉が動く。


「ああ、君たちは少し休憩でもしておいで。僕は探し物に行ってくるから遅くなる」


 ソフィアの手を取って自室に向かうロビンが、横を歩く妻の耳に口を寄せた。


「どうしたの? そんな言い訳までして。二人きりになりたかったのかな?」


 この行動は前回には無かったことだが、ロビンの反応は予想通りだ。


「もう……いじわる言わないで?」


「君は可愛いね。美しい上に聡明で可愛いなんて、僕はどれだけ果報者なのだろう」


 そんなことを言いながら裏切ったのはお前じゃないか! 

 ソフィアは心の叫びを必死で飲み下しつつ、前回とは違う行動で未来が変わらないことを祈った。


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