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39 出立

「では父上、母上行って参ります。兄上と義姉上、後のことは頼みます」


 辺境領へと向かうレオが王城の前で挨拶をした。


「レオ、苦労を掛けるがよろしく頼むぞ」


「体には気をつけてね」


 最近になってようやくベッドから出ることができるようになった国王と王妃が涙ぐんでいる。


「あとのことは心配するな。お前も頑張ってくれ」


「お義母様のことは任せてちょうだい」


 努めて明るく送りだそうとする王太子夫妻の後ろで、ロビンが泣きそうな顔をしていた。


「ロビン、無理はするなよ。体には気を付けるんだ」


「うん、レオ兄さん。でも兄さんこそ気をつけてね」


「ああ、ソフィアを大切にするんだぞ」


 レオはグッと一度目を瞑った後ソフィアに向き直った。


「ソフィア、父と母をよろしく頼む。ロビンと仲良くな。それと私の仕事を回して申し訳ないが……頑張ってほしい」


「もちろんです、レオお義兄様。私は私のできることを精一杯致しますわ」


「ああ、君を信じているよ」


 ソフィアの横で不貞腐れたように横を向くブリジッドに声をかけるレオ。


「ブリジッド、とにかく元気な子供を産みなさい」


「はい、いってらっしゃいレオ」


 夫婦らしい語らいも触れあいもないまま、レオは馬上の人となった。

 最後だと言わんばかりに、明るい笑顔を見せたレオは、騎士達を引き連れて走り去っていく。

 今は絶対に泣かないと決心していたソフィアだったが、歯を食いしばっていないと嗚咽を漏らしてしまいそうだった。


「行っちゃったね」


 声を出せずに何度もコクコクと頷くソフィアの肩をロビンは優しく抱き寄せた。


「なんだか疲れちゃったね。今日は部屋でゆっくりしないか?」


「ええ、そうね。でも私はどうしても街に行かないといけないの。レオ殿下に頼まれた仕事があって、今日でないと先方の都合がつかないのよ」


「そうかぁ……僕が一緒に行っても邪魔になるかもしれないね。だったら僕は少し眠るよ」


「ええ、ロビンはまだ本調子ではないのだから、そうしてくれると安心だわ」


「身重の君を働かせる悪い夫だね、僕は」


「何言ってるの。そんなことないわ。私は仕事が楽しいし好きなの」


 王太子がロビンとブリジッドをお茶に誘い、ソフィアは約束があるからと言って、今日からソフィア専属メイドになったレモンを連れて馬車に乗り込んだ。

 レオの出発に合わせてプロントも辺境領に行くことになっているのだ。

 最後の力を振り絞ってまでこの国のために働こうとしているプロントを、せめて見送りたいとソフィアは思っていた。


「やあソフィア。今日はレオも行く日だろう? 良いのかい? こんなところに来て」


「シフォンさん、レオはもう出立したわ。プロントさんを見送ろうと思って」


 奥からプロントが顔を出した。


「やあ『選ばれし者』ソフィア殿。わざわざ来てくれてありがとう」


「いいえ、プロント様。お体の具合はいかがですか?」


「良いとは言えんが、まあ寿命を考えるとこんなものだろう。レモンは残していく。よろしく頼むよ。もし君が辺境に来ることがあるならレモンも連れて来てやってくれ」


 後ろに控えていたレモンがプロントに抱きついた。


「父さん、ギュってしてぇ」


「ああ、可愛いレモン。この世で一番大切な私の娘」


 プロントがとろけるような笑顔でレモンを力強く抱きしめた。

 それを見ていたシフォンが振り返ってソフィアを見る。


「送ってくるよ。私はまだ準備が整っていないからね、当分はここに居る。だからあんたもなるべく顔を見せとくれ」


「ええ、レオが市場調査という仕事を私に割り振ってくれたの。お陰で出掛けやすくなったわ」


「そうかい、レオは本当にあんたが心配で仕方がないようだ。私から言わせりゃあ、あんたよりよっぽどあの男の方が心配だがねぇ。まあいずれにせよ、あんたとレオのどちらが欠けてもこの国は終わりだ。気をつけとくれよ」


「ええ、精一杯のことをやるわ。当面の私の仕事は『人魚の涙』を手に入れることね」


「ああ、悪いがあんたしかいない。魔道具はレモンに渡してある。使い方は簡単さ。前歯で挟むように咥えて、それを通して息をするだけさ。間違ってもパニックなど起こすんじゃないよ? とにかく落ち着いてね」


「ええ、レモンもついてくれているし、後は頑張るだけよね」


「ああ、そういうことだ。やるしかない」


「はい、必ず成し遂げますわ」


 父娘でイチャイチャしているプロントにシフォンが声をかけた。


「プロント、そろそろ出よう」


「ああ、わかった。ではソフィア、頑張り過ぎないように頑張れ」


 ソフィアはクスッと笑った。


「はい、プロント様も命だけは大切に。レオをどうぞよろしくお願いいたします」


 大きく頷いたプロントは、もう一度レモンの頭をくしゃくしゃと撫でまわして大きな鞄を背負った。


「父さん、愛してる」


「ああレモン、俺もお前を愛しているよ」


 シフォンがレモンの頭にキスを送って微笑んだ。


「母さん……すぐ帰ってきてね」


「ああ、レモン。私たちがあんたを置き去りにすることは絶対に無いよ。私がいない間、ソフィアをよろしく頼む」


「うん、任せておいて」


 シフォンがプロントの腕に自分の腕を絡めた。

 見つめ合って微笑み合う二人の姿に、ソフィアは深く感動を覚え涙が出そうだと思った。


「じゃあ行ってくるよ」


 最後の言葉が終わらないうちに、二人の姿は消えてしまった。


「あっけない別れね」


「その方が未練が無くていいのさ」


 急に大人びた口をきくレモンに、ソフィアはクスッと苦笑いした。


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