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25 大魔女の娘の提案

 シフォンが面白そうに笑った。


「おや、ソフィアは知らなかったのかい? 知っていて来たのだと思っていたが?」


「ええ、魔女という存在は知っていました。でもこの店がそうだとは……でも魔道具店ですものね。当たり前でした、すみません」


「ああ、前回の記憶が朧げなんだね? なぜかここに魔道具店があると知っていたし、自分が欲しいものが必ずあると分かっていた。違うかい?」


「その通りですわ。何の迷いもなくこのお店に来ましたもの」


「そうだろ? そして大金を持って歩くのが不安で、護衛を頼んだら思っていたより年寄りのゴツイのが来て驚いた。はははっ! そりゃ当り前さ。私がお前の記憶を操作したのだからね。ソフィア、前世のお前はこの店のことも魔道具のことも知らないのさ。お前が時戻りを終えた瞬間に、私が入れた記憶だからね」


「時戻りを終えた瞬間?」


「ああ、そうさ。まあそんなことはどうでも良い。お望みの絵はとれたのか?」


「どうなのでしょう。今はレオ様の手にありますので」


「なぁんだ、あんたが取り上げちまったのかい? そりゃ残念だ。それで? 見せたのか? 決定的瞬間というやつを」


 レオがチラチラとソフィアを見ながらバツの悪そうな顔をした。


「撮るには撮りましたが、相手はハリスンのところのガキでしたよ」


「ではそいつが?」


「どうでしょう。時期的にはそのガキとソフィアの護衛のゴリラ、それと……」


 ソフィアがレオに言う。


「もう大丈夫。正確な情報の共有をしましょう」


 頷いたレオが言葉を続けた。


「……愚弟です」


 シフォンが片眉だけを上げる。


「なるほど。ではその三人には絞れるのだね?しかし今回も父親は分からないってことか。そうなるとお手上げだねぇ……もしも父親が分かれば、そいつの心臓を煎じて使えるのにねぇ」


 ソフィアが慌てて聞く。


「何に使うのです?」


「そりゃあんた『魔消し薬』を作るんだよ。産んだ女と産ませた男の心臓を一緒に煮込んで、それに魔草の『テポロン』とスローヌ山脈に棲む『龍の髭』、それから王城の湖にいる人魚の『涙』を一緒に入れるのさ。そして最後の仕上げは……企業秘密だ」


 なんだか拍子抜けしてしまったが、心臓と魔草と龍の髭に人魚の涙とは穏やかな話ではないとソフィアは思った。

 ワンダが声を出す。


「でも龍の髭と人魚の涙は手に入れたのでしょう? 大おば様……あっ、失礼しました。私はあなた様の大甥に当たりますワンダ・リーブと申します」


「ああ、知ってるよ。何度も会ったじゃないか。といっても覚えてないか? 面倒だねぇ。まあなるべく早くテポロンは手に入れなくちゃならない。しかし肝心の心臓がねぇ」


 なるほど、そういう理由でレオは魔道具を欲しがっていたということか。

 しかしレオは過去を通してもロビンである可能性が一番低いと言っていた。

 ならばそのどちらかに絞って、生まれた赤子と見比べれば分かるのではないだろうか。


「いやいや、そこはあの女も用意周到さね。全員同じ髪色で同じ瞳の色をしているのさ。何か決定的な違いがあれば良いのだけれどねぇ。あんたの夫にはあるかい?」


 シフォンの言葉にレオの肩がぴくっと跳ねた。


「あ……ごめんなさい……私はよくわからないわ」


「そんなものは簡単に確認できるだろう? どうせ妊娠したなど噓っぱちなんだ。安定期に入ったとでも言って誘えばいいのさ。素っ裸に剝いて隅々まで調べて御覧な。王族と言えど人間だ。黒子や痣の一つや二つあるだろう?」


 レオが殺気を放った。


「おや? あんた達は結局またくっついちまったのかい? まあそれも運命さね。あんた達は魂の夫婦だからねぇ。仕方がない。でもね、王子さん。あんたが命を捨てる覚悟なら、ソフィアにもそれくらいの覚悟をしてもらわなくちゃならない。分かるだろう?」


 ワンダが慌てて声を出した。


「大おば様、どうにかなりませんか? それでは今まで耐えてきたレオ殿下があまりにも不憫ですよ。それにソフィア妃だって可哀そうだ。ソフィア妃が生き残るためにレオ殿下は命を投げ……」


「止めろ! ワンダ、口が過ぎる」


「も……申し訳ございません」


 ワンダの言葉の続きなら、言わなくても分かる。

 ソフィアは自分を守ろうとして死を選んだレオを見た。


「気にするな、ソフィア。私は国のために……」


「レオ……」


 シフォンの髪の中からゴソゴソとレモンという名の小鳥が出てきた。


「だったらあれを作ってやりなよ、母さん」


 シフォンが嫌な顔をする。


「あれかい? それじゃあお前の寿命が縮んじまうじゃないか」


「そんなのいいよ。千年が九百八十年になるだけだもの。どうせなら三つ作ってさぁ、三人とも調べちゃえば? ひん剝いて魔道具で隅々まで撮影すればじっくり確認できるよ」


「ああ、その手があったねぇ。でも良いのかい? お前の貴重な寿命だよ? 三人となると六十年も縮んじまう」


「そんなの関係ないよ。ソフィアはやさしいんだ。時々お菓子もくれるんだもん」


「まあお前が言うならそうするか。今回ばかりは失敗できないからね。しかし『大悪魔』の復活が早まっている。急がないといけない」


 その時ガラッとドアが開いた。


「あら、プロントさん」


 ソフィアが名を呼ぶと、驚いた顔でギルドの護衛騎士が目を見開いた。


「父さん! ただいま!」


 レモンがパタパタと羽ばたいてプロントの肩に止まった。


「おお! レモンじゃないか。元気にしていたか? いじめられてはいないか?」


 妙な既視感を覚えたソフィアだったが、気にせずプロントの方に向き直った。


「先日はお世話になりました。ありがとうございました『選びし者』さま」


 プロントの肩が揺れた。


「なんだ、バレていたのか。ははは、その通りですよ『選ばれし者』さま」


 二人は微笑み合って握手を交わした。


「大おじ様、ご無沙汰しております」


「ああ、ワンダか。それにレオ殿下も」


 二人は正式な礼をした。

 シフォンが今までの話を搔い摘んで話すと、プロントは大きく頷いている。


「レモンが良いならそれが一番だ。何よりレオの心が乱れるのが怖い。そういうことなら俺はすぐにでも出掛けよう。ハルレア領は狭いようで広いからなぁ」


「ハルレア領と仰いまして?」


 身近な土地の名を聞いて、ソフィアは目を見開いた。


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