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13 現れたレオ

「何を騒いでいる? ブリジッド……またお前か」


 レオの声に全員が口を噤んだ。


「呼びに行かせたはいいが、待てど暮らせど来ないので様子を見に来たら、こんなことか。なあブリジッド、なぜお前がここに居る?」


「それは……かわいい義妹のソフィアと少しお話ししたいなと思っただけですわ」


「そうか、それならいきなり押しかけるのではなく、先触れを出してソフィアの都合を聞くのだな。いきなりやってきてペラペラと喋られても迷惑なだけだ」


「義姉の私がわざわざ訪問したというのに、迷惑だと思うはずもありませんわ。それよりレオ様はどうなのです? ソフィアはロビンの妃ですわ」


「もちろんだ。彼女はロビンの妃であると同時に、わが国の第三王子妃として働いている。遊んでばかりのお前とは違うのだ。良いから早く行け」


 ブリジッドの声が遠ざかっていく。

 おそらくレオが引き連れている護衛に強制排除でもされたのだろう。


「ソフィア、もういないから安心して出てきなさい」


 ソフィアはドアをゆっくりと開けた。


「ブリジッドが迷惑ばかりかけて申し訳ないね。ところで頼んだものは用意できたか?」


「はい、こちらに。執務室へ参りましょうか?」


「そうだな、義妹とはいえ女性の私室に入り、あまつさえ人払いをするなどもっての外だ。すまないが私の執務室まで同行を頼む」


「畏まりました」


 ソフィアは大切そうに分厚い本を胸に抱いてレオの後ろを歩いた。

 廊下の窓から王宮の森が見える。

 年が離れている王太子は別として、二人の王子はこの森を駆けまわって過ごしていたのだろう。

 きっとその中にはブリジッドも居たはずだ。

 レオが学園に入った後は、ロビンとブリジッドの二人で遊んでいたのかもしれない。

 そんなことを考えていると、レオが振り向いて話しかけてきた。


「あの森は行ったことがあるかい?」


「いいえ、私は王宮に参りましてからもほとんど庭園しか行ったことがございません」


「ロビンは連れて行かないのか? とはいえ、婚約者だった頃の私も、あなたを連れ歩くことはなかったが」


「レオ殿下は騎士団のお仕事でお忙しかったですもの。それでも茶会の場所は毎回変えて楽しませてくださいましたわ。ロビン殿下との婚約は本当に急な事でしたでしょう? ほとんど交流もなく結婚式の日を迎えましたので仕方ございませんわ」


「そうだな、あれもブリジッド……いや、ドロウ侯爵家の横やりだった。王族の婚姻にまで口を挟むような強すぎる貴族家の存在は問題だと私は思っているのだが、如何せんわが国は外交に弱い。情けないがドロウ侯爵家の商業網が頼みなのだよ」


「外交……なぜ弱いままなのでしょう? 人材が育ちませんか?」


「いや……そういうわけではないのだ。強い国がいつまでも強いというわけではないのでな、どの国との関係を強化すべきなのか判断に窮しているところだ。要するに知識不足と経験不足だな」


「なるほど」


 レオがソフィアの顔を見た。


「ソフィアは外交に興味があるかい?」


 戸惑いながらソフィアが答える。


「外交という分野に明るくはございませんが、外国語を学ぶ授業はとても楽しかったですわ。どの国の何が強いのだかとか、何を欲しているのかなどを、その国の言葉で調べることができるようになれば、その国の真の姿も見えてきます」


 レオはソフィアの言葉には返事をせず、銀氷の王子と呼ばれる所以である無表情を崩して微笑んだ。


「やはり君は賢い。君わが国には絶対に必要な人材だよ」


 思いがけない言葉にソフィアの頬が朱に染まる。


「身に余るお言葉でございます」


「やはり私の判断は間違いではなったようだ」


 ソフィアはその言葉に引っ掛かるものを感じたが、確認する前にレオの執務室に到着してしまった。


「さあ、入ってくれ」


 レオの執務室は相変わらず整然と片付いていた。

 文官たちに休憩を与え、侍女にお茶の準備を命じたレオは、最側近の一人を残して人払いをした。


「これが?」


「はい、これはデータストッカーという名前の魔道具で、録画した内容をそのままの状態で保管できるものです。この窪みにそちらの魔道具のここを……」


 レオが持って行ってしまった録画魔動機と、ソフィアが持ってきたデータストッカーを接続してみせる。


「繋いだら、ここの突起を中に押し込むと保存された映像がこの中に移動できるのですわ。ここに残したものは半永久的に保存が可能なのだそうです。再生するときは録画魔道具を繋いで、この突起を……」


「押すのだな? それにしても凄いな。録画魔道具は知っていたが、これほど便利なものがあるとはね」


「ええ、私も存じませんでした。これを買いに行った時に、店員が私を揶揄うように高値を吹っ掛けまして、でもどうしても必要だったので、購入しようとすると護衛に雇った騎士が間に入ってくれました。どうやら二人は顔見知りのようで、お詫びだと言ってこれをつけてくれました」


「え? この機械が無償だと? そんなことがあるのか?」


 レオと側近が顔を見合わせて驚いていた。

 どうやらこの側近はレオの信頼を勝ち得ているようだ。


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