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11 崩れるトレース

「それってスフレの店ですか?」


「そう、確か甘ったるい胸やけしそうな店名だったような気がする」


 二人は第三王子宮の前まで戻ってきた。


「すまんがこれは預からせてもらえないだろうか。今撮ったものを確認しなくてはならないし、君が見るには少々品が無さ過ぎる。それに他にも使いたいことがあって必要なんだ」


「え……それは……でしたら映像の保管はどうなさるおつもりですの? 次に使ったら上書きされてしまいます」


「そうなのか? 上書きされるのか……困ったな」


 ソフィアは小さなため息をついてから声を出した。


「私は保存できる魔道具も持っています。それも一緒にお貸しいたしますわ」


「それは本当に助かる。恩に着るぞ、ソフィア」


「でもひとつ条件がございますの」


「私にできることであれば何でもしよう」


「先ほどの人たちが誰と誰だったのかを教えてください」


「……」


 レオが唇を引き結び、思案顔で眉間にしわを寄せた。


「あれ? レオ兄上、それにソフィアも。こんなところでどうしたの?」


 ロビンがひょっこりと現れた。

 ご丁寧にブリジッドを引き連れており、二人は当たり前のように腕を組んでいる。


「ロビン殿下……それにブリジッド義姉さまも。ご機嫌麗しゅうございます」


 ソフィアがカーテシーで挨拶をすると、ブリジッドが満足そうにうなずいた。


「ソフィア、夫婦なのだからそれほど畏まる必要はないよ。それにブリジッドだって、今は家族だし、君も同じ身分なんだから」


 ロビンの言葉が気に入らなかったブリジッドが不機嫌そうな声を出した。


「あら、ロビン。同じ王族だと言っても、私は第二王子妃でソフィアは第三王子妃だわ。義理とはいえ姉と妹ですもの、それに夫であるあなたがいるのよ? 今の挨拶は当たり前じゃないかしら」


 黙ってみていたレオが口を挟んだ。


「ブリジッドがそういうならそうなのだろう。だったら君も私に挨拶をすべきじゃないか?」


「レオ……なぜここに?」


「ずっと居たが? 君は夫の姿だけ見えなくできる特技でも持っているのか?」


 さすがのブリジッドも言い返さず浅く頭を下げた。


「ごきげんよう、第二王子殿下」


 レオがフンッと鼻から息を漏らした。


「見たかい? ソフィア。夫や姉妹になどあの程度の礼儀で十分だと、君のお偉い義姉上様が身をもって教えて下さったぞ。次回からは君もそうするように」


 ブリジッドは気色ばんだが、ソフィアは素知らぬ顔で返事をした。


「レオ殿下。いいえ、レオ義兄さま。大変よく理解いたしました。次回からは必ずそのようにいたしましょう。先ほどご要望の本は、本日中にお届けいたします。少々説明が必要な箇所もございますので、ご都合の良い時間にお知らせくだされば執務室に参りましょう」


「そうか、本当に助かるよ。君の博識さには頭が下がる。頼りにしているぞ、義妹殿」


 レオが魔道具を入れたポケットをポンポンと叩いて背を向けた。


「ねえ、ソフィア。本当にこんなところで何をしていたの? 散歩かい? どちらを歩いたのかな?」


 ロビンがしつこいほどソフィアの行動を気にしている。

 あれほど守っていたトレースが大きく崩れてしまったソフィアは自棄になっていた。


「ご心配には及びませんわ。出てきてすぐにレオ殿下とお会いして立ち話をしていただけですから。本当は林の方へでも気分転換に行こうかと思っていたのですが」


「林へ? それはダメだよ。何がいるかわからない」


 ええ、本当になにが潜んでいるやら……ね?


「ええ、獣でもいると恐ろしゅうございますわね」


 獣の姿は見なかったけれど、獣のような人間はいましたがね。


「そうだよ、でももしも行きたいというなら私が一緒に行こう。だから一人では行ってはいけないよ」


「畏まりました。ところでロビン殿下はどちらに? 今は執務中だと思っておりましたが」


 ロビンの目が泳ぐ。


「ああ、僕も少し疲れたから気分転換に歩いていたんだ。そうしたらブリジッドがいてね、お茶でも飲もうということになって戻ってきたところさ。良ければ君も一緒にどう?」


 ソフィアは自分の腕に鳥肌が浮いたのがわかった。

 レオではないが、本当に吐き気がしてくる。

 それでもここで気取られるわけにはいかないソフィアは、グッと拳を強く握った。




 ※ 本日より18時と20時の公開に変更いたします よろしくお願いします 

                                志波 連


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