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10 千載一隅のチャンス

 それからひと月、前回の通りに日々は進み、ついに妊娠していると告げる日が近づいた。

 それは夏祭りの前夜だったのでしっかりと覚えている。


「結局二人の不貞の証拠は見つけられなかったわね……でもあとひと月あるわ。このひと月の間に絶対二人は関係を結ぶはずだもの」


 回収した録画魔道具は今はロビンの執務室に設置している。

 しかし、ロビンの毎日はいたって普通だった。

 そこにブリジッドが訪問してくることもないし、ブリジッドからお茶に誘われたときには必ずソフィアも同行させている。


「ん? あれは?」


 考え事をしながらテラスで休憩していたソフィアの視界の端に映ったのは、ブリジッドが好んで着る真っ赤なドレスだった。

 そのまま視線を伸ばすと木陰に銀色の髪が見える。


「見つけたわ! 今よ」


 ソフィアは立ち上がり、ロビンの執務室に隠している録画魔動機を回収すべく走った。

 あそこで逢瀬を楽しんでいるなら、部屋の主は不在だ。

 文官たちには書類をとりに来たとでも言えば問題ないと考えたソフィアは、ノックもせずにロビンの執務室に飛び込んだ。

 案の定ロビンはいなかった。


「どうされました? ソフィア妃殿下」


「あ……ああ、ごめんなさいね。急いでいたものだから。ちょっと重要なメモを挟んだままの本をここに置き忘れてね、すぐに必要だから取らせてもらうわ」


 返事も聞かずソフィアは魔道具を仕込んでいる本を取り出した。

 それはロビンの執務机の斜め後ろに設置されている書棚の中にあり、ロビンの手元まで映るように置いてある。


「あったわ。これよ、騒がせてしまってごめんなさいね」


 文官たちはわけもわからずポカンとした顔をしていた。


「みつかったのなら何よりです」


 ソフィアは満面の笑みで文官たちを見回した。


「では戻るわ。お仕事ご苦労様」


 ソフィアはそのまま庭に走った。


「ソフィア、どうしたのだ? そんなに急ぐと転んでしまうぞ」


「あ……レオ殿下。ご機嫌麗しゅう」


「義理とはいえ兄妹だ。堅苦しい挨拶など不要だと何度も言っているだろう? それにしてもどうしたのだ? 本を抱えて走るだなんて」


「あ……それは……レオ殿下、今はどうかお見逃し下さいませ。今を逃してはどうしようも無くなってしまうのです。どうかお願いいたします」


「そうか、わかった。ソフィアがなぜ急いでいるのかは聞くまい。しかし、君のその不穏な気配は見逃すことができないな。私も同行させてもらう」


 詰んだ! とソフィアは思ったが、考えようによっては話が早いのかもしれない。

 なんと言っても彼の妻と自分の夫の不倫現場なのだから。


「わかりました。ではご一緒に」


 ソフィアはレオを従えるような格好で庭を進み、目的の林の中へと入って行った。

 振り返り唇に人差し指を当てて、声を出すなとレオに伝える。

 頷いたレオはスッと気配を消した。


「あぁん……もう! せっかちさんねぇ」


「だって! ずっと会えなかったじゃないか。もう我慢なんて無理だよ」


 間違いなく男女が交わす淫靡な会話だ。

 女性の方は間違いなくブリジッドの聞きなれた声なのだが、男の方はどこかに唇を押しつけているのか、くぐもってよくわからない。

 しかも、ブリジッドを木に押し付けながら、ドレスの裾を捲り上げようとしているその男の姿は確認できない位置だった。

 もう少し近づけば確認できるだろうか。

 そう考えたソフィアが魔道具の起動スイッチに手を掛けようとしたその時、誰かがソフィアの肩を引いた。


「それは魔道具か? ちょっと貸してみろ」


 ソフィアにしか聞こえないほどの微かな声でそう言うなり、レオは録画魔道具をソフィアから取り上げて音もさせずに林の中へと消えていった。

 あまりの素早さに、ソフィアは呆然と男女の絡み合うような吐息を聞く羽目になった。

 どれほどの時間が経過しただろう、吐息が激しいものに変わり、やがて静かになった。

 戻ってきたレオがソフィアに声をかける。


「戻ろう。ここに居ると吐き気がする」


 ソフィアの腕を握り、何も言わずずんずんと歩くレオ。

 どうやら魔道具はポケットに収められているようだ。

 林を抜けたところまで戻った時、ソフィアはレオに声をかけた。


「あの……レオ殿下?」


 立ち止まり振り返ったレオが、ソフィアの顔を覗き込んだ。


「これは君の私物か?」


 魔道具のことだ。


「え? ええ、私のものです」


「これほど高価なものを伯爵令嬢だった君が持っているとは驚いた。以前私も取り扱っている魔道具店に赴いたのだが、予約で二年待ちだとけんもほろろの対応だったよ」


「魔道具店ですか? あの黄色い髪をした少女のいる?」


「黄色い髪? 私が行った時にはそばかすのある青年だった。それほど大きな店では無いし、繫盛しているようには見えなかったが、態度だけは立派だった」


 ふと『あれは魔女なんだ』というギルドのプロントが言った言葉を思い出した。


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