令和転生紀~平維盛
我が名は、平維盛。
祖父は、平清盛、父は、重盛。
輝かしい血筋でありながら、戦では不甲斐なく、富士川では敵前逃亡。
倶利伽羅峠では、木曽義仲の、火牛の計の前に、祖父より授かった軍勢の大半を失うという、大惨敗を喫した。情けない。
富士川にて、逃げずに戦っていれば、あるいは、いや、源氏の大軍の前には、どのみち負けていたか。
富士川で、さらし首になっていたかもしれない。
倶利伽羅峠では、世にも恐ろしい光景を見た。たいまつを角にくくりつけた猛牛たちが、我が軍の兵たちをなぎ倒しながら突進してくる。
この世のものとは思えない、恐ろしい光景。まるで、悪夢を見ているようだった。今でも、その時の光景が、悪夢となってよみがえり、夜な夜なうなされる。
そのことで、平家一門からも冷遇され、居場所が無くなった。そんな中で、ある女に恋をした。
その女の名は、お万といった。
それは、道ならぬ恋だった。平家一門は敗走を繰り返し、もはや勝てる見込みはほぼ無くなっていた。
源氏は、平家一門を一人残らず根絶やしにするつもりだろう。私も、平家一門の者とわかれば、その場にて始末されることは必定であろう。
我らのみならず、分家も、妻子も、一族郎党、ことごとく抹殺されるだろう。
お万との間に子が授かったとしても、源氏の追っ手は、お万も、その子供も、容赦なく手にかけようとするだろう。平家一門の血筋は残したくないのだからな。
ならば、その前に・・・。
この世で叶わぬ恋ならば、海の底の都で。
私は、お万とともに入水することを決意した。
こうして、海に沈んでいく。黄泉の国が見えるような気がした。
次の瞬間だった。私はどういうわけか、那智の海岸に打ち上げられていた。そして目を覚ました。
ここは確かに、私がついさっき入水した那智の海岸だ。しかし、様子が違う。
近くには、ねずみ色の道があった。白い線が引かれており、その上を、馬が引かなくても走る、恐ろしく早い乗り物たちが通り抜けていくではないか。
海岸には看板があり、そこにはこう書かれていた。
平維盛 最後の地
なんということだ。ここは黄泉の国、死後の世界なのか?しかし後に、ここは令和という、私の本来生きていた時代よりも、はるか未来の時代であるということに気づくのだった。
そこに、女が現れる。
その女は、あまりにも、お万に生き写しだった。