檀ノ浦
私の名は、安徳。数え年3歳で、訳もわからないまま、帝としてまつりあげられ、今この、
檀ノ浦の地にいる。
安徳天皇とともにいるのは、
徳子【安徳天皇の母】
二位尼【安徳天皇の祖母、清盛の継室】
赤旗の平家の船団と、白旗の源氏の船団。
海は、赤と白で埋め尽くされた。最後の戦いが始まる。
平家軍は、打ち続く敗戦で疲弊しきっていた。兵の数も少なくなり、勝ち目は薄くなっていた。
この兵の数も、『平家物語』や『吾妻鏡』など文献によって人数は異なり、おおよその人数だ。
平家軍、源氏軍ともに、これが最後の戦いとばかりに、猛烈な勢いで攻め入る。
義経の八艘飛び。船から船へ、また船から船へ、華麗なジャンプを見せる。敵も、そのあまりの見事さに、戦うことも忘れて見とれたほどだ。
もはや勝敗は明らかだった。それでもなお、三種の神器だけは源氏側に渡すまい、という思いはあったようだ。
二位尼「三種の神器が源氏の手に渡れば、安徳も源氏の手に渡る。そうなれば、今度は源氏が安徳を担ぎ上げる。
主だった官職も、源氏の者たちに独占される、それならば、いっそ。」
宗盛「もはや、どう戦っても勝ち目は無いのか。」
まず、宗盛が入水する。
知盛「知章、父もそちらに参るぞ。」
一ノ谷で討ち死にした息子、知章のことを思いながら、知盛も入水。
平家一門の武者たちも、それに続く。
女官「生き延びても、恥辱を受けるは必定。それならば、いっそ。」
女官たちも、次々と入水する。
安徳「なぜ皆、入水するのです?」
すると、二位尼が安徳を抱き寄せる。
二位尼「さあ、海の底にも、都はあります。」
そう言うと、二位尼は安徳の手をつないだまま、入水した。徳子もまた、それに続き入水した。
それにしても、平家の者たちは、なぜここで、切腹ではなく入水だったのか?
平家の赤旗だけが、まるで平家の武者たちの流した血のように、海面を覆っていた。と、ここまでは史実通り。
頼朝「父上、これにて仇は取りました。」
頼朝、義経、範頼は、亡き父、義朝を思い、手を合わせ、あらためて冥福を祈った。
それでもやりきれないのは、そのために払った犠牲の大きさ。平家一門の主だった者たちは戦死した。
しかし、源氏側の武将の中にも、戦死した者たちが少なからずいた。また、木曽義仲とも、同じ源氏の者同士で、戦わねばならなかったこと。
そもそも、この戦いの最初は、以仁王と源頼政の犠牲から始まっていること。
そして、この一連の戦いでも、数多の兵士たちが、命を散らした。
あらためて、彼らの冥福を祈った。
かくして、治承・寿永の乱とよばれることになる、一連の戦いは、ここに幕を下ろした。
三種の神器のうち、勾玉と鏡は戻ったが、宝剣だけは戻らなかった。と、ここまでは史実通り。
実はここから、史実無視のシナリオが始まるのだった。