牛若丸と弁慶
公家たちの、今の一番の楽しみはというと、噂話に花を咲かせることだった。
鞍馬山にいた牛若丸が、鞍馬山を抜け出し、今は京の都にいること、それと、五条大橋に現れる、ある大男の話。
その男の名は、武蔵坊弁慶。橋を通るなら、刀を置いていけと言って、勝負を挑むという。
そうして集めた刀が、999本だという。あと1本で、1000本になるというが、本当に999本集めたのか、これは脅し文句で、こう言っておけば相手が恐れをなす、と考えたか。
弁慶は恐ろしく怪力であり、並みの力では敵うはずもない。その一撃を喰らったら、ひとたまりもないという。
弁慶と遭遇した者の中には、その姿を見ただけで、恐れをなして、刀だけ置いて逃げ帰った者もいたとか。
その日の夜、五条大橋。そこに現れたのは、やはり武蔵坊弁慶。その目の前に現れたるは、まだ年端のいかない少年。
この少年こそが、牛若丸。後の源義経。
「我こそは、武蔵坊弁慶。そこの者、刀を置いていけ。
わしはこれまで、999本の刀を集めてきた。あと1本で、1000本目になる。
そなたの刀を、その1000本目にしたい。」
「私は、牛若丸と申す。999本の刀を集めてきたというなら、その999本の刀とやらを、ここに持ってきて、見せてみよ。」
「何を!ハッタリではないぞ!」
「では、これより勝負いたそう。そなたが私に一撃でも当てることができたなら、そなたの勝ちといたす。
されど、私がそなたに一撃でも当てたなら、私の勝ちとする。」
勝負開始。
弁慶は怪力自慢。対して牛若丸は、力では弁慶に及ばないが、素早さがある。
弁慶の攻撃!牛若丸は、ひらりと身をかわした。
弁慶の攻撃!弁慶は何度も薙刀を振り回すが、当たらない。
その後も、弁慶は攻撃を当てようとするが、ことごとくかわされる。
「ええい!なぜ当たらぬ!」
弁慶、だんだんと苛立ってくる。やみくもに武器を振り回すようになると、一瞬の隙が生まれる。
その、一瞬の隙を突き、牛若丸の攻撃が、弁慶の泣き所といわれる、向こうずねに命中!
「うああっ・・・!参った・・・!」
これで、勝負あり。
「あ、あんたいったい何者だ・・・?」
「私は、亡き父、源義朝の九男、九郎義経じゃ。」
「なんと、源義朝様の・・・?」
負けたからには、ついていくより他ない。
「この武蔵坊弁慶、たとえ地の果てまでも、あなたさまをお守りいたす所存にございます!」
「では、これより奥州平泉に向かう。」
ここから、奥州平泉までの長旅が始まる。
その途中、木曽義仲との出会い、そして平泉では、藤原秀衡との出会いが待っている。