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第二十七章―双剣―#4

この作品をいつも読んでくださっている皆様方、本当にありがとうございます。大変、ご無沙汰してしまいまして、申し訳ございません。

私のボキャブラリーと引き出しが少ないせいで、どうしても戦闘シーンが単調でマンネリ気味になってしまい、この2ヵ月どうにかしようと粘りましたが、徒に時間が過ぎていくだけなので───余裕ができたら少しずつ直すことにして、話を進めることにします。

斜め読みでも、飛ばし読みでも、読んでいただけたら嬉しいです。そして、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。


※冒険者の討伐参加人数を、「200弱」→「100を超える程度」に変更しました。


※※※



 ルガレドからの信号を受け取ったガレスは、大勢の冒険者たちを引き連れて、エイナとユリアと共に先を急いでいた。


 曲がりくねった道の角を過ぎると、遠目に立ち並ぶオークの後ろ姿が見えた。


「急ぐぞ!」


 これくらいの距離なら、走っても支障はない────そう踏んで、ガレスは奔り出す。


 オークに気づかれるまでに、なるべく距離を詰めておきたかった。


 エイナとユリアが並走し、背後に続く冒険者たちも離れずついて来る。


 最後尾にいるオークが、走り寄るガレスたちに気づいて振り向く。


「ユリアっ!」

「はいっ!」


 ユリアがベルトに差した短杖を抜く。その短杖の先端には、魔術陣が刻まれたメダルが嵌め込まれている。


 この杖は、剣も扱うユリアが魔術を行使しやすいようにとリゼラが貸与してくれたもので───杖の先端に仕込まれた“クリップ”という金具にメダルの端を噛ませて、固定してあるのだ。


 ユリアは右手で短杖を掴んだまま、左の掌をメダルに当てる。メダルがユリアの魔力を吸い取って、魔術陣が現れたかと思うと光を放つ。


 居並ぶオークたちより数歩手前の地面に向けて放たれた一筋の旋風が、吹き荒れる。


 ユリアは、立て続けにもう2発、魔術を発動させた。3つの旋風が大量の砂利を巻き上げ、オークとの間にうっすらと幕を張る。


 ガレスの後ろからついて来ていた冒険者たちが飛び出し、事前に指示した通りの配置についていく。


 先陣に立つのは───Bランクパーティー、『黄金の鳥』、『暁の泉』、『高潔の剣』だ。各パーティーの間を広く取って、一列に並ぶ。


 二列目に、残りのBランクパーティー、『リブルの集い』と『栄光の扉』が、一列目の隙間を埋めるように並ぶ。


 『栄光の扉』は、『高潔の剣』と共にベルロ商会の護衛として上京した若手で結成されたパーティーで───つい最近Bランクに昇格したばかりではあるが、メンバーが若い分だけ血気盛んで勢いがある。


 三列目からは、Cランクパーティーが今度は二列目の隙間を塞ぐように並ぶ。そうやって前列と互い違いに並んでいく。


 これは、ルガレドの補佐についているBランカー冒険者ディドルによって提案された陣形だ。


 わざと隙間を開けて、一列目が相手し切れない敵を進ませ、二列目で相手をする。そうして、二列目のパーティーが相手し切れない敵を三列目で相手するという────魔物の群れを殲滅する際に用いられる傭兵の戦法だそうだ。


 ルガレドの計画通り、戦いの場となるここは、枝道と交差する川の上に設けられた橋を渡り切った───道が狭まり始めた個所なので、一度に向かって来る魔物の数は限りがある。


 列が進むにつれ、相手取る魔物の数も絞られるはずだ。パーティーやチームの実力を考慮して、実力が高い順に配置しているので───これなら、まだまだ実力がついていない低ランカーたちに無理をさせなくて済む。


 待機場所で配置順に並んでから出発したので、配置につくのにそう時間はかからない。


 ガレスは、とりあえず先頭から中盤辺りまでの配置が完了したことを確認すると───再び、ユリアの名を呼ぶ。


「ユリア!」

「はい!」


 ユリアは、先程同様、左手の掌をメダルに当てる。


 ユリアの魔力を吸い上げた魔術陣が発動して、一筋の旋風が砂の幕に突っ込んでいった。


 砂の幕を蹴散らした旋風はそのまま、未だ状況が理解できずに立ち尽くしているオークたちに向かう。


 すかさず、ユリアが追加で二つ旋風を生み出す。


 旋風は砂の幕を完全に晴らして、前列に並ぶオークを斬り裂いた。


 どの旋風も、肉厚で重量があるオークを傷つけただけで───吹き飛ばすことも、命を奪うこともできなかったが、それでも先制攻撃としては十分だ。


(よし、起ち上がりは旨くいった…!)


 魔術を地面に放って砂利を巻き上げて幕を張り、それを隠れ蓑に陣形を整え、再び魔術を放って砂の幕を吹き飛ばしつつ先制攻撃を加える────この一連の流れは、リゼラの立案だ。


 傷を負って怒りに我を失ったオークが、先頭に立つ『黄金の鳥』、『暁の泉』、『高潔の剣』の3つのBランクパーティーに襲い掛かる。


 さすが、それなりに経験を積んだパーティーというべきか────どのパーティーも動揺することなく、襲い来るオークどもを毅然として迎え撃つ。


 こうして────冒険者と魔物の交戦が始まった。



※※※



 オークが振り下ろした両手剣を、『黄金の鳥』の盾持ち(タンク)役であるベグルが盾を掲げて受け止める。


 正八角形を成す“セルニア鋼”と呼ばれる鋼で造られた盾は、1mに満たない程度の大きさで、重量を少しでも抑えるために平たい帯状のセルニア鋼を蜘蛛の巣状に組み、裏側に魔獣の鞣革が貼られている。


 中央の縦のラインに右方向に開いたフックが4つほどついており、大柄で筋肉質なベグルは、身一つでオークの膂力に耐えながら、盾を少しずつ傾けてオークの剣をそのフックに嵌め込んだ。


「せい…っ!」


 そして、零れた掛け声と共に、渾身の力で以て押し返した。


 オークの両手剣はあまり質の良いものではなかったらしく、ぱきん、と小気味良い音を立てて、あっけなく折れる。


 ベグルに押し返されて、たたらを踏んだオークの腹にベグルが盾を押し込む。バランスを崩していたオークは体勢を保てずに仰向けに倒れた。


 すかさず駆け寄ったドギが、その首に大剣を叩き込む。



 ドギがオークの首を落として身体を起こすと、ベグルは別のオークの戦斧を盾で受け止めていた。

 剣のようには折ることができないため、盾を斜めにずらして戦斧の切っ先を逸らす。


 その傍らでは、斧使いのデインがオークと切り結んでいる。


 ベグルに並んで体格のいいデインは、オークに競り負けることはなかったが、その力は拮抗していて───膠着状態に陥っている。


 そこへレナがナイフを放った。


 ナイフは、外れることなく、オークの右目に突き立つ。オークはその痛みに耐えかね、デインの戦斧に打ち込んでいた両手剣を取り落として呻き声を上げる。


 デインはその機を逃がさず、戦斧をオークの脳天に叩きつけた。



 デインに助太刀は不要と判断したドギは、交戦中のドギたちに近づかないようフェドが牽制してくれているオークの1頭が強引に突破して来たので、先に片付けるべくそちらに向かう。


 ドギの動きに気づいたレナが、ナイフを投げて先制してくれた。

 頬に突き刺さったナイフに気をとられたオークにドギは斬りかかる。


 オークが咄嗟に手に持つ片手剣を掲げたので、剣に邪魔され───ドギの大剣は、片手剣を弾き、オークの皮膚と肉を浅く斬り裂いただけだった。


 ドギはすぐに腕を振り上げて、またオークに斬りかかった。


 今度は、オークの肉の厚い頬に刃が食い込む。ドギは力任せに下方向に刃を進ませて、その首を落とした。



 ドギは次の相手を見定めるべく、仲間たちの動向を窺う。


 ベグルが相手をしていたオークは、デインがとどめを刺したようだ。ベグルもデインも、すでに別のオークと対峙している。


 どれも切羽詰まった状況ではないことを確認してから、あちこちに転がるオークの死体に視線を遣る。


 死体に刺さるレナのナイフとフェドの矢が思ったよりも目につく。


 そろそろ回収させておいた方がいいかもしれないと判断したドギは、叫んだ。


「レナ!」


 それだけでドギの意を察したレナは、動き出した。


 レナがナイフを回収している間、ベグルやデインの援護が手薄になる。

 

 ドギはフェドと一緒に、ベグルとデイン、ナイフを拾うレナにオークが群がらないよう牽制しながら、仲間たちや周囲の動向───特に魔物の様子に、一層注意を向ける。


 レナがナイフの回収を終えた後は、フェドにも矢の回収をさせなければならない。



(それにしても…、オークとオーガ、それにコボルトの混成集団と聞いていたが───今のところ、オークしかいないな)


 かなり警戒していただけに、少し拍子抜けする思いだ。


 そんなことを考えていたのがいけなかったのか────不意に空気が変わったのを、ドギは感じ取った。


(何だ…?)


 それは────目に見える変化ではなかった。だけど、ドギの感覚は確かにそれを感じ取っていた。


 その原因について考え込んでいる場合ではないと直感して、ドギはフェドに向かって叫ぶ。


「フェド、今すぐ矢を回収しろ!」


 レナがまだナイフの回収を終えていないのに、そう言われて───フェドは一瞬だけ躊躇う素振りを見せたが、ドギの剣幕に気圧されたらしく、すぐさま動き出した。


 ドギの様子に何かを察したらしいレナも、ナイフの回収をより急ぐ。


 冒険者としてそれなりに経験があるベグルとデインは、ドギと組んで長いこともあって───指示を出さなくとも、レナとフェドの方へオークを行かせないよう牽制すべく、動きを変える。


 ベグルとデインが、行路を盾と戦斧で巧みに塞いで、3頭ものオークを足止めさせているのを横目に───ドギは、近づいて来たオークに向かって、大剣を大きく横に振るった。


 まだ間合いに入りきっていなかったオークは、ドギの大剣の切っ先で腹を浅く抉られただけだったが───警戒して、後ずさる。


 そこへ1頭、新たなオークが寄って来た。両手剣を握り締めたそのオークは、腹に傷を負ったオークに並ぶと───2頭揃って、ドギを睥睨した。


 オーク2頭がドギに向かって踏み出し、一息で間合いを詰める。そして、両手剣と片手剣───それぞれ手にした武具を振り被った。


 幸いだったのは、2頭同じタイミングで振り下ろされたことだ。


 ドギは大剣を渾身の力を込めて横薙ぎに振るい、それらを弾く。2頭のオークはたたらを踏んだ。


 2頭のオークの距離は近い。1頭を討つ際に隙を狙われたら、避けるのは難しい。


 2頭同時に屠ることができない以上、追い打ちをかけずに牽制する方が得策だ────そう判断して、ドギは大剣を中段に構えて、2頭のオークを睨む。


 オークたちも、負けじとドギを睨みつける。


 そうやって睨み合っていたときだった。


「レナ…!」


 フェドの叫び声が響いた。


 無意識に振り向くと、ドギの目に入ったのは────両手剣を握るオーガが、ナイフを拾い上げるために中腰になったレナを、そのすぐ側で見下ろしているところだった。


「レナ!!」


 ドギも、思わずレナの名を叫ぶ。


 レナの許へ行かなければ────そんな焦燥に駆られた次の瞬間、ドギは咄嗟に構えていた大剣を振り上げる。

 ドギの大剣は、振り下ろされたオークの両手剣を弾いた。


 レナに気を取られている間に、2頭のオークに間合いを詰められていた。


 もう1頭のオークによって右脇腹を狙って放たれた片手剣を、ドギは右後方に向かって身を捻りつつ、振り上げたままだった大剣を振り下ろして弾く。


 急いでレナに視線を戻すと、オーガが剣を握った両手を振り被っている。


 ドギは、再び襲い掛かって来たオークの両手剣を、手首を返して振るった大剣で押し戻し───大剣を振るった勢いを利用して身体の向きを変えて、レナの方に向かって奔り出す。


(クソっ、間に合わない…っ!)


 レナは硬直していたわけではなく、どうやら機を伺っていただけのようで───拾おうとしていたナイフを素早く手に取り、オーガの顔を目掛けて投げつける。


 両手を振り上げ無防備なオーガの左眼に、レナのナイフは吸い込まれるように刺さった。ナイフはそこまで深く突き刺さらなかったものの、オーガの眼球を貫いた。


 ナイフを投げた直後、レナは身を翻してオーガの許から駆け出した。


 痛みに呻きながらも、その元凶であるレナを追おうと一歩踏み出したオーガに、フェドが矢を放つ。


 矢はオーガの両手剣によって弾かれてしまったが、レナはオーガから十分に距離を取ることができた。


 オーガはフェドを先に片付けることにしたらしく、フェドに詰め寄る。


 オーガがフェドに向かって両手剣を振り下ろした瞬間────フェドが後ろへと跳ぶ。


 ドギはオーガの左側に回ると、振り下ろされたオーガの腕を大剣で斬り落とした。


 レナによって左眼を潰されていたオーガは、ドギに気づくのが遅れ────その太く毛深い両手は、握られた両手剣ごと、あっさりとドギの剣に斬り落とされた。


 次いで、ドギは手首の角度を変えて、振り下ろした剣をオーガの腹に向かって振り上げる。


 腕を失くして防ぐ手立てのないオーガの腹部に大剣を食い込ませると、ドギは足を踏ん張り渾身の力で大剣を振り抜いた。


 切り離されたオーガの上半身が、どさり────と重たい音を立てて地面に落ちる。間髪入れずに、大剣をオーガの首へと叩き込んだ。



 ドギはすぐに身を起こして、状況を確かめる。


 先程までドギが相手をしていた2頭のオークは、フェドが牽制してくれている。


 レナは───というと、ベグルとデインを援護しているようだ。


 レナの援護を受け、ベグルとデインは1頭ずつ着実にオークを屠っている。


 ドギは、2頭のオークにとどめを刺すべく向かおうとして────新たな気配を感じて振り向いた。


 そこには────戦斧を持ったオーガが、荒い息を鼻から吐きながら佇んでいた。


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