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第二十四章―妄執の崩壊―#3


新たにブックマーク登録してくださった方、本当にありがとうございます。

もし、お待ちくださっていた方いらっしゃったら、更新遅くなってすみません。

ともあれ、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


※リゼの称号【超級魔導師】→『オーバーグレード・ウィザード』とルビを振ることにしました。既出部分には、後でルビを付け足すつもりです。


 Bランクパーティー『黄金の鳥』と少し話してから、セラさんのいるカウンターに寄ったが───緊急の依頼もなく、ガレスさんとバドさんは昨日の魔獣の解体中ということだったため───レド様と私は早々にギルドを後にした。



 古代魔術帝国の遺跡を見つける手段を講じるべく、一旦、お邸へと帰る。


 ラムルとディンド卿も検証に立ち会いたいとのことなので、まずはダイニングルームでブリーフィングを行うことにした。


 ノルンが実体をとり、ジグとレナスも姿を現す。


「それでは、始めましょうか」


 私は【遠隔(リモート・)管理(コントロール)】で、判明した【限定転移門(リミテッド・ゲート)】の位置を記した地図を取り寄せる。簡単に描いた皇都の全体図を囲う街道やその周辺に、【限定転移門(リミテッド・ゲート)】を示す×印が書き込まれている。


「リゼ────この地図はどうしたんだ?」


「え?昨日、ガレスさんがまとめてくれた情報と自分の記憶を頼りに私が作製したものですが…」

「夕食後、俺と過ごした後────寝る前に、ということか?」

「はい」


 私が頷くと、レド様の表情が険しくなった。


「エデルのために魔導機構も創っていたよな。その上、今日は早起きをして────リゼ…、本当に、ちゃんと睡眠はとったんだろうな?」


「勿論です。寝不足で体調を崩して、いざというとき(おく)れを取るわけにはいきませんから────睡眠だけは、きちんととるようにしています」


 古代魔術帝国のベッドのおかげで、最低三時間睡眠をとれば全快するばかりか、コンディションは整う。


 でも───『三時間』とは言わない方がいいな。絶対、心配される。


「…嘘ではないようだな」


 レド様は、それで納得してくださったようで、ちょっと、ほっとした。

 レド様のお気持ちは嬉しいけど────寝る前に作業することを禁止されるのは困る。


 …あれ、何だかレド様が疑わし気に私を見ている。



「そ、それでは、時間も限られていることですし───始めましょうか」


 私は改めて、ダイニングテーブルに───皆に見えるように地図を置く。


「まずは、この地図を見てください。この×印が、【限定転移門(リミテッド・ゲート)】が設置されていた場所です」


「リゼラ様は規則性が見られると仰っておりましたが────」


 ディンド卿が少し困惑気味に口を開いた。


 確かに────今のままでは不規則にしか見えない。


 この皇都は、ほぼ円形を成している。

 南、北、東の方向3ヵ所に門があり───西門に位置する箇所に皇城が建っていた。


 そして────門から放射状に街道が伸びている状態だ。


 今回、判明した【限定転移門(リミテッド・ゲート)】は、2ヵ所は北門と南門の側の街道上───4ヵ所は皇都から外れる形で皇城の北側と南側に2ヵ所ずつ並ぶように設置されている。


 一見では、6ヵ所すべてに規則性は見出せない。


「ちょっと待っていてくださいね」


 私は、地図の倍以上の大きさの何も書いていない、前世の記憶から創り上げた“模造紙”を取り寄せる。


 皇城を上にして地図を模造紙の中央部分の下寄りに置く。


 次いで、墨果筆を取り寄せて───皇城を中心に、皇都がすっぽり入る大きさの円を描く。それから、その円が8等分になるように───皇城で交差させて4本のラインを引く。


「ほら、こうすると────すべての設置個所が、このライン上に来ます」

「本当だ…」


 ディンド卿は眼を見開き、呟く。何故か、他の面々は当然というような表情をしているけど。


「おそらく、この皇都内にも【限定転移門(リミテッド・ゲート)】の設置個所があると思われます。ほら、ここ───何か、思い当たりませんか?」


 私は東西に引かれたライン上の皇都の東門に程近い箇所を指さす。


「ここは…、もしかして────孤児院の裏の雑木林か?」


「そうです。それと、ここも。ほら────自宅の裏にある雑木林の草刈りをして欲しいという依頼がありましたよね。あの依頼主の住所がちょうどここなんです」

「すべてライン上に並ぶな。確かに、これは────リゼの言う通り、この2ヵ所にも【限定転移門(リミテッド・ゲート)】がありそうだ」


 それも均等な距離で、シンメトリーになっている。


 それに────これで皇都内に雑木林がある理由も説明がつく。

 おそらく、【限定転移門(リミテッド・ゲート)】の上に建造物を建てることのないように、雑木林にしたのだろう。


 触るとかぶれる草が植えてあるのも、あの場所に人を近づけさせないためだったと考えられる。



「それでは、円形状の地下遺跡があるということなのか?」

「どうでしょうか。そうかもしれませんし、これは地下遺跡の上に建造された古代魔術帝国の都市の形なのかもしれません」

「ああ、なるほど────そういうことも考えられるのか」


 レド様の問いに私なりの見解を述べると、レド様は納得したように頷いた。



「それで、どのように対の【限定転移門(リミテッド・ゲート)】を辿るおつもりで?」


 レド様に代わって、今度はラムルが訊く。


「そうですね。幾つか案はありますが────その前に、本当に地下に遺跡があるかどうか確認したいと思っています」

「確認───ですか?」

「ええ、確認です。─────レド様、協力していただけますか?」

「勿論だ」



◇◇◇



 ジグが予め【索敵】したところ、現在、お邸を監視している者はいないとのことなので────お邸の外に出て、確認することにした。


 念のため、庭園とは逆側のお邸の陰に移動して、【認識妨害(ジャミング)】を発動させる。



「それでは────レド様。【千里眼】で、地面を視ていただけますか?」

「解った」


 レド様は頷いてから───俯く。しばらく地面をじっと視て、困惑したように言葉を零した。


「何も見えない…」


「何も───ですか?」

「ああ、何も」


 ディンド卿が、恐る恐る口を挟んだ。


「ルガレド様の【千里眼】で何も視えないとなると────地下には何もないということでは…?」


「いえ────逆です。もし、何もないのなら、虫や堆積物など、地中に何かしら視えるはずなんです。何も視えないということは…、レド様の眼帯のような───【千里眼】を遮断する何かが施されている可能性があります。

そして、そういった仕掛けがあるのなら────この下には視られたくない何かがあるということです」


 ディンド卿に答えてから、私はレド様に声をかける。


「レド様、そのまま【千里眼】で地面を視ていていただけますか」

「解った」


 私は【心眼(インサイト・アイズ)】を発動させると、レド様の【千里眼】と、【(シンクロナ)(イゼーション)】で重ね合わせた。


「ノルン、分析結果を投影して」

「解りました、(マスター)リゼラ」



不可知(アンノウアブル)の合板(・プライボード)

 複数の魔術を落とし込んだ魔水晶板(マナ・クォーツボード)と精霊樹の樹皮を合成させて創り出された合板。【千里眼】を遮断し、【地図製作(マッピング)】など探索系の能力や魔術、【解析(アナライズ)】などの魔術を弾くよう設計されている。



 いつもより少し時間がかかったが、ようやく分析結果が現れる。ディンド卿が驚いたのを感じた。


 しばらく粘ってみたが、やはり、これ以上は分析でも不可能なようだ。


 私は【(シンクロナ)(イゼーション)】と【心眼(インサイト・アイズ)】を解除する。


「レド様───【千里眼】を解いてくださって大丈夫です。ありがとうございました」


 レド様も【千里眼】を解いて、顔を上げる。


「リゼの言う通りだったな。それで、どうするつもりなんだ?」

「そうですね…」


 【測地】を使うつもりだったけど────この状態では【測地】で探るのは難しいかな。


 それならば────


「ネロ、ヴァイス」


 声に魔力を混ぜて、名を呼ぶ。


「呼んだ?」


 まず、ネロが足元に現れた。私は屈んでネロを撫でながら、口を開く。


「うん。ちょっとお願いがあるの。他の子も呼んでるから、その子が来てから話すね」

「わかった」


 この皇城には“防壁”のようなものが張られているので、力のある精霊獣であるヴァイスと言えど、すんなりとは入って来られないのかもしれない。


「精霊獣を使うのか?」

「ええ。できるか確かめてみないと判らないですけど、この皇城に入り込める精霊獣なら、古代魔術帝国のセキュリティーを越えられるかもしれないと思いまして」

「なるほど」


 レド様とそんなことを話していると、ヴァイスが忽然と現れた。


「すまない、我が姫。お待たせした」

「ううん。来てくれてありがとう、ヴァイス」


 律儀なヴァイスに、私は首を振る。



「…む?────お前、ネロか?」

「ひさしぶり、白狼のおじいちゃん」


 ヴァイスが、私の足元にいるネロに気づいて声をかけると、ネロが暢気な声音で返す。


 え、ネロはヴァイスのこと、おじいちゃんって呼んでるの?


 まあ、ネロは、生まれてからそんなに経っていないらしいし、ヴァイスはかなりの時を経た精霊獣みたいだから────ネロからしてみたら、そんな感覚になるのかもしれない。


「我も、姫よりヴァイスという名を授かった。これからは、ヴァイスと呼べ」


 ヴァイスは、ちょっと誇らしげにネロに告げる。


「あ、リゼに契約してもらえたんだ。よかったね~、ボクがリゼに名前をもらったって知ったとき、ものすごく、うらやましがってたもんね」


 え───そうなの?


 私が思わずヴァイスの方を見ると、ヴァイスは何だか決まり悪そうに顔を逸らした。



「それでは────我が姫。我らを何故呼んだのか、聞かせてもらえるか」


 ヴァイスに問われ、私は、この下に存在するだろう地下空間のこと───可能なら、そこへ行ってもらいたいことを話す。


「この変なのの下にある部屋に行ってくればいいの?」

「うん。ネロ、行ける?」

「もちろん!」


 ネロは可愛らしく首を傾げて、事も無げに応える。その返事に、レド様たちのみならず、ヴァイスまで驚いた様子を見せた。


「待て────我は、そんなもの感じ取れないぞ。ネロ、本当にこの下に部屋などあるのか?」

「あれ、ヴァイスはわからないの?ちゃんとあるよ、部屋」


 あれ、そうなの?


 ヴァイスでも感じ取れないのに、ネロには感じ取れたということは───ネロは、他の精霊獣より感覚が鋭いということ?


 ヴァイスが、ネロをじっと観察するように見つめながら、呟く。


「…やはり、そうか───ネロ、お前…、“妖精化”しているな」


「“妖精化”…?」


 私が聞き返すと、ヴァイスは私に顔を向ける。


「人間と契約をした精霊や精霊獣に、稀に起こる現象だ。契約した人間の性質が影響して、変質を来たす。そういった固有の成長を遂げた精霊や精霊獣のことを────“妖精”と呼ぶ」

「それじゃ…、ネロはその“妖精”に成ったということ?」

「ああ。ネロは、幼くして姫と契約し、長いこと姫の魔力を摂取していた。おそらく、それで“妖精”へと成ったのだろう。────っく、羨ましい…」


 ヴァイスは、ネロが“妖精”と成ったことが羨ましいらしい。精霊や精霊獣には、“妖精”に成ることに憧れでもあるのかな。



「それなら、ノルンも“妖精”ということなるのか?」

「そうだ」


 レド様に訊かれ、ヴァイスは頷く。


 ノルンはかなり特殊な存在だろうとは思っていたけど────へえ、“妖精”なんだ。



「それで───ネロ。地下空間に行けるって言っていたけど、ヴァイスも一緒に連れて行くことはできる?」

「うん、できるよ」


 向かうのは、おそらく古代魔術帝国の遺跡だ。


 入り込むことはできたとしても、侵入者を排除するようなセキュリティーが内部にも施されている可能性が高い。


 ネロだけでは心配なので、ヴァイスにもネロと共に行ってもらいたい。



 本当は、私が一緒に行きたいところだけど、そうすると───きっと、私一人では行かせてくれない。絶対、レド様も共に行くと言い出すはずだ。


 極力、レド様の希望通りにしようとは決めている。


 けれど────今回は古代魔術帝国の技術が施された施設だ。何があるか判らないのに、レド様を連れて行くわけにはいかない。


「魔獣とか魔物の群れくらいならどうにかできるけど────古代魔術帝国の技術だからなぁ…」


 今私が持つ手札は、大半が古代魔術帝国の遺産によってもたらされたものだ。対抗できない可能性もある。



「…リゼ?」


 あれこれ考え込んでいると、レド様に名を呼ばれた。何故だか───その声音は底冷えしそうに低い。


 狼狽える私に、ジグがその理由を教えてくれる。


「リゼラ様、考えていることが声に出てましたよ」

「えっ」


 嘘───またやってしまった?


 レド様の方を、そろりと窺う。ああ、漂う空気が冷たい…。


「まさか…、一人で行くつもりではないだろうな───リゼ」

「いえっ、まずはネロとヴァイスに探って来てもらうつもりですっ」


 私は、慌てて首を横に振る。やっぱり、私は行かない方が良さそうだ。


 でも───ネロとヴァイスだけで大丈夫だろうか。古代魔術帝国のセキュリティーを掻い潜れても、解除はできないだろうし…。



「…ノルン、ネロとヴァイスと一緒に行ってくれる?」


 ノルンなら解除できるかもしれないと思って、そう訊ねると────ノルンは、嬉しそうに破顔した。


「はい、勿論です───(マスター)リゼラ!」


 はりきるノルンを微笑ましく思いながら、私は続ける。


「それじゃ───ノルン。共に地下空間に行って、もし古代魔術帝国のセキュリティーシステムが作動しているようなら、その解除を───そして、できれば、権原の把握をしてきて欲しいの」

「はい、お任せください!」


「ネロ───ヴァイスとノルンを一緒に連れて行ってくれる?」

「わかった」


「ヴァイス───ネロとノルンの護衛をお願い」

「了解した、我が姫」


 ノルン、ネロ、ヴァイスに決して無理はしないように言い含めてから、送り出そうとして────ふと思いつく。このうちの誰かと感覚を共有することができないかな────と。


 今のところ、レド様以外の人と感覚や能力の共有はできていないけど、ここにいるどの子も私と繋がりが深い。験してみる価値はあるかもしれない。


 やるなら────ネロかな。


「ネロ、ちょっといい?」

「なあに?」

「視覚を共有させて欲しいの」

「いいよ~」


 …これは、意味が解っていない気がする。まあ、まだできるか解らないし、とりあえず、やってみることにしよう。


 私は目を瞑って、自分の内側に感覚を集中させる。


 ネロとの繋がりを辿り、その存在を掴むと────ネロの視覚を共有させてもらうべく、【(シンクロナ)(イゼーション)】を発動させた。


「【(シンクロナ)(イゼーション)】」


 次の瞬間には、見上げるほどの巨大な───瞼を閉じて屈み込んでいる自分の姿が頭の中に浮かぶ。成功したみたいだ。


 瞼を開けると───自分とネロの視界が重なって見えて、眩暈を覚えた。これは、早々に送り出して、自分の視覚は閉ざしていた方がいいな。


「それじゃ、皆────お願いね」

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