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第二十三章―逆賊たちの持論―#5


ブックマーク登録してくださった方、本当にありがとうございます!

毎日誰かしらアクセスしてくださっているようで、読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。


※ラルドの名前ですが、セレナとヴァルトと並べる前提でつけたために、ラムルと並べると字面が似ていて、書いていて少々ややこしく感じるため、思い切って、ラルドの名前を変えることに決めました。読んでいて違和感や混乱を感じてしまったら、申し訳ありません。

この話より、「ラルド」→「ハルド」とすることにしましたので、よろしくお願いします。

すでに「ラルド」と表記されている部分も、遡って、徐々に直していくつもりです。


「お帰りなさいませ、旦那様、リゼラ様」

「お帰りなさいませ」


 お邸に戻ると、ラムルとハルドに出迎えられる。



 ハルドは、ディルカリド伯爵家でセレナさんの弟の侍従になる予定だったみたいで、3年前まで侍従となるべく教育を受けていただけあって、侍従服姿も態度もなかなか様になっている。


 ラムル曰く、言葉遣いや礼儀など───侍従としての基礎はすでに施されているので、後はレド様の習慣やこのお邸の流儀を仕込むだけとのことだ。



 そして───ラムルとハルドより少し後ろの位置に佇んでいた執事服姿の青年が、すっと前に出て、ラムルに劣らない優美な動きで、胸に手を当てて一礼をした。


「お帰りなさいませ、殿下、ご主人様」


 レド様は、一瞬訝しげに眉を寄せてから────その正体に気づいて、驚愕の表情を浮かべた。


「お前────レムト、か…?」

「さようにございます」


 まあ、レド様が驚くのも無理はない。それほどに別人に見えるのだ。


 エルもウォイドさんもそうだけど、本当に俳優さんって凄いよね。

 ちょっとした表情や仕種、言動を変えるだけで────こんなにも別人になってしまう。


 今のレムトさんは、普段の大人しそうな中年男性という印象とはかけ離れた───怜悧で仕事のできるハイスペックな青年という趣だ。


「念のため、髪や瞳の色を変えた方がいいかもしれませんね」


 私たち素人は騙せても、元とはいえ同業で雇い主だったゾアブラには通用しない可能性もある。


 茶髪が多いこの国にあって、レムトさんのような“萌黄色”と言ったらいいのか───淡い緑がかった金髪はいないこともないが、少し目立つかもしれない。


 ノルンに手伝ってもらって、何か創るかな。


「名前も変えておきましょうか」


 私がそう言うと、レムトさんは微笑んだ。


「それでは“イーデル”と────いえ、レーウェンエルダ風に“エデル”としておきましょうか。エデルとお呼びください」


 イーデル───確か、アルドネ王国の名前だったはずだ。


 おそらく、これがレムトさんの本名に違いない────私はそう直感する。

 何故、本名を名乗る気になったのか解らないけど、触れない方がいいのだろう。


「では、エデルさんと呼びますね」

「それはいけません。エデルとお呼びください。私はファルリエム子爵───貴女様の執事なのですから」


 そういえば、一時的に、ファルリエム子爵家の使用人として扱うと宣言したんだった。


「解りました。では、エデルと呼びます」


 レムトさん改めエデルは、私の言葉に再び微笑んでから一礼をした。


「それでは…、エデルは────我がファルリエム子爵家の執事ということですね」


 ラムルへの確認と、周囲への認知のため、言葉にする。


「…ええ。さすが、リゼラ様がお連れになった者です。通常の業務なら───教えるまでもなく、任せることができそうです」

「そうですか。一応、雇用契約も交わしておいた方が良いですね」


 エデルなら大丈夫だとは思うけど、守秘義務を盛り込んで、【契約魔術】も施した方がいいだろう。


 雇用契約の書式はロイドから教えてもらっているし───これもノルンに手伝ってもらって、後で寝る前に作成しよう。


 それで───レド様に何と言われようと、給金も私の年金から出す。うん、そうしよう。


「…俺の執事では駄目なのか?」

「レド様にはラムルがいるではないですか」


 まあ、大邸宅を構える貴族家なら、家令の下に何人も執事を抱えていたりするけど。レド様の場合は、状況的にこれ以上増やすのは不自然だ。


 諦めたのか、レド様は溜息を一つ吐いて────ラムルに告げる。


「ラムル───皆をダイニングルームに集めてくれ。話したいことがある」



◇◇◇



「例の魔石の案件だが────俺は…、解決するために注力することを決めた。冒険者ギルドと連携して、積極的に調査し───相手が良からぬことを企んでいるというのなら、阻止するつもりだ」


 ダイニングテーブルを囲んで座る面々に、レド様は露にしている右眼に強い意志を湛えて、確りとした声音でそう宣言した。


「セレナ────ヴァルトから話は聴いているな?」

「はい。すべて聴いております」

「おそらくは…、お前の身内が関わっている。もし、対峙するのが辛いのなら────この件から外れるか?」


 セレナさんは、レド様に仕えたいと言ってくれたあのときと同じ───決意を籠めた双眸をレド様に向ける。


「…いいえ。父が関わっているというのなら、私が何もしないわけにはまいりません。どうか────携わらせてください」


「そうか、解った。────ヴァルト、ハルド、お前たちはどうする?」


「主殿が決めたというのなら、ワシは従うのみです。躊躇う理由などない」


「オレも…、同じです。オレの主は────ルガレド殿下とリゼラ様です。相手が以前の主だろうと、関係ありません」


 ヴァルトさんもハルドも、迷うことなく────きっぱりと応える。


 レド様は、ヴァルトさんとハルドの言葉に一瞬だけ口元を緩めたが、すぐに表情を引き締め直した。


「そうか。では、この件は────全員で取り組むこととする。忙しいところをすまないが、皆、協力して欲しい」


 レド様がそう言うと、ラムルを始めとした全員が、力強く頷いた────




 とりあえずは、情報の共有からということで────すべての情報を洗い出すように、全員に向けて順を追って話しながら確かめる。


 3頭の魔獣についても、昨日、ラムルやディンド卿とは話し合ったが、全員にはまだ話していなかった。


 それと、エデルを保護することになった経緯も打ち明ける。



「ところで────エデルもいるようですが…、よろしいので?」


 私の後ろに控えるエデルをちらりと一瞥して、ラムルがレド様を伺う。


 エデルが混じると話に制限がかかってしまうから、遠慮してもらうつもりだったんだけど、本人たっての希望で参加することになったのだ。


 巻き込まれた当事者だし、匿ってもらうからには協力したい────というのが、エデルの弁だ。


 巻き込まれたのはエデルの自業自得な気がしないでもないが、私の“祝福”のせいともとれなくもない。


 だけど、ゾアブラの件に関しては、エデルがとっかかりなのも確かだ。


 だから、雇用契約するときの魔術契約を厳しいものにすることにして、レド様に同席の許可をもらった。


「エデルには、魔術で契約して───守秘義務を課すつもりです」

「……配下にするおつもりで?」


 ラムルが、眉間に皺を寄せて訊く。まあ、ラムルの心配も解らないでもない。あまり胡散臭い人物を、大事なレド様のお傍に置きたくないのだろう。


「いや、それはない」


 私が答える間もなく、レド様が即答する。

 ラムルは、あからさまに安堵した。


「……ええっと、とにかく────話を進めましょうか」



「それで───その賊どもが逃げた先は判明したのですか?」


 ディンド卿の問いに、レド様が頷く。


「ああ。逃げ込んだ建物は判っている。ギルドを出た後、探りに行ってみたが、得るものはなかった。ただ、貴族街の(きわ)に立つ邸で、貴族家のものだろうということは明らかだ」


 レド様の千里眼で確認してもらったが、もうゾアブラもあの二人の護衛もいなかったそうだ。執事と侍女、それからメイドが数人いただけで、邸の主人らしき人物もいなかったらしい。


「貴族街の際ということは、裏口に入って行ったのですね?」

「ああ。何処でもいいから逃げ込んだといった感じではなかったな。勝手知ったる場所だから、そこに逃げ込んだ────そんな感じだった」

「解りました。場所を教えてください。私の方で調べておきましょう」

「リゼ、頼む」


 ラムルの言葉を受け、レド様が私に目を向ける。私は、該当地域の地図を、【遠隔(リモート・)管理(コントロール)】で取り寄せた。


 この地図は───レド様が【索敵】で皇都の【立体図(ステレオグラム)】を作製して、貴族街と、貴族街に隣接する裕福な商人や官吏などの住居エリア、この二つの区域を私が眺めることで記憶に留めておき───つい先程、皆が集まる直前に、以前討伐した魔物の鞣革を利用して紙を作って、そこに、即席で編み上げたオリジナル魔術【描写】で写し取ったものだ。


「ここです」

「ほう、確かにこれは貴族街の際ですね。貴族街の邸の立地は、序列を如実に表します。この位置ですと…、あまり権力を有さない伯爵か、子爵辺りですね」

「伯爵…」


 ウォレム=アン・ガラマゼラが浮かぶが────先入観は禁物だ。


「ご主人様────私が助けていただいた位置は、何処になりますか?」


 エデルに訊かれ、私は地図に意識を戻す。


「そうですね…、この辺りだと思います」

「なるほど。では────私は、ゾアブラがその邸に入る直前に声をかけてしまったのですね。それは…、殺されそうになるわけだ」

「エデルは、このお邸の前でゾアブラに声をかけ───お茶を飲みに行こうと誘われて、こちらへ移動したということですか?」

「ええ、その通りです」


 エデルが自分で言った通り────それは、殺されそうになるわけだ。


「エデル…、貴方、やっぱりゾアブラが訳ありだと、ちゃんと判っていたんじゃないですか」


 貴族の邸宅の裏口に向かうところを見て────この人が何も察しないわけがない。エデルは微笑むばかりで、何も言わなかった。


「まったく、もう…」


 私は、深い溜息を吐いた。



「その賊たちは、ルガレド様を見知っている者ということでしたが───」


 ディンド卿が、逸れそうな話を戻しにかかる。


「ルガレド様に見覚えはないのですか?」

「ゾアブラという男にはない。だが、護衛の一人に見覚えがある」


「え、そうなのですか?」


 初耳だったので、私は思わず口を挟んでしまった。あのときは、そんなこと言っていなかったのに。


「あのときは判らなかったが、ラムルから皇妃の話を聴いていて────思い出した。あれは…、皇妃の専属騎士だった男だ」

「皇妃の?」

「ほら────ロウェルダ公爵が、例に出した男だ。皇妃が、見目を気に入って強引に自分の専属騎士にしておいて────くしゃみをした顔が醜かったから懲戒免職にしたという騎士だ」


「ああ、あの…!え、あの二人のうちの一人が、そうだったんですか?ええと…、どちらの方ですか?」


 どちらも顔の造作は整っている方だとは思ったけど、皇妃が気に入るほどだったかな…?


「淡い茶髪の方の男だ。かなりの美男子だったと思うが…」

「ああ…、茶髪の────え、そんなに美男子だったかなぁ…?レド様に比べたら、全然────」


 不意に沈黙が降りたので、顔を上げると────まず、レド様の嬉しそうな表情が目に入った。


 次に、ディンド卿の苦笑い。


 そして───ラムルとカデア、ラナ姉さんとヴァルトさんの───ニマニマとしか表現できない笑い顔…。


 私は、両手で顔を覆うしかなかった…。



「あー…、それでは───その男も、皇妃に恨みを持っている可能性が高そうですね」


 ディンド卿が、また脱線しそうになった話を戻してくれる。ありがとうございます、ディンド卿…。


「皇妃とジェスレム皇子に恨みを持った者たちが寄り集まって、何か企んでいるということでしょうか?」


 さすが、ラムルは切り替えが早い。素早く表情を直して、ディンド卿に続く。


「皇妃に恨みを持つ者…」


 私は、ふと違和感を覚えた。


 ガラマゼラ伯爵とゾアブラ、そして元専属騎士。経緯から考えると、この三人が恨んでいるのは皇妃────それは、確実だろう。


 だけど────ディルカリド伯爵が恨んでいるのは、おそらく皇妃よりもジェスレム皇子のはずだ。息子をジェスレム皇子に殺されたのだから。


「皇妃は────レド様やおじ様から聴いた印象だと、息子を失っても悲しむような性質だとは思えないのですが…」

「そうだな。皇妃は、ジェスレムが死んだとしても悲しみはしないと思う」


「ですが───そうすると、皇妃に思い知らせる目的で、ジェスレム皇子を害するのは意味がないということになります。それならば…、もし彼らが手を組んでいるとすると────ジェスレム皇子だけでなく、皇妃も標的に入っていると考えるべきですよね」

「…そうなるな。個々に狙うつもりか、共にいるところを狙うつもりかは判らないが」


 私たちの推論に、ラムルが口を挟む。


「リゼラ様に手勢をお借りしてから、皇妃とジェスレム皇子を探ってはおりますが───あの二人は、共に行動することは、ほとんどありません。一遍に事を済ますならば…、やはり辞令式を狙うつもりでしょうか?」

「辞令式は皇宮内の“謁見の間”にて行われる。その分、警備も厳しいはずだが────相手に、偃月騎士団団長のガラマゼラ伯爵がいるからな。可能性はある」


 辞令式には、国中の貴族が集まってくる。その中には、ベイラリオ侯爵やその家門、傘下の貴族も含まれる。いくら無責任な防衛大臣でも、警備には力を入れないわけがない。


 でも、その警備を任される騎士団に手引きをされてしまったら────


「これは…、おじ様───宰相であるロウェルダ公爵閣下に注進すべきかもしれません」

「ああ、そうすべきだな」


 おじ様には、契約のことや魔術のことは打ち明けてある。ただ───“祝福”については、まだ話していない。


 注進したとしても、おじ様もロヴァルさんも、私たちの推論は強引に感じるかもしれない。


 ガラマゼラ伯爵が関わっているかどうかは、おそらくゾアブラたちが逃げ込んだ邸を調べることで判明するだろう。


 ディルカリド伯爵が関わっているかどうかも、どうにか確定できたらいいのだけど────


 今ある手がかりで、ディルカリド伯爵が関わっているか判断する方法…。


「……あ」


 一つだけある…!


「リゼ?」

「レド様、おじ様に注進する前に、ディルカリド伯爵が本当に生きていて関わっているかどうか───セレナさんの弟たちが関わっているかどうか、確かめてみてもよろしいですか?」

「勿論だ。だが────そんなことができるのか?」


 レド様は、疑っているというより、不思議そうに首を傾げた。


「ええ。こちらには有力な手掛かりがあります───エルドア魔石という」

「エルドア魔石で?」


「冒険者ライセンスは───自分の魔力を通せば、他人の魔力は受け付けなくなるようになっています。それは、魔力の質が人それぞれ違うからこそ可能なんです。このエルドア魔石は、魔力の塊です。この魔石の魔力の質を分析すれば、ディルカリド伯爵の魔力かどうか判定できるはずです」


「…どうやって、その魔力がディルカリド伯爵の魔力だと断定するんだ?」


「先程、冒険者ライセンスは他人の魔力は受け付けないと言いましたが───私は、例外を一度だけ見たことがあるんです。その冒険者は、弟と一緒に冒険者をしていたのですが、ライセンスを弟のものと取り違えて持ち歩いていました。

通常、ライセンスは持ち主が一定時間触れないでいると、休止状態になります。そうなると、評価などの書き込みができなくなってしまうんです。

ですが、その冒険者もギルドも気づかず、しばらく取り違えた状態のまま、評価の書き込みもなされていました」


 その冒険者は、私やレド様のように訳ありではなかったので、ライセンスに仕込まれていたのが魔力を認識するだけの魔道具だった。


 だから、ギルドの方もしばらく気づかなかったようだ。ちなみに名前も一文字しか違わず、余計に発覚が遅れたらしい。


「つまり────兄弟なら…、魔力が似ているということか?」

「その可能性は高いです。もし───魔力も、バドさんが言っていたオーガの角の模様のように、親子あるいは兄弟姉妹で似ているとしたら────」


 “DNA”のように、鑑定できるはずだ。


「そうか!こちらにはセレナがいる。エルドア魔石の魔力が、セレナの魔力と似ているのなら────ディルカリド伯爵あるいはセレナの弟たちが関わっていると判断できるな」

「ええ」


 私は、ラムルとカデアに顔を向ける。


「ラムル、カデア、実験に協力してください」

≪ジグとレナスも≫


 ジグは、ラムルとカデアの息子で───レナスは、カデアの弟だ。試すにはちょうどいい。


「かしこまりました、リゼラ様」


 ラムルが当然のように応え、カデアが笑顔で頷く。


≪了解いたしました≫

≪かしこまりました≫


 ジグとレナスからも、承諾の言葉が返ってきた。


「実験が成功したら、セレナさんも協力をお願いします」


 セレナさんは呆気にとられていたみたいだったが、私の言葉で我に返ったようで────その表情を引き締めた。


「はい────協力させていただきます」

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