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第二十一章―ファルリエムの忘れ形見―#3


ブックマーク登録してくださった方、評価をしてくださった方、『いいね』を押してくださった方、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます!


※「ラルド」の名称を「ハルド」へと変更します。混乱させてしまいましたら、申し訳ありません。


※『#1』『#2』のリゼラのエルに対する心情を付け加え、『#1』の最後のルガレドのセリフを書き換えました。話の流れとしては変わっていませんので、前回の投稿直後に読んでくださった方は、気が向いたときにでも読み返していただけると嬉しいです。


※誤字報告をしてくださった方、ありがとうございます。

ご報告いただいた『魔玄』と『墨果』についてですが、これは私の造語でして、耳慣れない言葉なので、読み方を定めておけば頭に入りやすかなと考え、初出時だけフリガナを振った次第です。おそらく、古代魔術帝国の魔術名などと同様だと考えて誤字報告をしてくださったのだと思いますが、これらは“主人公たちが普段使っている言語”での名称なので、フリガナはあえて振っていません。

ですが、ご連絡いただけたことは嬉しかったです。ありがとうございました。



「何と言うか────鮮やか過ぎる花のような子だったな…」


 エルがウォイドさんと共に、現在借り受けている劇場へと戻った後───レド様がしみじみと呟いた。


 言い得て妙な表現だ。


 確かに────女優であるエルは、目を遣らずにはいられない存在感がある。ああいうのを、“華がある”というのだろう。


「それにしても…、リゼが、ベルネオはともかく────エルと知り合いだったことは驚いた」


 レド様の言葉に、私は苦笑いを零す。

 まあ───私もこの場にエルが現れたことには驚きましたが…。



「ところで───ラムル。私とエルが友人だということを知っていたのに…、どうして、このことを教えてくれなかったんですか?」


 ラムルには、馬の件で、ウォイド劇団を訪問してもらっている。


 レド様の親衛騎士となる直前に逢いに行ったきりだったので、まだ馬を必要としているかの確認と、必要なら払い下げる旨を知らせるために、行ってもらったのだ。


 頼んだとき、私とエル───ウォイド劇団との関係を話してあった。


「それは────偶には、リゼラ様を驚かせたかったからですよ。いつも、リゼラ様には驚かされてばかりですからね」


 ラムルは、悪びれもなく、涼しい顔で言う。


 この表情────しれっと悪態をつくジグにそっくりだ。

 やっぱり親子なんだな────と、妙に感心してしまった。


「そんなに、驚かせたことありましたっけ…?」


 私は首を傾げる。


 ラムルが驚くようなこと────そんなにあったかな?

 白炎様のことくらいだと思うけど。


 すると───何故か、レド様やラムル、レナスが、ちょっと呆れたような表情になった。ジグも呆れているような気配を醸している。


「リゼ…、本気で言っているのか?」


 え、本気ですけども…。



「そ、そんなことより、代わりのお邸となる物件を案内してもらいましょう!────ベルネオさん、お願いします!」


 何となく話題を変えた方がいいような気がして、ベルネオさんに話を振る。

 ベルネオさんは、少し困ったように笑いを浮かべながらも、乗ってくれた。


「…そうですね。時間も有限ですし、参りましょうか。実は───今回ご紹介する物件は、この2軒先にある空き家なんです。

とある豪商が羽振りの良いときに建てたもので、店舗としてではなく───皇都に滞在する際に寝泊まりするために使っていたようです。妻や使用人を引き連れて上京していたらしく、部屋数も多くとられているので、ご希望に添えると思います。

かなり年季が入っており、修復など一切されていない状態ですので、金額も相応に低価格となっております。突然なくなっても、撤去したものと思ってもらえるはずです」




 ベルネオさんが案内してくれた物件は、ボロボロでいかにも廃屋という感じだったけれど、建物の大きさも部屋数も申し分なく───レド様はその場で購入を即決した。


 支払いは、予算から出すわけにはいかないので───レド様の資産からだ。



 【認識妨害(ジャミング)】をかけてから、建物を【拠点(セーフティベース)】として登録した後、拠点専用スペースに送った。


「それでは───リゼ、後を頼んだ」

「はい、お任せください。────ノルン、手伝ってね?」


 私がそう言うと、すぐにノルンの弾んだ声が返ってきた。


───はい、勿論です!(マスター)リゼラ!───



◇◇◇



 ラムルの肩に、忽然と、栗鼠のような精霊獣が現れる。私の使い魔───ローリィだ。


「もう来てもいいそうです」


 可愛らしい声で、ローリィが報告する。


 これからレド様がロルスの授業を受けに行くため、ロウェルダ公爵邸へ伺いを立ててもらったのだ。



 ローリィを含めた栗鼠やネズミ型の精霊獣たちには───ラムルの下で、こうした連絡役や情報収集を担ってもらっている。


 ネロもそうだけど───精霊獣は気配を感じさせずに行動することができるので、うってつけなのだ。


 ネロには自分の出番が減ったと拗ねられてしまったけど。帰ったら、ネロを存分に構ってあげよう…。



「ベルネオ───朝早くからご苦労だった。また何かあったら、どうかよろしく頼む」

「勿体ないお言葉です。何かありましたら、いつでも仰ってください。尽力致します」


 レド様が労いの言葉をかけると───ベルネオさんは喜びが滲んだ声音で応えた。


「それでは、私はこれにて、御前を失礼いたします」


 ベルネオさんは2軒隣の自分の商館へと戻っていった。


 商館は拠点登録をさせてもらい、【転移門(ゲート)】も設置させてもらっている。

 今後は、直接来ることもできるし───物資を調達してもらったら【現況確認(ステータス)】で移動させることもできる。



「俺たちも行くとするか。────リゼは、この後、セレナたちを訪ねるのだったか?」

「はい。新しいお邸の設備や自室の要望を訊きたいと思いまして。それと、渡したいものがあるので」


「渡したいもの────昨日、ノルンと創っていたあれか。俺も一緒に行きたいところだが…、ロルスが待っているからな。セレナたちによろしく伝えておいてくれ」

「はい」


「そのうち、セレナたちやエルたちにも、精霊樹の森を案内したいな」

「そうですね。アルデルファルムやヴァイスたちにも紹介したいですね」

「そうだな」


 新しい仲間たちをアルデルファルムに紹介できることが嬉しいのか───レド様は口元を緩めた。


 レド様のそんな様子が微笑ましく感じて、私も口元が緩む。



「ラムルは、孤児院か。ここまでの案内、ご苦労だった」

「有難きお言葉です」

「では、俺は行く。リゼ───くれぐれも無理はしないようにな。レナス、リゼを頼んだぞ」

「は、お任せください」


 私の手を握って心配そうに言うレド様に、私は苦笑を浮かべた。


 一度レド様に怒られてから、あまり無理しないように気を付けてはいるものの───まだまだ信用は取り戻せていないようだ。


「リゼ───また後で」

「はい、レド様」

「ジグ、行くぞ」

「は」


 ジグがレド様の側に寄ると、レド様は私の手を名残惜しそうに離して、【転移(テレポーテーション)】を発動させた。


 この土地自体に【認識妨害(ジャミング)】をかけたままなので、誰かに見られる心配はない。



「それでは、リゼラ様、私もこれで」

「あ、待ってください、ラムル。ちょっと試したいことがあるので、孤児院に送らせてもらえませんか?」

「それは構いませんが…」


 私は、ラムルに向き直ると───ノルンと共に編み上げたオリジナル魔術を発動させた。ラムルの足元に魔術式が展開して、光を放つ。


 これは、簡易的な【転移門(ゲート)】で────設置済みの【転移門(ゲート)】へと跳ぶことができる。


 孤児院の【転移門(ゲート)】へと繋げると、ラムルの姿が掻き消えた。


≪ラムル、無事、孤児院に着きましたか?≫

≪はい、孤児院へと転移しました。ありがとうございます、リゼラ様≫

≪いいえ。子供たちをお願いします、ラムル。それでは、また後で≫

≪はい、お任せください≫


 よし、オリジナル魔術は成功だ。後は────これを皆が使えるように、身に着けられる何かを創って、落とし込むだけだ。


 私とレド様以外は【転移(テレポーテーション)】を使えない。


 でも、この魔術があれば────私たちと一緒じゃなくても、皆も、多少制限はあるが、もっと自由に移動できるようになるはず。


 それに、これなら───お邸に直接、跳ぶことができる。



「それでは、レナス。私たちも行きましょうか」

「はい」



◇◇◇



「お休みのところ、押しかけてごめんなさい」


 セレナさんたちが滞在している宿屋『月光亭』に赴くと───ヴァルトさんとハルド君の部屋に、セレナさんも一緒に待機していてくれていた。


「いいえ。わざわざ、来てもらってしまってすみません」


 一昨日の集落潰しの際、刃毀れしてしまったヴァルトさんとハルド君の武具を研ぎに出しているので───今日は依頼を受けたり狩りには行かないとのことで、こうして訪問させてもらった。



「今日の用件ですが───まずは、新しいお邸についてですね。何か、絶対設えて欲しい設備や、自室に関して要望はありますか?」


 私が訊ねると、三人は目を丸くした。


「…私たちの要望も取り入れてくださるのですか?」


「ええ。これから造るので、ある程度なら融通が利きますから。何かありますか?例えば、自室に本棚が欲しいとか、ベッドは出来るだけ大きい方がいいとか」


 私の言葉を受けて、ヴァルトさんが真っ先に口を開いた。


「ワシは、やはり───思いきり戦っても大丈夫な頑丈な調練場だな」

「それは、もう予定に入っています。何組か同時に手合わせできるくらい広くて、魔術を放っても壊れない特別製ですからね。ヴァルトさんも気に入ると思いますよ」

「そりゃ楽しみだ」


「自室については何かありますか?」

「特にはないな。ベッドさえあればいい」


 ヴァルトさんは、オーソドックスで良し───と。


 今のお邸の一人部屋と同じでいいかな。ドレッサーは使わないだろうから、それは抜きで。


「セレナさんとハルド君は?」

「オレは特には…。自室も最低限の家具があればそれで」


 ハルド君も、オーソドックスで良し───と。ヴァルトさんと同じ規格でいいかな。


「私は…、本当にいいのなら、本棚を入れて欲しいです…」


 セレナさんが、ちょっと申し訳なさそうに───遠慮がちに答える。


「解りました。大きさはどれくらいがいいですか?」

「その…、今は手持ちの本がそんなにないのですが───増えても大丈夫なように…、できるだけ大き目にして欲しいです…。駄目ですか…?」

「勿論、大丈夫ですよ。解りました。なるべく、大きめに造りますね。あ、どんな本棚がいいですか?ガラス戸をつけたりもできますよ」

「それなら、ガラス戸をつけてもらいたいです…」

「解りました」


 セレナさんは、ガラス戸付きの大き目の本棚を付ける───と。

 きっと、ドレッサーやクローゼットも、ちゃんとしたものがいいよね。


「家具や壁紙などのディティールは、どんなの感じにしますか?こう───シンプルなのがいいとか、フェミニンにしたいとか…」

「…それなら、その…、フェミニンなのがいいです」


 セレナさんは───恥ずかしそうに、頬を仄かに赤く染めて答える。


 何と言うか───とても可愛い人だな。

 私の周りには、今までにいないタイプだ。


 セレナさんは、私の護衛を兼ねた侍女となる予定なので───できれば、気軽に話してもらえるくらい打ち解けたい。


 ちなみに、ハルド君はレド様の侍従、ヴァルトさんはレド様直属の騎士となる予定だ。


「解りました。フェミニンな感じですね」


 後で、シェリアやラナ姉さんに相談してみようかな。

 女子メンバー皆で一緒に考えるのも、楽しいかもしれない。



◇◇◇



「さて、次の用件ですが────皆さんに渡したいものがありまして」


 私は、アイテムボックスから───予め取り寄せて、【防衛(プロテクション)】を施しておいた支給品の武具を呼び寄せる。


「間に合わせでありますが、とりあえずこの武具を渡しておきます。これには魔術をかけてありますので、刃毀れや損壊はしません。いざというときに使ってください」

「いや、間に合わせって───今使っている武具よりもグレードが高いんだが…」


 呆れたように、ヴァルトさんが言う。まあ、古代魔術帝国で造られたものですからね。


「それから、この【収納袋】と、【ポーション】を渡しておきます。この【ポーション】は、ある程度の傷なら、瞬時に全快します。切羽詰まったときだけ、使うようにしてください」


「それは───すごいな。そんな貴重なもの、ワシらに渡しちまっていいのか?」

「ええ、仲間ですから。ただ───これらの存在は知られたくないので、扱いには注意するようにお願いします。ですが───命に係わるような有事の際は、遠慮なく使ってください」

「おう、そうさせてもらう。ありがとうな、隊長さん。主殿にもお礼を伝えておいてくれ」


 ヴァルトさんの私の呼び名────『隊長さん』で定着しちゃったのか…。


「ありがとうございます、リゼラさん」

「…ありがとうございます、リゼラ様」


 続いて、セレナさん、ハルド君がお礼を言ってくれる。



「それと───セレナさんには、これを」


 この訪問の最大の目的と言っていい、セレナさんに渡すために昨日ノルンと創ったものを、アイテムボックスから取り寄せる。


「これは────杖、ですか…?」


 そう、1mに満たない長さの短杖だ。


 一見すると(シルバー)でできているようだが、実はフェイクだ。セレナさんが持つことを考え、重量は軽くしてある。


 杖の先には、掌より一回りほど大きい───円盤のようなものが取り付けられている。


「実は、この円い部分、開くようになっていまして────」


 懐中時計のように分離するようになっており、開けると中は空洞になっている。


「ここには…、“氷姫”を嵌め込めるようになっているんです」

「“氷姫”を?」

「ええ。一昨日、セレナさんが“氷姫”を使っているとき、何て言うか───ちょっと使い辛そうに見えたので…」



 “氷姫”は───魔術陣や魔術式は全てそうなのかもしれないが───触れている部分から魔力を引き出す。


 そのため、発動してしまわないよう、持ち方も慎重にしなければいけないようなので───戦場では不便な気がしたのだ。



「この杖の持ち手の部分に、親指の関節ほどの魔術式が彫り込んでありますので───“氷姫”を嵌め込んで、この魔術式に指を数秒当てていれば───指から魔力を吸い上げ、“氷姫”へと流れ込み、魔術が発動するようになっています」


 杖を握ると親指の腹が当たるように、魔術式の位置を考えてある。


「それは────すごいですね…」


 セレナさんが驚いたように呟き、眼を瞬かせた。


 セレナさんは、早速“氷姫”を杖に嵌め込む。そして、魔術式に指を当てようとしているので────私は慌てて止めた。


「ちょっ───駄目です、セレナさん!ここで魔術を発動させるつもりですか…!?」

「あ…!」


 セレナさんは我に返ったらしく、急いで魔術式から指を遠ざける。


「す、すみません…。私…、その、夢中になってしまって…」


 いたたまれなそうに、身を縮こまらせて───セレナさんは謝罪の言葉を口にする。


「いえ、そんなに落ち込むことはないですよ。試してみたくなってしまったんですよね?それでは、何処か、魔術を験せるようなところへ行きましょうか」


 セレナさんが必要以上に気にしないよう、なるべく優し気な声音で言葉をかけると───セレナさんは、少し驚いた様子で顔を上げた。


 さて────何処に行けばいいかな。

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