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1話

「絶対打てよぉーー!!! 信介!!」


「ここで点とって逆転だ!! ぶちかませ!!」


「まあ、見とけって。俺が一発スタンドに入れてやるよ」


 全員が声を張って俺の応援をしてくれている。

 スコアは現在3対1、俺のチームが負けている。しかし、ワンナウト1、2塁のチャンスだ。ここでホームランを打てば一発で逆転、俺はヒーローになる。決めなければ男じゃない。


 ゆっくりとネクストバッターサークルから打席に向かう。

 いつも通りにすれば打てる。ホームランだって難しい話じゃないはずだ。練習を思い出せ、あのスタンドまで運んだボールの感覚を思い出すんだ。それをまたやればいいだけだ。何も難しいことはない。


「緊張してんじゃねぇだろうなぁ!! そんなんじゃ打てねぇぞ!! リラックスしていけ!!」


「四番の意地を見せてくれよ、信介!! 快音を響かせてくれ!!」


 応援がやけに脳内に響く。

 集中しているからだろうか、普段だったら、緊張しているときは周囲の声などまったくと言っていいほど聞こえてこない。それが今はうるさいほどに脳内をこだましている。


 この試合を勝てば俺たちは全国大会へ進むことができる。

 高校生活最後の夏、負けたらこれで俺たちの青春は終わりだ。俺がアウトになっても次の奴が打てばいいなんて考えは一切ない。俺が決めて、さらに追加点を取ってもらうくらいの気持ちでいかないと、勝負が始まる前に負けてしまっているようなもんだ。気持ちで負けてちゃ始まらない。


「よしっ、お願いします」


 普段だったら間違いなくやらない審判への挨拶なんてものをしてみる。特になんで下かの理由はない。


 バッターボックスにたち、足場を綺麗に整える。

 こういうところはしっかりしておかないと最高のパフォーマンスは発揮されない。


 打席にたち、足場も整え、これで完璧だ。

 準備が完了した俺は、ピッチャーへ視線を送る。


 現在俺とこいつに対する成績は3打数1安打。全国でも余裕で通用するようなレべルのピッチャーにこの成績まずまずと言ってもいいだろう。だが、これで終わりではない。ホームランを浴びせてやるんだからな。


「プレイ!!」


 審判が叫ぶ。


 より一層気合いを入れて、構える。


 初球は何から入ってくるんだ? 様子見で一球外してくるか? それとも強気にストレート? だめだ、こんなところで迷っていては打てない。狙い球を絞って行くのが一番だ。決め球のフォークは外すとして、何とかストレートをとらえたいところだな。


 そうこうしているうちにピッチャーが振りかぶる。


 甘いコースに来たら打とう。


 投球モーションに合わせて、足をあげタイミングを取る。


 ピッチャーがボールを投げるその瞬間――







 俺は、見たこともない部屋に移動していた。


 まさかの出来事に思考が固まる。

 なんだ? 魔球とかそんなレベルじゃないぞ? 超次元野球をやってたのか俺は?

 まずい、これじゃ見逃しだ!!


「早速来たわね。何を珍妙なポーズをしてるの? もっと楽にしていいわよ」


 横から女の声がした。

 視線を向けると、神々しい光を背負った綺麗な女の子が立っていた。


 思わず目をこすって目がおかしくなったんじゃないか確認する。

 もう一度見てみるが確かに女の子が立っている。


「何なんだ急に。試合はどうなったんだ!?」


「試合? 何のことかわからないわ。まずは自己紹介をしないといけないわね。シンスケさん。私は貴方を呼び出した神です」


「はぁ? わけわからないこと言ってないで俺を打席に戻してくれよ。絶対勝たなくちゃいけない大事な試合なんだ!!」


 意味が分からない。俺は確かに打席に立っていたはず、そしてピッチャーの球をスタンドに放り込む予定だったんだ。それがここどこだよ。意味がわからないにもほどがあるだろ。神とかふざけたことぬかしやがって、俺は熱中症で倒れて夢でも見てるのか?


「それは悪いタイミングで呼び出してしまったわ。申し訳ないけど、元の世界に戻すことはできないわ。貴方にはもっと大事な使命があるもの」


 俺に試合よりも大事なことなんて存在しない。高校生活のすべてをかけた集大成の試合だったんだ。それを途中で茶々入れやがって。


「いいから返してくれよ。ホームランを打たなくちゃいけないんだ!!」


「だからそれはできないって行ってるでしょ。諦めてください。運が悪かったの。でも、選ばれたこと自体が奇跡みたいな確率なんだから感謝こそすれ、起こるなんておかしいわ」


「それだけ大事な試合だったんだ。俺の青春のすべてが詰まってるんだ。どこにそれよりも大事なことがあるって言うんだよ。断言できる、今の俺に試合よりも大事なことなんてないんだ!!」


 許せない。元の世界に返せないって何なんだよ。じゃあ何か? ここは異世界とでもいうのか? そんなこと信じられるわけがないだろう。


「納得できようができまいが話は進めるわ。ちゃんと聞いておくのよ」


 俺の話は聞く気はないらしい。もしかして詰んでる? 絶対に試合には戻れないってことなのか? うそだろ? こんな理不尽な話があっていいのかよ……。

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