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異世界だけどアタシはただの運送屋!

旧き良き......という図式は、必ずしも成り立ちません。異世界転生、ぶっちゃけ、旧い作品よりも最近の作品の方がなんだかんだと練られてて楽しいと感じます。もちろん、純然たる旧き良き......な作品もあり、というか、旧車趣味な僕の口から、「いや最近の作品しか勝たねぇわー」なんて言えるはずもないのですが。一種、お約束って奴ですよね。旧車のシールドビィーム!!な感じのヘッドライト、たまりません。平面のセミシールドのが好きですが。そんなお約束大好きマンが出張先のホテルでやることなくてウイスキーを流し込みました。

んだらば、こうなりました。

産まれる過程もあるいみ旧き良きって感じですね。まるで真っ昼間っからの不倫行為を音で書き連ねたクラシック音楽の如(侮辱発言になりかねないので自主規制)

異世界に


飛ばされた。


何を言ってるかわからないって?

奇遇だな、アタシもわからねえんだ。

38歳独身、トラックドライバーのアタシ、五十鈴・七生いすず ななみはある日、突然飛び出してきたキモオタっぽい引きこもりを轢きそうになり、避けた結果崖下へと転落、愛車のイヅツ製10tトラックと共に死んじまった。


......と、思っていたんだが、気がついたらファンタジー世界に愛車と共に放りだされ。

アタシは見た目14歳くらいまで若返ってるし、神通力でトラックは燃料補給が必要なくなってるし、壊れたら栄養をとって休めば復活するとか人間みたいな事になってるし、しかもどう栄養をとるのかと思えば、人間そっくりのこれまた少女になって飯を食えばいいというもはや何でもありな状況と化したわけだ。

とはいえアタシには走る以外で取り柄もねえ、愛車のイヅツ......イーちゃんも、飯は食うしタダじゃ維持できねえ。だから始めたのさ。何を?


わかってんだろ、運送屋さ。


商人じゃねえよ、相場や売値なんてどうでもいい、推移を読める頭もありゃしねえ。

アタシの唯一の取り柄、つまり安全運転さ。荷物を預かる、期日までに確実に絶対に預かった時のまま届ける。アタシとイーちゃんならそれができる。実際そういう商売をはじめてみれば、それはこの世界においてはまさに新しい商売の形だったのさ。

商品はきっと届く、そのうち、たぶん明日くらい。そんな言葉と裏腹に、紛失や略奪で永遠に届かないなんて事は多々ある世界。薬瓶一本、明日の昼に「絶対」届く安心感。金塊ひとつ、「絶対に」送り先へ到着する安心感。パンひとつ、「絶対に」買えることへの安心感。

アタシは国中駆け巡った。至るところで依頼され、完遂した。さっきもいったが、それがアタシの取り柄だからよ。届けたさ、村落で発生した難病の特攻薬、陥落寸前の砦の兵士への鼓舞の兵糧、伝説の竜殺しへと前金の宝石、それからその竜殺しを竜の巣近くへと。......ま、竜殺し殿は”積み荷”として箱に入って頂いたがね。アタシは運送屋さ、タクシーじゃない。

だが、仮伝(※仮伝票)があって、無茶な日程じゃなければ、アタシはなんでも請け負った。アタシは運送屋だからね、それも元は中小企業の小さい方で、今に至っては個人事業主さ。嘘だとわかりきってても、箱なんかいちいち開けて確認しやしねぇ。中でガサゴソ動いて「助けて」なんて声が聞こえても、送り主が「塩の壺だ」と言えば、塩の壺を運んださ。

実際、送り先の悪徳貴族の玄関先で、アタシは塩の壺を下ろしてやった。怪訝な顔をされても知らないねぇ、アタシは塩の壺だと言われて塩の壺を運んだんだぜ。まさか、壺の封を切って塩が逃げ出したなんて事はあるまい。そりゃ、ずいぶんと”生きのいい”塩だったがね。


そうしてたどり着いた魔王城。勇者達を下ろしたその場で、アタシは依頼されちまったんだ。

「魔族の平和のために......魔王様を、魔王様を、退避させるのだ......」

一仕事終えて、愛飲のエコーに火をつけたアタシに、勇者達から”露払い”させられた執事は、うわ言のようにそう言った。アタシは運送屋だ。政治なんか柄じゃない。見渡せば辺り一面血の海さ。運送屋の仕事とは思えないねぇ。運送屋ってのは、そう、運ぶ仕事さ。殺す仕事じゃない。運ぶ仕事......死神じゃなく、一本のミルクを、一壺の砂糖を、あるいはちょっと邪道に塩の壺を......。

どこかの誰かの労働の成果を、誰かの笑顔を運ぶのが、運送屋の仕事って訳さ。

「そりゃ、依頼かい?」

「依頼......だろうか」

執事はもはや焦点も合わない目でこちらを見ていた。

「運ぶのが仕事だ。それ以外、面倒は見ないよ」

「構わない。魔王様なら、魔王様なら......」

隣の部屋から、悲鳴が聞こえた。


駆け付ければ、メイドが何人も斬られていた。勇者は運んだが、こいつらを運んだ覚えはない。つまり......。


勇者は血にまみれた剣を構えていた。視線の先に、魔王が居る筈だった。その魔王はごく幼く見えて、まるで禍々しさなど、あるはずもなかった。


運ぶのが仕事だ。死神じゃなく、誰かの笑顔を運ぶのが。


だからアタシは、イーちゃんを呼んだ。


「執事さんよ、その仕事、請け負った!アト伝(※あとから伝票)の仮伝でいいから伝票を寄越しな、地の果てまで運んでやるよ!」




それ以来、アタシの人生はだいぶ狂っちまった。まず、魔王様の邪気とやらに当てられて、右腕の肌が浅黒くなっちまった。


......おっと、元からあったドライバー日焼け?そいつは失敬、確かにその通りだったか、ハッハッハ。だが、それだけじゃない。


「......で、地の果てはまだ着かんのか?」

助手席で、御丁寧にもシートベルトをつけた《ダンボール》がそう漏らす。

「確かにそうは言ったッスけどね、”商品”さん。そんな漠然とした目的地指定じゃ、ご想像の100倍走ったってつかねッスよ」

「であろうか、カッカッカ、愉悦愉悦」

助手席のダンボールには仮伝票が貼り付けられ、納期未定、なるはや、特急料金なし、目的地は地の果てなどと書かれている。内容物:ナマモノ。具体的に魔王。

運送業務外じゃ知ったこっちゃない、って言い分を盾にして、業務時間外は箱から出てきて飯を食ったり酒を飲んだり、挙げ句酔っぱらって絡んできたりと好き勝手やってくる困った積み荷だ。悪いやつではないが、世間知らずであるのも間違いない。魔王という地位はともかく、実情としては肌が浅黒くてツノの生えたガキにしか見えないしな。因みに、オトコらしい。オトコだからっつって、見た目小学生以下のガキじゃ身の危険も感じねぇし、この世間知らず具合じゃ危機感を抱けっつうほうが難しいってよ。

「魔族とやらは放っといていいンすか」

「問題ない。我と同胞は繋がっておるが故に、”我が討たれた”などという虚言も通用せぬ。我とて、同胞には伝えておいた。死ぬな、生きよ、生きて身を潜め、生き永らえて子孫を残せ。人類は有限だが、我らは無限である。然るべき時に、我は再び舞い戻ろう、とな」

「そいつぁ......その時には、アタシゃ居ませんよ、間違いなく」

「カカカ、であろうな、ウンソーヤ。この先一生、お主はおそらく真の意味でヒトの子に戻ることが出来ぬであろう。誇るがよいぞ、この魔王イルムシャーに仕えられたのじゃ」

「我が同胞の仇、数億年先であろうと晴らしてくれようぞ。今に見ておるがよい、憐れな者共......」

どす黒いオーラを出すダンボール箱は、されど今はただの紙箱。この世界が地球のように丸ければ、永遠にたどり着かぬ地の果てへの旅路。だけどきっと、素敵な旅路になるだろうと思えた。

愛車のイーちゃんは、ディーゼルエンジンの声高らかに歌い出す。

《いつまでも どこまでも》

走れ走れ運送屋、異世界においてもどこまでも。



......

............

..................


「のう、ところで世界の果てとやらは、もう一刻くらいか?」

「流石にもっとかかるでしょうねぇ」

「では1日か?」

「多分、ぜんぜんッスねぇ」

「一ヶ月ということはあるまい」

「年単位でも着かないとしたら着かないッスよ」

「なんじゃと!我の誕生日を城で祝えぬではないか!」

「もっと多大なタスクがあンだろ魔王」


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