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幼稚園刃物男立てこもり事件~ヒーロー見参~

作者: ヒロモト

包丁を持った男が急に幼稚園にやって来て一時間……。


「先生たすけてー!」


「うるせぇ!騒ぐな!」


「子供たちを離してぇー!」


包丁を園児の首に突きつけた男の目は明らかにおかしい。薬か何かをやってるのは素人の私でも分かる。どうしよう!子供たちに何かあったら私……。


「おい!だ……誰だテメェ!?」


「……」


……ほんとに誰?いつの間にか犯人の背後に立っていたのは汚いTシャツにジーパンに裸足の2メートル近い大男だった。スキンヘッドで顔は傷だらけ……なにあれ刃物傷?


「お手洗いお借りしやした。どうやら立て込んでいる用なので無許可になってしまい申し訳ありやせん。しかし出るものは引っ込められませんので」


「舐めやがって!」


「おっと」


「おい!は……はなせ!」


嘘でしょ?包丁を素手で掴んだ。柄じゃなくて刃の方を!犯人は両手で引っ張っているのに男は片手。

安物の包丁だったのかとうとう刃がすっぽりと抜けてしまった。刃物の柄だけ持って呆然とする犯人に男は頭を下げた。


「すいやせん。壊しちまいましたね。弁償しなきゃいけやせんかね?」


「……野郎!俺は柔道黒帯だったんだぞ!刃物が無くてもお前なんかぶん投げてやらぁ!」


ビリビリビリぃ!犯人が男の服を掴んで引っ張ると男の服はビリビリに破れた。


『……!?』


犯人も園児も私も言葉を失った。顔だけでなく身体中刃物傷だらけなのだ。背中には『男』の入れ墨。


「怒らせちまいましたか……仲直りのハグしやしょう」


「うぎゃああ!」


ボキボキボキ!男のハグで犯人の全身の骨が折れる音がした。


「おや?お昼寝の時間ですかい?」








「離せ!離せチキショウ!」


警察に取り押さえられパトカーに乗せられているのは立てこもり犯……ではなくカヲル君の父親だ。

あの顔の傷に背中の傷。深刻な虐待よ。


「……パパ」


やっばり虐待されてても親の逮捕って悲しいわよね。カヲル君。でもカヲル君。何回見ても幼稚園児には見えないわぁ。あの日。幼稚園に入園したくて家を抜け出して園に来たカヲル君はおしっこが漏れそうになってトイレを探しまわっていたらしい。

カヲル君がいて本当に助かったわー。


「……泣かねぇよ。もう年長さんだもん」


「無理しないで?いいのよ?泣いて」


「先生ぇ!」


カヲル君は私に『優しく』抱きついた。いやいや本当に幼稚園児?たくましすぎる胸板。何か高級なバーボンの匂いがする。あと強烈な男性ホルモン……ダメ。園児相手に『女』になっては。


「カヲル君。入園おめでとう」


「痛み入ります」


カヲル君(5歳)の幼稚園ライフはこれからだ!







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