育ち過ぎる作物
第7章
魔王の半分の国は、至る所にジャガイモが育ち、王都も街の道端でも収穫できるようになった。
魔王は、趣味の悪い王宮から下を覗くと、今まで、ぜんぜん手をつけて来なかった、王宮の周りにも、緑の葉っぱが見える様になっている。
「あのジャガイモの生命力は、彼女の魔法の力なのか?」
しばらく、そのままにしておくと、戦いばかりしていた国民たちは、少し大人しくなり、ジャガイモを、物凄い勢いで食べ始めた。
「マリヒューイの為に、この世界に留まる事にして、どうせなら思いっきり魔法が使える場所が欲しくて、この国に、やって来たが、意外に面白いかも知れない」
ウインターノが、家の中にハンモックを作り、お腹にクマを乗せて昼寝をしていると、魔王が突然現れた。大慌てで、起き上がったので、ドスンと落ち、真っ赤な顔して、
「一体、何の用?」
ウインターノは、お尻をさすりながら、魔王に思いっきり抗議した。
「国中が、ジャガイモ畑になって、少し争いが収まった。だから、他の食べ物も国中に撒きたいと思って、相談に来た」
「それって、やっぱり、お腹が空いているから、イライラして戦争していたの?」
「さぁ、そこは解明していない」
(じゃあ、毎日、何しているの?)
それでも、気軽に話せるのは、この魔王とリップス親子くらいなので、ブツブツ文句を言いながらも、キッチンにある野菜を選び魔王に渡した。
魔王は、渡された野菜を見て、
「これらは、この国の野菜なのか?」
「よくわからないけど、あの雲の中から取り出した物で、魔法をかけてあるから、育つと思うけど……?」
「一度、聞こうと思ったのだが、親も、魔法が使えたのか?」
「いいえ、ここに来るときに、神様にもらいました」
「……」
魔王は、話し出すまで、数秒の間があったが、
「――タダで貰うのは気が引けるから、このスマホをやるよ」
ウインターノは、驚きのあまり、魔王に飛びかかり、
「本当?」
「電話できるの?」
「できる」
「検索は?」
「できる」
「写メ?」
「できる」
「うっそー! 動画は?」
「無理」
「ゲーム?」
「できる。但し、すべてにおいて、魔力が必要で、魔力のない者は、使えない」
「スゴイ! すごいよ。これ、本当にありがとう」
「これからは、訪ねる前に、メールする」
「了解です。あっ! 待って、お茶の苗もあげる。結構、早く育つし、美味しいよ」
魔王は、袋に入った野菜と、お茶の苗を1本もらい、自分の王宮に戻り、ウインターノが、魔法をかけた野菜を分析、分解して、また、国中に撒いた。
1ケ月後には、多くの野菜が、魔王の国でも収穫できるようになり、食事を届けに来たマリヒューイは、この国の変貌に驚いていた。
「兄上、すごいです。国民の為に、素早く、食糧事情の改善を図ったのですね?」
「イヤ、ウインターノの野菜を、撒いただけだ。あいつ、おかしい・・。俺の能力よりも作物を育てる能力が、勝っている。……おかしいと思わないか?」
「俺以上って……」
「わたくし思うのですが、彼女の魔力は、兄上の魔力をコピーしたと思われます。彼女の魔力を測った時に、そう思いました。いい加減な、大爺様のやりそうな事です。しかし、魔力を使いこなす為の素材が、彼女には備わっていません。そして、彼女に備わっていたのは、大爺様からもらった、無限ハンバーガーの鞄です」
「ウインターノさんは、この国に来てから魔法を覚えて、今は、まだ、初期の訓練中で、素材の存在も、わからないのではないでしょうか?兄上は、小さい頃から父上と、色々な国に出かけて、魔法を教わり、素材集めもしてきました。父上が、力をコントロールする程の魔力を持っていますのに、彼女の方が、作物を育てる魔力が上回っているのは、あの無限鞄に秘密があるのではないでしょうか?」
「うん、さすが、マリヒューイだ。本当に、賢いな」
「兄上……」
二人は、荒れ果てた街の中に、緑が増え始めたこの国の王都の様子を見て、ウインターノの力の凄さに感心していた。
「所で、カオ国は、やはり、食料に困っています。少し、支援して頂けませんか?」
「うん、持って行っていいぞ」
「兄上、私には、まだ、その様な能力がありません」
マリヒューイの頼みは、絶対に断らない魔王は、自分の研究の為に作って置いた作物を、マリヒューイの国に送り込み、マリヒューイからは、交易の代金を受け取り、また、しばらく様子を見る事にした。
一方、殆んどの時間を、部屋の中で過ごしているウインターノは、魔王からスマホをもらい、そのスマホにドップリとつかっていた。
「駄目だ。仕事もしないで、スマホにばかり夢中になっていては、前世と同じ結末を迎えるかも知れない・・。危ない、危ない、魔王の罠にハマる所だった」
昨日の夜、エザルールが訪ねて来て、広場のみんなが、ポテトの販売を待っていると告げたので、今日は、広場に出かけて、ポテトを販売する事にした。
ウインターノのポテトは、皮つきポテトで、ジャガイモは、ウォッシュ&乾燥で、土を落とし、千切りは、魔法で出来たので、フライヤーの籠に投げ込んで、音が鳴ると、取り出し、塩をかけて、スコップのような物で救って、買いに来た人達の皿に投げ込む。
小さい子供は、あからさまに、
「今日は、ウインターノさんが、ポテトをすくう事に失敗しませんように!」と祈る。
ポテトを求める列は、大勢の人達で溢れる、一人用の人力キッチンカーで、対応している為に、その時々で、量がマチマチになってしまう事があので、大抵の人々は、子供を並ばせていた。
子供が泣きそうな目で、ウインターノを見ると、おまけしてくれるからだ。
エザルールは、たまに、手伝いに来てくれて、塩を振りながら、いつも、『騙されている』と、言う顔で見ているが、本人は、気にしていないので、言葉にすることはない。
「エザルール、もう、疲れて来たから、これでお終いですって、最後の人の背中に、紙を貼って来て!」
「わかりました」
エザルールは、急いで、列の後ろに走って行って、終了の文字が書かれた紙を、最後の人に貼る。
一度だけ、その張り紙を、剥がして、自分の背中に張った人がいたが、それ以来、その人は、見かけなくなったので、ズルをする人達が、いなくなり、ここでの商売が、安全だと認識されて、この広場に、多くの人々が集まり、市場へと変貌を始めた。
ウインターノは、この国の事がわからないので、一度も、口出しをしたことはなく、なんとなく、市場が出来上がり、人々は、雲から奪い取った廃材で、家や店を建て、隠し持っていたお金が流通し始めて、貧しいながらも、普通の生活を始めた。
「ウインターノさん、木に果物がなり始めました。そのことで、みんなが相談があるようです」
マリヒューイに貰ったリンゴや柑橘系の種を撒いて、木を育て、食べようと思っていたが、自分の撒いた畑に来てみて、びっくりする。
「こんなに、育ったんだ。植えたと言っても、本当に、歩きながら種を一つ、一つ、土に入れて行っただけで、果物畑のようになった」
「今一番の話題は、ここの果樹園の話題です」
「……果樹園?いつ、果樹園になったの?」
「大勢の人たちが、果物の収穫を手伝ってくれるそうです。その後は、どうしますか?」
「ただ、リンゴが一つ、食べたかっただけなのに……、どうしよう」