両国を行き来する。
第6章
みんなと別れて、部屋に戻ると、魔王が座っていた。
「仕事が早いって、言われません?」
「……」
「先程の男は、なんだ! どうして、こちらによこした?」
「だって、あの男、子供に手をかけようとしたんですよ。……仕方がなく、そちらに……、あの時、頭の中に、あなたの国が浮かんで、勢いをつけたら、男が、消えていました」
「……」
二人の間に沈黙が流れ、まるで、怒っている教師と、反省している生徒の関係?
「お茶でも飲みます?」
ウインターノは、電子ケトルでお茶を沸かし、出来立ての茶葉で、お茶を入れ、鞄からハンバーガーを取り出し、ご馳走する。魔王は、お茶を飲み、ハンバーガーを2個も食べて、それから話す。
「いつから、魔法を使っている?」
「え?ここに来てからですが、あなたは、ずっと魔法が使えるの?」
「……」
(こいつ、会話が続かない……)
「あの男の事は気にしなくていい、今後も、暴力的な人間は、こちらに送り込めばいい。こっちは、何もしなくても、悪人は、次々と消えていく」
「――」
それでいいのかと、思っている内に、あっと言う間に、消えた?
「なんなの! あの男!」
それでも、乱暴者は、あちらに送ってもいいと、許可を頂いたようで、少し安心した。
「疲れたから、寝よう~~」
夕方になると、集まった人たちは、親切に、自分たちが収穫した野菜などで、スープを作って、分けてくれた。ウインターノは、料理が、一切出来ない。でも、訪ねてきた女性が、初めて採れたジャガイモをくれたので、有難く頂いた。
「土の臭いがする。ジャガイモだ! どうする?」
「あっちが来れたなら、こっちからも行けるかも?」
ウインターノは、授かったばかりの魔法で、まったく使い方がわからない、すべて独学での魔法の為に、たまに失敗する事もある。
この前は、鳥を捕まえようとして、勢いをつけすぎて、地面に直撃しそうになった、あの時は、本当に驚いて、また、死ぬのかと覚悟を決めたほどだ。
相手の存在を、ゆっくり探し、イメージ、イメージ、イメージ……。
『えい!』
イメージした所は、趣味の悪い王宮で、降り立ったのは、食事中の魔王のダイイング……。
「あの……、お食事中に、すいません」
「……」
「あなた、隣の国の人?」
「はい、そうです」
質問して来たのは、小さい女の子で、魔王に食事の用意をしている様で。
(誰?――メイドさん?)
「なんのようだ?食事中だ」
「自分だって、さっき、来て、ハンバーガーを食べたでしょ!」
「どうぞ、大丈夫ですよ。ご用があっていらしたのでしょう?」
「そうなの、これ」
ウインターノは、泥が付いているジャガイモをテーブルに置き、魔王の嫌がる顔を楽しみながら、はなしをする。
「よく、ハンバーガー屋にあるフライヤーが欲しいの。出来る?」
魔王と女の子は、びっくりして、少し黙っていた。
「もしかして、ポテトが食べたいの?」
「そうなの? わかる? ハンバーガーに必要な野菜は、どうにか出来たのだけど、ポテトが、出来なくて、そうしたら、近所のおばさんが、ジャガイモをお裾分けしてくれて、でも、料理が出来ないでしょ。だから、フライヤーの作り方を聞きに来ました」
魔王は、「油はどうするのだ?」と、聞いた。
「油も下さい」
魔王は、ため息をつきながら、
「この世界に来て、どうにか生きて来れたのは、その鞄から、無限にでてくるハンバーガーのおかげだろう? 魔法の使い方も良くわからない、ただ、なんとなく魔法を使って、生活している。今まで、魔法で、植物や食品、食べ物などが、出て来た事はあるのか?」
ウインターノは、考えて、「ありません!!」と、キッパリ答える。
「私もそうだ。だから、この国に来てからは、近くの国にいる妹が食事を運んでくれる」
「だから、」
「だから?」
「フライヤーが作れても、油はない!!」
ウインターノは、へらへらと、座り込み、
「わかりました。油が出来るまで我慢します」と言い、帰ろうとすると、側の妹が、
「ウインターノさん、油は、私がお持ちします。その為に、私をあなたの結界の中に、入れてくれますか?」
「本当?でも……、フライヤーがないと……」
その妹は、魔王を見て催促すると、フライヤーが、出現して、ウインターノは、感激した。
「お礼に、ジャガイモを置いて行きます。植えると増えるらしいですよ」
逃げる様に、その小さい女の子と、一緒に、自分の家にフライヤーを持って帰った。
「私は、この世界で、別の国の国王をしています。兄は、私の事を心配して、この世界に留まってくれていて、だから、私も兄の為にできる事は、なんでもしてあげたいと思っています」
「彼……、島持ちだと言ってましたけど……? あなたも国王なの?」
「はい、わたくしは、リカ国の国王です。兄は、当初、その小さい島に住む予定だったのですが、資源が半減してしまい、あなたと一つの国を半分にして、分け合ったと聞いて、驚いています」
「ああぁ、私も驚きました。でも、暴力的な方を、彼が引き受けてくれて、感謝もしています。しかし、本当に、今まで、気づかなかった。食べ物は、魔法で出来ないのですね?」
「どうです。不便に感じますが、雨を降らせ、養分を与え、成長を助ける事は出来たでしょう?」
「うん、出来た。私には、このハンバーガーあるから、何とか生き延びていられたんだ。あの神様に少しは感謝しなければね……」
「――」
「実は、私も、何度か、あなたの結界に入り込もうと、トライしたのだけど、結界は、完璧で、入れませんでした。兄は、あなたと会う事が出来て、あなたを知って、入る事に成功したようです。ですから、私も、これから、こちらに訪ねる事が、できるようになります」
「そうなんだ……?」
「たまに、訪ねてもいいでしょうか?」
「ええ、いいですよ。別に、戦争とか……? しないよね?」
「勿論です。どうぞ、お友達になって下さい」
「こちらこそ、よろしくお願いします」とウインターノは、頭を下げた。
ウインターノにとって、エザルール以外の初めての友達ができた。
(みんな、随分と年下だけど……。)
その後、その妹さんは、油を持って来てくれて、ついでに、鶏、ヤギ、薬なども持参してくれた。
鶏やヤギは、みんなの人気者になり、クマの地位は、第3位に成り下がったが、ウインターノは、クマを自分の家族だと思っていたので、頭を撫でながら、
「クマ、彼らは、卵を産んで、ミルクを搾り取られたら、食べられてしまうんだよ。大丈夫、クマは、絶対に、食べられないからね~~~。安心してね」と、慰めた。
フライヤーが、ウインターノの家に来てから、ウインターノは、広いジャガイモ畑を作った。
いつもは、雨を降らす事くらいしかして来なかったが、ジャガイモ畑だけは、柵を作り、毎日、成長を楽しみにしていた。
「お嬢様、ニワトリが、卵を産みました!」
「やった~~~! 月見バーガーの出来上がりだ」
ウインターノが、フライヤーで、ポテトを作り、目玉焼きをハンバーガーに挟み、大きな口を開けて、食べていた頃、魔王の国でも、大量に、ジャガイモが収穫され始めた。
魔王は、
「国中が、ジャガイモに埋め尽くされる……。物凄い、生命力だ」と、ひたすら感心していた。
「フライヤーと油が必要だ。それに、この量のジャガイモも、どうにかしないと……」