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住民が増える。

第5章

 「二つの国は、戦争はしない。それが条件」


 自分が結界を張った場所の事は、暇を見つけて調べてはいたが、武器、弾薬、核兵器らしきものは、見当たらなかった。大体、ミーアキャットのように暮らしている人々は、戦う事が嫌いなはずで、だから、安心安全な地域だけに結界を張ったのだ……。


 「まさか、他国に攻め込まれるとは、思っても見なかった。あの男、相当な切れ者なの?」


 「でも、私にできる事は、緑を増やして行く事だけ、そして、私は、カピを食べない。可哀そうだし、ネズミだし・・、無理だ~~~~」


 家に戻って二人に報告しようと思ったら、既に、親子で畑に出て働いていた。

 「お帰りなさい。どうでした?」


 この二人、何があっても落ち着いている肝っ玉は、尊敬に値すると、感心しながら、

 「うん、男の魔王が、この国を半分、欲しいと言ったので、戦争をしない条件で、承諾して来た」


 「……」


 「どういう事でしょうか?」


 「他国の船がこの国に向かって航行していて、それを彼が止める為に、この国を半分にして砂漠地帯は、私の物で、都市部は、彼の物にした」


 「その船に、旗はついていましたか?」


 ウインターノは、透視能力で、現在の様子を見ると、

 「うん、どんぐりのような、何かの実のような模様の旗が見える」


 「それは、マイゴー国です。この国の人間は争う事が好きですが、他国との戦争は下手くそで、マイゴー国に、多くの女性や子供などをさらわれて……、だから、夫を亡くした女子供は、この過酷な地域にやって来て、穴を見つけて暮らしています」


 「何、それ、犯罪では?」


 「この国に、犯罪なんて、たくさんありました」


 「だから、ある意味、国が半分になって、良かったかも知れません。港は、王都にしかありませんから、侵略の恐れが減りました」


 「こっちの方は、船は接岸できないの?」


 「はい、海岸付近には、海底に無数のとがった岩が存在していますし、それに、第一、港がありません」


 透視を続けているウインターノは、

 「あっ! そのマイゴー国の船、すべて沈没した。ああぁぁ、彼・・、容赦ないね」


 「さっき、私、その魔王に、言われたのだけど、私って、こっちの砂漠地帯の人々を、救う事が出来るのかな?どうしたらいいと思う?全然、わからないのだけど……」


 リップスは、笑って、

 「昨日よりも、物凄い勢いで、草木は成長しています。砂漠だった地域が、緑に覆われれば、自然が戻って来るように、人々も穴の中から出て来て、人間らしい生活が、出来るのではないでしょうか?」


 「そうだよね。私も考えたのだけど、今は、それしか思い描けないの、やれる事だけ、頑張ってやってみるよ。難しい事は、少しずつ考える。あ~~疲れた。早くお茶が飲みたいよ」


 その後、特に何も起こらなかったので、家の周りに2重に張っていた結界を解いて、雑草や木々などをどんどん広げて行った。


 国を半分にしたと言っても、この半分の国の面積や人口など、わからない事だらけだったが、そこは、気にしないで、行こうと思っていた。


 その後、緑は広がり続け、お茶も出来上がり、葉っぱみたいな野菜も育ち、塩をかけて食べてみた。

 「美味しい~~~。もう、これでいいかな~~~」


 「あの・・、お嬢様、外に、人が、数名訪ねてきています・・」


 「人って、人間?」


 「近くに、人間いたの?」


 外に出てみると、十数人の大人と子供、そして、体が不自由そうな男性も、原始人のような身なりで、そこに立っていた。

 「ああ、初めて会った時の、リップス親子を思い出した」


 「こんにちは・・、何か? ご用でしょうか?」


 リップスが、

 「皆さん、風の噂を頼りに、この地を目指して来たようです。緑の森は、結構、遠くからでも見える程に、成長しているらしくて、大勢の人たちが、ここを目指して移動しているようです」


 「そっか、そうだよね。例え、気候が最適で、カピは、安定して手に入っても、緑の森が見えたら、行ってみたいよね。・・観光?」


 「お嬢様……」


 一人の女性が、膝を折って、頭を下げる。


 「この森で……、ここで、暮らす事は、出来ませんか?この数か月、ずっと、木々が成長するのを見ていました。でも、この地にたどり着くまでに、大きな砂嵐に襲われたら、折角、隠れて生きて来た事が、無駄になると……。でも、どうしても、もう一度、木や雑草、畑を見て見たくて、ここまで、来ました」


 「皆さん、ここで暮らしたいの?私達と一緒に?」


 「はい、そうです。お願いです。ここで一緒に、緑の森で、私達も住まわせて頂けないでしょうか?」


 「別に、良いけど、家は、どうしましょう?」


 この時、なぜか、ウインターノは、魔法を使う事を躊躇った。その事を察して、リップスが、

 「大丈夫です。皆さん、荷物を持参していますし、外での生活に慣れています。大丈夫ですよ。きっと、ご自分で、どうにかなさるでしょう」


 ウインターノは、しばらく考えて、もしも、誰かが、自分たちに危害を与えれたら、また、違う場所に移動すればいいかと、思って、

 「いいですよ。適当に暮らして下さい。ここの事は、こちらのリップス親子に、任せたあります」


 「うん、とにかく、リップス親子に任せよう。知らない事ばかりで、どうにもならないし・・」


 「お嬢様、本当によろしいのでしょうか?」

 「ええ、その代わり、魔法の事は、当分の間、秘密にして下さい。エザルールにも伝えてね」

 「はい、わかりました」


 その後の人間の知恵には、びっくりする事ばかりで、皆で、さっそく家を建て始め、風呂を沸かし、食事を始めた。それぞれ、得意分野があるらしく、金銭の流通も始まり、足で踏み固めた道も出来てきて、どんどん、人口も増加して来た。


 人口が増えて、金銭のやり取りがはじまると、問題も出て来て、戦争が怖くて、逃げ出していた大男が、暴れはじめ、エザルールに手をかけようとした瞬間、ウインターノは、その男を、隣の国に、飛ばしてしまった。


 「あっ! 失敗した。見かねて、あっちに送っちゃった」


 騒ぎが起きれば、どの国でも野次馬は、大勢いて、男が消えた瞬間の事は、殆んどの人が目撃している。

 「シマッタ! でも、そういう事です。ここで暮らしたいのであれば、誰も、傷つけないで下さい。皆さん、争いが嫌で、穴の中で、暮らしてきたのでしょう?違いますか?」


 「平和に暮らせないのであれば、ここを閉鎖するしかありません。ごめんなさい」


 ウインターノは、みんなに頭を下げて、その後の事を待った。


 「彼は、本当に、厄介な人間で、消えてくれて、ホッとしています。ありがとうございます。私たちは、今、また、大きな嵐が襲って、命が消えても、この数か月間の生活が素晴らしくて、生きていて良かったと、思っています」


 「そうです。朝起きて、お茶が飲めるなんて、素晴らしい事です。ありがとうございます」


 「子供たちが、遊んでいる姿を見れただけでも、幸せでした。ウインターノ様、ありがとうございます。私達は、本当に、心からそう思っています。今が、人生の中で、一番、幸せです」


 大勢の人達は、砂嵐がなく、緑が多い森の中、なんの不満もなく、ただ、綺麗な空気を吸い、太陽の下で、息が出来る事が、最大の幸福だと感じていて、大男が消えて事など、どうでもよかったみたいだった。

 (それは、それで、問題だろうが、ここまで、達観するまでには、きっと、色々な事があったように思えた。)


 しかし、住民からのクレームがなくても、魔王からのクレームは、当然、やって来た。


 「あっ! やっぱり?」


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