国が半分になる。
第4章
結界を叩き割りそうな音は、あの後からずっと聞こえている。
「どうせ、私と雲の中身を取り合った、どこかの誰かさんでしょ?お願いだから寝かせて、今日は、結構、疲れているのよ」
それから、数日、リップス親子は、植物を大切にしながら、色々な事をしていた。
「ねぇ、お母さんは何をしているの?」
「種類別に植え替えをしているみたいです。こうやって根ごと掘り出して、要るものと、要らない物に分けています」
「要らない物は、捨ててしまえばいいのに……」
ウインターノが、雑草を捨ててしまうと、エザルールが、告げ口に行くと、リップスは大急ぎで走って、ウインターノを止めた。
「お嬢様、お願いです。雑草もこの国には宝です。お願いします。捨てないで下さい」
「そうなの?」
(前世では、おばあちゃんが、親の仇のように、雑草に文句いいながら抜いて、捨てていたけど?)
「カピの餌になって、おびき寄せる為に使うらしいよ」って、エザルールが教えてくれたが、
「イヤイヤ、絶対に食べません。ベジタリアンになりたい、あれって、ネズミだよ。絶対、無理だよ」
「私の家の近くにも存在しているかな?困る。家の可愛いクマが襲われたら、どうする?」
「カピは襲わないよ。食べられるだけだから」
「――」
「それにしても……、雨が降らないのに、水は減らない……、それに、嵐がなければ天気は快晴で、雲一つない。気温は、快適気温で、暖房やエアコンも不要。不思議な世界だ」
リップスが、大事にしている雑草に水をあげようとしていたので、
「リップス、水はあげないで、今、雨を降らせます。きっと、地下の水には塩分が混ざっていて、木や花に地下の水をあげると、枯れてしまうでしょう」
リップスは、驚いた顔をして、ウインターノを見た。
「本当ですか?」
「水を飲んで少しそう思ったの、作物には適さないのではないかしら?」
「……」
その後、ウインターノは、適量の雨を降らせ、成長を助けて、また次の日を待つ。
「明日には、食べられる葉っぱが見つかると良いね」
「それまで、ハンバーガーを食べましょう。そういえば、お茶ってある?」
「子供頃、飲んだことがあります。昔は、お茶の葉を栽培している里が有りました」
「そうなの?この辺?」
「いいえ、もっと遠くの里です。しかし、雨が降らなくなり、地下の水を……」
「地下の水を撒いていて、このような砂漠の台地に変わり果てたの?なんて愚かな国家なのでしょう」
「私、お茶の苗は、わかります。お茶の葉を収穫したら、蒸しますか?炒りますか?」
「お茶の葉って、生では駄目なの?」
「――多分、駄目だと思いますが……」
「そうなんだ。私が昔、のんでいた葉っぱって、なにだったのかしら? ハーブ? 雑草? わからない……。タンポポ?」
「??」
リップスは、ウインターノの事を、上流階級のお嬢様だと完全に思っているので、おかしなことを言っても、ぜんぜん気にしないで、次に進んでくれる。
「うん、有難い」
次の日の早朝からリップスは、お茶の苗を探し始め、お昼前には、どうやら見つかり、ウインターノの前に持って来た。
「お嬢様、ありました。お茶の苗です」
リップスは、たった一つの小さな苗を、宝物のように捧げ持って、ウインターノの所に持って来て、見せてくれた。
「これがお茶の苗なのね。では、これを原木にして、増やしましょう」
ウインターノは、二人の前で、どんどん苗を増やし、雨を降らし、苗を育てる。
「美味しいお茶が出来ますように……」
リップスは、家の前に、お茶の葉の畑が現れた時の感動は、一生、忘れる事が出来ないと思った。
「そうだ、ハンバーガー中のトマトも土に植えましょう。あの小さい奴、種だと思うのよ。そうよ、絶対にそうだ。今更だけど、トマトも、育てて見ましょうか?」
「はい」
「チーズに、種がないのが残念だ」
リップスが、毎日、草や木に夢中になっている間、ウインターノも魔法の研究をしていた。ウインターノの魔法は、そこに何か素材のような物が存在していると、コピーできる様で、例えば、勝ち取った服は、リップス親子には、ぜんぜんサイズが合わずに最初は着れなかった。
しかし、あまりにボロボロで、可哀そうに思い、現代風の作業着に変換できるかとやってみたら、出来た。
「あら、働く女性の制服風」
今では、エザルールの着ている服を気分次第で、変化させて遊んでいる。
服は汚れるが、ウオッシュ&乾燥で、直ぐにキレイになるし、体も、お風呂に入らなくても、ウオッシュ&乾燥で、綺麗になる。怠け者のウインターノには、特別いい魔法に思えた。
のんびり、楽しく毎日を過ごしていたが、結界の外からは相変わらず攻撃を受けているのを感じる。
「しつこい! なんでもアリで、なんにも無いこの世界に、なんの用があると言うの?」
そして、大きな地震と共に、彼は現れた。
ウインターノの張った結界は、この国全部を覆う程の結界ではなく、大雑把な範囲で張った結界だったので、結界が届いていない国の中心部など、都会的な場所は、無関係だと思い結界を張っていなかった。その代わりに、今いる場所は、二重に結界を張り、嵐や侵入者からこの地を守っていた。
リップス親子は、直ぐに、ウインターノの家に駆けこみ、家の中でも大丈夫なように、風船型の結界の中に避難して、揺れが収まるのを待った。揺れは長く1時間程、断続的に続き、その様子を、逐一、透視しながら見ていた。
「魔王が降り立った」
「え???また、魔法を使う人?」
「とにかく行って来る。大丈夫だから、もしも帰って来れなくても、ここを使って生き抜いてね」
そして、ウインターノは、結界の終わる場所に到着して、その男の前に降り立った。
「あなたは、誰?この国に、何の用があるのですか?」
「取られた土と資材の回収にやって来た」
「あのキノコ雲の中身、はあなたの物ですか?名前でも書いてありましたか?」
「あの時、集めて自分の国を造る予定だった。しかし、殆んどとられてしまい島になった」
『プっ!!』
「……」
「島なら島でいいじゃん! 勝負に負けたのだから仕方がないわね」
「――だから、君が結界を張れない土地を、半分もらう事にした」
『え? え~~~~~~!!!』
後ろを見ると、結界が張られていない土地は、断崖が見えて、国を半分にしていた。
「あな、あな、あなた! 私は、国全体に、結界を張れないのではなく、……イヤイヤ、まだ、この国に来たばかりで、そこまで考えていなかったのに、半分以上も、取るなんて、非常識よ!」
「君にはアレが見えないのか?」
その男が指さす方向には、他国の船が、たくさんこの国に向かって航行していた。
「この国は、とっくに終わっているオワコン国だ。だが、それでも、利用できる価値があると、他の国は思って、ああやって侵略にやって来る。目的は何かもわからない……」
「さぁ、どうする?また、この国の生存者を見捨てるのか?」
「あなたなら、そちら側の人間を助ける事が出来るの?」
「君こそ、そっちの人々をどうするつもりだ。まだ、二人しか助けていないようだが……」
「わたし……、どうしたらいいの?どうしたら、人を助ける事が出来るの?」
「……」
「見たことろ、善意もないが、悪意もないらしい。とにかく、この国の半分は、私が貰うそれでいいな?」
「……」
頭の弱い高校生が、どんなに魔法が使えても、国を運営する事など出来ない、だから、とにかく緑を増やして、穴の中の人々に家を与える事しか、考えていなかった。国が半分になって、同じような魔法使いが、治めてくれるなら、それはそれでいいのでは?と、最後には思った。
「いいわ、でも、一つだけ……」
「私たちの間に、戦争は無しよ!」
「それが条件」




