二人で旅にでる
第35章
若干10歳、もうすぐ11歳になるエザルールの親離れは意外に早かった?
王都のバンダ家で探し出した本を片手にギルドに出勤すると、エザルールは、熱心にメモを整理していた。
「もうそんなに文字が書けるようになったの?」
「そうよ。そうしないと忘れちゃうでしょ、ウインターノさん、どうやらミリバード都市では、今、クギが不足しているみたいなの……」
「調達できる?」
「??」
「ウインターノさん、都市の仕事は結構大変で、お客さんが戻って来ているの、ここは彼らの癒しの場所、それに、今は、ウインターノさんから頂いた諸々の調味料で、色々な味が楽しめて美味しい食事ができるでしょ?勿論、甘い紅茶も美味しいけど……」
「そこで、今、都市で不足している品物をこのカウンターに置きたいの、ハンマーも欲しいって言っていたけど……」
「エザルール、私はそこまで望んでいないのよ。ほら、新しい本も持って来たでしょ?」
「本は、絶対に読みます。お願い、忙しいリオールさんの手伝いだって一生懸命しているし、新しい調味料だって、すごく貴重だと思って、リオールさんも、ほんの少ししか使っていないのよ。本当にお願いします。王都ではクギもたくさん売っているのでしょ?」
「――いいわ、ベアドック、エザルールと新たな契約を行って、売り上げの5%をエザルールにあげると……」
「本当よ。エザルールのリクエストは、朝、リップスさんに教えてくれればいいわ。それを見た人間が、帰りにリップスさんに渡すでしょう。でも、本当に小さい物だけよ。わかった?」
「はい、わかりました」
エザルールは、飛び上がって喜び、ウインターノは、クギを求めて仕方なく王都の屋敷を訪れた。メイドのマイシルを探し、家の使用人にクギを買いに行かせる事にした。順調にクギが手に入り、あまりの重さに驚いた。
「小さいけど重い……」
「それにこんなにたくさん必要なのか?」
ベアドックが、
「お嬢様、必要な物をメモで渡すだけでは、今後もこのような事が起こるでしょう。それに、お嬢様の部屋まで運び入れる人間は、限られています。お嬢様と私、リップスさん、3人のご老人です。今後は、そのこともお考えなってから、商品を購入した方がよろしいでしょう」
「そうだね、このままだと王都にホームセンターを開くようになる。それは避けたい」
「はぁ~、エザルール、商社への道は、かなり厳しい」
夕方、仕事の終わったリップスに、エザルールのリクエストだったと伝え、これからはエザルールが5%の利益をもらう事も伝えた。
「お嬢様、本当によろしいのでしょうか?」(王都ではリップスもお嬢様と呼ぶ)
「いいのよ。でも、今回、仕入れたのはこの金額で、売値は、エザルールが決めれば良くて、毎日の売り上げの計算もして、利益や自分の賃金計算もしなくてはならない。どう?いい勉強でしょ?」
「はい、それは、本当にいい勉強法だと思われますが……」
「エザルールのやる気をみて見ましょう。今は、あなたよりも稼いでいます。ホント、すごいよね」
「……」
「それと、しばらく旅にでます。今は、ふたつの国も落ち着いてきているので、しばらくの間は留守にします。だから、私の家に出勤して品物の行き来は、リップスさんだけで行って下さい。大丈夫?たまに様子も見に来れるけど、いないと思ってくれていいです」
「どちらに行かれるのですか?」
「交易を始める国を巡ろうと思うの、橋が出来上がるまでは落ち着いた状態を保てるでしょ。それに、みんな、ギルトを通さなくても職には困らない。ギルドを任せられるエザルールもいるし、屋敷を任せられるあなたもいる。今が一番いい時期だと思って、隣の国王と共に7カ国すべてを回るつもりです」
「ベアドックさんもご一緒ですか?」
「いいえ、ベアドックにはこちらに残ってもらうつもりです」
「ギルドで問題が起こった時には対処してもらうから……」
「こんな事言ってはなんですが、ウインターノさんが、グリーンランドにいてくれるから安心して暮して行けたと思っています」
「そんな、大丈夫よ、帰って来ない訳ではないのよ。今は、他の国にも興味が湧いてきた、それだけ……」
リップスは、黙ったまま下を向いて、不安を抑えているように見えた。そして、その日の夜、エザルールが泣きながら訪ねて来た。
「ウインターノさん、私が無理を言ったからどこかに行っちゃうの?」
「違うの、ずっと、このまま緑に囲まれて生きて行けたらいいと、本気で考えていたけど、色々な国がこの世界にはあると、教えてくれる人がいたから、とにかく見に行きたいって思った」
「エザルール、エザルールが今やろうとしている事は、きっと、将来、役に立つ、しっかりやりなさい」
「でも、あまりお母さんに心配かけてはダメヨ。今日のあのリップスさんの暗い顔を見ると、本当に心配になる。いい?二人で、この家を守って、しっかり働いてね!」
わぁ~~~と、大泣きするエザルールが本当に可愛くて、ウインターノには妹のように思えた。その後、二人でイチゴのケーキを作り、大切なイチゴを食べる許可もエザルールにして、次の朝、魔王と共にまずは、リカの国へと降り立った。
×××××
早朝、リカの国の公邸の庭に二人は立ち、魔王は、顔見知りのメイドに朝食を出すように急がせる。
「ねぇ、そんな風で大丈夫なの?これって不法侵入ではないの?」
「大丈夫だ。ここはマリヒューイの公邸だけど、自分のでもある」
「いやいや、あなたはそうでしょうけど、わたしは?大丈夫なの?」
「大丈夫だろう、こうやって向き合って座っているんだ。当然、大切なお客だと理解できるだろう」
ウインターノは、そうなのかと思いながらも、素晴らしい庭園をキョロキョロ見回していた。
「ねぇ、ここ、すごいね。王宮って、こういう感じが正解だよね。それに比べて、ユーオーライ国の王宮は……、しかし、少し寒いかも、この国では、今の季節は何になるの?」
「さぁ、春か、初夏辺りか、その辺ではないか……」
その後、中華風の薬膳料理が運ばれてきて、軽い揚げパンや果物、色とりどりの食材で出来た料理も運ばれ、日頃食べている朝食とは全く違ったメニューで、本当に旅行をしているように思えた。
最後に消化を助けるお茶が出て来た時に、マリヒューイはケンティと一緒に現われた。
「ウインターノさん、ようこそリカの国へ、お待ちしていました」
ウインターノは、急いで立ち上がり、手を差し伸べ挨拶をする。
「突然の訪問、すいません。随分前に誘って頂いて、今、本当に色々な国を訪れたいと思い立って来ました」
「それは良い事です。説明するよりも目で確認した方が良いでしょう。それに、今回、本当に大量の薬草を有難うございます」
「アレは、自分の畑で野生で育った薬草ですが、お役に立てばいいと思いまして、出発前に、二人で収穫してきました」
「本来、薬草は野生が一番です。今回のように急いでいる場合は畑に頼るしかありませんが、素晴らしい薬草で長老たちも大喜びです」
「もう、ご覧になったのですか?」
「はい、長老たちは、皆さん早起きです」
「それより、ウインターノさん、寒くありませんか?」
「ええ、少し寒くて、でも、夏なんですよね?」
マリヒューイは、魔王をチラッと見て、
「いいえ、丁度、新緑の季節になります。この辺は、この時間、気温が下がるので、大丈夫かと思いまして……」
「ええ、大丈夫です。服は、自分で調整できますし、ほら、埃も落とせます。ええ、もうすぐゴールデンウイーク頃ですか……」
ウインターノは、魔王のいい加減な発言にいつも気をつけているつもりでも、たまにこのような落とし穴に落ちる事があると、実感している。
二人の会話を聞いても、全然、変わらずにお茶を飲み続ける魔王って、本当に大丈夫なの?




