交易会議②
第32章
「バンダ家のウインターノ・バンダと申します。この会議に参加できる事を光栄に存じます」
スカートを広げ、スマホで調べた挨拶の仕方でご挨拶をした。多分、これであっているはず。
魔王は、そんな事を気にする事もなく、ウインターノに手招きして席に着くように急かす。
「ウインターノ、皆さん、席についていらっしゃるので始めましょう」
主催者であるアシガー皇子が挨拶し、各国の大使が紹介され、議題に入る前に、いきなりアシガー皇子から質問が飛んできた。
「ウインターノ嬢、これから沢山の条約を結ぶ事になるのですが、あなたの国の国名は何となさいますか?」
「え? 国名ですか?」
「必要ですか?」
「ええ、国王陛下とも話し合いましたが、こっちらはユーオーライ国の名前をそのまま使う事にしました。ウインターノさんの方の国はどのように呼べばよろしいでしょうか?」
とっさの事でウインターノは、ナント返事をしたらいいかわからなかった。しかし、頭に浮かんだのは美しい緑の大地で、前世で言いなれていた言葉しか思い浮かばなかった。
「グリーンランド、グリーンランドはどうでしょうか?あちらの国は、こちらと違い緑しかありません。多くの人びとは、緑がある事だけで喜んで暮らせるそのような国です。もしも、今、わたくしに決定権があれば、グリーンランドと命名させてください」
アシガー皇子が、「いい国名だと思います」と言ってくれて、この会議では、何度もグリーンランドと言う言葉が出て来た。
戦後の何もない国に、物を売り込む事は簡単な事で、魔王とアシガー皇子は、最初の1年は、月に1度の入港を認める事にした。
ウインターノは、ユーオーライ国は、多くの国から色々な物を購入するだけだと考えていたが、そうでもなく、アシガー皇子は、この国の産業も紹介していた。
「こちらのガラス工芸がこの国の特産になると考えられます。後は、鉄鉱石が豊富に採掘されます。これは、国王陛下ご自身で発見されたので、安定的に供給されるかはまだ試験中です」
「おおおぉ、素晴らしいですね。もしかしたら他にも何か出て来そうですか?」
「はい、現在、調査中です。手付かずの場所が多くあります。強度なども確認しながら橋の建設に使用する予定です。」
「新しい物が発見されるのは羨ましいかぎりです。」
アシガー皇子は、本当にこの国の事を良く理解していて、難しい質問にも丁寧に答えていると感じた。魔王は、半分、眠っているかのようにつまらなそうにしていたが、余程、あちらの公国で功績をあげたのか、誰も気に留めていなかった。
実は、ウインターノも瞼が重くなって眠りに落ちそうな時に、マリヒューイが登場して来た。
リカ国の国王として各国の大使とも知り合いの様で、マリヒューイが登場した事で、場が活気づき眠気も覚めた。
そして、昼食をとりながらの休憩へと流れた。
×××××
ウインターノが初めて大量の野菜を屋敷に持ち込んだ日の午後、美しく変化したバンダ家の前に、立派な馬車が到着した。
「お嬢様、大変です。王宮から国王とアシガー皇子が訪ねられて参りました。」
「別に呼んでいないけど?」
「しかし……、王室の方なので、丁重に、ご対応して頂かないと、バンダ家の名誉にかかわります」
「……」
ウインターノは、面倒だと思いながら、入り口広場のピカピカ光る床が引きつめられたサロンに降りて行った。
「こんばんは、どのようなご用件でしょうか?」
「そこは、この国のなかでは、ようこそお出で下さいました。だろ?」
「……」
「まあまあ、ウインターノ、それにしてもこのサロン、随分と立派で美しいですね?」
「床材にこの国で多く採れるガラスを混ぜたらしいです。壁際の椅子等は、昔からあるのを魔法でキレイにしました。」
「意外にセンスがあるな……」
(ケンカ売っているのか?)
「奥に、もっと広い応接間のようなサロンが存在していますので、そちらへどうぞ、今、お茶をお持ちします。」
貴族の令嬢らしく、丁寧に魔王とアシガー皇子を風の通るサロンに案内して、冷たいお茶と手作りケーキも出した。
「小麦は収穫したのですか?」
「はい、庭師や農業経験者たちは成長の速さに驚いていましたが、さっさと収穫して、また、植えました。年に、どれくらい収穫できるかわかりませんが、ケーキが食べられるようになって幸せです。」
二人は、遠慮なく地味なケーキを食べて、お茶を飲みながら、ウインターノにこう言った。
「実は、夕食をご馳走になりに来た。」
「国王陛下が、本日、バンダ家に大量の野菜が届けられて、ご馳走が食べられると申しまして……」
「陛下、我が家はレストランではありません。」
「でも、あまりにも大量だったので、厨房でも持て余しています。ええ、ご馳走しましょう。ベアドック、厨房に連絡してくれる?」
「はい、かしこまりました」
3人は、ベアドックが出て行ってから話を始めた。
「もうすぐ、公国からの船が到着する。その時に、各国からの大使を王宮に滞在させ、今後の交易について話し合う事になる。この国が鎖国状態になる前は、近隣諸国との交易を結んでいたが、それには危険がともなう。入国されて、侵略される可能性もあから……」
「それなら、マリヒューイさんの国なら安全ですね。近隣諸国だけですと、これから繁栄するこの国は、絶対に狙われます。」
「そうだ。向こうの7ケ国の大使とも顔見知りで、私の力も理解できている。だから、戦争を起こす事など、絶対に考えないだろう。だが、こちらの国はあまり文化が送れている」
「それに、一番の問題は食事だ。私たちは決して美食家ではないが、彼らは色々な国を訪れる大使たちだ。やはり、もてなしは大切だろう?」
「――大使たちは、食材のチェックにいらっしゃるのですか?」
「それもあるが、彼らの狙いは、鉱物と作物の買い付けだ。あちらからは布や薬、木材など色々な物がこの国に送られてくる。だから、君の野菜を食事に出したい。」
「いいですよそんな事、町の人達からも頼まれましたから、今日、ジョジョに頼んで、大いにご馳走しましょう」
それから、屋敷のみんなに新しい国王陛下を、紹介して不手際がないように指示を出し、給仕は、老人3人が立ちあい、この国の貴族の正式なディナーを始めた味わった。
「ジョジョ、美味しいわ、本当にこれは美味しい。柑橘系が好きだし、野菜が新鮮だからこんなにサラダが美味しいの?」
「そうです。それにマリヒューイ様から頂いた調味料や薬草も素晴らしい物です。この後の魚料理は、お嬢様の為に雇った漁師が釣って来た魚です。今日は稀にみる大漁だったらしく、皆様にお出しする事ができました。」
ジョジョの料理に説明は適切な説明で聞いていて心地よい。それに給仕のマイシルのゆっくりさも3人は気に入って、片付けるバクルスの静けさも見事な物だった。
最後に、マリヒューイから頂いたコーヒーが出た頃には、大変満足して言葉にならない程に感動していた。
「美味しかったの一言ですね」
「ああ、流石にこのような料理がこの国で食べられるとは思っても見なかった」
「漁師まで雇っているとは、さすが、バンダ家です」
「カビは食べないでしょ、鳥肉以外で食べられるのは魚だけ、だからジョジョが雇ったのではないかしら?朝早くその漁師が厨房に戻って来るのを確認した事があります」
「野菜と一緒にしばらくジョジョを貸してくれないか?」
「いいですけど……、交換条件と言ってはなんですが、マリヒューイさんにイチゴの苗を頼めますか?」
「小麦粉が出来て、どうにかヤギのミルクでクリームも出来たのですが、ケーキにはやはりイチゴでしょう?ホットケーキぐらいなら私にも作れて、蜂蜜の生産はこちらでも始まりました。そうなると、ヤッパリ、同時にイチゴが食べたいです!」
その後、どういう訳か、日本のホームセンターバーコードの付いたイチゴの苗をたくさんプレゼントしてくれて、ウインターノはその苗を見て、
「彼には秩序と言う物が欠けている。異世界なのに、なんでもアリなのか?」




