交易会議
第31章
ギルドのカウンターで売る品物は、いつの間にか大人気になって来ている。
「ベアドック、この町の人達は財布の紐が緩いよね?ここに置いただけで売れるんだよ?」
「それはそうでしょう。生活が豊かになりましたが、なんせ物資が少ないですから、それに、転売している人もいるようですよ」
「そうなの?じゃあ、転売禁止って紙を貼りましょう。人間って、抜け目がないね……」
「そんな事より、どうするのですか?アシガー皇子からミリバードさんへの大量の贈り物は?」
「どうするもこうするも、あの二人、全然、今の家を修理しないからあの家に高級家具が似合うと思う?大体、王都には家具屋が存在しているのが不思議だよね?」
「マリヒューイさんの公国から初めて船が接岸したそうです。それはそれは立派な船で、荷下ろしに数週間もかかった程、たくさんの品物が王都に到着したようで、家具もその中に入っていたのでしょう」
「材木なども、今回、輸入したようです」
「しかし、代金はどうしたのかしら?」
「国王陛下のお力によるものだと伺っております」
「国王陛下は、あちらの公国をお助けなさった事があり、その時の返礼品として今回7カ国が支援して下さったとおっしゃっていました」
「そう」
「しかし、それだけではないでしょう。どの国もこの二つの国と交易を始めたいと視察に訪れているようです」
「へ~~、大変だね……」
「お嬢様、他人ごとではありません。橋が完成したらこちらの国にもそのような要請が来ることは必然です」
「へ~~、大変だね?」
「あちらの公国では、現在、一つの国を復興させる為に、多くの支援を行っています。その為の各国の負担が多く、その中でも一番の負担は、食料です。お嬢様は知っていますか?現在、あちらの国では、馬たちもやっと生きているのです」
「エサがないの?馬って何を食べているの?」
「本来なら、乾燥した草などでしょうが、わずかに残っている道の草を与えている様です」
「へ~~、大変だね」
「今回、牛も船に乗って来ました。牛にもエサが必要です」
「うん、うん、そうだね」
「しかし、馬でもやっと餌をもらえている現状、牛はどうなりますか?」
「……」
「こっちの国で育てる?」
「わかりません。詳しい事は、明日、あちらの王宮での会議で話し合われるでしょう。その為に、お嬢様も出席して欲しいと連絡がございました」
「え!!! どうしてわたし? 牛をもらっても世話できないし、牛乳も搾れないよ。こっちの国で、雑草をムシャムシャ食べるのはいいけど、それ以上の事は無理だよ、絶対!」
「あっちの国が始めた交易なのに、どうして、こっちにも迷惑をかけるの?」
「それは、こちらも十分、迷惑をかけているからではないでしょうか?」
「……」
×××××
ベアドックに言われてみれば、当然だとわかるが、王宮で行われる大事な会議に出席する事に、思いっきり抵抗感がある。
「何を発言しても、バカだと思われないかしら……」
ウインターノの身支度を手伝っているメイドのマイシルに尋ねてみる。
「お嬢様は、このように美しく気品もあります。各国の大使たちも見惚れる美しさです」
(ふ~~、結局、頭は悪いけど、若さと美しさで乗り切れって事だよね……、おまけにそんなに美人でもない……)
人参をあげた馬が引く馬車にのり、王宮へと出かける。街に出るたびに気づかされるのは、復興の速さだ。戦争後の焼けた荒地が、他国の要人を迎え入れる程に復興している。多くの働き手があって、公共事業の仕事を柱にして、商売が広がり、店が立ち始め、地方からも職を求めてやって来る。
そして、10年以上閉じていた港が開かれ、必要な資材、珍しい商品、新しい文化があの小さな港から入って来る。王宮では新しい王制の元、新国王陛下、アシガー皇子、そして、今度はバンダ家の令嬢が国民の前に現われる。
「国が復興したと宣言している様だね」
「ええ、確かにこの3年色々な事があり、国民たちが努力した結果でしょう。例え、痩せた馬が引く馬車でもこの国にとっては復興の証だと感じるわ……」
「今日の会議では、その様な感想が役に立つのではないでしょうか?大丈夫です。誰もお嬢様に恥をかかせようと思って集まっているのではありません。落ち着いて王宮へ入りましょう」
「そうよね。大体、王宮で出される作物は、すべて、こちらの国からの配給ですからね。感謝して欲しいわ」
「しかし、代金は頂いています」
「そうなの?」
「当然です。アシガー皇子の新しく雇った秘書は、大変きっちりしたお方です」
「ああ、あの経理って感じの人だよね。若いのにこの国の財政や現状を物凄く理解している様で、アシガー皇子も驚くばかりだと言っていました」
「彼、男爵家の末裔らしいです。その男爵家は内戦でなくなったようですが、男爵とは名ばかりで、商売上手で金貸しまで行っていたらしいですよ」
「ふ~~ん」
「父親が、厳しい人で読み書きや計算などは、父親が付きっきりで指導したらしく、帳簿のつけ方も幼い頃より学んだと言ってました。しかし、ある日、その厳格な父親は、自分よりも財産を増やしている商売敵を襲撃したようです」
「カビを食べていたのね?」
「はい、金持ちだったのに主食は殆どカビだったようです。しかし、常に家庭内で暴力を働いていた父親が、外に目を向けた事によって、彼と母親は、助かる事が出来たらしく、アシガー皇子に恩を感じていると申していました」
「家庭内暴力がひどかった父親が、その暴力を外に向けてくれて、助かったの?」
「はい、家から出て行ってくれたので、直ぐに資産を持ちだし母親と使用人すべてを連れて、地方の山の中に逃げ込んだそうです」
「山の中でも金貸し業を営み、貧しい人々に金を貸しながら生活していて、その時、思ったらしいです。自分が国の財を管理すればこの国は豊かになれるのではないかと……」
「おおおぉ、それは立派な人です。魔王も見習えばいいのにね?」
「でも、アシガー皇子もすぐに信用したんだね?そのような立派な言葉を信じたの?」
「ええ、国王陛下の魔法を彼に見せたようです。もしも、不正を働いたらどうなるかを……、それでも、この職に就きたいのであれば、全面的に任せると」
「な、な、なにを見せたの?」
「それは、どうしても教えてもらえませんでした」
「??」(怖い)
「さぁ、お嬢様、王宮に到着しました。今、ドアをあけますのでお待ちください」
イケメンのベアドックが手をさしのべ、ウインターノは、魔法でモデルチェンジしたドレスに身を包み、少し高いヒールの靴を履いた片足を王宮広場に踏み出した。
「ええ、行きましょう。初めて出勤するOLと思えばいい、結局、高校は卒業できなかったけど、就職するつもりだったから、大丈夫、大丈夫、新人社員に多くは求めない……」
相変わらず、不気味な王宮を見上げ、まずはこの王宮を修繕した方がいいのにと、思いながら階段を登り、待ち受けている人間の案内に従って、歩いて行く。
「バンダご令嬢、こちらが会議場になっています。今、ドアをお開け致します」
ズタボロ王宮の会場の大きな扉が開けられ、一斉に、会場内の人達はウインターノの方を見る。
(ああ~~、お腹が痛い、初出勤ってこんな感じなの?)




