野菜と雑草の区別
第3章
「神様!! どうか私に力を貸して下さい。生き残った人々に、緑を! ハンバーガーには、シャキシャキ野菜と、ポテトが必要です」
それから、しばらくの間は、空中から、次々に、色々な物がこの砂漠の大地に落ちて来たが、途中から、誰かが、雲を横取りするように思えて来た。
「何? 綱引きのように……、誰かが、私の雲を引っ張る。いったい、誰?」
それでも、負けない気持ちが強く、少しずつだけど、土や災害ゴミのような物を取り込む事が出来、最後には、雨も降り始めた。
「ああ、この国に来てから初めての雨だ」
雨が降り始めると、キノコ雲は、消滅してしまい、取り分はなくなり、これで終結した事がわかった。
「邪魔さえされなければ、もう少し取り込めたのに……。しかし、もう、体力の限界だ。とにかく家に帰って寝よう」
フラフラになって家に戻り、そのまま、自分を乾燥させて、ベットに潜り込み眠った。夢の中では、砂漠の台地が、緑で覆われ、小鳥が囀り、人々が楽しそうに生活している夢を見ていた。
「お茶が飲みたい……。炭酸も欲しい、アイスも食べたい。ケーキ、パン、米も必要だ」
よだれの冷たさで目が覚め、起き上がり、水を飲んで、外を見ると、ガラクタの山がそこには存在していた。
「そっか……、昨日、雲の中の品物を取り合って、これだけ手に入れられたんだ」
「きっと、どこかの国にあの物凄い嵐が襲って、竜巻が起こり雲の中に、取り込まれたに違いない」
「う~~~ん、このままでは何があるのかわからない、分別するか?」
魔法で、分別を初めて、建築ゴミ、土、種、金属、服、木、その他もろもろ。
「すぐに食べられる物は、流石にない。とにかく乾燥台地には土と種が必要で、『ク~~~ン……。』あれ? 子犬、子犬もいたの? よく無事に、ここまでたどり着いたね」
ウインターノは、子犬を抱き上げ、生き物の暖かさを感じ、嬉しくて何度も、頬に子犬にキスした。
「よかった。一人ではない。君がいる。仲良くしようね」
ウインターノの魔法は、本当に便利で、この魔法が、どの位の物かもわからないが、雲を呼び寄せる事が出来るくらいの、魔法だと言う事は、昨日でわかった。
とにかく畑を目指し、土を整えて、分別した種を撒き、成長を助ける魔法をかけた。
「昨日、雨はどれくらい降ったのかしら? 砂漠の台地が、少し濡れていて、砂ぼこりが舞い上がらない」
後は、洋服は、ウオッシュ&乾燥して、あの二人に分けてあげようと、思った。
「木も随分と取り込めたから、とにかく植えて見て、日陰を作りましょう。柵もいる。ゲーム感覚で、自宅周りを整備して、畑の成長を待とう」
1ケ月程すると、木も根付き、雑草のような植物が育ち始めたが、どれを食べていいのかが、まったくわからない。
「そうだ、魔法で鑑定すればいいのでは?よく、漫画でやっているよね。鑑定眼鏡みたいなのを片目につけて、その植物を見れば、その植物がわかる」
しかし、それらしきメガネは出来たが、この世界の野菜がわからずに、役立っていない。大体、野菜はレタスと人参、ジャガイモくらいしか区別つかないのに、異世界の葉っぱって、どうなの?
「ああ! まったく、わからない。雑草しかないのかしら?食べてみる?でも、毒だったら?毒だったら死んでしまう……。どうしよう」
「そうだ。あのお母さんを呼んで、服をあげるかわりに、知恵を貸してもらおう」
1ケ月ぶりにあの親子を訪ねると、二人は、大きなカピバラのような動物を食べる為に、解体していた。その様子をみて、
「ウエェェェ!! 無理、何、それ?」
「この国で食べられている動物です」
「本当?」
「本当です。これを解体して、塩水で煮て食べます」
「――」
「お嬢様、この前の……、アレ……」と女の子が言う。
「アレ? あれは、ハンバーガーって、言います。食べる?」
女の子が嬉しそうに頷いたので、鞄から、また、たくさんのハンバーガーを出して手渡しする。
「お嬢様、いつもありがとうございます。このハンバーガーと言う食べ物で、どうにか生きて来れました」
「そう……良かったわ。実は、お願いがあるのだけど、この世界の野菜ってわかる?」
「野菜ですか?どのような物でしょうか?」
「とにかく来て、食べられそうなものを教えて欲しいの。この前、雨が降ったでしょう?」
「ええ、本当に、久しぶりに雨を見ました」
「そうしたら、家の前に草が生えて、それが、食べられるのか知りたいの」
「??????」
「お嬢様、野菜って、何?」と女の子が聞くから、
「このハンバーガーの中に入っている赤いトマトが野菜です」
「この子は、今、8歳で、野菜を殆ど知りません。だから、野菜の存在がわからないのです」
「10年前は、どこかの国から、交易で手に入っていました。その時は、まだ、野菜や小麦などもありました」
「でも、外国にお金を払うには、こちらの国からも何か売るのでしょう?」
「はい、このカピを売ってました。カピは、この国のどこにでも生息していて、繁殖能力も高く、国民が食べても、余っていたので、輸出したいたみたいです」
「お母さんは、博学ですね」
「お嬢様、私は、リップスと申します。そしてこの子は、エザルールと申します」
「うん、わかった。これからしばらく、驚く事ばかりだけど、とにかく来てくれる?」
親子は、顔を見合わせて決心したように、ウインターノの後をついて行った。そして洞窟の入り口を抜けると同時に、ウインターノの家の前に移動して、目の前の緑の森に驚き、座り込んだ。
「これは……、これは一体、どうして……」
「この前の嵐の時に、種を取り出して、その時、雨も降って、どうにか植物が育ったの。でも、どれが食べれるかが、わからなくて、教えてもらいたいと考えて、お二人を呼びました」
「お母さん、木が生えてる。すご~~い。わたし、本物は、始めて見た」
エザルールは、本当に久しぶりの外の生活で、うれしくて仕方がないようで、子犬のクマともすっかり仲良くなって、ぜんぜん、食べ物の事を、気にしていないように走り回っていた。
「――子供の本来の姿でしょう」
リップスは、ウインターノの後ろの家を見て、
「お嬢様、どうか、私達親子を、こちらに置いてくれませんか?なんでもします。炊事、洗濯、畑仕事、なんでもしますから、どうか、お願いします」
ウインターノのは、考えて、
「別に良いけど……、私の事、気持ち悪いとか、おかしいとか思わないの?」
「そのような事、まったく、思いません。私は、私が、生まれて来てから、この国がおかしな国だとずっと思っていました。……この国の人間は、生産性がなく、戦争する事が仕事で、戦死しても普通の事、後に残された妻子を心配するどころか、男たちは、自分たちの名誉のためだけに戦っていて、最後には、天罰で、王都も、国王陛下も、皇族の方も、すべての人々が、あの嵐に、飲まれたのではないでしょうか?いつも巻き上がる嵐に、まったく対処せず、ただ、祖国を破壊し、国民を殺した。本当に、彼らが憎いです」
「そして、この1年間で、私たちが会った人間は、あなただけです。何が正しくて、何がおかしいなんて、この国にはありません。それに、ずっと、あの薄暗い洞窟で、怯えながら生きて行くより、エザルールを、このような太陽の下で遊ばせたいです」
「だから、もしかしたら、お嬢様が普通の人間で、戦争する人達が、普通ではないとしか思えません」
「――」
「じゃあ、二人に家をプレゼントします。どの辺がいいですか?」
「え?」
「とりあえず、隣に同じ家をコピーして建てておきます。二人で住んで下さい。それと、洞窟の物は、後で運んでおきます」
ウインターノは、簡単に家を建てて、二人にプレゼントした。
「このように、家は簡単にできまが、ハンバーガー以外の、食べ物は無理なの、だから、リップスさんの力が必要です。お願いできますか?この広大な台地から、私と一緒に、食べられる物を探して下さい」
リップスは、ウインターノの手を握り締め、涙を流しながら感謝していた。そして、この日から、3人の食べ物探しが始まった。
そして、その夜から、ウインターノが、張った結界を、壊そうとしている気配も感じ始めた。
「誰?」




